Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜 作:春風駘蕩
Side:Ryuga
ひっさびさに心地よく、思う存分眠れたなと思いながら、ベッドの柔らかさを堪能していたオレだが。
ある時いきなり、ベッドから蹴り出されて床に叩き落とされた。
「起きろ筋肉バカ!」
「んがっ!?」
怒号と衝撃で、一気に目が覚める。
目がちかちかするのを堪えて、オレはいきなり蹴りを放ってきた奴を―――セントを睨みつけた。
「ってぇ…何すんだバカウサギ!」
「寝ぼけてる場合じゃねぇ、さっさと隠れるぞ!」
「あ? 何言って…」
何だこいつ、何でそんな怒ってんだ? 見張りをサボったのがそんなに腹立ったのか? いや、そりゃ確かに悪かったと思うけど…。
…いや、怒ってんじゃねぇな、これ。
焦ってる……オレが寝てる間になんかトラブルでもあったのか? ナオフミ達もバタバタ慌ててるみたいだし。
なんか皆が覗き込んでる窓の外を、オレも一緒に見やる。
すると……何人もの兵士達に拘束され、連れていかれるあの優男領主の姿が目に入った。
おいおいおいおい……こりゃほんとにマズいだろ!
「あいつら…! とうとうここを嗅ぎつけやがったのか!? っていうか、領主の家でもお構いなしかよ!」
「あの優男さんも連れてかれちまうとはな…オレ達が見つかったらあいつもやばい。早く行くぞ」
「お、おお!」
マジで眠りこけてる場合じゃなかった…! とにかく急いで逃げる用意を……いや、隠れねぇと!
オレ達が慌てて部屋を出ると、屋敷のメイドが緊迫した顔でオレ達を案内してくれる。
「勇者様! お急ぎください!」
「我々はメルティ王女を誘拐した犯人の捜索に来た! 罪人の手助けをしようものなら容赦はせんぞ!!」
メイドの手引きで、大急ぎで厨房に隠れると、無理矢理入って来たらしい兵士達の声が聞こえてきた。
相当無茶をしたらしいな……途中で何かが割れる音とか、悲鳴とかが聞こえてくる。
連中、ホントにここまでするのかよ……宗教ってのはマジでめんどくせぇし、胸糞悪いな!
「絶対にここから出ないでください! 決して!」
「わかった…!」
掃除道具入れにオレ達を押し込め、メイドは兵士達の方へ向かう。
匿って貰ってなんだけどよ、ここ無茶苦茶狭いんだが。
おい、オレのケツ触ってるの誰の手だ? ナオフミ、お前じゃない……わな。悪い、オレが悪かった。
「ここをどことお考えですか! 罪なき者に疑いをかけるなど、騎士の行いとは思えませんよ!?」
「黙れ! 盾の悪魔にさらわれた王女を救うための行いを非道とでも言うか!」
さっきのメイドが懸命に兵士に抗議しているが、奴さん、全く聞く耳もたない。
今にもメイドを押し退け……いや、もしかしたら斬り捨てて押し入ってくるかもしれねぇ。それくらいイカレた奴の声に聞こえた。
「…あのメイド、ヤバくないか?」
「落ち着け……今出てったら全員危ない」
セントがそう言うけど、焦りは募るばかりだ。こっちを助けてくれる奴が殺されるとか、罪悪感と後味の悪さが半端じゃねぇよ!
正直今すぐ飛び出して、あの兵士達全員ぶっ飛ばしたい……だけど、オレでもそうしたらどうなるかは分かる。
居場所がバレて、優男がこんどこそ国に捕まって、全員処刑される未来しか見えねぇ…!
「そういう貴様こそ罪人に手を貸す反逆者ではないのか!!」
メイドの足止めに、いい加減我慢の限界が訪れあのか、激昂した兵士の声が聞こえてくる。
これマジで手を出す三秒前だろ! 止めるなセント! オレは屋敷の連中が、あのクソ野郎共にどうこうされるのを見過ごせねぇ!!
