Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜   作:春風駘蕩

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二つ首の黒犬

Side:Sento

 

 レベル上げと金稼ぎ目的で、オレたちはリユート村という鉱山の麓にある村にやってきていた。

 が…なんか物凄く活気がない。

 村人もなんか……元気がないな。

 

「えらく寂れてるな」

「波の影響だそうだ……波で出てきた魔物が鉱山に巣食って、事業が成り立たなくなったらしい」

「ふ〜ん」

 

 こんだけ困ってる奴らがいるのに、国は何にもしてくれないそうだ。

 もちろん勇者も、ナオフミ以外の誰もこの村には来ていない。やれやれだな…。

 

「で、これからその鉱山に行くってことは、魔物退治?」

「いや、希少な鉱石が採れるらしいからな。手っ取り早く稼げるだろう」

「ああ、そう……」

 

 まぁ、そういう奴だってのはわかってるけどさ。

 仮にも勇者なんだから、ウソでもそういう勇ましいこと言っておけばいいんじゃないのか?

 機嫌悪くなりそうだから言わないけど。

 …ん?

 さっきからラフタリアちゃんが大人しい……まぁ、不安げなのはいつもだけど。

 

「大丈夫か、ラフタリアちゃん。今朝からちょっと調子悪そうだけど?」

「だ、大丈夫です」

「そう? 無理するなよ。もし何かあるならオレがナオフミに言って休ませてもらうよ」

「大丈夫ですって……」

 

 いやいや…明らかに無理してるだろ。

 そういや朝からこんな感じか。なんかいやな夢でも見たのかね?

 そうこうしているうちに、オレたちはリユート村を出て、件の鉱山に辿り着いていた。

 で、さっそくナオフミは炭鉱夫の使っていたであろう小屋に向かい、残ったものを色々と物色し始めていた。

 

「助かる。役に立ちそうなものが結構あるな」

「ロープにツルハシに……うん、まだまだ使える」

 

 何だろ、この、勇者っぽいんだかぽくないんだかよくわからない感じは。

 金欠だからしょうがないっちゃしょうがないんだけど……なんか釈然としないような。

 ナオフミは回収したものを盾に入れて、便利そうなスキルを手に入れてる。

 何でただのロープや鉄の棒きれであんな能力が手に入るんだ? オレも人の事言えないけど。

 一通り物色し終えて、小屋の外に出てみると、オレたちは興味深いものを見つけた。

 

「お、トロッコ発見」

「……だがボロボロだな、使えそうにない」

「ところがそうでもないんだよな〜」

 

 あん?とと訝しげに見てくるナオフミの前で、オレは空のフルボトルを開けてトロッコに向ける。

 するとトロッコが粒子状になり、フルボトルに吸い込まれ、あっという間に満タンになる。

 そしてオレの手の中には、新しいフルボトルが完成していた。

 

「で〜きたできた♪」

「……魔物以外にもいけるんだったか」

 

 これだけでも十分な収穫だぜ!

 どんな能力化は使ってみてのお楽しみだけど、きっとハズレはないはずさ!

 来てよかったなぁ~。

 

「そういえばあのベルト……ベストマッチとか言ってたな。どう言う意味だ?」

「そのまんま。一番相性のいい組み合わせってこと……らしい」

「「らしい!?」」

 

 おっと、ものっすごい驚きの表情で見てきやがる。

 そんな目で見るなよ。正直オレだって困ってんだから。

 

「あはは…オレはただ、あれを使い熟すための道具としてベルトを作ったから、フルボトルの性質に関してはよくわかってないんだよね」

「……何者だよ、記憶をなくす前のお前は」

「何だろね?」

 

 肩をすくめるオレだが、確信はしている。

 今のオレも認めざるを得ないほど、以前のオレは天才だったのだろうと。

 と、まぁそんな雑談をしつつ、オレたちは鉱山の入り口に辿り着いていた。

 

「ここが坑道?」

「ああ……ラフタリア、松明を持ってろ」

「はい」

 

 もうしばらく使われてないみたいだし、明かりも当然ない。

 ラフタリアちゃんに光源を任せて、オレとナオフミで前を守りながら歩いていく。いきなり魔物が出てきても困らないようにな。

 ん~、でもやっぱり足元がよく見えん。

 

「結構深いな…これはちょっと期待できたり?」

「だといいがな」

 

 しばらくはトロッコの線路を目印に歩く。

 入口の方はもう掘り尽くされてるだろうけど、置くに行けばまだあるはずだよな……たぶん。

 

「ん?」

 

 その途中、オレは気になるものを見つけてナオフミを呼び止める。

 それは線路の枕木の間に見つけた、魔物の物らしき足跡だった。

 

「これは……犬か」

「ああ、でっかい犬の足跡だ」

 

