Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜 作:春風駘蕩
Side:Sento
「…あれか、あのブタ野郎がいる領地は」
「でっかいな……あの優男より上位の貴族ってわけか」
川を越え、山を越え、追っ手の目を掻い潜って数時間。
オレ達は目的地、メルティを攫ったあの野郎が治める領地に辿り着いていた。
そこで気づいたのは、その街にかなり見覚えがあったことだ。
「なぁ、ナオフミ。オレこの街に見覚えあるんだけど」
「ああ…お前の記憶の通りだ。行商の時、売り子をやってたラフタリアが毛嫌いされて、ものが全く売れなかった街だ」
亜人差別が一際強い土地って事か、なるほどなぁ…。
ぶっちゃけた話、この国が亜人嫌いで知られる理由って、この街の連中が好き勝手してるからなんだろうな。
あの王の影響を最も強く受けている場所って事だ、胸糞悪い。
……そろそろ、あっちにも触れとくか。
さっきから、ラフタリアちゃんが黙ったままでちょっと怖いんだよな。
「…何か知ってるんだろ、ラフタリア」
「…はい」
おっもい声で、ラフタリアちゃんが応える。
おおぅ……ビビッてちょっと肩が震えちまったぜ。
しかし、そういえば言ってたな。
波で家族を失った後、奴隷にされてあちこちたらい回しにされてたって。
「奴隷落ちした私を買い、親友のリファナちゃんと一緒に拷問して笑っていた貴族です」
……聞かなきゃよかった、マジで胸糞悪い。
何だって見た目がちょっと違うだけで、そこまでしやがるんだよ、人間ってやつは。
「私は完全に壊れるより先に、契約期間が終了して元いた場所に戻されましたが、リファナちゃんは…」
「…ん、わかった。もういい」
抑揚のない声でしゃべり続けていたラフタリアちゃんを、ナオフミが止める。
それ以上はもう言わなくていい……って感じじゃなくて、もうそれ以上聞きたくないって感じだったな。
丁度良かった、おれも大分気分悪かったし。
「大丈夫か? むちゃくちゃ顔色悪いぞ」
「…大丈夫とは言えません。もしまた、あの男と真正面から対峙したら……私はもう、自分を抑えられる自信がありません」
顔を上げて、豚領主の屋敷を睨みつけるラフタリアちゃん。
……うん、控えめに言っても混じ怖ぇ。
おいリュウガ、お前も一緒なんだろ?
今のラフタリアちゃん、めっちゃ怒り狂ってて近寄りたくないんだよ。
こら逃げるな、オレを一人にするな!
「好きなだけ暴れればいい。ただし、メルティを救出してからな」
「…はい」
ナオフミがそうなだめるけど……ありゃ、まだ憎悪と憤怒が体の中にくすぶってるな。
放っといたら、なんかやばい事しでかすかもしれねぇ。
メルティの救出だけじゃなくて、ラフタリアちゃんの監視も追加か……やる事が多いなぁ、もう。
……さて、結構前の緊張ほぐしはこれぐらいにして。
そろそろ派手におっぱじめるとしようか。
「よし、じゃあ当初の作戦通りに、各々で行動を開始して……」
ナオフミがそういって、屋敷に標的を絞って動き出そうとしたその時。
ドカーン!と、豚貴族の屋敷の扉が、巨大な桜色の弾丸に衝突され、粉々に破壊された。
……は? え、ちょっ、あれ!?
「メルちゃ―――ん!! どこー!?」
「フィ――ロちゃーん!? 人の話聞いてたー!?」
目を吊り上げたフィーロちゃんが、見張りも護衛もしったことかとばかりに大暴れする。
騒ぎを聞きつけ、次々に兵士達がやって来るけど、暴走したフィーロちゃんは止まらない。むしろ被害者が増えるだけだった。
ねぇ、ちょっと?
オレの作戦、全くの無意味になっちゃったんだけど?
「うわあああ! な、なんだこの魔物ぶほあっ!?」
「大丈夫かあべしっ!!」
「メルちゃ―――ん!!」
あーあー、気の毒になるぐらい盛大に吹っ飛ばされてら。
助けに行った奴まで吹っ飛ばされる有様……なんか、こっちが申し訳なく思えてくるな。
オレが呆然と、屋敷の庭で起こっている惨状を凝視していると、ナオフミがオレの肩を叩いた。
「あいつがああなるのは想定のうちだ。セント、リュウガ、フィーロを手助けしてやれ」
「ああもう…あいよ!」
「おう!」
「ラフタリア、向こうに注意が引きつけられている間に急ぐぞ」
「はい…!」
……確かによぉ、フィーロちゃんがいい感じに囮になってくれてるけど、
なんか釈然としないわ……。
まぁ、オレのもやもやは横に置いといて、オレ達もメルティ奪還のために動き始める。
二手に分かれて、あのメルティとあの豚貴族がいるであろう場所を目指す。
オレとリュウガは、屋敷の塀の上に登り、敵の位置を確認しながら侵入場所を選ぼうとする。
その時、オレの足元でガチャンと音がした。
「…おい、セント」
気づいたリュウガが、オレを睨んでくる。
そして、オレの懐から落っこちたそれ―――オレの使ってるものと全く同じベルトを拾い、険しい顔で差し出してくる。
「お前こんな大事なもん落とすなよ」
「お前んだし、いいだろ」
「あ?」
オレがそう答えると、リュウガはぽかんと目を見開く。
理解が追い付いていない様子の奴に、オレはため息交じりにもう少し詳しく説明してやる。
まったく……時間ないんだから、察しろよ。
「お前の分のビルドドライバーだよ、それ」
「…作ったのか」
「ああ」
「いや、でもよ…」
「メルティを助けるには、必要になるだろ?」
リュウガはベルトを見下ろし、渋い顔になる。
おいおい……前はあんなに欲しがってたのに、今更怖気付いちまったのか?
