Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜   作:春風駘蕩

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毒蛇の男

Side:Ryuga

 

「ブラッド……スターク?」

 

 いきなり現れた、蛇を思わせる格好のそいつに、オレ達は皆絶句していた。

 仮面で顔が見えないから……ってだけじゃねぇ。

 

 なんかこう……目には見えない、えげつない闇を隠してそうな、そんなむちゃくちゃ不気味な感覚がする。

 

「やれやれ……せっかく俺が手助けしてやったのに、結局な〜んの役にも立たねぇとは…いやになっちまうぜ」

「手助け…!?」

 

 豚貴族が消えた場所を見やって、肩を竦める蛇男。

 あの野郎が消えたのは……こいつのせいなのか? 何をしたのか全然わかんなかったけど、こいつで間違いないんだろうな。

 

 こいつは油断しちゃならねぇ……得体の知れない敵ってわけだ。

 

「なぁ? 盾の勇者殿?」

「知るか、俺に聞くな」

「冷たいねぇ……人生もっと余裕を持って生きるべきだろぉ?」

 

 この野郎…!

 言い方がいちいち腹立つな…!

 

 なんつーか……つかみどころのない、雲みたいな? いや、煙みたいな奴だな。

 こっちが警戒してる姿を、思いっきり馬鹿にしてる感じがしやがる。

 

「手助けってことは……お前があの貴族に、俺たちの居場所を教えたって事でいいのか?」

「ご明察〜…しらみつぶしに探して、な〜んの罪もない亜人の連中が巻き込まれるよりはいいだろ?」

「何を恩着せがましいことを…!」

 

 クッソ……こいつが喋るたびになんかイラつく。

 ナオフミの奴もイライラしてるし、セントもラフタリアも、ついでにフィーロとメルティも険しい顔をしてる。

 

 落ち着け、落ち着けオレ達…!

 挑発に乗ったら、こいつの思うつぼだぞ……クソったれ!

 

「…それでお前、俺たちに何の用だ。ただ世間話とグチを言いにきたわけじゃないだろ」

「せっかちだねぇ……ま、そっちの方が話が早くていい」

 

 どかっ、と蛇男はやたらと豪華な部屋の中を歩き回り、下品な色をしたソファに腰かける。

 そして膝に肘をついて、オレ達を見つめてくる。

 

 仮面で表情は見えねぇけど……間違いなく、にたりと不気味に笑っている事だけはわかった。

 

 

「―――お前さん達を追ってきた、これでいいかぁ?」

 

 

 蛇男がそう告げた途端に、オレ達の背筋に寒気が走る。

 そして全員で、飛びのきながらそれぞれで武器を構える。

 

 この感覚…!

 前にあったあのコウモリ男と同等……いや、それ以上にやばい気配だ!!

 ていうか、こいつの格好!

 何となくだが、あのコウモリ野郎に似てるのは、オレの気のせいか…!?

 

「ははっ……それじゃ遅すぎるぜ勇者様よぉ!」

 

 顔を引き攣らせたオレ達に向かって、ソファから跳んだ蛇男が腕を振りかぶる。

 その手から飛び出したのは……緑色の蛇!?

 とてつもない速さで飛び出したそいつが、盾を構えたナオフミに向かって突っ込んでくる!

 まさか、さっき豚貴族がやられたのはこれか!?

 

「ナオフミィ!!」

 

 こいつにやられたら、ナオフミもあいつみたいに…!?

 慌ててオレとラフタリアが、飛び掛かる緑の蛇を弾こうと手を伸ばす……だが、蛇の牙は、すでにナオフミの首元にまで迫っていた。

 

 ヤ……ヤバい!

 オレ達が顔面を蒼白にさせた瞬間だった。

 

タカ!】【ガトリング!】【ベストマッチ!

 

 聞きなれた、あのベルトの声が響き渡り……オレとラフタリアの間を、オレンジ色の閃光が駆け抜けた。

 

天空の暴れん坊 ホークガトリング イェイ!

「うおおおおおおおお!!!」

 

 振り向けば、オレンジと灰色の鎧を身に纏ったセントが、オレンジと灰色の妙な武器を構えている姿が目に入った。

 

 六つの管を束ねた……銃?とかいう、遠くにいる奴をブッ飛ばす武器だ。

 それの前面が回転し、管の穴からオレンジ色の閃光が幾つも発射され、蛇男にぶち当たっていく。

 

 ドガガガガガガガ!!