 でもそこまで大きくはないか。ラフタリアちゃんでも普通に対処できそう。

 と思ってたら、横にいるラフタリアちゃんがなんか、ものすごく青い顔で震えてるのに気がついた。

 ……いやな予感がする。

 

「大丈夫? 顔真っ青だけど」

「っ……は、い」

 

 なんとか返事を返してくれるラフタリアちゃんだけど、これはちょっとまずいかな。

 ナオフミに伝えようと思ったら、オレが言う前に口を開いていた。

 

「ラフタリア、セント、何かあったらすぐに逃げるぞ。いいな」

「は、はい!」

「りょーかい」

 

 お?ちょっと顔色元に戻ったか。オレが聞いても震えてたのに。

 これは……ひょっとしたらひょっとするのかな?そういうアレなのかな?

 オレは思わずナオフミの方をニヤニヤしながら見てしまう。

 朴念仁みたいな反応して……罪作りな男だねぇこいつは。幼女キラーとでも呼んでやろうか?

 ま、からかうのはまた後にしておくか。

 ナオフミも気づいてないみたいだし、こういうのはそっと見守るに限る。

 今は仕事の時間だしな。

 

「この辺りでいいか……さっき手に入れたスキルで」

「ナオフミ、ナオフミ」

 

 小屋で手に入れたツルハシを構えるナオフミに、オレはドリルクラッシャーを見せる。

 が、呆れた顔で首を横に振られてしまった。

 

「……それは使わん」

「えー」

「いいからさっさとお前も掘れ」

 

 そ、そんな拒否することないでしょうに……いや、鉱石が変に傷ついても困るのはわかるけど。

 しょうがないからオレもドリルクラッシャーをしまって、普通のツルハシを持つ。

 くっ…絶対ドリルの方が簡単に掘れるのに、めんどくさいなぁ。

 …あ、クリティカル入った。

 

「おお〜、結構デカイのとれたぞ」

「そうか、よくやった」

「ヘッヘッヘ……ん?」

 

 手のひら大の鉱石……これはライトメタルかな?

 売る用と、フルボトルにする用と、なるべく多めに採取しておきたいな。

 …って、またさっきからラフタリアちゃんが大人しいな。

 

「どうしたんだラフタリアちゃん、急に黙り込んじゃって……」

 

 なんか立ち尽くしてるラフタリアちゃんを心配して振り向くと……そこにいた奴に、オレとナオフミは目を見開いた。

 

「グルルルル…!」

 

 そこにいた、二つの首を持つデカい犬の魔物に、オレは思わず息を呑む。

 あいつか……この行動に住みついた魔物ってのは。結構強そうだな。

 

「……あれ、途中で見つけた足跡の主だよな」

「ああ、だがあれより一回りはデカイぞ」

「しかも、完全にこっちを標的にしてやがる」

 

 でもしょせんは一匹。三人全員が出る必要もなさそうだな。

 何ならオレ一人でも十分相手できそうだし、さっさと片付けて作業に戻るとしますかね。

 と、思っていたけど……認識が甘かったことを思い知らされた。

 

「おいおいウソだろ…!?」

 

 オレが相手をしようと前に出たとたん・・・・・・二首の黒犬の後ろから別の黒犬が出てきた。

 しかも……いっぱい。

 しかもムチャクチャいっぱい…!

 ナオフミもちょっと慌ててたけど、すぐに冷静になって盾を構えた。

 

「真正面からやるのは無理だ。隙を見て退くぞ」

「がってん! へんし……」

 

 命が大事! さっさと逃げるに越したことはない!

 というわけで早速変身しようと思った時だった。

 

「いやああああああああ‼︎」

「え!?」

「くっ、こんな時に…!」

 

 突如、頭を抱えて悲鳴を上げ始めたラフタリアちゃん。

 さっきから様子がおかしかったけど……一体どうしちゃったんだ!?

 しかも、悲鳴に反応したのか黒犬たちが一斉にラフタリアちゃんに向かってきてしまった!

 

「ナオフミ! ラフタリアちゃん!」

 

 オレの声でナオフミは我に返ったのか、黒犬に食われかけたラフタリアちゃんをナオフミが抱きかかえ、思いっきり飛びのく。

 そして二人は…すぐ後ろの崖から落ちていった。

 

「ナオフミ! …ってうわわわわ!!」

 

 助けに行こうと思ったけど、オレの前にも黒犬たちが集まってきた!

 やべぇ…おれのレベルじゃこいつらの相手はきついぞ!?

 ちくしょう、どうすれば…! ええい、こうなったら!

 

「必殺! 脱兎(ラビットエスケーイプ)!!」

 

 この場は仕方ない! 許してくれ、ナオフミ! ラフタリアちゃん! オレも命が惜しいんだよ!!


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