Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜   作:春風駘蕩

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スパークリング

Side:Raphtalia

 

 セントさんの手で輝く、筒状の何か。

 セントさんはそれを上下に振り、上部のつまみを立てます。

 

 何か、シュワシュワと泡が弾けるような音が響き、セントさんはそれをベルトに差し込みました。

 

ラビットタンクスパークリング!

 

 聞きなれた声が響くと、セントさんはいつもと同じように、ハンドルをぐるぐると回します。

 

 ですが、ベルトから伸びたのはいつもの管ではなく……もっと大掛かりな、鋼鉄の歯車のような機械です。

 前後を歯車に挟まれながら、セントさんは不敵に笑い、叫びました。

 

Are you ready?

「ビルドア――ップ!」

 

 直後、ガシャン!とセントさんの身体が歯車に挟まれます。

 そしてすぐに歯車は青と赤、白の泡となって弾け―――その中から、新たな鎧に身を包んだセントさんの姿があらわとなりました。

 

シュワっとハジける! ラビットタンクスパークリング! イェイイェイ!

 

 ウサギと戦車を模した、以前のものより刺々しく、ギザギザした鎧。

 赤と青の装甲に、白の斑点やギザギザの模様が入り、攻撃的で鮮やかな見た目に変わっています。

 

 まるで、セントさんの力が溢れ出し、噴き出しているような格好です。

 

「勝利の法則は―――決まった」

 

 いつもと同じポーズ……ですが、何故でしょうか。

 いつもよりも……セントさんが頼もしく見える気がします。

 

「姿が変わった…!? いつものとかなり違う…!」

「トゲトゲ〜!」

 

 メルティさんやフィーロも、セントさんの新しい姿の違和感に気付いたのか、目を瞬かせています。

 それは他の勇者様も、冒険者の方々も……そして、教皇も同じようでした。

 

「つまらないこけおどしを…! 今度こそ死になさい!!」

 

 教皇は忌々しげに顔を歪め、武器を構えます。

 そして標的をナオフミ様からセントさんに変え、眩しく光を纏わせ、勢いよく振り下ろします。

 

 ナオフミ様が必死に耐えた力…!

 真正面から受けては、ひとたまりもありません!

 

「ふんっ!!」

 

 ですが、私の杞憂は大外れでした。

 

 セントさんが振るった右手が、光の一撃を横から弾き、受け流し……あらぬ方向へ逸らしてしまったのです。

 想定外の展開に、私達は目を見開きます。

 そして……教皇が最も驚愕し、唖然とした顔になっていました。

 

「何ですって…!?」

「今度はこっちからだ」

 

 教皇がそう声を漏らした瞬間、セントさんが拳を振りかぶります。

 

 構えたその手に、赤と青の泡のような光が集束していき、セントさんはそれを、思い切り振り抜きます。

 放たれた泡が風を切り、信徒達に炸裂、吹き飛ばしていきました。

 

「どらららららららぁ!!」

「「「ぐああああ!!」」」

 

 セントさんは止まらず、次々に拳を放ちます。

 それに伴い、泡の砲弾が何十発も放たれ、信徒達が恐ろしい勢いで倒されていきます。

 

 私達が唖然としている間に、三人の勇者達とその仲間達が苦戦した人数が、見る見るうちに減っていきました。

 

「どるりゃあああ!!」

「ぐぬぁ!?」

 

 ものの数秒も経たないうちに、セントさんの周りにいた信徒達は、誰一人立っている者はいなくなりました。

 最後の一人が……顎を殴られ、高く高く宙を舞いました。

 

 自分の周りを守っていた信徒達が全滅したことで、キッ…!と、温和だった教皇の顔が憎悪で歪みます。

 ここでようやく……この方の本性が見えた気がしました。

 

「この…!」

「効くかよ、そんなもん!!」

 

 怒りのままに放ったひと振りは、最初と同じく弾かれ、消し飛ばされます。

 

 数と攻撃力、私達よりはるかに優れていた2つが消えた事で、教皇の顔には明確な焦りが現れ始めました。

 自分が神であると語っていた方が……冷や汗を流し、目を見開いています。

 

「こ…これが」

「セントさんの……新しい力」

「スゲェ……圧倒的じゃねぇか!」

 

 たった一人で、戦況を完全にひっくり返してしまったセントさんに、他の勇者様方や冒険者の方も目を剥いて驚いています。

 一応戦ってはいますが……完全に、セントさんに持ってかれていますね。

 

