Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜 作:春風駘蕩
Side:Milelia
「それで……僕達をここへ集めた理由は、一体なんなのですか?」
円卓の席に座っていただきました勇者様方のうち、弓の勇者様ことイツキ・カワスミ様が最初にそう質問されました。
他の勇者様方も似たような表情をされており、時間を惜しんでおられる様子が感じられますね。
長引いて機嫌を損ねられても困りますし、端的に説明足しましょうか。
「実は、近々メルロマロク領内に存在するカルミラ島にて、近々活性化が起こるとの情報が……」
「本当か!」
「やっとですか!」
やはり、イワタニ様を除く勇者様方は、この世界の常識にかなり精通しておられる様子……話が早くて助かりますね。
「なんだ、活性化って」
「カルミラ島って特殊な島で、ある一定期間に修行すっとな? 得られる経験値が爆上がりすんだって。そんでその期間中に、冒険者とかが大幅レベルアップを狙って集まんの」
「ほほぉ…」
イワタニ様の方でも、お付きのセント様が説明してくださっていますし、このまま話を進めてもよろしいでしょう。
……もっとも、これから始める会談がスムーズに進むとも思えませんが。
「そちらで勇者様方には、さらなる強化を図っていただきたいのですが……その前に勇者様方同士で、それぞれの強化方法について情報交換などを行なっていただければと」
「…情報交換って言われてもな」
「俺達は自分が強くなる方法なんて、だいたい全部知ってるからな」
思った通り、困惑している……と見せかけて、お互いに手の内を晒し合う事を忌避しているようですね。
勇者は世界を救う存在であって、勇者様同士で争われても困るのですが。
……いえ、この方々を喚んだのは我が愚かな夫の独断でしたね。
「お前らはな。だが俺はこの世界について……お前らが遊んでいたゲームについて全く知らない。必要最低限は教えてもらわなければ困る」
「……尚文さんが苦労をしてきたのはわかっています」
イワタニ様がそう始めると、カワスミ様が少しだけ同情の眼差しを向けて答えます。
…ですがなんでしょう、かなり鋭い目でイワタニ様を睨んでいらっしゃるような。
「色々話し合う必要があるのは確かですが……まずはっきりさせておかなければならないことがあります」
「そうだな」
「たしかに…あるよな、尚文。いや、この場合はセントちゃんか」
おや、どうやらカワスミ様だけではなく、他の勇者様方も同じ目を向けていらっしゃいますね。
これは……敵意は感じられませんが、なんとなく、有無を言わさない雰囲気が感じられます。
セント様にどのようなご質問があるのでしょうか。
「あの鎧を僕らが使う事は可能なのでしょうか……!?」
「ああ、そうだ! 教えろ! いや、教えてください!」
「使わせてくれ、頼む! この通りだ!!」
……何やら勇者様方が興奮しておられるようですが、はて。
確かに不思議なアイテムであることは確かですが、どうしてこうも荒ぶられるのでしょうか?
よく見たら、イワタニ様も真剣な目をしておられるような?
「…お前らがあれを欲しがるのはわかる。というか俺だってアレは使いたいぐらいだ」
「だよな! ……ん? って事はお前、使った事ないのか?」
「ああ、こいつとリュウガの分しかなかったからな」
「増やさないのですか?」
「俺も最初はそう考えてたんだが、セントが渋ってな……まぁ、理由は納得できるが」
…確かに、報告にあったセント様の不思議な鎧については、私も気になっておりました。
世界中のどこを探しても見当たらないような……四聖武器とどこか似た能力を持った道具と、それを使って繰り出される力。
色々と気になるところはありますが、兵達に備えさせればかなり安心できそうですね。
本人にその気があるのなら、ですが。
「ほら……教皇の件とかあんじゃん? あの爺さんが持ってた武器は、過去に勇者以外の誰かが波に対抗するために作ったモンだ。だけどそれを、悪人が使っちまった」
そう、教会で長年封印されてきたアレが、身勝手な信者の手によって此度、勇者様方に向けられてしまった。
私達の落ち度ですが……それが再発するかもしれないとなると、頭が痛くなります。
「オレの作る装備は、ぶっちゃけある程度体ができてりゃ誰でも強くなっちまえるモンだからさ……それをもし、敵が手に入れちまったときのリスクが怖い」
「まぁ……たしかに」
「あんなのが今後も現れて、強力な武器を使ってくるとなると、考えものですね」
カワスミ様もアマキ様も、どうやら納得されたご様子。
ただ、物欲しそうな視線から、名残惜しそうな視線へ変わっただけのようですが。
「そもそもどうしてあんなものを作れるのですか?」
「悪い…オレはどうも記憶喪失みたいでよ。昔に何があったかとか、何者なのかとか、本当の名前とかも全部忘れちまってるみたいなんだ」
ここも、影からの報告にあった通りですね。
名前も出身地も年齢も、性別以外の何もかもが不明の謎の人物。
一度、イワタニ様から引き離すべきかとも考えましたが……一応、監視だけに留めました。
「…セントがお前の名前じゃないのか?」
