Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜 作:春風駘蕩
Side:Naofumi
ドゴンッ!!
と……襲い掛かった衝撃を盾で受け止めた瞬間、俺の身体は思わず吹っ飛ばされそうになった。
何だ、あいつは今何をした!?
ただ武器を振っただけじゃないのか…!?
「なんっ……だぁ、この威力は!?」
俺の後ろに立つセントも、戦慄の目で教皇を見上げる。
その場にいた全員が、あり得ないくらい強力な攻撃を目の当たりにして、信じられない様子で突っ立っていた。
あんなジジイが、あんな攻撃をするなんて誰が思うよ…!
「あ、あれは……どうして!?」
ふと後ろを振り向くと、メルティが大きく目を見開いているのが見えた。
教皇の持っている武器を見て、固まっている…?
姉のビッチも似たような顔で同じ方を……いや、こいつは教皇を凝視していた。何に慄いてるんだ、お前は。
「おいメルティ、あれがなんなのか知ってるのか!?」
「…四聖勇者の武器の、模造品よ。勇者の力を再現しようとして、大昔に作られたって聞いてるわ。でも…」
「なんであいつらが持ってるか、ってわけか」
セントの呟きに、メルティは引きつった表情で頷く。
何だよそれ、あんな強力な武器があるなら、勇者なんて呼び出す必要ないだろうが!
あ? コストがかさむ?
一回使うのに膨大な魔力が必要になる? ……あ、そう。
「これぞ神の武器……代行者たる私が持つのにふさわしいもの、これがここにある理由は、それで全てですよ」
……いや、それ要するに盗んだって事だろ。
盗みだけじゃなく、神の武器で殺人まで平然と犯そうとしているわけか、この野郎は……。
「逃げ場は……ないわな」
「多分だけどよ、関所の連中全員、この展開を知ってたんだと思うぜ。だから気付いた時にゃ誰もいなかったんだ」
「綿密に計画された策だったってわけか……笑えねぇな、おい!」
くそっ…!
ビッチの顔を見る限り、こいつらも利用された感じだな。ざまーみやがれ。
いや…危ないのはこっちも同じだな。
「ナオフミ様…!」
「ああ、あんなものをもう一度食らったら、流石に一巻の終わりだ…!」
軽く振った衝撃だけで吹っ飛ばされかけたんだぞ…!?
奴が本気で攻撃を加えてきたら、次はどうなるか……もしかしたら真っ二つにされるかもしれん。
最初の攻撃でギリギリなのに、これ以上戦えるか…!
「くっ……そぉおおおおおおおお!! 許さない…許さないぞ教皇!」
絶望的な状況に、俺達が動けなくなっていた時だった。
槍の石突を地面に叩きつけ、突如元康が吠えだす。
危うく殺されかけて、俺と教皇を信じられない様子で交互に見つめていたかと思ったら、いきなり目を吊り上げて叫び出したんだ。
…何してんだ、お前。
恐怖と絶望でおかしくなったのか?
「錬も樹も! この国のために良かれと思って頑張ってきたんだ! それを役に立たないから処分しただと!? 俺達はお前達の道具じゃないぞ!!」
いや、その気持ちは汲もうとは思うが……結果が伴っていないから弁護は無理だぞ。
お前らの失敗の尻拭いをしたの、誰だと思ってんだ?
おい、見ろ。ラフタリア達の眼がえげつないくらいに冷たくなってるぞ。
「この国の膿はお前達の方だ! 浄化されるべきなのは、そんな身勝手なことをのたまうお前達の方だ!」
「覚悟しなさいあなた達…! 時期女王を騙したこと、後悔させてあげるわ!!」
槍を構える元康に合わせ、ビッチを先頭とした女共が構えだす。
こう、後ろから見た図は確かに勇者っぽいんだがな……圧倒的な力を持った強大な敵を前にしてもなお、逃げようとする姿を見せない敵な。
ただ……その前の俺達とのやり取りを考えると、滑稽にしか見えないんだよ。
「行くぞ、尚文!!」
しかもこいつ、何の臆面もなくそんなことをのたまいやがった。
今さっき本気で殺そうとした奴を、勝手に仲間扱いして、勝手に一緒に戦ってくれると認識して?
