Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜   作:春風駘蕩

54 / 97
盾と槍、再び

Side:Sento

 

「やー! なんかへんなの生えたー!」

 

 ぴょこん、と頭の上から飛び出した毛、いわゆるアホ毛を見上げてフィーロちゃんが嘆きの声を上げる。

 

 よっぽど嫌だったのか、それをブチッと引き千切る始末。

 が、ちぎった傍から新しいのが生えていた。

 

「うわーんごしゅじんさまー!」

「ステータスは上がってるんだ。喜んどけ」

 

 泣き叫ぶフィーロちゃんに、ナオフミはそう言って全く取り合わない。

 うん……あれが俺に生えてたら、確かに嫌だわ。

 

 マジで同情する。

 

「フィーロちゃん可愛いよ」

「えー…?」

「え、えっと…そうですね…?」

「…ノーコメントで」

 

 ラフタリアちゃんや、優しい言葉は時に残酷に人の心を傷つけるよ。

 リュウガ、気を遣うんなら何も言うな。

 

 それを与えたフィトリア的には、多分善意のつもりなんだろうけどなぁ……でもあれ、年月経つと増えるらしいしなぁ。

 

「フィトリアは、ほかの四聖勇者の近くに送るつもり」

「……本気であいつらと和解させる気なんだな」

「そう約束したでしょ?」

 

 フィトリアの問いに、ナオフミは無茶苦茶渋い顔になる。

 しばらく黙り込んでいやあいつは……やがて、ふっかいため息をついて、がしがしと髪を掻きむしった。

 

「わかった…! 善処する」

 

 ナオフミがそう答えると、フィトリアは小さく頷いた。

 そして、前にも見たあの馬車の扉が開いて、眩しい光が迸りだす。

 

 さて……覚悟、決めなきゃならないな。

 

「ありがとうございました、フィトリアさん」

「本当にありがとう…!」

「うん……盾の勇者と仲間達の健闘を祈っている」

 

 最後にみんなで並んで、フィトリアと対峙する。

 いろいろあったけど……助けてくれたこいつには、感謝しかない。

 

 礼を言うと、フィトリアは少しだけ、表情を綻ばせた。

 おっと……初めてかもな。

 こいつの笑顔を見たのは……。

 

 

 光が収まると、オレ達は森の中に立っていた。

 木々の先にチラッと……門と壁らしき人工物が立っているのが見える。関所だな、あれ。

 

「うーわ、本当に敵と目と鼻の先だよ」

「関所か……なるほど、そりゃ勇者の誰かは確実にいるよな」

 

 うっわ……兵士がぞろぞろいやがる。

 あれ、のこのこ出てったら即囲まれて、問答無用で取っ捕まるやつだよな。

 

「どうする? 突っ込むか?」

「……いや、その必要はなさそうだ」

 

 ん?

 よくよく見ると……見覚えのある、ごっつい槍を持ってる男がいる。

 あの長い金髪と、やたら高そうな鎧は……。

 

「あれは……槍の勇者か!」

「都合よく、向こうも待っていたようだな……前までなら鬱陶しいほかなかったが、今はむしろちょうどいい」

 

 おいおい……よりによって一番話聞かなそうなあいつかよ。剣とか弓とかの方がましだぞ。

 

 だがまぁ……行くしかないわなぁ。

 全員で覚悟を決めて、オレ達は関所の方へと進んでいく。

 

「た、盾だ!」

「盾の勇者が現れたぞ!」

 

 すると即座に、関所にいた兵士達が集まってくる。

 槍を突きつけて囲んでくるけど、それ以上近付いては来ない。

 

 これはあれか、前の大暴れが効いてる感じか。

 よし、じゃあこれで兵士達が邪魔に入る事は無いな……さて、話し合いを始めるとしようか。

 

「おい元康! こっちに戦闘の意思はない! 話し合いに応じてやるからお前もそうしろ!」

「どんな切り出し!?」

 

 って、おいこらナオフミ!?

 いきなり何でそんなケンカ腰!? 話し合いになってないじゃん!

 

 ほらァ……リュウガも呆れてるし、ラフタリアちゃんもメルティも額に手ぇ当ててるしぃ!

 

「お前さぁ…もうちょっと言い方ってもんを考えようぜ」

「あいつにはこんなもんでいいだろ。……メルティはここにいる! 何もしちゃいない! 無駄な争いを止めるために俺達はここに来たんだ、お前も槍を引け!」

 

 ああ……もうダメだコレ、こういうスタンスが根付いちゃってる。

 

 ……っていうか、さっきからずっと槍の勇者が静かだな。

 何だ? ずっと黙ったままって言うか……

 

 

 殺気を感じるんだが?

 

 

「樹と錬はどうした!? お前と一緒じゃないのか!?」

「……したくせに」

「あ? なんだって?」

 

 ぼそり、と槍の勇者の呟きに、思わず聞き返すナオフミ。

 その直後のことだった。

 

 槍の勇者が突如、槍の聖武器を振りかざし、ナオフミに向かって突進してきたのは。

 

「お前が殺したんだろうが…! 盾の悪魔ナオフミ!!」

 

 ガキン!と、咄嗟にナオフミが構えた盾が、槍に衝突する。

 同時に、ハッと我に返ったオレ達が構える。

 

 いきなり何してんだこいつは!?

 ていうかなんつった今!? だ……誰と誰を何したって!?