 って感じで、ものすごい衝撃と轟音と火花が辺りに撒き散らされた。

 

「うおっ…バカ! 部屋の中でそんな攻撃力の高いものを使うな!!」

「んなもん気にしてられるかよ!!」

 

 セントのバカが撃った余波で、部屋の中があっという間にボロボロになる。

 

 ナオフミがめっちゃくちゃ怒ってるけど……正直に言って今はチャンスだ!

 セントが撃つのをやめた瞬間に、オレもベルトのレバーを回しまくりながら、蛇男に向かって突っ込む!

 

 まずはこの狭っ苦しい場所から追い出してやらぁ!!

 

ドラゴニック・フィニッシュ!

「うおらあああああ!!!」

「ぐおっ!!」

 

 オレの渾身の一撃が、蛇男のガードした腕に決まる。

 そしてオレ達はもつれあうようにしながら、窓に激突して、そのまま屋敷の庭に放り出される。

 振り向けば、オレ達を追ってセントが背中に羽根を生やして飛び降りてくる。

 

 っしゃあ!

 仕切り直しだ、蛇男!!

 

 

Side:Melty

 

 あの不気味な男を追って、セントさんとリュウガさんが飛び降りていった。

 結構な高さのハズだけど……あの二人ならきっと大丈夫よね?

 

 だけど一番心配なのは……一緒に窓の外に飛び出した、蛇を連想させる不気味な鎧を纏った男のことだわ。

 あの人、一体何者なのかしら……?

 

「くっ…俺達も追うぞ!」

「は、はい!」

「わ、わかったわ」

「おー!」

 

 ナオフミの声で、私達もようやく我に返る。

 そ、そうよね……心配している暇があったら、あの二人の戦いを助けないと!

 

 大急ぎで部屋を出て、セントさん達の降りた中庭に向かおうとした、その時だったわ。

 

「……え?」

 

 唐突に、ラフタリアさんが立ち止まり、あらぬ方向に振り向く。

 気付いた私達がラフタリアさんを見ると……何か、信じられないものを見た、いや、聞いたような表情で、その場に立ち尽くしていた。

 

「どうした、ラフタリア!?」

「…すみません、ナオフミ様」

「ラフタリア!?」

「ラフタリアさん!?」

 

 訝しむ私達に一言だけ告げると、ラフタリアさんはいきなり走り出してしまった。

 呆然となる私達だったけど、すぐに正気に戻って、ラフタリアさんの後を追いかけ始めた。

 

 

 

 そうして辿り着いたのは……屋敷の裏側だった。

 そこには、ぽっかりと大きく開かれた、地下に繋がる入口があった。

 

「ここは……地下牢、だよな」

「ええ…でも何だか」

「ここ…やー。イヤなにおいがする~」

 

 本来、罪人や疑いのかかった者を収監しておくため……のはずの場所。

 今はそうそう使われる事のないはずのそこは……鼻に突き刺さるような、強烈な臭いが漂っていた。

 

 これは……死臭?

 

 恐る恐る、私達が地下牢の中を進んでいくと、牢の一つで蹲るラフタリアさんの姿に気付いた。

 

「ラフタリア……何でこんな」

「ラ、ラフタリアさん…? そんなところで何を……」

 

 微動だにしないラフタリアさんを心配して、ナオフミが話しかける。

 返事がない事を不思議に思って、私も一緒にラフタリアさんの手元を覗き込んでみる。

 

 ……そして、激しく後悔したわ。

 そこには……白骨化した、明らかに子供の大きさの、誰かの亡骸があったんだもの。

 

「…その子は」

「私の……親友、だった子です」

 

 ナオフミが尋ねると、ラフタリアさんはかすれそうな声で答えた。

 泣いて……いるのかしら。

 よく見たら、亡骸を見下ろすラフタリアさんの肩が、小刻みに震えているのが見えた。

 

「私なんかよりも、ずっと女の子らしくて……大人になったら、盾の勇者様みたいな人と、結婚したいと……」

 

 ラフタリアさんの、今にも泣き出しそうなその声に……私は何も言えなくなってしまった。

 

 わかったつもりになってた…!

 こんなひどい事が、この国ではあちこちで行われているんだって……でも、私の想像じゃ、足りなかった!

 何もしてこなかった私が……情けなくて仕方がないわ!