お前、マジでふざけてんのか…!?
そんな俺達の苛立ちも知らず、元康の奴は女共に援護を施されながら突っ込んでいく。
槍の聖武器のスキルに、女共の魔法が重なって……途轍もない勢いの炎と風の一撃が完成する。
「風炎の流星槍!!!」
喰らえばひとたまりもないであろう、凄まじい熱を放つそれが、教皇めがけて襲い掛かる。
だが……教皇は一切表情を変えることなく。
奴の後ろに控えた大勢の信徒共が、金色に輝く魔法を発動させた。
『『『力の根源たる私達の神が命ずる。心理を今一度読み解き、祝福されし者を守れ』』』
「高等集団浄化魔法『城壁』」
カッ!と、眩しい光の壁が生み出されたと思った直後。
それに触れた元康の一撃が、呆気なく跡形もなく消滅してしまった。
あの一撃が……あんなにあっさりと?
あいつら、どんだけ高等な魔法を用意してるんだよ…!
ていうか、本当にお前らが波と戦えばいいだろうが、ふざけるな!!
「うそ……だろ。あの大技を……あんなにあっさり」
「これぞ神の御技……あなた方がどれだけ奮闘したところで、どうにもできないのですよ」
力尽きたのか、がくりと膝をつく元康。
そんなあいつを嘲笑いながら、教皇は不気味に笑い、聖武器の模造品だという剣を―――槍に変えた!?
他の武器の力も使えるって事か!?
「では…死んでもらいましょうか」
「ナ、尚文! 助け―――」
神々しい光を放つ教皇の槍を前に、元康が振り向いてくる。
必死の顔で、懇願するような視線を向ける奴に、俺は。
「…で、オレがフラッシュ焚いて煙幕はるから…」
「その間にフィーロとバイクで一目散に、だな」
「煙の中から狙撃するのはどうですか?」
「それも採用しとくか」
「ついでに槍の勇者をぶん投げて囮にしとかねぇか?」
「フィーロ、それさんせい!」
まるっと無視し、ラフタリア達とさっさと逃走する作戦会議を行っていた。
奴等が勝手に騒いでるあいだに、大体の方針は決まったから丁度良かったな……あんなもんとまともに戦ってられるか。
「尚文! 何やってんだ! 一緒に戦おうって言っただろうが!」
「……お前、どんな神経があったらそんなこと言えるんだよ」
お前、俺のこと殺そうとしたよな。その事について一切何も言ってなかったよな。
面の皮が厚いにもほどがあるだろうが!
「攻撃が通らないんじゃ逃げたほうがいいだろ! あんなもんと真っ向から戦えるか!!」
「このまま奴を放って置くのか!?」
「どうにもできないから逃げるっつってんだよバカ!!」
お前の薄っぺらい正義感に俺達を巻き込むな!
お前の攻撃が効かないのに、俺に防御させたところで勝てるわけないだろうが!
嬲り殺しにされるだけだ、俺が!!
「仲間割れとは見苦しい……せめて一瞬で終わらせてあげましょう」
言い争う俺達に焦れたのか、それとも見苦しくなったのか、教皇が手に持つ槍の輝きをさらに強くしていく。
あれは……元康の攻撃の比じゃないぞ!
おそらくは……槍の聖武器が習得できる上位のスキル。そんなもん、受け止められるわけないだろうが!
