Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜 作:春風駘蕩
Side:Sento
「やー! なんかへんなの生えたー!」
ぴょこん、と頭の上から飛び出した毛、いわゆるアホ毛を見上げてフィーロちゃんが嘆きの声を上げる。
よっぽど嫌だったのか、それをブチッと引き千切る始末。
が、ちぎった傍から新しいのが生えていた。
「うわーんごしゅじんさまー!」
「ステータスは上がってるんだ。喜んどけ」
泣き叫ぶフィーロちゃんに、ナオフミはそう言って全く取り合わない。
うん……あれが俺に生えてたら、確かに嫌だわ。
マジで同情する。
「フィーロちゃん可愛いよ」
「えー…?」
「え、えっと…そうですね…?」
「…ノーコメントで」
ラフタリアちゃんや、優しい言葉は時に残酷に人の心を傷つけるよ。
リュウガ、気を遣うんなら何も言うな。
それを与えたフィトリア的には、多分善意のつもりなんだろうけどなぁ……でもあれ、年月経つと増えるらしいしなぁ。
「フィトリアは、ほかの四聖勇者の近くに送るつもり」
「……本気であいつらと和解させる気なんだな」
「そう約束したでしょ?」
フィトリアの問いに、ナオフミは無茶苦茶渋い顔になる。
しばらく黙り込んでいやあいつは……やがて、ふっかいため息をついて、がしがしと髪を掻きむしった。
「わかった…! 善処する」
ナオフミがそう答えると、フィトリアは小さく頷いた。
そして、前にも見たあの馬車の扉が開いて、眩しい光が迸りだす。
さて……覚悟、決めなきゃならないな。
「ありがとうございました、フィトリアさん」
「本当にありがとう…!」
「うん……盾の勇者と仲間達の健闘を祈っている」
最後にみんなで並んで、フィトリアと対峙する。
いろいろあったけど……助けてくれたこいつには、感謝しかない。
礼を言うと、フィトリアは少しだけ、表情を綻ばせた。
おっと……初めてかもな。
こいつの笑顔を見たのは……。
光が収まると、オレ達は森の中に立っていた。
木々の先にチラッと……門と壁らしき人工物が立っているのが見える。関所だな、あれ。
「うーわ、本当に敵と目と鼻の先だよ」
「関所か……なるほど、そりゃ勇者の誰かは確実にいるよな」
うっわ……兵士がぞろぞろいやがる。
あれ、のこのこ出てったら即囲まれて、問答無用で取っ捕まるやつだよな。
「どうする? 突っ込むか?」
「……いや、その必要はなさそうだ」
ん?
よくよく見ると……見覚えのある、ごっつい槍を持ってる男がいる。
あの長い金髪と、やたら高そうな鎧は……。
「あれは……槍の勇者か!」
「都合よく、向こうも待っていたようだな……前までなら鬱陶しいほかなかったが、今はむしろちょうどいい」
おいおい……よりによって一番話聞かなそうなあいつかよ。剣とか弓とかの方がましだぞ。
だがまぁ……行くしかないわなぁ。
全員で覚悟を決めて、オレ達は関所の方へと進んでいく。
「た、盾だ!」
「盾の勇者が現れたぞ!」
すると即座に、関所にいた兵士達が集まってくる。
槍を突きつけて囲んでくるけど、それ以上近付いては来ない。
これはあれか、前の大暴れが効いてる感じか。
よし、じゃあこれで兵士達が邪魔に入る事は無いな……さて、話し合いを始めるとしようか。
「おい元康! こっちに戦闘の意思はない! 話し合いに応じてやるからお前もそうしろ!」
「どんな切り出し!?」
って、おいこらナオフミ!?
いきなり何でそんなケンカ腰!? 話し合いになってないじゃん!
ほらァ……リュウガも呆れてるし、ラフタリアちゃんもメルティも額に手ぇ当ててるしぃ!
「お前さぁ…もうちょっと言い方ってもんを考えようぜ」
「あいつにはこんなもんでいいだろ。……メルティはここにいる! 何もしちゃいない! 無駄な争いを止めるために俺達はここに来たんだ、お前も槍を引け!」
ああ……もうダメだコレ、こういうスタンスが根付いちゃってる。
……っていうか、さっきからずっと槍の勇者が静かだな。
何だ? ずっと黙ったままって言うか……
殺気を感じるんだが?
「樹と錬はどうした!? お前と一緒じゃないのか!?」
「……したくせに」
「あ? なんだって?」
ぼそり、と槍の勇者の呟きに、思わず聞き返すナオフミ。
その直後のことだった。
槍の勇者が突如、槍の聖武器を振りかざし、ナオフミに向かって突進してきたのは。
「お前が殺したんだろうが…! 盾の悪魔ナオフミ!!」
ガキン!と、咄嗟にナオフミが構えた盾が、槍に衝突する。
同時に、ハッと我に返ったオレ達が構える。
いきなり何してんだこいつは!?
ていうかなんつった今!? だ……誰と誰を何したって!?
