Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜   作:春風駘蕩

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女王ミレリア

Side:Melty

 

「んにゃ…ごしゅじんさま……」

「ナオフミ様ぁ……ダメれす、きしゅらなんて…」

「フィーロちゃん……おっきーぃ…」

 

 少しずつ……意識が浮き上がってくるのを感じる。

 いい夢を見ている気がして……まだ起きていたくないと思えてくる。

 

 だって、起きたら残酷な現実に向き合わないといけないかもしれないから……。

 

「何なんだお前らは!? 起きろ起きろ、暑苦しいんだよ!!」

 

 その声に、私の眼は驚くくらい早く冷める。

 ガバッと顔を上げてみれば……いつかと同じ、不機嫌そうなナオフミの顔が、そこにあった。

 

 生きてる…!

 ちゃんと、ナオフミが生きてる…!

 

「ナオフミ様!」「ナオフミ!!」

「うぇ〜ん! ごしゅじんさま〜!!」

 

 フィーロちゃんが泣きながらナオフミに飛びつき、ぐりぐりと顔を押し付ける。

 ラフタリアさんは……先を越されたって感じで固まってるわね。

 

「すまない……ずいぶん心配をかけたようだな」

「ったく…寝すぎだぜ、英雄様よ」

「起きるのがあんまり遅ぇもんだから、退屈で涙が出ちまったよ」

 

 そう言って、やれやれって感じで肩を竦めるセントさんとリュウガさんだけど……顔はあからさまにホッとしてる感じがする。

 

 まったく…! ナオフミってばほんっとやな奴よ!

 こんなに……こんなに私達を心配させたりして…!

 

「それで…ここは」

「治療院の中だ。大丈夫、もうここには敵はいねぇから」

 

 自分がベッドに入っている事に、ナオフミはまだ戸惑っているみたい。

 そりゃあそうよね、死ぬ覚悟で戦ってた後に倒れて、目が覚めたら全然知らない所にいるんだもの。

 

 すると不意に、セントさんがくすっと笑い声をあげた。

 

「笑えたぜ? ナオフミの治療に文句言おうとしたやつがよ、女王の鶴の一声で一瞬で黙っちまいやんの」

「あれは傑作だったな〜」

「女王……」

 

 けらけら笑うセントさんとリュウガさん。

 二人は楽しそうだけど……私は正直笑えないわ。

 

 あん兄苦しい思いをして、とんでもない悪事を働いていた教皇を倒したのはナオフミなのに…!

 やれ、捕まえろだの処刑しろだの、何を考えているのかしら!

 

「お目覚めになられましたか、盾の勇者ナオフミ・イワタニ様」

 

 そこに、母上の……メルロマロク女王陛下の声が届く。

 

 母上の登場にラフタリアさんやセントさん、リュウガさんがちょっと緊張した様子を見せる。

 別に、そんなに構えなくていいのに。

 

「母上…!」

「お前の……てことは、お前が」

「はい。メルロマロク女王、ミレリア=Q=メルロマロクと申します」

 

 私もちょっと嫉妬するぐらい綺麗な所作で、母上はナオフミにお辞儀をする。

 ナオフミにとっては……ちゃんと顔を合わせたのは、これが初めてよね。

 

「治療の手配は、お前がしてくれたと聞いている」

「はい、最善を尽くさせていただきました……しかし、呪いの根は深く、完全な除去までは」

「それはいい……覚悟の上で負ったものだしな」

 

 …ちょっとナオフミ、何でまだちょっとそんなきつい目をしてるのよ。

 私の母上なんだから疑う必要なんてないわよ、バカ!

 

 母上は気にした様子を見せてないけど……いい加減、その癖は直した方がいいわよ。

 

「ようやく顔を見られたんだ。話を聞かせてもらおうか?」

 

 …真剣な表情で、ナオフミがそう切り出す。

 母上も真剣な目でそれを受け止めて……一からちゃんと、説明を始めた。

 

 

 

 ―――本来、勇者召喚とは各国の王が集まって、召喚する国と順番を決めなければならない事。

 三勇教が暴走し、勝手に勇者召還を行った事。

 本来であれば、ナオフミは亜人の国であるシルトヴェルトに召喚されていた可能性がある事……。

 

 ほとんど説明なんてされなかったナオフミにとっては、衝撃的過ぎる事実が教えられたわ。

 

「……なるほど、俺は敵陣の真っ只中に召喚されたわけだ」

「しかしこう聞くと、三勇教の連中はイカレた奴しかいなかったんだな」

 

 ぼそっと呟いたセントさんに、私もつい頷いてしまう。

 いろんな国を敵に回す行為だものね……母上、他の国を宥めるの凄く頑張ってたのよ。

『我が国の膿を払う役目の最中です』…って、ずっと説き伏せてたのよね。

 

「……オレにはどうも、利用された感があるんだが」

「否定はいたしません」

「しねぇのかよ、してくれよ!」

 