「ぎゃー! お前が邪魔するから向こうの準備終わっちまってんじゃねーか!」
「くそっ…!」
セントが喚くのを横目に、俺は……意を決し、前に出る。
凶行が真っすぐ俺を標的にしているのを感じながら、全員が盾の防御の範囲に入るように、教皇の前に立ちはだかる。
「ナオフミ様!?」
「尚文!」
「お前ら…! 俺の後ろから出るんじゃないぞ!!」
正直、俺はここで死ぬかもしれない……。
元康たちはどうなろうと知った事じゃないが…しかし、せめてラフタリア達は守り通さなきゃならない!
…教皇のあの面、一発でもぶん殴ってやりたかったが、これじゃ仕方ない。
奴の口が小さく「さようなら…」と動くのを目に、俺は、死ぬ覚悟を決めようとした―――
「ハンドレッドソード!!」
「流星弓!!」
だが、教皇が一撃を放とうとしたその時。
無数の光の剣と、光の弓が降り注ぎ、教皇と信者共の方へと次々に炸裂していった。
今の攻撃は…! しかも、今の声は…!?
「バカな…! なぜあなた達がここに…!?」
「フン……どうした、亡霊でも見たような顔だな」
「僕達がここにいることが、そんなに不思議ですか?」
はっ! と振り向けば、教皇とは反対側から見下ろしてくる二人の人影が―――錬と樹の姿が目に映る。
前と同じ気取った笑みを見せながら、教皇を睨みつけ、俺達の元へと飛び降りてくる。
「樹!? 錬!? 生きていたのか!?」
「あの程度で俺がくたばるものか」
「影とかいう人達に、寸前で助けられましてね」
そうかお前らも……って、どうした元康、そんな訝しげな顔をして。
あ? お前らに俺達の居場所を教えたのも影?
ああ……向こうも主義主張の違いで、一枚岩じゃなくなってるわけか。
そんでお前らは……女王派の影に助けられたというわけか。
「お前ら、何で……」
「借りがあるからな。それを放置したまま、おめおめ逃げ恥を晒すわけにもいかない」
そう言って二人は、再びぎろりと教皇を睨む。
それは、歪んだ宗教間で国を混乱させた者への義憤……とかではなく、散々利用されて騙されたことへの怒りがあるように見えるのは、俺の気のせいか?
とにかく、同じ敵を見据える奴らが増えたのは確かだが……気に入らない。
「メルロマロクの代表に代わり僕達四聖勇者が、おぞましき悪意の温床であるあなた方三勇教信徒を撲滅します!! 覚悟しなさい!!」
樹が大仰な素振りでそう告げるが、教皇は臆した様子を見せない。
そりゃそうだ……実力的に劣った勇者が今さら揃ったところで、圧倒的な力を持った今の奴はまるで恐ろしく思うまい。
むしろ……邪魔者をまとめて排除できる機会、なんて考えてそうだ。
状況は……決してよくはなっていない。
「尚文、お前には防御を頼みたい。奴の攻撃を止められるのは、お前しかいない」
「……虫のいい話をしていると思わないか?」
「わかってる……こっちもお前を完全に信じたわけじゃない」
お前らは俺に濡れ衣を着せたんだぞ、と無言で脅すが、向こうも退かない。
まぁ、この程度で俺への疑惑を解くようじゃ、あの時に騙されてすらいないだろうしな。
「だが、今は争っている場合じゃない。俺達が負ければ、奴らは今度は国を攻めるだろう。そうなればもう泥沼だ」
「最悪の未来を回避するために……今この時は、共に戦いましょう」
そう言って二人は……無断で俺の隣に並ぶ。
元康もやや戸惑いながら、二人にならって槍を構え直す。三人の仲間も遅れて登場し、総勢三十人近い面子がその場に揃う。
その時の俺の顔はきっと……苦虫を噛み潰したような顔になってただろう。
仕方なく、本当に仕方なく……俺も奴らと並び、教皇を睨みつけた。
「ほんっと……ままならねぇな」
これっきり……これっきりだぞ。
お前らなんかと、こんな風に共闘するのはな!