Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜   作:春風駘蕩

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クラスアップ

Side:Sento

 

 勇者会談の翌日、オレ達はフィーロちゃんが引く馬車に乗って、旧三勇教、新たに四聖教となった教会にやってきた。

 目的はもちろん、オレ達全員のクラスアップのためだ。

 

「ついに来たな……!」

「ああ、クラスアップの時だ!」

 

 レベル40で足止め食らって、今日までだいぶかかったなぁ……それもこれもあのクズ王のせいだけど。

 あれで昔は猛将だったって、絶対ウソだろ。面影全然ねーぞ。

 

 まぁ、とにかくこれで上限が取っ払われて、波に向けてさらに準備が進められるってわけだ。

 

「あのクソ神官もいなくなってるし、今後の旅はもっと楽になんのかもなー♪」

「いやいや、今までがハードすぎたんだって」

「あのね! あのね! フィーロね、毒吐けるようになりたいの! ぶわーって! ぐわーって!」

「お前は結構毒吐いてるけどな」

「言えてる」

 

 砂時計の前で、リュウガやフィーロちゃんと一緒に和気藹々と話していると、後ろから盛大なため息が聞こえてきた。

 

「おいお前ら、あんまりはしゃぎすぎるなよ」

「「「はーい!」」」

 

 呆れた目で見つめてきて、オレ達に注意をしてくるナオフミに、三人で一斉に返事をする。

 ん? なんかナオフミがますます呆れた表情になったような……。

 

「…ったく、俺は幼稚園児の引率の先生か」

「あ、あはは……」

 

 ナオフミのため息に、ラフタリアちゃんも乾いた笑みを浮かべる。そんなに子供っぽかったか?

 

 それにしても……なんかナオフミのやつ、昨日からずっとモヤモヤ考え込んでる風に見えるな。

 勇者会議が失敗に終わったのが、そんなに残念だったのか? まともに情報得られなかったみたいだし……いや、そんなことで悩んだりしないよな。

 

 オレがナオフミを見つめて首を傾げていると、女王が手を差し出して、ナオフミに促してきた。

 

「ではイワタニ様、クラスアップさせる者を砂時計の前へ」

「フィーロちゃん、前譲るぜ」

「わーい!」

 

 さて、ついに時が満ちたわけだ。

 オレはまだちょっと悩んでるから、うずうずしてるフィーロちゃんに先を譲る。人生の大事な選択肢だもんな。

 

 で、砂時計の前に立ったフィーロちゃんが、淡い光の中に包まれていく。

 へぇ、これがクラスアップか……初めて生で見た。

 

「ナオフミは……あ、そうか。勇者は最初からレベルの制限ないんだっけ?」

「そうらしい。ご都合主義というか何というか……」

「異世界の住人だし、色々規格が違ったりすんのかねぇ?」

 

 ってか、どこらへんがレベルの最後の上限なのかね?

 レベル70とか80は、有名な冒険者にいたりするけど、90とか100はまず聞かない……勇者はそこらへんも突破できたりするんだろうか?

 

 ふむ、また研究欲がむくむくと膨れ上がってきたな。

 

「お前らはきちんと、どうなりたいか考えろよ。波が終われば、平和な暮らしが続くんだからな」

「そうだといいのですが……」

「まぁなー」

 

 そこら辺も、いつ平和な世界とやらが来るのか。

 ちょっと前は平和……だいたい平和な時代が続いてたと思う。あんまり昔の事は覚えてないけど。

 

 姐さんに拾われる前の事は知らないけど……前回の勇者の召喚からずっと、波は起きてないわけだしなぁ。

 小さいドンパチはあったかもしれないけど、それなりに平和だったんじゃなかろうか。

 

「……っていうかナオフミ君、お前その言い方だといなくなるか戦死する感じに聞こえるぞ」

「死ぬつもりはない。だが……ずっとこの世界にいるつもりはないからな」

「え―――」

 

 オレがナオフミの言い方に物申すと、ナオフミは自分の今の願いを口にした。

 そんで、ラフタリアちゃんがなんかショックを受けた顔になった。

 

 そうだった……こいつ、あのクソ女に騙されて以来、望郷の念が強くなってるんだった。

 

「俺がいなくなっても生きていけるように……お前達は自分の生きかたを考えとけよ」

 

 ラフタリアちゃんを鼓舞してるつもりなのか、そう言うナオフミだけど、ぶっちゃけ逆効果といっても過言じゃない。

 恋する乙女としては、ずっと一緒にいてほしいって思うもんだからな。

 

「気に病むなよ、ラフタリアちゃん。あいつの気もそのうち変わるかもしれねぇし」

「そう、ですね……」

 

 肩を落とすラフタリアちゃんに、オレも慰めの言葉を向ける。

 オレもできれば、あいつには元の世界に帰らず、仲良くしててほしいと思う……それはきっと、リュウガもフィーロちゃんも同じ想いだろうしな。

 

 とか何とかやってると、フィーロちゃんを包んでいた光がだんだん弱くなってきた。

 

「終わったみたいだな……って何じゃこりゃ!?」

 

 フィーロちゃんのクラスアップが終わったのを確認して、ナオフミがステータスを確認する……って、いきなり叫んでどした?

 ん? フィーロちゃん、なんか落ち込んでて、歩き方がとぼとぼって感じになってる?

 

「ステータス全部2倍近くになってるぞ! どんな選び方したらこんなんなるんだよ……お前、意外とポテンシャルすげーな」

「ほうほう…ならラフタリアちゃんも期待できるな」

 

 へー、そんなにすごいのか? それはまた、今後が楽しみになる吉報じゃないか。

 よしよし、行っておいでラフタリアちゃん。これで君も、波に立ち向かう超戦士に進化するのだ―。

 

 ん? 女王さんがなんか驚いてる。あんたもどしたん?