 リュウガさんの呟きにも、母上はきちんと答える。

 そう思われても……仕方がないわね。メルロマロクが悪役にされないように、ナオフミの名を利用したんだもの。

 

 ナオフミは厳しい表情だったけど……怒ってはいないみたい。

 

「別に俺は利用されたとしても気にしない……お前は女王で、守るべきものがたくさんあった。それだけの話だ」

「寛大な配慮、ありがたく頂戴します」

「構わない……むしろ同情している。周りが敵だらけだったのは同じで、俺より重い重圧の中戦ってたんだからな」

「母上は本当に頑張っていたんです……毎日、寝る間もないくらいに」

 

 本当に……母上は、国のことを一番に想っているの。

 母上を悪く思わないでほしいだけ……その一心で、私はナオフミ達にそう告げる。

 

 …って、何よナオフミ。その微妙な表情と視線は。

 

「…何よ」

「いや、お前が今更敬語で話してるのを見ると、違和感がすごくてな」

「なっ…! しょうがないじゃない、母上の前でみっともないとこ見せられないんだもの」

 

 い、いつもと違うところを見せたら、母上が驚いちゃうかもしれないじゃない!

 それに、こんな気持ちを大きく見せるのは、私らしくないし……こんな姿、母上に見せたら恥ずかしいし!

 

 だけど母上は……なぜだろうか、意味深な目で私とナオフミを見ながら、微笑んでいた。

 

「いいではありませんか、メルティ」

「母上?」

「貴方は生真面目すぎるところがありましたから、役目を背負いすぎてはいないか、いつも心配していたのですよ」

「母上!?」

「イワタニ様、どうぞ娘と今後も仲良くしてくださいませ」

「母上ぇ!!」

 

 何!? 母上は一体私に何を望んでいるの!?

 ラフタリアさん!? どうしてそんな戦慄した表情をしているんですか!?

 セントさんもリュウガさんも、にやにや笑いながらひそひそと何を話しているの!?

 

 フィーロちゃん! ナオフミ! ……は普通ね、よかったわ。

 

「こっちに引きかえ……あ、悪い。あんたの娘なのに」

「いえ…あの子に関しては、申し開きもありません」

 

 不意に、楽しそうだったセントさんが、うんざりした顔になる。

 うん……姉上に関しては、本当にもう、ごめんなさいとしか言えなくなるわ。

 

 本当に血が繋がってるの? …って、時々母上に尋ねたくなるんだけどね。

 聞けないじゃない、そういうの。

 

「メルティと区別する事なく、時期女王となるための教育は施していたはずでしたが、いつの間にかあのような子に……」

「…ここまできたからぶっちゃけるけど、親父も何なんだ?」

「子供ができてから腑抜けましてね。あれでも昔は猛将として知られていたのですが…」

 

 母上の話を、ナオフミってばぜんぜん信じてない。

 うん……まぁ、私もそんな話を聞かされても、全然想像がつかないっていうか、うん。

 

「猛将って……嘘だろ」

「いや、亜人の国シルトヴェルトに何度も苦渋を飲ませた、とんでもねぇ将軍だったって噂だぜ」

 

 セントさんとリュウガさんの囁きに、思わず深く頷きたくなる。

 ……父上が昔凄かったって、全然そうは思えないのよね。

 

 そこまで話して……場の空気が、少しずつ重くなっていった。

 

「あの二人、どうすんの。無罪放免なわけないだろ」

「当然でございます……王としての責務を放棄し、国を揺るがす邪教に手を貸していたのですから」

 

 表向きは、平然とした顔でそう告げる母上。

 だけど、私にはわかる……母上、辛いのを必死に我慢してる。

 

「その際には……イワタニ様、貴殿にも立ち会っていただきたく思います」

「……ああ、当たり前だ」

 

 母上の申し出に、ナオフミは鋭い……背筋に寒気が走るような目をして、答える。

 

「……そろそろ行くか。ナオフミ、精々養生しろよ」

「うっせぇ、バカウサギ。…お前も休んでおけよ」

「あいよ。みんなも行こうぜ」

 

 私が思わず震えていると、セントさんが立ち上がって、私達に退出を促してくれる。

 ナオフミの様子が心配だったけど……正直言って、ありがたかった。

 今のナオフミは……一緒にいるのは、恐かったから。

 

「メルティ、悪いな……オレ達はこれから、むちゃくちゃ残酷な決断を下すかもしれねぇ」

「っ…!」

 

 ナオフミの病室を出て、廊下を歩いていた私に、セントさんがそう告げてくる。

 セントさんの表情は厳しくて、私に対する申し訳なさと、父上や姉上に対する怒りが混じった複雑なものになっているのが見える。

 

 私は、一瞬ドキッとしたのをどうにか隠して……みんなに、向き直った。

 

「覚悟は、できています…!」

 

 私は大丈夫だって……誤魔化せていたらいいけど。

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