Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜 作:春風駘蕩
Side:Melty
伝説のフィロリアル……フィトリアさんの案内で、不思議な馬車に乗り込んだ私達。
そう思った直後―――私達は深い森の中の、石でできた建物のようなものが並ぶ、奇妙な場所に移動していた。
植物に覆われてよくわからないけれど……人工物、よね?
「これ……遺跡か? 何の遺跡だ?」
「最初の勇者が召喚された地だと聞いてる。フィトリアが生まれる前で、よくは知らない」
フィトリアさんの説明で、私は思わず息を呑んだわ。
それも伝説に聞く、フィロリアルの聖域なんじゃ……そんなところに来られるなんて、本当に夢を見ているみたい!
「で? 俺に一体何の用だ……」
私が周りに見惚れていると、すごくイライラした様子で、ナオフミがフィトリアさんにそう尋ねる。
もう! ナオフミったら…!
せっかく助けてくれたのに、いつまでたっても疑う癖が抜けないんだから!
思わず文句を言おうとしたら、どこからかぐ~ってすごい音がした。
音がした方にいるのは、えっと……フィトリアさんしかいないわよね。
「そーいえば、結構な大暴れしてたよな、あの子」
「それは……お腹も減るわよね」
「…先に飯にするか」
はぁ……って大きなため息をついて、ナオフミが盾から食材を―――さっきフィトリアさんが倒した魔物の肉を取り出していく。
え、それ……食べられるの?
ナオフミの料理の腕を疑うわけじゃないんだけど……食べ物とあの魔物とで、イメージが重ならないわ。
そんな私の心配をよそに、ナオフミはてきぱきと手際よく魔物の肉を調理してしまう。
そして、みんなで一緒に口をつけたんだけど……。
「…おいしい」
どうやらフィトリアさんのお気に召したみたい。
フィーロちゃんと一緒に勢いよく口に運んでいて、お鍋の中があっという間になくなっていく。
こうして並んでいるのを見ると、まるで姉妹みたいだわ!
「よく似た二人だな…」
「雑な食い方もそっくりだ」
フィトリアさん達を見るナオフミ達の目が、ものすごく呆れているように見える。ラフタリアさんまで同じような目をしてるわ。
「ドラゴン嫌いなくせに、飯にしたらちゃんと食うんだな、お前」
「おいしいのが悪い」
「どんな責任転換だよ」
「だったら盾に入れるのに文句つけるなよな…」
「それとこれとは話が別」
フィトリアさんはぼりぼりと、出汁が浸み込んだ骨まで食べている。
種族としては嫌いだけど、食べ物には罪がないって事ね……まぁ、こんなにおいしい料理を食べないのはもったいないし。
するとそこでおもむろに、なぜか気まずそうな表情でセントさんが手を挙げた。
「ところでよぉ…」
ちらり、とすぐそばに目をやるセントさん。
私達もつられて、何を見ているのかと振り向いてみて……思わずうっ!と声を漏らした。
そこにはたくさんのフィロリアルさん達が……だらだらと涎を垂らしてこちらを見つめてきている姿があった。
その目はじっと、ナオフミの作った料理を凝視している。
フィトリアさんに許されていないからかしら、ものすごく羨ましそうに見てきて、とてつもなく居心地が悪かったわ。
「あーもーわかった!! デカい鍋と材料持ってこい! お前らの分も作ってやるよ!!」
「やっぱお前、ちょいちょいオカンっぽいよな」
「やかましい!!」
文句を言いながら、フィロリアルさん達が持って来る食材を調理するナオフミには、苦笑を禁じ得ないわ……。
お母さん、か……。
ナオフミと結婚したら、家事はナオフミがやって、仕事は私が―――
……って!
私は何を考えているのよ!?
この後私は、もやもやしながら眠る事になるのだった……。
Side:Sento
「で、俺に話ってなんだ」
「詳しく聞きたい……どうして四聖が追われていたのか」
フィーロちゃんとメルティ、あとついでにリュウガが腹いっぱいになって眠った後。
フィトリアと名乗るフィロリアル・クイーンに呼ばれ、オレ達大人組は追われるようになった経緯を話したのた。
の、だが。
話が終わるとフィトリアさん、ものっすごい重いため息をついてしまった。
「どうかしたか?」
「……呆れている。世界の危機だというのに、人間が愚かな争いを続けていることに」
…うん、呆れるよな。
今のところこの国の連中、アホしかいないもん。
しょうもない宗教の教義を真に受けて、やらなくていい争いしかしてないもん。
「…言っとくが、俺は悪くない。全部あいつらが冤罪をふっかけたせいだ」
「そこは興味がない。人間の行いに、フィトリアは関係ない」
ナオフミが不貞腐れながら言うけど、フィトリアは全く興味がなさそう。
まぁ……本質は魔物だもんなぁ。
人間同士でどんだけ争おうが、殺し合おうが、縄張りを侵略されない限り、生活を脅かされない限りは関わろうとは思わんわな。
だけど……だったらなんで助けてくれたんだ?
「争うのをやめて、ちゃんと波に立ち向かってほしい」
「波なら対処している。といっても、しょせん俺は攻撃ができない盾の勇者だがな…」
「一箇所だけで満足しないで」
こっちはこっちで頑張ってるんだけどな……って思ってたらば。
なんかフィトリアの奴、ものすごい引っ掛かること言いやがった。
一箇所? 一箇所ってどういうこと?
「……まさか、波は別の地域でも…?」
「本当に呆れた……波が起こるのはこの国だけだと思ってた? 世界中の波に対抗しなければ、いずれこの世界は滅びに向かう」
え……マジで?
そ、そういえば、この国の中でしか今のところ波に遭遇してない。
ていうかそもそも、いろんな国に龍刻の砂時計があるんだから、それぞれで場所が違っててあたり前だよな……!
