Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜 作:春風駘蕩
Side:Melty
「奴らに次の攻撃を撃たせるな!」
「わかってる!」
ナオフミの号令で、他の三人の勇者達が走り出した。
もちろん、ラフタリアさんとセントさん、リュウガさんとフィーロちゃんも一緒に、教皇と信徒達に攻撃を仕掛けたわ。
【天空の暴れん坊! ホークガトリング!イェイ!】
「おおおおおおお!!」
空を見上げれば、ワシの翼を生やしたセントさんが、手にしたオレンジ色の銃から弾丸を放っているのが見える。
銃弾は信徒達に食らいつき、爆発して次々に吹っ飛ばしていく。
手加減しているのかしら、吹っ飛ばされて倒れるだけで、血を流しているようには見えなかったわ。
「ライトニングスピア!」
「雷鳴剣!」
「サンダーアロー!」
みんな、示し合わせたように雷の属性の攻撃を放っているけど……そんなに仲がよかったの? 貴方達。
教皇を狙うけど……それを大勢の信徒達が邪魔をして、まったく近づけそうにない。
それを教皇は、にやにやと気味の悪い笑みを浮かべて眺めている。
くっ……ナオフミに影響されたのかしら、あの顔見てるとものすごくムカついてくるわ…!
こうなったら、私のこの怒りも魔法に乗せて放つしかないわね!
「はぁっ!」
「ツヴァイト・アクアショット!」
ラフタリアさんが斬りかかり、リュウガさんが殴り飛ばし、二人の合間を縫うように私が水の弾丸を放つ。
他の勇者の仲間達も、教皇に向けて遠距離からの攻撃を浴びせ続ける。
防御は通らないけど……でも、その壁はいつまでも持つわけじゃないでしょう!?
【フルバレット!】
「どりゃあ!!」
【Ready GO!】
「おらああああ!!」
ドドドドドドドッ! ズガンッ!
なんて、セントさんとリュウガさんの放った攻撃が教皇を守る壁に炸裂して、轟音と衝撃を撒き散らす。
ビキッ…と、壁の一枚にだけひびが入るけど、すぐに魔力が補充されて、元通りになってしまう。
もう…! こんなの、いつまで続ければいいのよ!!
「とー!」
すると、フィーロちゃんがものすごい速さで走り出して、教皇に向かって飛び掛かる……って、だめよフィーロちゃん!
逃げ場のない空中に誘い込まれたフィーロちゃんに、信徒達が放った魔法が迫る…!
だけど寸前でナオフミの盾が現れ、フィーロちゃんは無事に戻って来られた。
「フィーロ! 無茶するな!」
「だってー…きりがないんだもん」
悔しそうに呟くフィーロちゃんに、私やナオフミも似たような顔になる。
倒しても倒しても、信徒達は血塗れになって立ち上がる……どれだけ傷付こうと、苦しもうと、まるで何も感じていないみたいに。
見ているだけで、背中がぞわぞわしてくるくらいだわ…!
「ゾンビかよ…死ぬことをまるで恐れてねぇ。ありゃあ、オレ達を殺すまで止まんねぇぞ」」
「くそっ、狂信者共が…!」
人って、こんなふうになるものなの…!?
神様を信じていたら、自分の命もどうでもよくなるぐらいになっちゃうの…!?
私が人間の闇の部分に戦慄していると、ナオフミが何かを思いついたのか、ハッと顔を上げてフィーロちゃんに振り向いた。
「フィーロ! 元康を俺に向かって投げろ!」
「わかったー!」
微塵も疑う様子を見せず、フィーロちゃんは槍の勇者様の元に走る。
……え? 思わずスルーしかけたけど……一体どんな指示を出してるのよ、ナオフミ!?
「え? は! おい何してんだあああああああああ!?」
抗議の声をあげながら、フィーロちゃんに投げ飛ばされた槍の勇者様が宙を舞う。
向かってくる勇者様に、ナオフミは盾を……あの黒い呪われた盾を構えた。
「元康! 俺に向けて攻撃しろ!」
「ああああああ……あ! なるほど、そういう事か!」
! そうだわ、ナオフミのあの盾は、攻撃されると自動的に反撃するもの!
しかも放たれる炎は、相手を呪いで侵す恐ろしく危険な攻撃!
