Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜 作:春風駘蕩
Side:Naofumi
夜の闇の中を、俺達は必死に逃げる。
俺とラフタリア、メルティはフィーロの背に乗って、セントとリュウガはバイクに二人乗りになって。
だがそれはただ逃げる為じゃない。
後ろから追いかけてくる恐竜擬き―――タイラントドラゴンレックスという名の化け物を、町から引き剥がすためだ。
「よし…! ここまで来りゃ十分だろ!」
「全員、戦闘準備!」
「GYAOOOOOOOOOO!!」
かなり人里から離れ、開けた場所に飛び出した俺達は、即座にブレーキをかけ停止する。
すると恐竜擬きも、俺達が立ち向かう姿勢を見せたせいか、立ち止まって強烈な咆哮を上げてくる。
思わす耳を塞ぐセントが、やや涙目になりながらキッと睨み返した。
「デカブツめ……こうなったら手加減なしでドギツイの食らわせまくってやる!!」
【オクトパス!】【ライト!】【ベストマッチ!】
そして取り出したのは……俺達がまだ見たことのないフルボトル。
タコと電球、ピンクと黄色をしたそれらを逆さにし、ベルトに挿してハンドルを回す。
【稲妻テクニシャン! オクトパスライト! イェイ!】
セントの周囲に張り巡らされたパイプが装甲に代わり、セントの全身を包む。
右肩からはタコ足がマントのように垂れ下がり、左肩には電球が装着される。
もはや聞きなれた声が名乗り終えると同時に、走り出したセントが右腕を振り回し、肩のタコ足を勢いよく伸ばす。
【ボルテック・フィニッシュ!】
「ビリビリィ!!」
恐竜擬きの胴体に向かって走るセント。
伸びたタコ足が、恐竜擬きの前足に巻き付き、直後に凄まじい電流が迸る。辺りが一瞬、昼間のように眩しく照らし出されるほどの光量だ。
だが、恐竜擬きは全く堪えた様子を見せず、セントを鬱陶しそうに払いのける。
「どわーっ!?」
「たー!」
「はぁっ!」
空中に撥ね飛ばされるセントをよそに、フィーロとラフタリアが走る。
素早い動きで恐竜擬きの足元を抜け、関節部分にそれぞれ、剣と爪で斬りかかる。
だが、恐竜擬きの鱗は相当強靭なのか、二人ともまったく攻撃が通っていない。理不尽過ぎるだろ、ふざけるなクソったれ!
「ツヴァイト・アクアショット!」
「うおらああああ!!」
【ドラゴニックフィニッシュ!】
恐竜擬きが足元に気を取られている間に、メルティが魔法で、リュウガが拳で、恐竜擬きの顔面を攻撃する。
眼球や口なら、まだ攻撃が効くと思ったんだろう。
だが、樹をへし折る水流も、岩石なら容易く砕く拳も、恐竜擬きの鱗を貫くことはなかった。
「GURRRRRR!!」
ちまちまと攻撃を受けて苛立ったのか、恐竜擬きが凄まじい咆哮を上げ、俺達を踏み潰そうと迫ってくる。
ラフタリア達はいったん下がり、俺が恐竜擬きの前に出る。
頭上から降ってくる踏みつけを、俺はどうにか盾を上に構え、防いで見せた。
「ぐ……ぬ…!」
うぉぉぉ…お、重っ!?
長男……じゃねぇ、勇者じゃなかったら死んでたぞ…!
今は防げているが……このまま耐え続けるのは、防御に特化した俺でも流石に無理だぞ…!?
【忍びのエンターテイナー! ニンニンコミック! イェイ!】
見上げれば鎧を変えたセントが、恐竜擬きの頭上から攻めている姿が見える。
忍者に似た格好で、火遁やら風遁やらを分身しながら繰り出し、ひたすらに斬りかかっている。
【天空の暴れん坊! ホークガトリング! イェイ!】
次は鷹の翼を生やし、ガトリングガンをぶっ放して背中を撃ちまくる。
映画なら、皮膚が裂けたり穴が開いたりしそうな強力な攻撃だが、恐竜擬きに堪えた様子はやはりない。
【鋼のムーンサルト! ラビットタンク! イェイ!】
「どりゃああ!」
「とー!」
今度は、スタンダードなウサギと戦車の鎧に戻り、フィーロと共に必殺キックを叩き込む。
顎に決まり、後退ったが、それでも恐竜擬きは平然としている。
くそっ! 顎を殴ったら脳が揺さぶられて意識が朦朧とするとか、そういう反応ちょっとぐらい見せろよ!
