Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜 作:春風駘蕩
Side:Raphtalia
長かった夜が明け……朝が来ました。
頼もしい方に守られて眠りに就いたおかげか、随分と体が軽くなった気がします。
ですが、もうそろそろ出発しなければなりませんね。
そう思い、ナオフミ様の方を見ると……たくさんのフィロリアルさん達に埋もれている姿が目に入りました。
「暑い! なんなんだお前らは、散れ散れ!!」
ナオフミ様が怒号を上げ、フィロリアルさん達が走り去っていきます。
前々から思っていましたが、ナオフミ様の生き物に好かれる性質は、最早能力の域に達していますね……。
「おはようございます、ナオフミ様……懐かれてしまいましたね」
「餌付けしただけでこれか……まったく」
フィロリアルの羽毛に埋もれるのは、相当暑苦しかったようです。
……夜や寒い日は、きっと気持ちいいと思うんですけどね?
ふと、声の聞こえる方へ目を向けると、メルティさんとフィトリアさんが、何やら楽しげに話している姿を見つけました。
そして、それを詰まらなそうに見つめるフィーロの姿も。
「…むー」
メルティさんを取られてしまったと、不貞腐れているんですね。
気持ちはわかりますよ……というか、それはつい最近まであなたが私にしていた事ですよ?
あの二人を見て、何をしたのかしっかり学んでください。
「ふへ…ふへへへ……で、できたぜぇ…!」
あら…?
繁みの向こうから、ヘロヘロのセントさんが現れて……って、なんですかその顔色の悪さは!?
前に一回見た覚えがありますよ!?
あれは確か……ビルドフォン?という道具を作った次の日の姿です!
「うおっ……お前また徹夜したのか? 目の下の隈すごいぞ」
「へ、へへ…フィトリアにもらっらひからをしゃっしゃとかちゅようしてゃくれよ…」
「お前はもう寝ろ!!」
ああ、もう…!
呂律も回らなくなっているじゃないですか……これからまた逃げるというのに、こんな状態で大丈夫なんでしょうか。
「そろそろ行くぞ。転移した分、向こうの追跡もだいぶ撹乱できただろうし、逃げる絶好のチャンスだ」
「そうですね、準備をしましょう」
最悪、セントさんは担ぐか引き摺っていきましょう。
出発すると言ってあるのに徹夜をしたんですから、自業自得というものです。
……それにしても、何故でしょうか? 一人、誰か足りていないような……あ。
リュウガさん、どこにいるんでしょうか?
「セント、リュウガ起こしてこい。あのバカまだ寝てやがる」
「うぃーす」
「もう行っちゃうのね……」
「惜しがるな、フィロリアルオタクが!」
悲しげに目を伏せるメルティさんに、フィーロがますます頬を膨らませます。
夢にまで見た場所にやっと来れて、浮かれるのはわかりますが……今は非常時です。また来れる時を楽しみにしましょう。
すると、準備をしていた私達の元へ、フィトリアさんが近づいてきました。
「……盾の勇者にもう一度聞きたい。他の勇者に歩み寄る気は、本当にないの?」
「ない! しつこいぞ、向こうにその気がないんだから無理に決まってるだろう!」
「そう……わかった」
落胆したように、フィトリアさんがため息をつきます。
……この方とは、もう少し詳しく話をしておきたかったですが、今は余裕がありませんからね。
この方のお願いも、聞き届けてあげたかったですが……。
そう、申し訳なさを抱いたその瞬間でした。
「じゃあ盾の勇者には……ここで死んでもらう」
スッ…と、伏せていた目を上げたフィトリアさんから。
凄まじい重さの殺気が放たれました。
Side:Ryuga
ドカンッ!!
と……どこかから物凄い爆音が響き渡ってくる。
それを聞いたオレは、思わずびくっと身体を跳ねさせ、一気に目を覚まさせられた。
「んがっ!? なっ、何だぁ!?」
あれ? もう朝か?
ヤッベ! 逃げなきゃいけねぇのに、思いっきり寝過ごしちまった!
ナオフミは!? あいつらはもう行っちまったのか!?
いや、それよりさっきの爆音は何なんだ!?
