Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜   作:春風駘蕩

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船での出会い

Side:Raphtalia

 

 懐かしい……故郷の村にいた頃によく嗅いだ匂いが、そこら中から漂ってきます。

 

 戦力の向上を目的に、女王様が教えてくださった活性化したカルミラ島に向かうため、私達はメルロマロクの港へとやってきました。

 移動費や諸々の費用は女王様が負担してくださるという事で、安心して用意された船に乗り込んだのですが……。

 

 

 

「はぁ!? 俺達の部屋がない!?」

 

 部屋に向かおうとした矢先、船長さんや乗組員の方々が顔を見せて、申し訳なさそうな顔で頭を下げられました。

 

「申し訳ありません…! 他の勇者様方が、お仲間のためにと全て貸し切ってしまい……」

「いきなり前途多難だぜ…」

「あいつら……ふざけんなよな!」

 

 そういえば、他の勇者様達のお仲間もかなり大勢でしたが……十分足りるよう、配慮くらいされていると思っていましたのに。

 ……そういうわがままを言いそうな方に、何人か心当たりがありますね。

 

 頭を抱えて顔をしかめるナオフミ様と同じく、セントさんもリュウガさんも、地団駄を踏んで苛立ちをあらわにされています。

 すると、深いため息をついたナオフミ様が呟きます。

 

「仕方がない、普通の部屋でいいか」

「だな…」

「よ、よろしいのですか!?」

「暴君じゃねーんだ、あんた達に当たったりしねぇよ」

 

 戦々恐々といった雰囲気の船長さん達に、セントさんが苦笑を浮かべて手を振ります。

 悪いのはこの方々ではありませんし……こうも怯えた表情で謝られても困りますからね。こちらが悪いことをしている気になりますし。

 

 

 

 そうして私達は、船長さん達に紹介された、空きがある部屋に向かいました。

 

「いきなり災難だったな」

「まったくあいつら……勇者の立場を勘違いしてるんじゃないのか?」

 

 ぼやきながら、とりあえず一息つくために部屋を目指します。

 一つ、二つ、三つ……と扉の前を通り過ぎ、入り口からだいぶ離れた奥の部屋の前に辿り着きました。

 

「ここだな、相部屋になったのは」

「すいませーん、ちょっといいですかー?」

 

 ナオフミ様がドアをノックするのと同時に、セントさんが中にいる方に声をかけます。

 船長さん達から、話はつけてくださっているとのことですが……第一印象は大事です。何せ向こうにとっても急で、思わぬ事態なのですから。

 

 ノックと声かけをして少し経ち、ガチャリと扉が開かれーーー一人の赤髪の男性が顔をのぞかせました。

 

「おう、なんか用か? 坊主」

 

 男性は何とも気の良さそうな、親しげな雰囲気で話しかけてきます。

 どうやら気難しい方と一緒になるような事態にはならずに済んだようですね。

 

「坊主って……俺はもう二十歳なんだが」

「ああ、悪い悪い。俺より年下に見える奴はどうしてもそう呼んじまってな、癖なんだ」

 

 ナオフミ様はナオフミ様で、ご自分の呼ばれ方が不満なようでしかめっ面になってしまっていますが……赤髪の男性はそれも気にしていないようでした。

 

 すると、部屋の奥からもう二人、若い女性が顔を見せてきます。

 

「ちょっとラルク、初めて会う方にその態度は流石に失礼よ。今更な話だけど……」

「そうだぜ若大将、初対面でそりゃあ馴れ馴れしすぎるぜ……悪いな、お兄さん方」

「すみません……」

 

 青い……緑? 不思議な色合いをした、光の角度で色が変わって見える、宝石のような髪をした綺麗な女性と。

 もう一人は……鋭い目に赤い鱗を肌に生やした、背の高い女性です。チロチロと飛び出す細長い舌が、この方が蛇の亜人である事を示しています。

 

 お二人ともとてもお綺麗ですが……宝石の髪の方だけ、言葉がよく聞き取れませんでしたね。

 

「あの……お付きの方は外国の方でしょうか。言葉が…」

「ああ、えぇと……」

 

 宝石の髪の方はハッとした様子を見せると、おもむろに赤髪の方の腰に提げた鎌に触れました。

 すると、そこから淡い光が発生し、宝石の髪の方はそれをご自分の喉に押し当て……塗り込むように取り込みました。

 

「これで大丈夫でしょうか?」

「あ、はい! 聞き取れます」

「よかった。それでは…改めて自己紹介といきましょうか。相部屋を希望の方々ですよね?」

「あ、はい!」

 

 途端に言葉がわかるようになって、思わず背筋が伸びてしまいます。

 魔法でしょうか……あんなにも簡単に言語を訳せる魔法だなんて、この方は高度な魔法使いなのでしょうか。

 

「…ん? あれ!?」

 

 その時、部屋を覗こうと四苦八苦していたセントさんが、ナオフミ様を押しのけて前に出てきます。

 セントさんらしくない反応に、私達が唖然としていると、蛇の亜人の方が突如ニヤリと快活な笑みを浮かべました。

 