「ちっ……ダメか」
「何なんだよ、あいつのあの硬さは!」
この世界に来て、次々に降りかかる理不尽の並みに、いい加減うんざりしてくる。
勇者様にも倒せなかった敵を俺達が? ろくな装備もレベルもないのに?
はっ……とんだ無理ゲーだな。
だが……ここで諦めたら、俺は自分以外の大事なものを失う羽目になる…!
「こうなったら…!」
「お、おいナオフミ! まさか憤怒の盾を使う気か!?」
「それしかないだろう…!」
恐竜擬きの踏みつけから解放された俺が盾を構え、意識を集中させる。
後でどうなるかなんて、今考える事じゃない……今を乗り切らなければ、結局みんな死ぬ!
だったら……今、無茶をするしかないだろうが!
「巻き込まれないようにだけ、気をつけろ―――」
そうして、俺が憤怒の盾を呼び覚まそうとした、その時だった。
ガツン!という唐突な衝撃で、俺は思わず仰け反らされた。
え…? 何が、起きた…?
何か、盾に表示が……この武器は、ロックされています?
「!? どうした、ナオフミ!?」
「…ロックされた、だと?」
「ロックって……誰が」
何の前触れもなく起こった不可思議な状況に、俺達は顔色を変えて立ち尽くす。
聖なる武器の使用が、阻害される事なんてあるのか…!? できるとして、一体誰が!?
いや……誰がやったかなんて今はどうでもいい。
この状況で憤怒の盾が使えないとか、絶望的過ぎるだろうが!!
―――その盾を使ってはダメ…。
その時、俺の耳に何か……穏やかな声が届く。
頭の中に直接響いてくるような、不思議な響き……なんだ、誰なんだ、この声は!?
―――もう少しで、そこに行くから。
「そこに行くって……何だ!? 誰だ、お前は!?」
「お、おい…さっきから誰と話して…」
セントが焦りながら尋ねてくるが、俺はそれに答えるような余裕がない。
ふと、辺りを見渡すと……いつの間にか霧のようなものが漂い、俺達を囲み始めている事に気付く。
そしてその向こう側から……色とりどりのデカい鳥が飛び出して来た。
「何だぁ!? フィロリアルが大群で押し寄せてきたぞ!?」
「声って……こいつらか?」
「い、いや…多分違う」
た、確かにグワグワガーガー言っているが……こんな奴らが俺の盾をロックしたのか?
現れたフィロリアル達は列になり、恐竜擬きを取り囲んでいく。
こいつら、俺達の味方を……いや、恐竜擬きに立ち向かおうとしているのか?
そう、俺達が困惑しながら、事態の成り行きを見守っていた時だった。
ズシン…!と、凄まじい足音を響かせて、もう一つの巨大な影が、その場に姿を現した。
「な…何だこいつは!?」
現れたのは……恐竜擬きとほぼ変わらない大きさのフィロリアルクイーン。
フィーロとは冠羽の形が異なる、空色のフィロリアルだった。
な、何なんだこいつは…!?
ていうか、フィロリアルクイーンって、こんなにデカくなるのか!?
「まさか……伝説のフィロリアル様!?」
「伝説…!?」
目を輝かせているメルティ! 見とれてないで説明しろ!!
だが、俺の問いに答えたのは、他と同じく目を奪われ、間抜けなぐらいに大きく口を開けっぱなしにしていたセントだった。
「過去の勇者が育てたとされる……最古のフィロリアル! 本当にいたのかよ!?」
最古の…? しかも、過去の勇者…!?
おい、ちょっと待て!
前に勇者が召喚されたのは、遥か昔の話なんだろう…!?
だったら、あのフィロリアルはそれだけ生きてるって事に…!
「そこにいて…すぐに終わらせる」
俺が凝視している事に気付いたのか、巨大フィロリアルクイーンはそう言って、恐竜擬きに向き直る。
ほんの一瞬見えた奴の目は……ゾッとするほど冷たく見えたのは、俺の気のせいだろうか。
「……核を手に入れて、身の丈に合わない力を手に入れたようだね。怪物ですらない……ただ単に、力に振り回されているだけ」
じろり、と恐竜擬きを睨み、そう呟くクイーン。
核……というのは、あの核石のことか? アレが何なのか……こいつは知っているのか?