「セルフカースバーニング!!」
ゴウッ!!と、真っ黒な炎が信徒達に襲い掛かる。
炎に包まれた信徒達が悲鳴をあげ、さらに呪いに侵され悶え苦しむ。
今のナオフミが放てる、一番強力な攻撃……これなら、教皇に通じる道も開けるはず…!
だけど、それすらうまくはいかなかった。
「高等集団浄化魔法『聖域』」
信徒達が一斉に魔法を唱え、眩しい光が放たれる。
光は黒い炎にぶつかり、あっと言う間に浄化し、綺麗さっぱり消し去ってしまったわ。
そんな……あの攻撃でも、だめだっていうの?
「おい……ラフタリアがあの呪いを解くのにどんだけかかったと思ってんだ…!?」
「くそっ…! ここまで来て死んでたまるかってのに…!」
どうしよう……どうしたらいいの!?
攻撃は効かない、今度は防ぎきれない……こんな絶望的な状況、軌跡でもなければ突破できそうにないわよ!?
すると不意に……弓の勇者様が、ナオフミに話しかけてきた。
「尚文さん……手はないのですか?」
「は?」
「本来は不遇なはずの盾でそこまで戦えているのです。何か挽回できる秘策を有しているのではないんですか?」
「ああ、確かに……」
「尚文の盾、チートっぽいしな」
「お前ら…!」
チートって……どういう意味よ?
この人達、自分の力が通じないからって、ナオフミに頼るなんて恥ずかしくないの…?
すると今度は、槍の勇者様がセントさんに問いかけた。
「セントちゃんはどうなんだ? 君の武器、全部見たことのないやつばっかりだし」
……それは、私もちょっと思ったかも。
セントさん、正体不明なうえに色々作れるし、この状況を打破できる何かを持ってるかも。
ナオフミも同じだったみたい、振り向いて尋ねていた。
「セント…お前、フィトリアにもらった力で何か作っていたな。今それは使えるのか?」
「いやぁ……ムリだ。こいつはまだ完成してない」
だけどセントさんは、悔しげな表情で首を横に振る。
懐から取り出した……あれは何かしら? 銀色の容れ物みたいな……変な突起がくっついた機械だわ。
「システムは完璧にできてんだけど……内蔵されたエネルギーを覚醒させる必要があるんだ。だけどそのためには、超強力な衝撃を与える必要があってだな……」
「強力な衝撃だと…?」
「そんなものどうやって……」
どうしよう……最後の希望かと思ったけど、これで完全に八方ふさがりになってしまったわ。
こんな所で……母上に任された役目も果たせないまま死ぬなんて…!
「…賭けに出るしかないな」
私が悔しさで俯いていた時、不意にナオフミが呟いた。
賭け……って言ったの? 何を……するつもりなの?
「覚悟を決めろ……失敗したら、お前ら全員ここで死ぬと思え」
「な、何を勝手な!? ちゃんと私を守りなさいよ! 盾ならそれぐらいやって……ぎゅっ!?」
「お前、ちょっと、黙れ」
ナオフミの宣告に、騒ぎ始めた姉上をリュウガさんが無理矢理黙らせる。
この人は……どうしてこの状況で、他の誰かを見下す事しか考えられないのかしら。
……あの人のことは、どうでもいいわね。
「悪い、ナオフミ……頼らせてもらうわ」
「お側にいます…!」
「…行くぞ」
……ラフタリアさんは、知っているの? ナオフミが、何をする気なのか。
ナオフミはラフタリアさんに笑いかけると……憤怒の盾を両手で構えて、目を閉じる。
そしてやがて―――吼えた。
「オオオオオオオオオアアアアアアアアア!!!」
途端に起こったものすごい咆哮に、私達は思わず耳を手で塞ぎ、後退る。
強風に耐え、薄目を開けて様子を伺うと……ナオフミの姿が、見る見るうちに変化していくのが見えた。
鎧は竜の鱗のように刺々しく、禍々しく。
盾もより大きく、悍ましい形へと変化していく……!
「ナオフミ様…! ナオフミ様!」
「ごしゅじんさま!」
「ナオフミ…!」
「ナオフミ!」
「ナオフミ!!」
カッと見開かれた目が、赤く血のような光を放つ。
まるで獣のような咆哮を上げて、教皇を……ううん、目に映る全ての者を睨みつける。
これが、憤怒の盾の本当の力なの…!?