 ナオフミ様だけは……こうなるのを待っていたように、不敵に笑っていらっしゃいます。

 何故でしょう……セントさんに少し、嫉妬します。

 

「くっ…この! 悪魔の配下の分際で…!」

「終わりだ、教皇! 今までの借りを返してやる!」

 

 歯を食い縛り、怒りの表情を見せる教皇に、セントさんが勢いよく飛び掛かり、拳を振りかぶります。

 そして、強固な一撃が教皇の顔面に炸裂する……と思われた時。

 

 教皇の姿が消え―――全く知らない男の方が、顔面をへこまされて吹っ飛ばされました。

 

「……は? え!?」

 

 セントさんは思わず止まり、困惑の声を上げます。

 私達も突然の事態に戸惑い、立ち尽くすセントさんを凝視してしまいます。

 

 ですが、異変はそれだけでは終わりませんでした。

 私達の視界に……数えきれない人数の教皇が、不気味に笑いながら現れたのです。

 

「教皇が増えた……だと!?」

「これは…ミラージュアロー!? 幻影で相手を惑わせるスキルです!」

 

 弓の勇者様が戦慄した声を上げます。

 表情から察するに、弓の聖武器でもかなり強力な能力のようですね……そんなものまで、あの武器は使えるのですか!?

 

「私を、あなた方ごときが殺せると本気で思いましたか? 言ったでしょう……どれだけ抗おうと無駄なのだと!」

 

 哄笑をあげる教皇は、無数の幻影と共に、一斉に私達に向けて矢を放ちます。

 実際は、信徒達による魔法や弓の攻撃のようですが……幻覚を見せられている私達からすれば、ぞれも教皇の攻撃に見えます。

 

「うおっ!!」

「ぐあっ!」

「きゃあ!」

 

 その全てを防ぐことはできず、私達は一人二人と、攻撃を受けて膝をつき始めました。

 勇者様方が、仲間の方を守ろうと奮闘されていますが、多すぎる攻撃を前に、全く手が足りていないようです。

 

「ナオフミ様……あぐっ!」

「ラフタリア!」

 

 肩に矢を受け、倒れ込んだ私に、ナオフミ様が駆け寄ってきます。

 リュウガちゃんもフィーロも、セントさんもどうにか攻撃を防いでいるようですが、徐々に疲弊しているように見えます。

 

「くそったれ! このままじゃなぶり殺しだぞ!」

「セント! 何とかする方法はないのか!?」

「あったらもうやってるよ!」

 

 向かってくる攻撃を防ごうとするナオフミ様ですが、盾が守れるのは一方のみ。どうしても全ては守れません。

 このままでは、ナオフミ様も、みんなも…!

 

 その時……突然、セントさんの耳が、ピクッと震えるのが見えました。

 

「…!? 誰だ、このヤバそうな気配は…!?」

「は?」

 

 !?

 まさか、セントさん……教皇の他に、まだ敵が!?

 

 私がそう、どうしようもない絶望を前に、顔から血の気を引かせたときでした。

 

「アル・ドライファ・アイシクルプリズン!!」

 

 突如、どこからか響き渡った魔法の詠唱。

 その直後―――不気味に笑いながら矢を放っていた教皇達の足元が、バキバキと分厚い氷に包まれ出しました。

 

「うぐおおおおおおお!? こ、これは…!?」

「氷の檻…!? 一体、誰が…!?」

「この魔力は…!」

 

 氷に包まれ、教皇の幻影が次々に消えていきます。

 残ったのはボロボロになった信徒達で……全員が元の姿に戻ると、最後に一人、本物の教皇が残りました。

 

 それを見て、ナオフミ様とセントさんが、ハッと目を見開き、目を見合います。

 

「ナオフミ! 今だ! 強力なやつぶちかますぞ!」

「おお!」

 

 セントさんの合図で、ナオフミ様が憤怒の盾を構えます。

 同時に、セントさんが勢いよく駆け出し、教皇に向けて大きく跳躍を行います。

 

「うおおおおおお!!」

「ち、近づくな亜人の化け物め! この私を誰だと…!!」

 

 自分を見下ろすセントさんに、教皇は我を失ったように、めちゃくちゃに攻撃を繰り出します。

 剣の斬撃、槍の突き、弓の射撃、あらゆる攻撃がセントさんに迫ります。

 

 しかしセントさんは微塵も焦らず、ベルトのハンドルをぐるぐると回しまくります。

 

「勝利の法則は、決まった!」

【Ready GO!】

 

 いつもの決め台詞を叫ぶと、セントさんのサングラスがカッ!と一際強い光を放ちます。

 

 教皇の前に、渦を図形化したようなラインが現れ、その中に光の泡を纏ったセントが突っ込んでいきます。

 慌てて構えた教皇、その武器に、セントさんの強烈な蹴撃が炸裂し、そして―――。

 

スパークリングフィニッシュ!