……聞きたい事が一気に増えてしまうな。
「大人しく核だけを置いて去るなら、命までは取らない。ここで退いて……」
「GARRRRRR!!」
「聞く耳持たず、か……じゃあ、しょうがない」
ふぅ、とクイーンがため息をついた瞬間、ドッ!と恐竜擬きが駆け出す。
大きく口を開いた恐竜擬きが、クイーンの肩辺りに噛みつき、その衝撃が俺達にまで襲い掛かる。
どうにかクイーンが盾になっているが、巻き込まれるところだったぞ!?
「怪獣大戦争か!!」
「スゴーい!」
「あれ見て何で興奮できるんだよメルティちゃん!!」
伝説のフィロリアルと伝説の魔物の激突に、ぴょんぴょん飛び跳ねて興奮をあらわにするメルティ。
なんでこういう時に年相応になるんだよ!
「……哀れだね、せめて一瞬で逝くといいよ」
ハッと、クイーンがこぼしたその一言に振り向いた瞬間。
ズバッ!
と……恐竜擬きの全身が、バラバラに切り裂かれて大量の血が噴き出す。
恐竜擬きは鳴き声一つ上げることなく、轟音を立てて、地面に倒れ伏した。
「しゅ…瞬殺」
「バケモン同士の対決かと思ったら、片方がバケモンよりヤバかった……」
あまりにも呆気なく、圧倒的な差を見せて終わった戦いに、俺達はそれ以上の言葉が出ない。
何だ、こいつは……勇者なんか目じゃないくらいに強いぞ。
大丈夫なのか…? こいつは本当に、俺達を助けに来たのか…?
驚愕と焦り、そして恐怖で固まる俺達の元に、クイーンは地響きを立てて近づいてくる。
そして俺達を見下ろしながら、再び口を開いた。
「……さて、改めて自己紹介する。その前に…」
バサッ、と、唐突にクイーンが翼を広げ、自分の身体を覆い隠す。
すると、クイーンの身体から光が放たれ、見る見るうちに小さく……いや、形を変えていく。
数秒も経たないうちに、クイーンは一人の……ハッと息を呑むほどに美しい、銀髪の少女に姿を変えた。
「世界のフィロリアルを統括する……女王、フィトリア。盾の勇者と話をしにきた」
「俺と…?」
無表情のまま名乗り、俺を見つめてくるフィロリアルクイーン―――フィトリアの言葉に、俺は思わず聞き返す。
するとチラッと、フィトリアはオレの盾を見つめ、何故か目を細めた。
「呪いの力は強力……でもその分危険が伴う。それ以上使わないほうがいい」
「…そう言われてもな」
「大丈夫、危害を加えるつもりはない」
戦いの最中に盾をロックされたことが頭に過る。
一番攻撃力のある武器を封じられて、はいわかりましたと心を許せるはずもない。
あれをいつでもできるんなら……こいつは、かなり厄介な敵になるぞ。
「……何の用だ」
「ここでは、そちらが困るはず……フィトリアが守護してる場所に、来てもらいたい」
フィトリアの要求に、俺は頷けない。
今も追われてややこしい立場になっているが……こいつの元についていって、もっとややこしい事態にならないとも限らない。
だが俺の懸念に気付いたのか、ラフタリア達が俺の方に寄って囁いてくる。
「ナオフミ……こりゃ、行った方が安全なんじゃないのか?」
「たしかに…敵意は感じられませんね」
「そうよナオフミ! フィトリア様の聖域に行けるなんて、今後一生ないかもしれないわよ!」
「そういうことじゃないんだよなぁ……」
「むー…」
…若干ズレた願望を口にしている奴がいるが、こいつらの考えも一理ある。
ただ逃げ続けるより……得体の知れない奴の縄張りに向かい、追っ手をかく乱させるのも手ではないだろうか。
少しの間悩んでいた俺は、ため息とともにフィトリアに頷いてみせた。
「……わかった、世話になろう」
「では、こちらへ……フィトリアの馬車で連れて行く」
そう言ってフィトリアが手で示した、白い馬車―――屋根の上の宝石が何故か気になるそれに、俺達は息を呑みながら乗り込んでいった。