オレは慌てて、爆音がした方に走り出す。
するとやがて、開けた場所に集まっていたナオフミ達の元に辿り着く。
何やってんだ、こいつら…?
「おい! 何だよこの騒ぎは!?」
「やっと起きたのかよ筋肉バカ!!」
「何を呑気に寝てるんですか、あなたは!!」
「朝っぱらから罵倒の連続かよ!?」
いや、確かにオレが悪いけど!
何も全員でそんな怒らなくたっていいじゃねぇか!
泣くぞ! 思っきり泣くぞ!? この場で!
ってか……そんな場合じゃなさそうだな。
「なっ……なんだよこの有様は」
森は、何かとんでもない状況になってた。
フィーロとフィトリアがなんか殴り合ってる……いや、フィーロが一方的に弄ばれてるし、メルティが風の檻に囚われてるし。
オレが寝てる間に何が起こったんだよ、これ!?
「セント! わかりやすいように三行で頼む!」
「前回までに起きた3つの出来事! 1つ! フィトリアがナオフミに他の勇者と和解しろって要求してきた! 2つ! ムリと拒否したら殺すと言ってきた! 3つ! それが嫌ならフィーロに実力を示させろと言ってきた!」
「わかんねぇよ!!」
「そうしなきゃメルティを解放してくれねぇんだよ…!」
「マジかよ…」
何だそれ!?
そういや、昨日の夜にあいつ、ナオフミと一緒になんか話してたな……それがあれか。
つーか……あいつらと和解って無茶言うなよ。
少なくとも、あのバカ女がいる限り無理だろ。あいつ絶対邪魔してくるぞ。
…ん?
ナオフミがこっそり……風で捕らわれてるメルティのところに行こうとしてる?
「おいナオフミ、どこに!?」
「あんなのに付き合ってられるか…! メルティを取り戻してくる」
おぉ……フィーロとフィトリアのバトルが白熱してるあいだに、こっそり助け出す気か。
確かに、あの程度の檻なら今の俺の力でも破れるかもしれねぇな……よし、じゃあオレも一緒についていって―――
「ズルはダメ」
その瞬間、オレとナオフミはいつの間にか、まとめて空中に吹っ飛ばされていた。
……は?
え、いや……え?
「がはっ!?」「ぐあっ!!」
地面に背中から叩きつけられる感覚で、ようやくオレ達は我に返る。
な…え? な、何が起こっ……っでぇえ!?
は…腹!?
腹……切り裂かれた!? いつ!? 誰に!?
「ナオフミ様!」
「おいおい……あいつ本気でオレ達を殺す気なのかよ」
ぼ、防御力が凄まじいナオフミの腹にも、傷が……!
じゃ、じゃあ……フィトリアがさっきの攻撃を!?
その気になれば……いつでも殺せるってのか。
くっそ……逃げるのも無理、だったらもう……方法は一つしかねぇじゃねぇか!!
「フィーロ! 力任せじゃダメだ! やるならもっと鋭く、速くだ!!」
「え、何!? 何!?」
オレは腹の痛みに耐えながら、フィーロに向かって叫ぶ。
意識を逸らすな! 集中しろバカ!
こっちから手助けできねぇんなら、フィーロが勝つしか生き残る方法がないんなら、こうして戦い方を教える他にないだろうが!!
「足で地面を掴め! 体はもっと前に! 拳は固く、さらに前へと突き出せ!!」
「え!? え!? え!?」
いつもオレがやってる戦法を叫ぶけど、フィーロの奴、全く理解してねぇ。
こうしてわかりやすく教えてやってんだろうが! 本能のままに戦うなっつってんだろ!
ああもう!
焦れってぇな、オイ!!
「友達助けたいなら気張れ!! てめぇの全力で……メルティを取り戻してみせろ!!」
「――たぁあああああああ!!!」
オレのその一言で、フィーロの奴覚悟を決めたらしい。
そして考えるより先に、体で覚えたらしい……さっきよりも、全身に力が籠もった踏み込みで突進し、フィトリアに迫る。
前に構えた両手から、鋭く伸びた魔力の爪が突き出され、フィトリアの胸に迫る―――!