「お前……いきなり何を言っている!? 俺が誰を殺したって!?」
「とぼけるな! 二人の仇は……俺が取る!!」
「待て……落ち着けバカ!!」
ギリギリと、槍の刃を押し込んでいく槍の勇者。
その気迫は、本気でナオフミのことを殺そうとしているのがまるわかりな、凄まじい圧だった。
「どらぁ!!」
横から割り込んだリュウガが殴り飛ばして、何とかナオフミから引き離す事ができた。
だが、それが奴の怒りの火に油を注いだらしい……ものすごい目でナオフミを睨みつけてくる。
「ていうか待てよ、おい…! 他の勇者が死んだって、本当なのか…!?」
「お前がやったことだろ! 影とかいう連中から得た、確かな情報だ!」
影……って、あいつと同じ連中が?
女王の味方じゃないのか!?
ってか、それは今はどうでもいい…!
やばいやばいやばいだろ…! どうすんだよ、勇者が一人でも欠けたら、波がもっと酷い事になるって!
これじゃ、フィトリアが言ってた通りになっちまうじゃねぇか!?
「俺が甘かった…! 同じ地球の日本人と見誤って……お前の暴挙を許した! 情けなんてかけなければ、あいつらを死なせずに済んだのに!」
「お、おいおい待てって! 話を聞け! そんなことオレ達はしてない! とんでもない誤解だ!」
やっべ、槍の勇者の圧に押されてた。
我に返ったオレも、すぐにナオフミの弁護に入る。
こいつが何をどう吹き込まれたのかは知らないけど、これ以上冤罪ふっかけられてたまるか!
つーかこのやり取り自体、マジでめんどくさい!
「こちとら冤罪だっつって逃げてたのに、なんだってそんな自分で罪を重ねるような真似するんだよ! 少し考えたらわかるだろ!」
「…そう言わされてるんだろ、セントちゃん」
オレがそう叫ぶけど、何故か槍の勇者はもっと険しい表情になる。
あ、これ駄目だ。
この野郎、話聞いてる風で聞いてない。完全にナオフミが悪だと信じ切った上でここに来てやがる。
こいつマジでめんどくせー!!
「思えば最初にあった時からおかしいと思ってた……あんなに汚い言葉で俺を拒絶するなんて、考えられない!」
「いや、それはお前がマジでキモかったからで……」
「ナオフミに洗脳されて、そこまで至ってしまったんだろう!? 君達は!!」
ちくしょう、ぽろっとこぼれた本気の罵倒も届いてねぇ!
この野郎……自分が嫌われてる可能性とかまるで考えてないのか? モテ男はこれだからよ。
ていうか口が悪くて悪かったな!
気づいたらこんなんなってたんだよ大バカ野郎!!
「……ここまでくると怒る気にもなれませんよ」
「ねぇ、あの人もしかして耳に病気でも患ってるの?」
「いや、ただのバカだろ」
「ぶー!」
おおぅ、オレが言うのもなんだけど散々言うね君達。気持ちはわかるけど。
出会ってからずっと同じ感じだもんな……本人に悪気はなくても、どうしても好きになれねーんだよ。
まぁ、こいつ一人が悪いわけじゃないけどさ!
具体的にはいっつも一緒にいるあの女とか!
「お気をつけください、元康様……盾の勇者の洗脳の力は危険極まりないもの」
とか、オレが内心で罵ってたら、現れやがったよあの女が……。
ナオフミを嵌めて、行く先々でオレ達の邪魔をして、色んな方面で好き勝手やらかしてる最低最悪のビッチ!
「一刻も早く始末しませんといけませんわ」
「テメェ…余計なデマぶっこいてんじゃねぇぞ!」
「あらあら、汚らしい言葉……盾の悪魔はこんな可憐な少女を、こうも豹変させてしまうのですわね」
ふんっとリュウガを見て鼻で笑い、元康にしなだれかかるクソ女ことマルティ。
大方、この女が槍の勇者にあることないこと吹き込んで、良いように操ってたんだろうけどな!
ていうか、この事件の黒幕もこいつなんじゃねーかと思ってしまう。
そんぐらいこいつ、頭も腹ん中も真っ黒なんだよな……。
「さぁ、元康様……あの娘達を今度こそ悪魔の手から救い出しましょう?」
「ああ…! 俺が、俺が二人の分まで戦う…! そしてナオフミ……お前を倒し、彼女達を救い出してみせる!!」
うっわー……ほんっと簡単に言うこと聞くなこの男。
見る目ないっつーか、ほんとに頭脳みそ入ってんのか、とか聞きたくなるような。
……なんかもう、腹立ってきた。
こちとらよ? 無実の罪着せられて、国中逃げ回って、やばい魔物と戦わされて、もっとやばい奴に脅されて、むちゃくちゃ苦労してんのよ。
それを……こっちが歩み寄ろうとしてんのにこいつらは!
何もかんもむちゃくちゃにしてくれやがって!!
「ああああああもう!!」
「この……どうしようもない道化が!!」
怒りのままに、戦闘態勢に入るオレ達。
こうなったら、力の限り暴れてぶっ潰して、無理矢理にでもいうこと聞かせたらぁ!!
その時のオレ達は、気付いていなかった。
関所に集まっていたはずの兵士達が……いつの間にか一人もいなくなっていたことに。