Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜   作:春風駘蕩

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消えない悪夢

Side:Naohumi

 

「……まったく、こんな時にパニックに陥るとは」

 

 魔物たちから逃れるため、悲鳴を上げるラフタリアを抱えて滝つぼに飛び込んだ俺は、ロープシールドを使って崖の上まで戻ってきた。

 今朝から妙に様子がおかしいとは思っていたが、あの犬に何かトラウマでもあったのか?

 

「あいつは、逃げたか。まぁ、結局その程度だろうな」

 

 崖の上に、セントも魔物たちもいなかった。

 どっかで逃げ回ってるんだろう……いないなら、もうどうでもいいがな。

 見下ろせば、へたり込んだラフタリアがうつむいている。

 

「ごめん…なさい」

「あの犬の魔物を見てから一層ひどくなったようだな……何があった」

「……私は」

 

 そこで聞いたラフタリアの過去は、正直胸糞の悪い内容だった。

 海沿いの村で両親や友達と平和に暮らしていたが、波で溢れ出てきた魔物によって村は壊滅。

 両親の手によって危機を脱したが、彼らは魔物に食い殺されて終わり。

 なんとか村を復興させようと、生き残った村人たちが頑張ってはいたが、その後襲ってきた奴隷狩りに捕まり、悲惨な目にあわされたとか。

 その後はずっと悪夢を見ていたらしい。死んだ両親や友達が、恨み言ばかりを言ってくるのだと。

 …夜泣きの原因はこれか。

 

「ラフタリア、お前は…」

「グオオオオオオオ!!」

 

 俺が口を開いた瞬間、あの魔物の咆哮がまた聞こえてきた。

 クソ…少しは空気を読みやがれ!

 

「ひっ…ひぃいい!」

「落ち着け! あれはお前の両親を殺したやつじゃない!」

「でも…でも!」

 

 ラフタリアは完全にパニックに陥っていて、戦える状態なんかじゃない。

 だが…俺じゃこいつらを突破できない。

 無理にでも、ラフタリアに戦ってもらわなければどうにもできないんだ…!

 

「…お前の両親が戻ってくることはない。だが!」

 

 俺自身、どの立場でものを言っているんだとは思う。

 だが、こんなところで二人とも死んでいられないんだよ!

 

「お前はまだここで生きているだろう! やられたまま、怯え続けるだけか! お前がただ一人生き延びたことに負い目を感じているなら、それは大きな間違いだ! 死んだやつに何をしたって何の意味もない!」

 

 俺の声が届いているかは分からない。

 どのみち、あのトラウマを乗り越えない限り、波と戦う事なんてできはしないんだ。

 だったらここで、こいつが立ち上がるのを待つしかない!

 

「お前が苦しいのは、お前がお前を責めているからだ! そんな無意味なことはもうやめろ! それでも苦しいなら…今生きてこの世界にいる、お前と同じ苦しみを持ったやつを救え!!」

 

 魔物たちは少しずつ近づいてきている。

 後ろは崖…これ以上は引けないが、逆にいえば後ろから敵が来ることはない。

 ラフタリアを守るには絶好の位置だ。

 

「かかってこい犬共!」

 

 俺の声に反応してか、魔物たちが一斉に飛び掛かってくる。

 俺は盾を思いっきり振り回し、雀の涙みたいな攻撃をぶつけまくる。だがやはり威力不足らしく、殴ってもすぐに向かってきやがる。

 そのうち俺の肩に噛みついてくる奴も出てきた。

 

「ぐあっ!!」

「ごしゅじ…さま…!」

 

 痛ぇ…! 本当に、なんで俺がこんな目に遭う!?

 ラフタリアはやはり、動く事ができない。ここで二人とも死ぬくらいなら…!

 

「…もういい! 戦えないなら、逃げろ!」

 

 魔物の牙が、俺の首を狙ってくる。

 クソッ…こいつら、是が非でも離さないつもりか…!

 噛まれた傷口から血が溢れて、意識がだんだん遠くなってくる…。

 ここまでか…!