だが、その一撃は軽く躱され……薄く頬を切り裂くだけに終わってしまった…!
くっ…! やっぱ付け焼刃じゃだめなのかよ…!
どうする……このままじゃ、この化け物に殺されちまう…!
「……合格、ってことにしてあげる」
……あ?
何だ? 今、ものすげぇ聞き捨てならない一言訊いた気がするぞ?
フィトリアを見ると……さっきの殺気がまるで感じられない。
ていうか、むしろフィーロに微笑ましげな、満足げな笑みを浮かべて……って、おいちょっと待てやコラ。
「ご……合格ぅ!?」
「まさか…」
いやいやいや、嘘だろマジか。
あんだけビビらせといて、そりゃないだろフィトリアこの野郎。
だが……やっぱオレ達が思った通りだったらしい。
「フィーロを…私達を試していたんですね!」
「…手加減したフィトリアに負けるようなら、この先の戦いは生き残れない。これは、その篩」
演技……だったって事か?
フィーロに戦い方を……力任せじゃない、頭を使った戦法を使わせるための。
そのために……オレ達、こんな大ケガまで負わされたのか?
「ざっけんなよコラァ!!」
「じゃあ、本気で私たちを殺すつもりはなかったのね? よかったぁ……」
「…メルたんには悪い事をした」
「メルたん!?」
「話を聞けコラァ!! 無視すんじゃねぇ!!」
こんなっ……こんな痛い思いして、嘘ぉ!?
マジで許さねぇぞフィトリアこんちくしょう!!
オレのそんな怒りの言葉を丸々無視して……フィトリアは、ナオフミに向き直って、口を開いた。
「…盾の勇者と話がある。2人だけにしてほしい」
「……お前、本気で俺らを殺す気だったろ」
森の奥に入り、二人きりになったナオフミとフィトリアの会にを、オレとセントが聞き耳を立てる。
そこで聞こえてきた内容に、オレ達は思わず息を呑んだ。
「最後以外は。フィトリアが手加減してまだダメなら、もう見込みはないと判断してた」
「……えげつねぇ」
マジかよ……やっぱあれ本気だったのか?
じゃあ、フィーロが敗けてたら、オレ達皆殺しにされてたのか?
「……やべぇ、オレってば今更足震えてきた」
「……オレも」
伝説のフィロリアル……こっわ。
内面もフィーロと似たようなもんかと思ってたら、比べ物にならねぇぐらいこっわいんだけど。
オレ達……よく生きてたな。
オレ達が絶句してるあいだも、ナオフミとフィトリアの話は続いていた。
勇者とフィロリアルのこと、フィトリアの戦う理由、ナミから現れる敵のこと、そして……いずれ勇者に訪れる役目の事。
ぶっちゃけわかったことはほとんどないが……覚えておかなきゃならない事を、わんさか教えられた。
……そういやあいつ、むちゃくちゃ長生きなんだっけ。
たった一人で……いろんなところで戦い続けてたんだな。
「…流石は年の功ってところか。ついて来てよかったぜ」
「ああ、そうだな…」
セントの呟きに、オレは若干渋い顔で頷く。
ぶっちゃけ、オレ達やってんのただのストーキングと覗きなんだよな……いや、いや! 考えたら負けだ!
「…なぜお前は、そこまで俺にこだわる。なぜ…俺にそこまで信頼を寄せられる?
「フィーロをあそこまで育てた勇者が、悪人とは思わない」
「…俺は悪人だ」
ナオフミのいつもの憎まれ口に、フィトリアは首を横に振る。
あいつにもわかってんだろうな……ナオフミの心の傷も、その奥にある、むちゃくちゃ優しい心も。
……できれば、その傷はオレ達でどうにかしてやりたいんだがな。
「盾の勇者がなんと言ったって、その役目を果たしてる。だから信じてる……信じさせてほしい」
そう言ってフィトリアは―――数百年孤独に戦う女王は、ナオフミの肩に凭れ掛かる。
その目尻に見えた涙に……オレもセントも、何も言えない。
ナオフミ達が無言で佇むその姿から……オレ達もまた、無言で目を背けた。
…ったく、重てぇ役目、引き受けちまったなぁ。