Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜   作:春風駘蕩

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仇には仇を

Side:Melty

 

「聞けばマルティ王女は……盾の勇者に洗脳されているとか」

 

 連れて来られた、亜人排斥派の貴族・イドル=レイビアの屋敷。

 そこで私は……この男に脅されている。

 

 前々から危ない印象を抱いていた人だけど……今は、前よりもずっと恐ろしく見えるわ。

 

「奴はメルロマロクを滅ぼそうとしている悪魔。討ち取らねば多くの血が流れるでしょうねぇ」

「あの方は、そんな事…!」

「盾の悪魔の行き先をお教えください…共にこの国を奴の間の手から救いましょうぞ―――神の名の下に」

 

 そういって見せてくるのは、剣と槍と弓が合わさった意匠のネックレス。

 三勇教の……この国を可笑しくしている宗教の、その信者であることを示す証。

 

 私はそれを見て、とてつもない恐怖に襲われてしまう。

 イドルの手が、私を捕らえようと伸ばされた―――だけど。

 

「メルちゃあああああああああん!!!」

 

 どかん!!と、思わず耳を塞ぎたくなるような轟音と共に、大きな影が……私の友達が扉を蹴破ってくる。

 私が驚いていると、フィーロちゃんの後ろから、ぞくぞくと見覚えのある人達が現れてくる。

 

「おっと、それ以上は見過ごせないな!」

「ナオフミ…!?」

「たっ…盾の悪魔! とうとうここまで来たのか!」

「ああ…親切な兵士さんの案内でな」

 

 にやりと不敵に笑うナオフミが、イドルにそう告げる。

 よく見ると、ナオフミの片手は、なぜか顔色の悪い兵士を捕まえている。そして今のナオフミの使っている盾には、毒蛇の意匠がついている。

 

 ……なるほど、毒で脅してここを探し当てたのね。

 うん、来てくれて嬉しいんだけど……なんだかうまく喜べないわ。

 

「ご苦労だったな。じゃあ、あとは好きにするといい」

「くっ……おのれ、地獄を見るがいい! 盾の悪魔め!」

 

 ナオフミが解毒剤らしき瓶を渡して、囚われていた兵士が逃げていく。

 

 私はつい、ナオフミの方に駆け寄りそうになるけれど、我に返ったりドルがそれを止め、今度は私が捕らわれてしまった。

 

「さて……単刀直入に言うぞ。メルティを離せ、そしてこっちに返せ」

「近づくな、悪魔め! 貴様の要求など聞くわけがないだろうが!」

「一応の情けのつもりなんだがな……痛い目に遭いたくなけりゃ、さっさとこっちによこせ」

 

 ぎろりとイドルを睨みつけて、要求するナオフミ。フィーロちゃんも一緒になって、こちらに凄んできてくれる。

 けれどそれくらいじゃイドルは臆さないみたいで、余計に私の首にかけた腕に力を込めてきた。

 

「ふ…ふん! 貴様の方こそ、そこに跪くがいい! メルティ王女の命が惜しいのならな…!」

「く……ぅ…」

 

 首が絞められて、少し苦しくなる。

 でも、私が苦しんでいる事に気付いていないようで、イドルはナオフミ達に不気味に笑ったまま後退る。

 

 どうしよう、どうしたら…! 私が焦っていた時だった。

 

「…あなたはそうやって、自分より弱い立場の相手しか傷つけられないのですね」

「な…何だと!?」

 

 そう、抑揚のない低い声で告げて、前に出てくる人がいた。

 俯いたラフタリアさんが、ゾッとするぐらい冷たい声を発し、イドルの方へと近づいていく。

 私も思わず、ブルッと肩を震わせてしまった。

 

「おい、ラフタリア…」

「卑怯で矮小で……どうしようもない最低の男。リファナちゃんは……こんな男に殺されたんですね」

 

 俯いていて、私にはラフタリアさんの表情が見えない。

 けれど、ラフタリアさんがすごく、イドルに対して大きな怒りと憎しみを抱いている事がわかった。

 

 一体この人は、ラフタリアさんに何をしたの…!?