 

「お前……いきなり何を言っている!? 俺が誰を殺したって!?」

「とぼけるな! 二人の仇は……俺が取る!!」

「待て……落ち着けバカ!!」

 

 ギリギリと、槍の刃を押し込んでいく槍の勇者。

 その気迫は、本気でナオフミのことを殺そうとしているのがまるわかりな、凄まじい圧だった。

 

「どらぁ!!」

 

 横から割り込んだリュウガが殴り飛ばして、何とかナオフミから引き離す事ができた。

 だが、それが奴の怒りの火に油を注いだらしい……ものすごい目でナオフミを睨みつけてくる。

 

「ていうか待てよ、おい…! 他の勇者が死んだって、本当なのか…!?」

「お前がやったことだろ! 影とかいう連中から得た、確かな情報だ!」

 

 影……って、あいつと同じ連中が?

 女王の味方じゃないのか!?

 

 ってか、それは今はどうでもいい…!

 やばいやばいやばいだろ…! どうすんだよ、勇者が一人でも欠けたら、波がもっと酷い事になるって!

 これじゃ、フィトリアが言ってた通りになっちまうじゃねぇか!?

 

「俺が甘かった…! 同じ地球の日本人と見誤って……お前の暴挙を許した! 情けなんてかけなければ、あいつらを死なせずに済んだのに!」

「お、おいおい待てって! 話を聞け! そんなことオレ達はしてない! とんでもない誤解だ!」

 

 やっべ、槍の勇者の圧に押されてた。

 我に返ったオレも、すぐにナオフミの弁護に入る。

 

 こいつが何をどう吹き込まれたのかは知らないけど、これ以上冤罪ふっかけられてたまるか!

 つーかこのやり取り自体、マジでめんどくさい!

 

「こちとら冤罪だっつって逃げてたのに、なんだってそんな自分で罪を重ねるような真似するんだよ! 少し考えたらわかるだろ!」

「…そう言わされてるんだろ、セントちゃん」

 

 オレがそう叫ぶけど、何故か槍の勇者はもっと険しい表情になる。

 

 あ、これ駄目だ。

 この野郎、話聞いてる風で聞いてない。完全にナオフミが悪だと信じ切った上でここに来てやがる。

 

 こいつマジでめんどくせー!!

 

「思えば最初にあった時からおかしいと思ってた……あんなに汚い言葉で俺を拒絶するなんて、考えられない!」

「いや、それはお前がマジでキモかったからで……」

「ナオフミに洗脳されて、そこまで至ってしまったんだろう!? 君達は!!」

 

 ちくしょう、ぽろっとこぼれた本気の罵倒も届いてねぇ!

 この野郎……自分が嫌われてる可能性とかまるで考えてないのか? モテ男はこれだからよ。

 

 ていうか口が悪くて悪かったな!

 気づいたらこんなんなってたんだよ大バカ野郎!!

 

「……ここまでくると怒る気にもなれませんよ」

「ねぇ、あの人もしかして耳に病気でも患ってるの?」

「いや、ただのバカだろ」

「ぶー!」

 

 おおぅ、オレが言うのもなんだけど散々言うね君達。気持ちはわかるけど。

 出会ってからずっと同じ感じだもんな……本人に悪気はなくても、どうしても好きになれねーんだよ。

 

 まぁ、こいつ一人が悪いわけじゃないけどさ!

 具体的にはいっつも一緒にいるあの女とか!

 

「お気をつけください、元康様……盾の勇者の洗脳の力は危険極まりないもの」

 

 とか、オレが内心で罵ってたら、現れやがったよあの女が……。

 ナオフミを嵌めて、行く先々でオレ達の邪魔をして、色んな方面で好き勝手やらかしてる最低最悪のビッチ!

 

「一刻も早く始末しませんといけませんわ」

「テメェ…余計なデマぶっこいてんじゃねぇぞ!」

「あらあら、汚らしい言葉……盾の悪魔はこんな可憐な少女を、こうも豹変させてしまうのですわね」

 

 ふんっとリュウガを見て鼻で笑い、元康にしなだれかかるクソ女ことマルティ。

 

 大方、この女が槍の勇者にあることないこと吹き込んで、良いように操ってたんだろうけどな!

 ていうか、この事件の黒幕もこいつなんじゃねーかと思ってしまう。

 そんぐらいこいつ、頭も腹ん中も真っ黒なんだよな……。

 

「さぁ、元康様……あの娘達を今度こそ悪魔の手から救い出しましょう?」

「ああ…! 俺が、俺が二人の分まで戦う…! そしてナオフミ……お前を倒し、彼女達を救い出してみせる!!」

 

 うっわー……ほんっと簡単に言うこと聞くなこの男。

 見る目ないっつーか、ほんとに頭脳みそ入ってんのか、とか聞きたくなるような。

 

 ……なんかもう、腹立ってきた。

 こちとらよ? 無実の罪着せられて、国中逃げ回って、やばい魔物と戦わされて、もっとやばい奴に脅されて、むちゃくちゃ苦労してんのよ。

 

 それを……こっちが歩み寄ろうとしてんのにこいつらは!

 何もかんもむちゃくちゃにしてくれやがって!!

 

「ああああああもう!!」

「この……どうしようもない道化が!!」

 

 怒りのままに、戦闘態勢に入るオレ達。

 こうなったら、力の限り暴れてぶっ潰して、無理矢理にでもいうこと聞かせたらぁ!!

 

 

 

 その時のオレ達は、気付いていなかった。

 関所に集まっていたはずの兵士達が……いつの間にか一人もいなくなっていたことに。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。