「んにゃ、それはごく最近つけてもらった名前。呼ぶ時に不便だって言われてさ」
イワタニ様もその事は知らなかったのか、意外そうな表情でセント様を凝視されています。
反対に他の勇者様方は……とてつもなく怪しいものを見る目をしておりますが。
「記憶喪失……尚文さんはよくそばに置いてますね」
「出会った当初はそう思ったが……今となっては全く気にならん。こいつに俺を騙したり陥れたりするような悪知恵が働くとは思えなくてな」
「……あー」
「もしもし弓の勇者様? あーって何!? あーって!!」
……セント様には言えませんが、私も少し納得してしまいそうでした。
もしこれが演技なのだとしたら大変に危険な人物なのですが、まずそんな人間ではないのだろうな、という安心感といいますか無害な印象といいますか。
「まぁ、とにかくこれで男子の夢……じゃなくて手っ取り早い強化は叶わなくなったわけか」
「したかったのになー、変身…戦闘スーツなんてウェポンコピーできそうにないもんな」
何やら頬を染めたアマキ様が、咳ばらいをしながら話を続けます。
反対にキタムラ様は、セント様の謎の道具に名残り惜しさをあらわにしていらっしゃいますね。
殿方の琴線に、あれはそんなにも触れるのでしょうか。
おっと、先程のキタムラ様の発言に、イワタニ様が訝し気な視線を向けておりますね。
「ウェポンコピーってのは何だ?」
「あ? ああ、そういう基本的なところから知らないんだっけか。しょうがない、元康お兄さんが教えてしんぜよう」
「何だその年上風は……」
呆れるイワタニ様を他所に、キタムラ様が説明なさいます。
ほう……自分が持つ聖武器と同系統の武器に触れる事で、その形と能力を聖武器にコピーさせる事ができると。
そんな能力が……というか、それも既に皆様知っておられたのですか。
「ウェポンコピー…なるほど」
すると、セント様がおもむろに立ち上がり、懐から例の道具を取り出し、腰に巻き付けます。
そしてあと二つ、水色と黄緑色の小瓶のようなもの―――本人曰く、フルボトルと呼ぶアイテムを取り出します。
「弓の勇者、コレってコピーできんのか?」
【定刻の反逆者! 海賊レッシャー! イェイ!】
堰から離れたセント様が、道具に付いたハンドルを回し、鎧を生み出して身に纏います。
あの謎の声といい台詞といい、この方はどうも不思議なセンスをお持ちのようですね……いえ、注目すべき問題はそこではないのですが。
「…やっぱり羨ましい。量産の件は是非考えていていただきたいですね」
「それは置いといて。こっちだこっち」
【海賊ハッシャー!】
羨望の眼差しを送るカワスミ様に、セント様は手の上で作り出した弓…?を渡します。
カワスミ様はそれを受け取り、何やら集中する素振りを見せ……弓の聖武器の形状が変わりました。
「おお…これはなかなか優秀な装備ですね、固有スキルがついているとは。おもちゃっぽい外見を無視すれば、かなり使えそうです」
「……本当にコピーした」
感嘆の声を上げるカワスミ様を見つめ、言葉をなくしております。
私も実際に聖武器の力を目の当たりにして驚いておりますが……勇者様方の注目は、セント様の武器に向いておりますね。
「……俺が使えそうなものはあるか」
「ちょっと待ってねー」
【忍びのエンターテイナー! ニンニンコミック! イェイ!】
アマキ様が問うと、セント様はフルボトルを別のものに換え、またハンドルを回されます。
あれは……以前、影に返却させたもののはず。
影が言うには、何の前触れもなく変化したため、理由はわからないままだとか……調べてみる必要がありそうですね。
私が考えている間にも、セント様はアマキ様に短刀を―――刀身に絵が描かれた奇妙な武器を手渡してらっしゃいます。
「ほう、この能力はなかなか……ふん、悪くないな」
「セントちゃん! 俺は!? 俺にはなんかないの!?」
「悪い。槍っぽい武器はまだ作ってねぇんだわ」
「うそ―――ん!?」
キタムラ様が期待の眼差しを向けておられますが、セント様は申し訳なさそうに頭を下げます。そんなに落ち込むような事なのですか?
「まぁ安心しろよ。ナオフミも持ってないから」
「よかった! 仲間がいた!」
「黙れ!!」
「まぁ、とにかくこれやるからさ、ナオフミに色々教えてやって欲しいのよ。それとあと……わだかまりをできるだけでいいから、解消してほしい。頼むよ」
「……それ、渡す前に言う事では?」
ご自分で作られた武器を手渡し、深々と頭を下げるセント様。
本当ならこんな事をしていただかなくても、勇者様方にはぶつかる事なく話し合っていただくつもりだったのですが……。
すると、勇者様方もセントさんの真摯な対応にばつが悪くなったご様子です。
「まぁ、いいんじゃないか? セントちゃんもこうして頭下げてんだしさ」
「ふん、別に断る気はない」
「ええ、尚文さんには色々と助けられたこともありましたし、今回の件も合わせて借りを返すとしましょう」
どうやら、波乱になると思われた会談も、セント様のおかげで有意義に終えられそうですね。
どうなることかと思いましたが、これで安心して、波に意識を集中する事ができそうです。
……そんな私の考えは、どうやら少し浅はかだったようです。