 

 バキン!と。

 教皇が構えていた武器にひびが入り……一瞬で、粉々に砕け散ってしまいました。

 

「ば、バカな…!? 神の武器が…こんな、こんなことはあり得ない!!」

「行け、ナオフミ!」

「『その愚かなる罪人への我が決めたる罰の名は神の生贄たる絶叫。我が血肉を糧に生み出されし竜の顎により激痛に絶叫しながら生贄と化せ』…! ブラッドサクリファイス!!!

 

 決定的な隙ができた教皇に、ナオフミ様が最凶の一撃を見舞います。

 ナオフミ様の周囲に、悍ましさを感じるオーラが纏わりつき、膨れ上がった―――と、思った直後。

 

 ブシュッ!と、ナオフミ様の全身から、夥しい量の血が噴き出しました。

 

「ナオフミ様!」

「ぐっ…!? が…」

 

 苦悶の声を上げ、ナオフミ様ががくりと膝をつきます。

 そんな…! ここまで来て、自滅する力を使ってしまったというのですか…!?

 

 教皇は、血塗れになるナオフミ様に嘲笑うような目を向けています。勝手に自滅したとでも思っているんですか…!?

 

 ですが……教皇の顔もまた、突然変わりました。

 

 撒き散らされたナオフミ様の血……まるで池のように広がったその中から、巨大な竜の咢が出現し、教皇を呑み込んだからです。

 

「ばっ…バカな! 私は、私はこんなところで死ぬはずがない! 私は三勇教教皇、神の、神のぉぉぉ!!!」

 

 咢は教皇の全身を挟み、鋭く尖った牙を喰い込ませ、突き立てていきます。

 教皇の身体はそれに耐えられず……めきめきと潰され、牙で貫かれ、壊されていきます。

 

 そしてやがて―――竜の咢が、教皇の全身を押し潰し、凄まじい量の鮮血が噴き出しました。

 

「ぎゃあああああああああああああああ!!!」

 

 響き渡る、教皇の断末魔の叫び。

 愕然とした表情で固まる信徒達の前で―――ぽこりと、血の海の中から、割れた眼鏡が浮かびます。

 

「きょ、教皇様が…!」

「う、嘘だ…!」

「全軍! 速やかに邪教徒の残党を殲滅しなさい! そして速やかに、盾の勇者様をお救いするのです!!」

 

 もはや立ち上がる気力もない信徒達に、王国の兵士達が向かいます。

 抵抗する気力もないのか、然して大きな争いも起こらず、信徒達は続々と捕縛されていきます。

 

 ですが……私達にとってはどうでもいい事です。

 

「母上…!」

「メルティ、よく役目を果たしました。あなたのおかげで、この国の膿を一つ、ようやく片付けることができます」

 

 誰かが近づき……メルティさんに話しかけていますが、振り向く気にもなれません。

 

 私達の目の前では……ナオフミ様が。

 ナオフミ様が…傷だらけで、虫の息で倒れているのですから…!

 

「盾の勇者、ナオフミ・イワタニ様……長らく大役を押し付けてしまい、誠に申し訳ありません」

「……女王、か」

「ママ!? なんでそんな奴に頭を下げるのよ!!」

 

 マルティ王女が何か…騒いでいる声や、どこかに引きずられていく音も聞こえますが、そんなものどうでもいいです。

 早く……早くどうにかしないと。

 ナオフミ様が死んでしまいます…!

 

「すぐに治療を始めます……皆さんのことは、私に任せてください」

「……お、せぇ、よ…」

 

 小さく、消え入りそうな声で、ナオフミ様は言葉を発し……ゆっくりと、瞼を閉じてしまいました。

 

 その瞬間、私の胸に、かつてない恐怖が襲い掛かりました。

 

「ナオフミ!!」

「ナオフミ様!!」

 

 私達の必死の呼びかけに。

 ナオフミ様は……答えては、くれませんでした。

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