 

「貴様…貴様は、まさか…!?」

 

 私の首を締めながら、イドルが何かに気付いたのか目を見開く。

 そしてやがて、ニタリとさっきよりも醜い、悍ましさを感じさせる笑みを浮かべ出した。

 

「そうか…そうかそういうことか! 貴様はあの……私の玩具だった奴隷のガキか! 随分とデカくなって、態度もデカくなったな!」

「…あなたに売られてから、色々ありましたからね」

「それでどうした!? また私にいたぶられるために戻ってきたのか! 殊勝なことだな!」

 

 …! まさか、ラフタリアさんが売られた場所って…!?

 そういう事なら、ラフタリアさんのあの様子も納得できる。しかも、話の内容から察するに、ラフタリアさんの友達は……!

 

 ラフタリアさん、まさか、自分の手でイドルに…!?

 

「いいえ……私がここにきたのは」

 

 その声に、どんどん堪えきれない激情が募っていく。

 自分を苦しめていた……友達の仇である男を前にして、ラフタリアさんの箍が外れそうになっているのが、ありありと見て取れた。

 

「過去の弱い私を終わらせ……因縁に決着をつけるためです!!」

「くっ、来るな! こいつがどうなっても……」

 

 すらっ…と剣を抜き、イドルに狙いを定めるラフタリアさん。

 それを見て焦ったのか、私を引きずりながら後ずさっていくイドル。

 

 どうしよう……これじゃ、私がまた足手纏いになっちゃう。

 何とか、イドルの拘束から逃れなくちゃ…!

 

 私が必死に、イドルの拘束を抜け出す方法を考えていた時だった。

 

忍者!】【コミック!】【ベストマッチ!

「ビルドアップ!」

ニンニンコミック イェイ!

 

 最近はもう、聞きなれてしまった声が、どこからともなく響き渡る。

 イドルも驚いた様子で、辺りを見渡しだしたその次の瞬間。

 

隠れ身の術!

 

 ぼんっ!と、白い煙とともに、黄色と紫の鎧に身を包んだセントさんが、私とイドルの目の前に現れる。

 さらにセントさんが、片手に持った短刀のような武器を構えると、私とイドルの間で、強烈な風と火の一撃が炸裂した。

 

風遁の術!】【火遁の術!

「ぐわああ!?」

分身の術!

 

 不意打ちによろけたイドルに、ぼぼぼんっ!と煙と共に分身を生み出したセントさんが襲い掛かる。

 おなかに蹴りを入れられてふらつくイドルに、今度は猛スピードで突っ込んできたリュウガちゃんが拳を振り上げた。

 

「うおりゃあああああ!!」

ドラゴニックフィニッシュ!

 

 青い炎を宿した拳が、イドルの顔面に炸裂する。

 真面な防御も取れなかったイドルは、そのまま後ろの窓ガラスに突っ込み、どたっと盛大に倒れ込んだ。

 

「よっしゃあ! 人質奪還!!」

「やったー!」

 

 ボッ!と拳に纏わせた炎を散らし、ガッツポーズをするリュウガちゃん。

 フィーロちゃんもそれを見て、そしてセントさんに抱きかかえられた私を見て、翼を広げて喜びをあらわにした。

 

「…これであなたを守る盾はなくなりましたよ。いい気味ですね」

「ち…近づくな! 私に近づくな、亜人め!」

「この状況でそこまで強気でいられるとか、逆に尊敬するわ」

 

 ガラスの破片を下敷きにして、横たわるイドルにラフタリアさんがそう告げる。

 けど、やはりそれでもイドルは臆さないみたい……ナオフミが呆れるぐらいに、私達を見下した態度を崩さなかった。

 

 諦めの悪い彼を見つめていたその時、ナオフミがハッと目を見開いた。

 

「セント!」

「うお!?」

 

 ナオフミが叫んだ直後、バシンッ!と黒い何かが床を打つ。

 慌ててセントさんが飛びのいたからよかったものの、砕けた床を見て、私はぞっと背筋に寒気を走らせた。

 

「盾の悪魔め……亜人共を引き連れてこの国を滅ぼす気だろうが、そうはいかんぞ! 亜人との戦争で何人も屠った私の力を見せてやる……!」

 