「俺は……! 俺ハ…悪くナイ…! オレハ……ヤッテなイ…!」
聞こえてきたのは、そんなか細い声だった。
そうか、憤怒の盾の原動力は……怒り。
姉上に裏切られたこと、父上に冤罪をかけられたこと、三勇教に脅かされたこと……この世の全てに、ナオフミは怒っている…!
ものすごい力……だけど、これじゃナオフミが!!
「自分の呪いで滅びることを選びましたか……盾の悪魔らしい哀れな最期ですね……せめて私が、死出の案内を努めましょう!」
鬼のような形相になり、唸り声をあげるナオフミに、教皇が笑う。
彼の頭上で、あの強力な魔法の準備が、再び行われていく…!
だけど……私は、そっちに構っている余裕はなかった。
「ナオフミ様…! 戻ってきてください、ナオフミ様!」
「ナオフミ! しっかりしなさい、ナオフミ!」
気づけば、私はラフタリアさん達と一緒にナオフミに抱き着いていた。
噴き出す炎に体を焼かれ、激しい痛みに襲われるけど……それくらいで止められたりはしないわ。
だって…! ナオフミはもっと苦しかったのよ…!?
「しっかりしろや、ナオフミ!」
「ここが正念場だろうが!!」
セントさんとリュウガさんも、私達と一緒にナオフミの腕にしがみつく。
必死に呼びかけて、揺り動かして、みんなでナオフミを正気に戻そうとがんばり続ける。
だけど、ナオフミは元に戻ってくれない…!
お願いだから、いう事を聞いてよ、バカ…!
「……だいじょうぶだよ、ごしゅじんさま」
無我夢中になっていた私の耳に、その声は届いた。
ハッと目を開ければ、私達と同じく、火傷と呪いに侵されたフィーロちゃんの姿が目に映る。
「ごしゅじんさまがやさしいことは、フィーロもみんなもちゃんと知ってるから……だからね、この黒くてイヤなの、フィーロが食べちゃうね?」
怒りと憎しみの炎に包まれながら……私の初めての友達は、見たことがない優しい笑顔を浮かべていた。
そして、フィーロちゃんがそうナオフミに語り掛けた瞬間。
ナオフミから噴き出していた炎が、フッと消え去った。
「―――滅しなさい、悪魔よ」
一塊になって動かない私達に向け、裁きの光が放たれる。
私達が一歩も動かないまま、頭上に目を向け、迫り来る絶望を前に息を呑んだその瞬間。
カッ、とナオフミの眼が正気を取り戻した!
「セント! よこせ!」
「!? お、おう!」
正気を取り戻したナオフミが、セントさんに手を出す。
一瞬戸惑いの顔を浮かべたセントさんは、すぐにナオフミの意を汲み、あの機械の容れ物を手渡す。
ナオフミはそれを片手にフィーロちゃんの背に飛び乗り、迫り来る裁きの光に真正面から飛び出した。
「ぐ……ぅおおおおおおおおおおおおおお!!!」
降り注いだ閃光と、ナオフミが前に突き出した手―――セントさんの渡した機械が激突する。
とてつもない衝撃に抗い、びりびりと震えるナオフミの手。
弾き飛ばされるのではないかと思った次の瞬間、防がれていた裁きの光が四散し、辺りに欠片が飛び散った。
そして、ナオフミの手からも機械の容れ物が吹き飛ばされる。
「…! あれって…!」
それを目で追っていた私は、ふと気づく。
空中に浮い機械の容れ物から、しゅわしゅわと不思議な音が鳴り、徐々に大きくなっていくことに。
そして容れ物が、あっと言う間に赤と青に鮮やかに彩られ出したことに。
「おっ…とと!」
落下してきたそれをセントさんが慌てて受け止める。
目を見開き、変貌したそれを凝視していたセントさんはやがて……にやり、と不敵な笑みを浮かべた。
「な、何ですかそれは…!?」
一体何が起こったのかと、教皇が目を見開き棒立ちになる。
それを放置し、地面に降り立ったフィーロちゃんの背から降りたナオフミもまた、セントさんに不敵に笑いかける。
「これでどうだ…? セント」
「……ああ、上出来だ」
セントさんはそう返し……いつもの得意気な笑みを取り戻すと、教皇に向けて新たに手に入れたそれを。
起死回生の切り札を、見せつけた。
「さぁ……実験を始めようか」