まぁ、そうやって危険なものだって認識してくれてんなら、まだましだと思うけどよ。
「怖くなったか。強い力を手に入れるのが」
「……普通にレベル上げして強くなるのは、別に怖くも何ともねぇよ」
ギチッ……とベルトを持つ手に力が籠もる。
……葛藤してんなぁ、言いたい事はわかるけどよ。
「けど…これはその普通から外れてるだろ」
「…そうだな、これさえあれば、誰でも強くなれちまう。使う奴に問題がありゃ、即兵器に早変わりだ……そうなるのが怖いか?」
「…ああ」
例を上げるなら……三馬鹿勇者共か。
あいつら、あっちこっちで問題ばっか起こしてやがるし、その自覚がほとんどないときてる。
それが悪意じゃなくて、一応善意からだってのが質が悪いけどな。
何だって伝説の聖武器様は、あいつらを選んだんだか……まったく謎だ。
……ここで迷ってても仕方ないんだけどな。
しょうがない、ちょっと気恥ずかしいけど、ちょいと背中を押してやるか。
「オレだってさ、根っからの善人じゃねぇよ。ムカつくことがあったら、ぶっ潰してやりてぇとか普通に思う。自分のことしか考えられないときもある……でもさ」
にっ、と笑って、オレはリュウガを見つめる。
まったく……オレにここまで言わせておいて、やっぱり怖いから使わない、なんて言わせねぇぞ?
「オレが間違ったら、きっとナオフミやラフタリアちゃん達が止めてくれる。そう思うんだ」
驚いた様子で、リュウガがオレを見てくる。
くっ……我ながらちょっと臭かったか? 今さらになって恥ずかしくなってきた。
ええい、ままよ! このまま行ってやる!
「だからさ…お前も途中で間違いそうになったら、オレが止めてやるよ。仲間ってそういうもんだろ?」
「…簡単に言いやがって」
頬を染めて、リュウガはぷいっと顔を背ける。
だけど、それで覚悟は決まったらしい……黙ってベルトを自分の腰に巻いた。
ほんっと……手間がかかる新入りだよ、お前は。
「じゃあ、囮役を全うしますかね!」
「おう!」
リュウガと二人並び、オレは塀の上で構える。
オレは水色と黄緑のフルボトルを振り、ベルトに挿す。
リュウガは青いフルボトルを、飛来したクローズドラゴンの背中に挿し、ベルトに装着する。
【海賊!】【電車!】【ベストマッチ!】
【Wake up! クローズドラゴン!】
新しく手に入れたフルボトルの力……試させてもらうぞ!
さぁ、オレ達も大暴れしてやるぜ!
【Are you ready?】
「「変身!」」
【定刻の反逆者 海賊レッシャー イェイ!】
【Wake up burning!Get CROSS-Z DRAGON! イェイ!】
オレ達の周囲にパイプが張り巡らされ、それが鎧に変化する。
前後から狭まってきたそれを身に纏い、オレ達は戦士の姿に変わる。
リュウガのはいつも通りの、青と金の龍の鎧に。
オレのは、片方には海賊船、もう片方には列車?とかいうよく知らねぇ乗り物を模したパーツが張り付く。
いきなりベストマッチが当たるとは、随分ついてるねぇ!
「うおおおお!!」
「おらあああ!!」
変身を完了させたオレ達は、塀の上から盛大に吠えながら飛び降りる。
その声に……っていうかベルトの音声で気づいた兵士達が、ギョッと目を見開きながらこちらにやって来た。
「! また侵入者だ!」
「さっさと迎え討て!」
兵士達は持っていた槍を構え、オレ達に襲い掛かってくる。
あの感じ、相手が誰であるか確認する前に、一気に突き殺すつもりの勢いだな……だが、無意味だ。
「効くかよ、そんなもん!」
【カイゾクハッシャー!】
オレが片手を掲げると、パイプが張り巡らされ、一つの武器―――弓矢に変化する。
オレはそれを構え、矢の部分にある列車?の模型を掴み、後ろに引っ張って力を溜める。
そして狙いを定め、兵士達に向けて一気に撃ち放った!
【各駅電車】
シュバッ!と放たれた矢……ではなく光の列車が、兵士に炸裂する。
オレはどんどん光の列車の一撃を放ち、迫り来る兵士達を次々に昏倒させていく。
安心しろ、加減はしてある!
だけど、兵士の中には結構レベルの高い奴らもいたらしい。一発じゃ斃れない奴もいた。
「だったら…!」
【急行電車】【快速電車】
オレは弓を引く時間を伸ばし、光を撃ち出す力を溜め込んでいく。
設計通り、時間が伸びるごとに蓄積されるエネルギーは増大し、凄まじい光を放ち始める。
オレを狙う兵士の槍が、オレの目前にまで迫ったその瞬間、オレは力を顔蓬する。
【海賊電車】
「勝利の法則は、決まった!!」
ゴッ!!と、先程とは比べ物にならない一撃が、兵士に決まる。
胸のど真ん中に食らったそいつは、大きく弧を描いて宙を舞い、やがて地面に頭から落下する。
……やべ、やり過ぎたかな。
「ま、いいか」
「どるりゃああああああああああ!!!」
あっちでは、リュウガが思いっきり大暴れしてるし……一人くらい重傷者が出てもしょうがないよな、うん。
女の子を一人攫うような悪党だ、ノープロブレム!
「さぁ……どんどんかかってきやがれ!!」
まだまだ姿の見える兵士達に向けて、オレは弓を構え、凄んでみせた。