 

「やああああ!!」

 

 そう覚悟を決めていた時、後ろにいたラフタリアが飛び上がり、ナイフを振り上げて魔物に飛び掛かった。

 ザクザクとナイフを突き立て、俺に噛みつく魔物たちを一旦追い払う。

 その姿は殺気とは比べ物にならない、鬼気迫るといった様子だった。

 

「ご、ご主人様は…! わたしが…!」

 

 ナイフを突きつけ、威嚇するラフタリア。

 だが魔物たちはたいして怯える様子もなく、ひときわ大きい魔物が前足を振り上げた。

 

「あっ…!」

 

 それだけでラフタリアの身体は弾かれ、衝撃でナイフが手から離れていく。

 武器を失ったラフタリアに魔物たちが群がってくるが、その前に俺がラフタリアを抱き寄せる。

 せめて…せめてこいつだけでも守らなければ!

 

鋼のムーンサルトラビットタンク! イェイ!】

「そうは問屋がおろさねぇっての!!」

 

 !?

 魔物の牙が俺に届きかけた時、見覚えのある青と赤の影がものすごい跳び蹴りをかまし、魔物を思い切り吹っ飛ばした。

 この派手な登場は…。

 

「お前……逃げたんじゃなかったのか!?」

「見くびんなよ! お前らを置いて逃げるわけねーだろうが!」

 

 顔を上げると、ビシッと指を突き付けてきたセントが鼻息荒く俺を見下ろしてくる。

 こいつ…裏切ったんじゃなかったのか。

 

「小さな女の子が勇気振り絞ったってのに、オレが体張らねぇでどうするってんだ?」

 

 セントはそう言い、ベルトに挿したフルボトルを入れ替えて魔物たちに向き直る。

 なぜかその背中は…前よりも大きく見えた気がした。

 

ゴリラ!】【掃除機!

「行くぜお二人さん! 変身!」

 

 セントのまわりにフレームができ、挟み込んで鎧を作り出す。

 ゴリラの腕と掃除機の腕という、アンバランスな格好になったセント。

 すると、ラフタリアの手元にあのドリルが手渡された。

 

「ラフタリアちゃん、これ使って!」

「はい!」

 

 ドリルを手にしたラフタリアが、セントと並んで立ちあがる。

 魔物たちは新たに増えた敵に唸り声をあげ、またこっちに向かって突っ込んでくる。

 俺は奴らの前に立ちはだかり、もう一度攻撃を受け止める。

 やられてばっかりなわけがねぇだろうが!

 

「今だ!」

「やあああああ!」

「おりゃあああ!」

【ボルテックフィニッシュ!】

 

 俺を標的にしている魔物たちに、ラフタリアとセントが同時に攻撃を加える。

 ドリルが大きい方の魔物の肉をえぐり、他の小型はセントが吸引し、ゴリラの腕でぶん殴る。

 あっという間に魔物たちは叩きのめされ、俺はようやく一息つく事ができた。

 

「くっ……どうにか、なったか」

「ご主人様!」

 

 腰を下ろし、血まみれの肩を掴んでいると、ラフタリアが俺の胸に抱きついてくる。

 …立ち向かったとはいえ、やはり恐怖はあったようだな。

 ん? おい、何だセント、その顔は。

 腹立つからやめろ、ニヤニヤすんな。

 

「死なないで…死なないで、ご主人様…!」

「……死ぬもんかよ。死んでたまるか」

 

 少なくとも、元の世界に帰るまでは死ねない。

 そのためには、波に打ち勝たなくてはいけない……それまで努力するしかない。

 俺は小さくため息をつき、顔を上げる。

 セントの奴は何も言わず、俺に話しかけられるのを待っていた。

 

「…戻ってくると思ってなかった」

「そこまで薄情じゃないよ。こんなにいい雇用主はそうそういない」

「はっ、どうだかな」

 

 どんな考えで助けに来たのかは知らない……だが、こいつが危険を冒してきてくれたのは確かだ。

 信じたわけじゃない……でも、礼を言わないのは違う。

 

「……だが、たすかった」

「へへっ」

 

 セントは得意げな顔になり、俺に手を差し出してくる。

 少しためらったが、俺はラフタリアを抱きかかえたままセントの手を掴んで立ち上がる。

 何だろうな…少し肩が、軽くなった気がする。

 

「うっし! さっさと採集終わらせて、こんなところからおさらばしようぜ!」

 

 セントはそう言って、鉱石を採取していた場所に向かっていく。

 正直つかれたが、たしかに稼ぎがまだ足りない。

 もう少し、頑張るとするか。

 

 余談だが、この日からラフタリアの夜泣きはなくなり、うなされる事もなくなったようだった。

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