何でこんな事に気がつかなかったんだ、オレ達は…!?
「勇者が一人でも欠ければ、それだけ波の戦いは厳しくなる。だからこそ、四聖勇者は協力しなければならない」
「どういうことですか…?」
「四聖同士で争ってはいけない……それでは、滅びゆく世界を救うことなどできない」
……フィトリアの言葉は真剣で、オレ達を騙す意思なんて微塵も感じない。
ていうか、どういうことだ?
勇者が欠けたら……なんか起こるのか? 不利になるって……どういう事だ?
まるでわかんねぇけど……でも、放っといちゃいけない問題だと思えてきた。
「オレも正直さ、この子の言う通りだと思うんだわ。連中が後先考えないバカばっかりだってのはわかってるけどよ……向こうが頭下げんのを待つのは、効率的じゃないと思うんだ」
「私も……避けては通れない道だと思います」
便乗……って言ったら言い方が悪いけど、オレもナオフミの説得に協力する。
ラフタリアちゃんも乗ってくれたけど……ナオフミは依然として、厳しい表情のままだった。
「…それができたら苦労はしない」
「だがよ、ナオフミ……」
「お前だって見ただろ。元康のやつが、俺の話も、あんなに口説いてたお前らの話だってまともに聞こうとしなかったのを」
「そりゃあ…まぁ、そうだけどよ」
ふっつーに、ナオフミのこと敵だって断言してたもんな、槍の勇者様。
他二人は若干疑ってたみたいだけど……ぶっちゃけ五十歩百歩というか、どんぐりの背比べというか。
ほぼ何も考えずに、国の言うこと信じてたからな、あいつら。
「待つも何も、悪いのは全部向こうだ。なんで俺の方から歩み寄らなければならない」
「ナオフミ様……」
だがこいつもこいつで頑固なんだよなぁ……人間不信も大概にしろよ。
すると……だ。
オレ達を見つめていたフィトリアから、なんかゾッ…と、冷たい氷でできた刃を突き付けられたような感覚を覚えた。
「……そう、なら仕方ない」
思わず黙り込むオレ達を、フィトリアはじっと見つめる。
すると急に、視線をオレの方に向けてきた……って、いきなりなんだよおい。
「……盾の勇者の仲間にも言いたいことがある」
「な、何だ? オレになんか用か?」
さ、さっきの寒気の所為か、ちょっと声が震える。
がんばれオレ、負けるなオレ。見た目幼女のこんな奴に気圧されるな、オレ!
そんなオレの奮闘をまるっと無視し……フィトリアはオレの胸元を指差してきた。
「今持ってるそれは捨てたほうがいい。使い方を誤れば、その身を滅ぼす」
「…鼻がきくのね」
……何で気づいたんだ?
なんか臭いか、気配でも放ってるのか? 後で調べておくか。
促されるままに、オレは懐から一本のフルボトルを……真っ黒に染まった、異様な雰囲気を醸し出すそれを取り出した。
「……何だそれ」
「お前の憤怒の炎を採取したボトル。そしたらこんなんができた」
「はぁ!? まさかあの時に…!?」
オレが説明すると、ナオフミが目を吊り上げてオレを睨んできた。
ラフタリアちゃんも、オレに心底呆れた目を向けてきてるし……いや、何か見てて気になっちゃってさ。
今後いつ採集できるかわかんなかったし、やっといて損はないじゃん?
二人から睨まれるオレに、フィトリアまで厳しい視線を向けてきやがる……泣くぞ? そんなにいっぺんに責められたら、オレだって泣くぞ?
「それは呪いの武器と同じ……敵にも味方にも害をなす諸刃の剣。使えば、自分の身も滅ぼすことになる」
「ナオフミの超パワーアップ見て、役に立つかなーって…」
「……お前な」
「なんて危険な事を……」
「けどさ、リスクを背負わなきゃ、障害を超えることなんてできねぇだろ」
ナオフミに言ってることと一緒!
ほんとに信じてくれるか……あの勇者共に懸けるってのも、必要になるだろ?
オレがそう言ってみせると、フィトリアはまた大きくため息をついた。
かと思ったら、オレに掌を向けて、何か光を浴びせてきた……って、何するんだこの野郎!?
慌てるオレだけど、光はオレを無視して懐に……何個も入れておいたフルボトルの一本に入り込んできた。
「お? おおお!? ちょっ…何だこれ!?」
「少しだけフィトリアの力を分けた。使うならそっちの方がいい」
「お、おお……ありがとう?」
白く変色したフルボトルを掲げて、オレは気の抜けた返事をする。
え? これを……どうしろと?
ただでさえ、あっちの黒い方を持て余してんのに? これをどう使えと?
呆気にとられるオレをほったらかしにして、フィトリアちゃんたら立ち上がってさっさとどっかに歩き出しちまった。
「今夜はゆっくり休むといい……じゃあ、おやすみ」
「お、おう…」
……なんつーか、マイペース?
いや、人とは考えが違うからだろうか、言うだけ言って行っちまった。
だがそれ以上に……あいつが残した警告、それと同時に放っていた寒々しい気配が、オレ達を動けなくさせていた。
「…いま、なんか殺気を感じなかったか?」
「ああ……確かに感じた」
「あれほど濃密なものは、初めて受けました……」
全員、オレと同じ気持ちだったらしい。
助かった……なんて浮かれてたら、王国の追手なんて目じゃないくらいヤバい敵が現れた感じだな。
「ずっと味方でいてくれると思うのは……ちょっと早計かもしれねぇな」
……ちょっとばかし、こいつを手掛けておこうか。
焼け石に水、なんてことにならなきゃいいけど。