 

「そんな、風に、ずっと……!」

「…こんなところに置き去りにしたらかわいそうだ。どこか…静かに眠れる場所に、連れて行ってやろう」

 

 ナオフミがそういって、どこかからぼろ布を持ってきて、ラフタリアさんのお友達の亡骸を包んでいく。

 

 ……せめて、お日様の当たる何処かに埋葬してあげれば、無念が少しでも晴らせるかしら。

 そのためにも……私も、何かをしなくちゃいけない。

 涙を流すラフタリアさんの肩を抱くナオフミの姿を見て、私はそう思っていた。

 

 ……思う事しか、できなかった。

 

「…ねーねー、あそこにだれかいるよ?」

 

 ふと、フィーロちゃんが別の牢を指して告げる。

 ハッと息を呑んだ私達が駆け寄ると、フィーロちゃんの言う通り、鎖に繋がれた亜人の男の子が、ぐったりと項垂れている姿が目に入った。

 

「…! もしかして、キール君…?」

 

 ! まさか、他にもラフタリアさんのお友達が…!?

 それも、まだ生きて…!

 

 私達の声に気付いた亜人の男の子が、ぐったりとしたまま、気だるげに顔を上げた。

 

「っ…誰だよ、お前……」

「私だよ、キール君……ラフタリア、だよ」

「…つくなら、もっとマシな嘘つけよ……ラフタリアちゃんはもう、死んだんだ…!」

 

 優しく話しかけるラフタリアさんだけど、男の子……キール君は荒い口調で拒絶るばかり。

 かれのめをみてナオフミがぼそりと、「…知ってる目だな」と呟いているのが耳に入った。

 

 そうか……昔のラフタリアさんも、こんなふうに。

 

「…私が知ってるキール君はね、昔、海で泳いでいた時に足をつって、サディナ姉さんに助けられた事があったり、山で毒キノコを食べてお腹を壊して、誰にも言わないで!って私にお願いしたり……すごく、元気な男の子で…!」

 

 肩を震わせるキール君に、ラフタリアさんは穏やかに笑ったまま、続けて話しかけた。

 それを聞いたキール君が、ハッと目を見開いて顔を上げた。

 

「ラフタリアちゃん…!? ほ、本当に、ラフタリアちゃんなの…!?」

「久し、ぶりだね…キール君」

 

 急に大きな声を上げたせいで、激しく咳き込むキール君。

 ラフタリアさんはにこやかに笑い返し、キール君の腕を繋ぐ鎖を剣で叩き斬る。

 

「ど、どうして……」

「たくさん、たくさん……大変なことを経験してね。今はナオフミ様の……盾の勇者様のお世話になってるんだよ」

「盾の……勇者様?」

 

 キール君はぼんやりと、ナオフミの方を見上げる。

 信じられないかもしれないわね……だってこんなに不愛想な勇者様なんて、誰が想像できるかしら?

 だけど、本物だから……きっと、あなたを助けてくれるから。

 

 そのまま気絶してしまったキール君を抱えて、ナオフミと一緒に牢を出ようとした時。

 外からズズンッ…!と、ものすごい轟音が響いてきた。

 

「……あいつら、どんだけ遠慮なしに暴れてやがるんだ」

「急いで加勢に行かないと…! あの男、不気味な力を感じたわ」

 

 横から見てただけだけど、セントさんもリュウガさんもものすごく焦ってたわ。

 それってつまり、十分な強さを誇るあの二人でも焦るぐらい、相手は危険な力を持っているって事になるわ。急がないと…!

 

「ラフタリアはこいつと一緒にいてやれ。あの蛇男は俺達が……」

「で、ですが」

「それでは、私がその子を安全な場所まで連れて行きましょう」

 

 ナオフミの命令に渋るラフタリアさん。

 そこに、ちょっと疲弊した様子の声―――私達を助けてくれたライヒノットが、身体を引きずりながらやって来た。

 あなた……そんな身体でこんな所に。

 

「お前…怪我は?」

「平気です。それより、外の騒ぎを鎮めなければ、いずれ国に報告が上がります」

「…すまない、助かる」

「お気をつけて」

 

 ナオフミがそう言って、ライヒノットにキール君を託す。

 襤褸布に包んだラフタリアさんのもう一人のお友達の亡骸も、ライヒノットが優しく受け止めてくれる。

 

 …もう、気がかりな事は任せたわよね?

 

「行くぞ、ラフタリア! メルティ!」

「はい!」

「わかったわ!」

 

 ナオフミの声で、私達は声を合わせて進みだす。

 もう、無謀な事はしない……絶対に生き残って、父上と姉上の、三勇教の暴走を止める!

 

 絶対生き延びて……この国を変えてみせる!!

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