Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜 作:春風駘蕩
Side:Sento
「フフフフ……フッハハハハハ!!」
蛇男が喧しい哄笑と共に……前に出会ったコウモリ男が持っていたものと同じ、黒い銃で発砲してくる。
それを背中の翼を羽搏かせて躱しながら、オレは内心歯噛みをしていた。
「あの武器…! もうこりゃ間違いねぇな、ちくしょう!」
どこだ!? そんでいつだ!? オレの発明がパクられたのは!?
いや、もしかしたらオレが記憶を失う前の話かもしれない……だとしたら、もっと多くの発明品が他所に流れてる可能性もあるじゃねぇか!
しっかりしろよ! 記憶を失う前のオレよ!!
「おらぁ!!」
「ぐっ…ぅおお!」
リュウガが放った拳を、蛇男は腕を交差させて防ぐ。
が、そもそもリュウガの馬鹿力が強すぎるせいで、蛇男は地面を滑りながら後退していく。
しかし倒れる事はなく、それどころかこっちを馬鹿にした感じで見やってきやがった。
「く、くくっ…ハザードレベルもずいぶん上がったな……俺は嬉しいぞリュウガァ…!」
「あぁ!? 何の話だテメェ!!」
苛立ちながら駆け出すリュウガに合わせて、オレは蛇男に向けて銃弾を放つ。
ハザードレベル…? あの野郎、一体何の話をしてるんだ?
リュウガの身体に……何か秘密でもあるのか? あいつはその事を知っているのか?
「ククク……自分の力がどんどん大きくなる感覚! 自分でもわかってんだろぉ…? こうしてるのが楽しくて仕方がないってよぉ!!」
「ぐおっ!?」
拳を連発するリュウガの隙を狙い、蛇男がリュウガの腹を蹴り飛ばす。
思わず膝をつくリュウガに、蛇男はなんかやたらと勿体ぶった動きで、オレ達を見下すように喋り出す。
「敵を叩きのめし、平伏させ、殺す……その全ての感覚! 何より甘美だろぉ? 戦いってのはこうでなくちゃなぁ!!」
「うるっせぇ! てめぇと一緒にすんじゃねぇ!!」
戦いを、殺し合いを楽しんでいるなんて言われたせいか、リュウガは額に血管を浮き立たせて吠える。
まずいな……冷静さを失いつつある。
ここはオレが奴の気を引いて、リュウガの頭を冷やさせるべきか。
「おい蛇男!」
「あ? おいおい、何だよそのダサい呼び方は! どうせならスタークと呼んでくれよ、お嬢さん」
「んなこたぁ、どうでもいいんだよ!」
ああああああ、ムカつく!!
お嬢さんとか言われたくねーし、あいつのあの役者みたいな大袈裟な仕草超嫌い!!
……って、オレが冷静さを失ってどうすんだよ。
言いたい事は別にあるんだっつーの、なんか調子狂うな、こいつの相手は。
「てめぇ、なんでフルボトルを持ってんだ! 誰に渡された!?」
「……さて、誰にだろうねぇ」
「言わねぇなら……言いたくなるようにしてやる! リュウガ!」
「ッシャア!」
言いながらオレは、ジャキッとオレの銃を―――ホークガトリンガーを構える。
一緒にリュウガに目配せをし、同時に動く。
口を割りそうにないから、とにかくボコボコにしてから始めてやらぁ!
【10! 20! 30! 40! 50! 60! 70! 80! 90!】
オレは空中に舞い上がり、ホークガトリンガーの側面、弾倉部分を回す。
ぎゅるんぎゅるん弾倉が回って、徐々にエネルギーを銃身の中に蓄積していく……そして最後の一回が終わって、オレは銃口を蛇男に向ける。
【100! フルバレット!】
直後、ドドドドドドドド!!と凄まじい数の弾丸が放たれ、蛇男に炸裂していく。
蛇男の鎧から火花が散り、衝撃で蛇男が一歩二歩と後退る。
そして俺が撃ち終わった直後に、蒼炎を纏ったリュウガの拳が、蛇男の顔面に叩き込まれた。
【ドラゴニックフィニッシュ!】
バガン!!と……若干心配になるような轟音と共に、蛇男が吹っ飛んでいく。
その先にあった……なんか変な石の塔に背中から激突して、蛇男はピクリとも動かなくなった。
「よっ…」
「オラァ! どうだこの野郎!」
静かになった蛇男の前で、オレは空中から降り立ち、リュウガは薄い胸を張る。
結構な一撃食らわせたけど……どうやらまだまだ健在のようだな。
多少よろついちゃいるが、普通に立ち上がっちまった。
「フッ…フフフフ…! なかなかやるな、お前ら……まぁ、今日のところはこれで十分か」
「何…?」
「逃げる気か!?」
意味深に笑う蛇男に、オレとリュウガは思わず身構える。
得体の知れない事ばかり口にするこいつは、このまま逃がすと後々面倒な事になりそうだ……ふん縛って洗いざらい吐かせた方がいい。
だが蛇男は……警戒するオレ達を嘲笑うように、やれやれと肩を竦めた。
「おいおい、勘違いするなよお前ら……俺は別に殺しにきたとは一言も言ってねぇ。お前らの今の力を探りにきたんだ。つまり、俺の用事はこれでおしまいってこった」
「逃がすわけねぇだろ!!」
「いんや、俺はここでおいとまする……フン!」
リュウガの咆哮にそう返し、蛇男は後ろの石の塔を……いや、何か文字が記された石碑を叩く。
その瞬間、石碑にバキバキとヒビが入り、割れ目から不気味な光が迸った。
な、何だ…!?