 

「ステータスが2倍……それは真ですか!?」

「あ? そ、そうみたいだけど……」

「そんな……ありえません。どんなに上昇したとしても、大抵は1.5倍が精々のはずですよ!」

 

 ナオフミの言葉が信じられないって感じで、女王さんが慌てふためいている……そうなのか? これが普通だと思ってたけど。

 そうしたら、ラフタリアちゃんと入れ替わる形で、暗い顔になったフィーロちゃんが戻ってきた。

 

「どういう事だ……あ、フィーロちゃんおかえり。聞きたいんだけど、なんか変な事とか変わった事なかったか?」

「うん……なんかね、なりたかったやつどれも選べなかったの」

「は?」

「え?」

 

 んん? 選べなかった?

 え? クラスアップって、自分が望む形に自分の存在を昇華させるものだって聞いてんだけど、どゆこと?

 

 オレ達がそう、フィーロちゃんの言葉に戸惑っていると。

 

「きゃあっ!?」

「うおっ!」

 

 びかっ! と。砂時計が凄まじい光を放ち、危うく目がやられかける。

 

 うぉい! 何だよ、いきなり何しやがんだよこの無機物が!

 勇者様御一考に目つぶし食らわせるとは、粉々に叩き割られてぇのかこの野郎!?

 

「ぐああああ! 目が! 目がぁあああ!!」

「あ、え…? クラスアップ…終わっちゃいました……?」

 

 ゴロゴロと地面を転げ回るリュウガを他所に、ラフタリアちゃんはぽかんとした様子で自分の体を見下ろす。

 …気持ちはわかるけど、もうちょっとあいつのこと気にしてあげて。

 

「うおぉ……ラフタリアのステータスも同じく倍加してる……」

「おい! どういう事だ女王さん!」

 

 思いもよらない事態に、我に返ったナオフミが女王さんに詰め寄る。

 そうだそうだ! どういう事なんだよ!?

 

 え? 特殊な道具を使うと効果が上がる事もあるって?

 それを使った状態で、ようやく1.5倍になる事があるって?

 

 ……あ! あああああ!

 

「あれだ! フィトリアがフィーロちゃんにやったアホ毛! アレのせいだきっと!」

「なんてこった……何考えてるんだフィトリアの奴! せっかくの二人の人生を勝手に決めやがって…!」

「フィトリア…? それはまさか、伝説に聞くフィロリアルの女王の名では…!? どうしてその名を……!」

 

 あんのやろう、勝手な事しやがって……!

 

 頭を抱えるオレとナオフミの方に、なんか違う種類の興味を抱いた女王が逆に詰め寄ってくる。

 おい、どした? なんか目がかっ開いて恐いんだけど。

 

「ああ、なんて事…! あの伝説がまさか真実であっただなんて…! これは是非、メルティにも話を聞きたいものですね!」

「こっちはそれどころじゃないんだっての!」

 

 なんかこの反応見た事あるぞ……メルティがフィーロと出会った頃、こんな目してたぞ。

 血筋か。そんで母親の方は、古代の文献とか伝説に興味津々なマニアって事か。……この国の王族って、変な奴しかいないのか?

 

 オレ達の視線が冷たくなっている事に気付いたのか、女王は頬を赤く染めながら居住いを正す。いや、遅いからな?

 

「んんっ……フィロリアルの女王様のお導きならば、そう頭を抱える必要もないのでは?」

「よくない! 俺はあいつらに、一人でもこの世界を生きていけるようになって欲しかったんだよ!」

 

 女王がフォローするけど、ナオフミは顔を険しくしたまま首を横に振る。

 ナオフミの考えとしては、そうだろうな。戦う事は、平和を得るためお手段であって目的じゃないんだから。

 

 ……さて、と。

 

「よし、じゃあ次はオレな!」

「待て! オレが先がいい!」

「喧嘩してる場合か! ていうか、この状況で続ける気か!?」

 

 隙を見て、砂時計に向かうオレだったが、同じことを考えていたリュウガが割り込んできた。

 もみ合うオレ達に振り向いたナオフミが、目を吊り上げてツッコミを入れてくる。別に、そんな気にする事でもないんだけどな。

 

「構やしねぇよ、ナオフミ。別にラフタリア達みたいになって困るわけじゃねぇしな」

「だが……」

「オレ達の未来を心配してくれるのはありがたいけどよ、それは結局先の事だろ? 今を戦い抜かない限り、その未来には辿り着けねぇんだからよ」

 

 戦いを生き延びたい、平和な世界で暮らしたい。

 この二つの願いは同時には叶えられなくて、どちらかを優先させなきゃならない……だからオレは、戦う術を優先して求める。

 

 これがのちに無用の長物になるかって聞かれれば……はっきり言ってわからない。未来の事なんて、誰にもわかんないんだからな。

 

 オレがそう告げると、ナオフミはもう、心の底から呆れた様子で、でっかいため息をついて肩を落とした。

 

「お前らな…」

「ま、オレとしては何か知らねぇ間に強くなっててラッキーって感じだけどな!」

「オレも〜!」

「お前らなぁ…!」

 

 さ、無駄話はこれくらいにして、クラスアップだクラスアップ!

 あ、リュウガてめぇ、だから割り込むなよ! オレが先だろオレが!

 

「……はぁ、勝手にしろ」

 

 もう一度もみ合い、順番を争うオレ達に、ナオフミはそう言って苦笑を浮かべるのであった。

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