セントやナオフミの制止を振り切って、掃除用具入れを飛び出そうとしたその時だった。
「おやめなさい!」
いきなり響き渡った、この場で一番聞こえちゃいけない声に、オレの動きがピタッと止まる。
同時に、オレの口はナオフミの手で塞がれて、一切身動きが取れなくなった。
むーむーうなるオレに代わって、外の様子を伺うセントが引き攣った声をこぼした。
「あああああ…! 何やってんの王女さん…!」
「メルティ王女…! 本物か!?」
「他に私がいるとでも?」
オレ達の心配をよそに、メルティの奴は堂々と、ものすごい威厳たっぷりの態度で応える。
あいつすげぇな……何をどうやったら大勢の敵に囲まれた状況で、あんな強気なままいられるんだよ。兵士もちょっと慄いてんぞ。
これ……本物の王の威厳ってやつか。
もしかしたら、あいつがこの状況を好転させてくれるんじゃないかって、そんな考えまで浮かんでくる。
「嘆かわしい…こんな真似を平然と行う兵がいるだなんて。一体どこの誰があなた達に命じたのですか?」
後退る兵士達を睨み、厳しい口調で告げるメルティ。
いけるか、と、抵抗を止めたオレがそう思った時だった。
「これはこれは…ご無事で何よりです、メルティ王女」
そんな、丁寧な言葉遣いなのに、悍ましいほどの悪意に塗れた声が、メルティに向けられる。
兵士達が左右に分かれ、その奥から一人の、ぶくぶくと肥え太った中年の貴族が進み出てくるのが見えた。
そいつを見た瞬間、オレの後ろにいる女が一瞬、息を呑むのがわかった。
「御身を案じて馳せ参じました……あの盾の悪魔に何もされていないようで本当に安心しましたよ」
何だあいつ……喋る言葉のぜんぶが気持ち悪い。
表向きはメルティを敬ってるけど、内心じゃ道具か何かとしか思ってないのがまるわかりだぞ。
……ていうかそれより、オレの後ろで震えてるラフタリアのことが心配なんだが。
「盾の悪魔はどこに?」
「もうお逃げになりました…そうするようお願いしましたので」
「なんと?」
「私がお願いしたのです。ここから逃がす代わりに…私が盾の勇者様の冤罪を晴らしてみせると、そうお約束したのです」
「…あいつ」
「危険な橋渡りすぎだぜ、王女さん…!」
ナオフミとセントが、呆れを孕んだ焦りの声をこぼす。おれも同じ気持ちだよ。
こっちを助けようとしてくれてんのはわかるけどよ、正攻法が通じる相手じゃないだろうが…!神のためなら、何しでかすかわかんねぇ奴等だぞ!?
するとそこで、ようやくナオフミ達は後ろで真っ青な顔になってるラフタリアに気付いた。
おい、さっきより顔色悪化してんぞ。
「…ラフタリア?」
「ダメ…その男についていっては…!」
…なんだ、お前…あの貴族のこと、知ってんのか?
怯えてる…? いや、今のこいつから感じる感情は、恐怖じゃなくて…!
「…ふむ、いないのならば仕方ありませんな。ではあなたのお望み通り、話を聞かせていただきましょうか」
困惑するオレ達をよそに、貴族の男はメルティに手を差し出し、促している。
空きっぱなしになった厨房の扉が、オレ達にはまるで、地獄に通じる出入り口のように思えた。
「……じっくりと、ね」
貴族の男の案内で、メルティがすっと歩き出す。
そして、兵士達全員が退出し、厨房の扉はバタンッと、勢い良く閉じられた。
Side:Naofumi
「ぴぎゃーっ!?」
オレが発動させた魔物紋の罰により、屋敷のどこかからフィーロの悲鳴が響いてくる。場所は…屋根裏だな。
隠れる時にいないと思ったら、こんな所にいたのか、お前は…。
迎えにいってみると、横たわったフィーロが恨めしそうな目でオレを見上げてきた。
「ごしゅじんさま、ひどいぃ〜。なにするのぉ」
「お前が呼んでも出てこないからだ」
「えー、メルちゃんがそう言ったんだもん。かくれんぼするから、見つからないようにねって。よんでも声だしちゃダメだよって」
…なるほどな、遊ぶ振りをして、フィーロをここに隠したわけか。
あいつめ……一丁前に格好つけやがって。
「あれ? メルちゃんは?」
「だらぁ! こなくそ!」
ようやく、メルティの姿が見えない事に気付いたフィーロが辺りを見渡し、首を傾げる。
すると今度はリュウガの奴が、手ごろな位置にあったものを蹴り飛ばし、バラバラに破壊して回っていた。
「落ち着けよ、リュウガ」
「これが落ち着いていられるかよ! あのバカ王女……無謀すぎんだろ!」
目の前で、メルティがむざむざ連れていかれる様を見ていたせいか、リュウガの怒りは収まる気配を見せない。
冷静に見えるセントも、握りしめられた拳を見る限りほぼ同じようだ。
そこでオレ達は、話に置いてけぼりになっているフィーロのために、一から説明してやることにした。
そして教えてやると、フィーロは愕然とした様子で立ち尽くした。
「メルちゃんが…!?」
「おかげで俺達は全員、捕まらずに済んだ。…だがその代わり、あいつがどんな目に遭わされるか」
…俺がオタクなせいだろうか、どうしてもこう、嫌な想像をしてしまう。
違うよな? R18な意味でえらい目にあったりしないよな? いや、グロい意味でのえらい目も願い下げだが。
「あいつ…三勇教のロザリオ持ってたよな。まず王族に敬意なんてないだろ。あいつら、教義を全うするためならなんだってやりかねない」
「本物の狂信者だな」
ああ、やっぱりそういう意味での窮地だよな、ここは。
昔の魔女狩りみたいな……罪が確定したうえでの拷問とか、やはり凌辱とかをされる可能性もあるわけだ。
まったく……ファンタジーな世界で、何でこんな血生臭いものと関わらなきゃならないんだ。
「ごしゅじんさま! メルちゃんたすけに行こう!」
「もちろんそのつもりだ。あいつはもう俺の仲間だ…何より借りを作ったまま死なせてたまるか」
あいつは俺達を助けるために、自ら死地に赴いた。
だったら……俺達もそれに見合う恩を、きっちり返してやらなきゃならないよな。
「そんじゃ、行くか。あのハゲブタ野郎をぶっ飛ばしに」