何が起こるっていうんだ!?
「あ、あれは…まさか…!」
慄くオレとリュウガの後ろで声がする。
振り向くと、何故か地下から出てきたナオフミ達が、オレ達と同じく驚愕の表情を浮かべ、異変を見せる石碑を凝視していた。
……ていうか、あの優男貴族無事だったのか。
それと……あの、お前が抱えてるちっこいの、誰?
「知ってるかぁ、勇者殿? この石碑の下には、はるか昔の勇者様が、あまりの強大さゆえに封じることしかできなかった最悪の魔物が眠ってるらしいぜ」
困惑するオレを放置し、蛇男が石碑を撫でながら聞いてくる。
仮面に隠された表情は……きっと、嗜虐心に満ちた醜悪なものなんだって事は、全員が気付いていた。
「その封印を解いちまったら……一体どうなるのかねぇ?」
「何だと…!?」
「じゃあまぁ、せいぜい頑張りな…チャオ〜」
蛇男がそういって、銃を掲げて引き金を引く。
途端に銃口からもくもくと、真っ黒い煙が噴き出し、蛇男の姿を隠す……と思った直後、蛇男は影も形もなく消え去ってしまった。
「なっ……」
「GYAOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!」
いきなりのことで絶句するオレ達。
そして、そんなオレ達をさらに追いつめるように―――石碑の中から、巨大な化け物が姿を現した。
Side:Raphtalia
ズシン!と、謎の石碑の中から飛び出した足が、力強く地面を踏みしめます。
その衝撃で、私達は足場をぐらぐらと揺さぶられ、真面に立つこともできなくなってしまいました。
「おわああああああ!?」
危うく転びそうになり、セントさんとリュウガちゃんが悲鳴をあげます。
私は必死に揺れに耐えながら、現れた巨大な魔物―――額に×字に交差した角を生やした、二足歩行の竜の怪物を見上げます。
こ、これは……一体何なのでしょうか!?
あの蛇の鎧の方は、大昔の勇者が封印した怪物だと言っていましたが……まさか、本当にその封印を解いてしまったのですか!?
「チクショー! あ、あの蛇野郎…! とんでもない置き土産していきやがって!!」
「ぼやくな、セント!」
目の前でしてやられてしまった悔しさからか、セントさんは頭を抱えて嘆きます。
ですが、これは仕方がない事でしょう……こんな場所に、街中の貴族の屋敷の庭のど真ん中に、こんな怪物が封印されているだなんて!
一体誰が想像できるというのでしょうか!?
「ナオフミ様! ここで暴れられては、町が…!」
「くそっ……めんどくせぇ事態ばかり起きやがる」
亜人にたいして良くない気持ちを抱いている人々ですが、こんな理不尽な災害に巻き込まれて、死んでしまっていいわけがありません。
ナオフミ様は勇者、私達はその仲間……絶望を前にした人々を置いて、どうして放り出す事ができるでしょうか!
「GURRRRRRRRRR…!」
「むー! フィーロ、あんな奴に負けないもん!」
「おい、フィーロ!?」
不意に、目を吊り上げたフィーロが魔物に突撃します。
また…! フィロリアルとドラゴンが仲が悪いのは承知していますが、こんな状況で飛び出すなんて…!
「GYAOOOOOOOO!!」
え……?
よく見ると、怪物もフィーロに反応している……けれど、仲が悪いというより、明確な敵と判断しているような。
明らかに、腐竜と戦った時とは状況が異なっています。
「あいつ……フィーロに反応してる?」
「何でだ…? フィロリアルだからか?」
よくよく見ると、フィーロのおなかのあたりが光っているような?
怪物の方も見れば、同じ色をした光が体の一部から放たれているような……!
その事に気付いたセントさんが、ハッとした様子で目を見開き、語り始めました。
「そういえば聞いたことがある……ドラゴンってのは、引かれ合う性質があるって。フィーロちゃん、そういえば前に、腐竜の核を食っちまってたよな」
「それでか…だったら!」
セントさんの説明で、ひらめいたナオフミ様がフィーロに振り向きます。
「フィーロ! そいつを町の外におびき出すぞ!」
「わかったー!」
ナオフミ様の指示で、フィーロが屋敷の塀の上に飛び移ります。
できるだけ壊されるもののない、町の住民達の方に行かないようにしなければ…!
ふと視線を移すと、セントさんも塀の上に飛び移り、怪物に向かってパンパンと手を鳴らし、挑発している姿が視界に入りました。
「おーにさーんこーちらー、てーのなーるほーう……えぎゃあああああ!!」
「GURRRRRRR! GYAOOOOO!!」
その挑発が効いたのか、それとも単に餌と見られたのか、セントさんに向かって怪物が頭から突っ込んでいきます。
間一髪交わしたセントさんですが、すでに涙目で情けない声を上げています。
……あの人は、どうしてこう格好をつけられないのでしょうか?
「何やってんだあのバカ……」
「十分囮役になってくれてるよ、行くぞ! 優男、そいつのこと頼むぞ」
ナオフミ様が、キール君を抱えた貴族の方にそう告げ、セントさん達を追って走り出します。
同時に、やや呆然としていたメルティさんにも声を張り上げます。
「メルティ! こっちだ!」
「! ええ!」
ナオフミ様の声で我に返り、メルティさんも走り出します。
私も一緒に駆け出し、フィーロとセントさんを助けに向かいます。
突如現れた脅威に立ち向かうため、走り去る私達の背中を見やりながら、貴族の方はこう呟いていました。
「……どうか、ご武運を」