 攻撃してきたのは、イドルの鞭だったみたい……どこに隠し持っていたのか、ヒュンヒュンと両手で不気味な鞭を一鳴らしている。

 アレが、イドルの持つとっておきって事かしら。

 

 でも、その威力を見ても、ラフタリアさんは引かない……いいえ、もっと怒りを増して、自分の武器に手を伸ばした。

 

「そこに一体、弱気人々は何人いたのでしょうね……この、卑怯者!!」

 

 そういって、ラフタリアさんは刃のない剣の柄を引き抜く。

 それを振りかざした瞬間、魔力でできた刃が飛び出し、眩しい光を放つ。

 

 鞭を振り回すイドルの懐に入り込み、ラフタリアさんは、魔力剣をイドルの胸に深々と突き立てた!

 

「ぐわあああああ!!」

 

 実体のない刃が、イドルの精神に突き刺さる。

 イドルは悲鳴をあげてのけぞり、やがてずるずるとその場に倒れ込む。

 

 しん、と静かになると、ラフタリアさんは魔力剣の刃を消し、無言のまま鞘に納め、仇敵に背を向けた。

 

「…やっちまわなくていいのか?」

「それでは…この人と同じです。自分の感情の赴くままに命を奪えば……悪人と何も変わりません」

「ラフタリアさん…」

 

 そう、何という事はないようにいうけれど、ラフタリアさんの表情はまだどこか厳しい。

 命を奪いたくないという気持ちと、今すぐに殺してやりたいという木本がせめぎ合っているのかもしれない。

 

 ……そんな気持ちにさせてしまったことに、私の方が申し訳なく思えてきた。

 

「よく…耐えたな」

 

 ナオフミがそういって、ラフタリアさんの肩を叩く。

 そうしてようやく……ラフタリアさんは落ち着きを取り戻して来たらしい。ぽろぽろと、とめどなく涙を流し出した。

 

 少しでも、犠牲になった人の弔いになればいいけど―――そう思われたけど。

 

「このままでは…このままでは済まさんぞ…! 盾の悪魔も…亜人共も!」

「あいつ、まだ…!」

 

 背後で聞こえた声に振り向くと、おなかを抑えたいドルが、壁を支えに立ち上がろうとしている姿が目に入った。

 嘘でしょ…!? あれだけ攻撃を受けて、それでもまだ起き上がれるなんて…!?

 

 目を血走らせてこちらを睨んでくるイドル、彼の反撃に、私達が身構える……だけど。

 

「ぎっ……ぎゃああああああああああああ!!」

 

 突如、イドルが喉を掻きむしるような仕草を見せて、がくりと膝をつく。

 直後、イドルの顔中に紫色の斑点が現れて、見る見るうちにその体が崩れ出していく。

 

 私達が目を見張っている間に、イドルは跡形もなく、部屋の中から消え失せてしまった。

 

「な……なんだ、今のは。何が起こったんだ…!?」

「おいおい…盾の勇者様も甘いねぇ。トドメを刺すなら、ちゃんとここまでやらねぇとな」

 

 呆然と立ち尽くす私達。

 そこに、まるで聞いたことのない声が、嘲笑う響きを持って届く。

 

 いきなりのことで、私達は一斉に勢い良く振り向く。

 そして……困惑で大きく目を見開く。

 

 そこにいたのは、体中に金属の管を巻き付けた、赤黒い格好の誰か。

 蛇の形をした緑色の目が特徴的な、見るからに怪しく不気味な雰囲気を醸し出す、おそらくは男の人であろう何者かが、テーブルの上に腰かけていた。

 

「誰だ…お前は!」

「まぁまぁ、そう身構えるなよ。別に今すぐ潰してやろうなんざ思っちゃいねぇんだから……そうだなぁ、晴れの舞台だ。盛大に名乗ろうか」

 

 ナオフミの問いに、蛇のようなその男は呆れるように肩を竦める。

 そして勿体ぶるようにテーブルを降りると、まるで舞台役者のような大仰な仕草で、私達に向けて礼をしてみせた。

 

「ブラッドスターク…ってのが俺の名よ。以後、お見知り置きを? 盾の勇者……ナオフミ君?」

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