「よぉ、久しぶりだなぁ……セント」

「姐さん!?」

 

 驚愕の声をあげ、目を丸くするセントさんが、飛びかかるような勢いで蛇の亜人の方の肩を掴みます。

 蛇の亜人の方も、頬を緩ませたまま、抱きついてくるセントさん肩をポンポンと、優しく叩いてやっています。

 

「何だってこんなところに!? ゼルトブルに行くとか言ってなかったっけ!?」

「ちょいと予定を変更してな、のんびり船旅をする所だったのよ」

「はーっ! いやいや偶然にしても都合よすぎだろ!」

 

 再会の喜びを称え合い、わーっと騒ぎ合うセントさんと蛇の亜人の方。

 お二人にとっては、大変喜ばしい事であるのがわかりましたが……そろそろ私達をほったらかしにするのはやめていただけないでしょうか。

 

 ああ、ほら……ナオフミ様だけでなく、蛇の亜人の方のお連れの方まで呆然とされていますし。

 

「おい、おい。いい加減説明しろ」

「イスルギ、お前の知り合いか?」

「ああ! オレの恩人で名付け親! 蛇の亜人のイスルギ姐さんだ」

「蛇じゃねぇ、コブラだって言ってんだろバカウサギ」

 

 胸を張り、我が事のように語るセントさんの頭を、蛇の亜人の方ーーーイスルギさんが小突きます。

 大体一緒だと思うのですが……本人としてはこだわりがあるのでしょうね。小突かれた頭を抑えるセントさんを、じろりと睨みつけています。

 

「恩人って……どういう事ですか?」

「記憶を失ってさまよってたオレを拾ってくれてな、色々助けてもらってたのよ。……いやしかしこんなところで会うとは」

「オレもびっくりだよ。いつの間に旅仲間ができたんだ?」

「色々あったのさぁ…ホントに色々と」

「ふーん……」

 

 ……まだまだ、私たちの知らないセントさんがいるという事ですね。

 記憶を失う前のセントさんどころか、私達と出会う前のセントさんのことなんて、何も知らないままですからね。

 

 いつか聞ける機会があればいいのですが……いつになるでしょうか。

 

「さて、話を戻そうや……俺はラルクベルク。冒険者だ。ラルクって呼んでくれ」

「同じく、テリスと申します。ラルクとは幼馴染なんです」

「オレはイスルギ。こいつらとは最近知り合った仲でな」

 

 赤髪の男性ーーーラルクベルクさんが場の空気を入れ替えるように声を発し、それにテリスさんとイスルギさんも続きます。

 ラルクさん、こちらに気を使ってくださったのでしょうか。優しい方ですね。

 

「ラフタリアと申します」

「フィーロはね、フィーロっていうの!」

「セントっていいまーす。イスルギ姐さんとは恩人関係にありまーす」

「…リュウガだ」

 

 ラルクさん達に合わせ、私達も名乗ります。

 ここも、第一印象が大事ですからね。船旅の間もですが、セントさんの恩人がいるのであれば、仲良くしておいて損はありません。

 

 やがてナオフミ様も、イスルギさんを見つめて何やら考え込んでおられましたが、ため息とともに口を開きました。

 

「……一応、こいつの今の雇い主をやっている盾の勇者ナオフミだ。よろしく」

 

 ナオフミ様がそう名乗った数秒後のことです。

 

 ラルクさんもテリスさんもイスルギさんも、プッと吹き出したかと思うと、大きな声をあげて笑い出しました。

 ど、どうなさったのでしょう…!?

 

「おいおい、お兄さん。偽名を名乗るにしてもそりゃどうかと思うぜ」

「は?」

「ナオフミってのぁ、奴だろ? 盾の勇者ナオフミ・イワタニ! 最低最悪の男だって噂になってらぁ」

 

 イスルギさんが大仰に……舞台役者の口上のような勢いで語ります。

 以前、吟遊詩人がこのような形で、ナオフミ様のことを話していたのを聞いた覚えがありますが……思い出したら腹が立ってきましたね。

 

「ちなみに、どんな噂なんだ?」

「極悪非道、冷血無慈悲! 貧しい人間を脅して金品を巻き上げ、時には権力者に媚入り、気に入らない奴を処刑までするとんでもない奴だってな!」

 

 根も葉もない噂ばかりを詰め込んだような内容ですね。

 まだナオフミ様が冤罪を晴らしてそんなに経っていませんから、仕方のない話だとは思いますが。

 

 ……多少、いえほんのちょっとだけそんな感じのことがあったかもしれませんが。

 

「……そこまで間違ってもいないな」

「否定してください、ナオフミ様」

 

 私が言葉を濁した意味がないじゃないですか。

 もっとご自分が勇者であるという自負を持って欲しいのですが……どうしてこうも悪ぶるのでしょうか。最近はそれを楽しんでいますし。

 

「噂がどうかは知らんが、俺の名前は岩谷尚文だ」

「わかったわかった……そういう事にしておこう。長い旅だ、お互い詮索はなしとしようぜ」

 

 偽名を名乗るのも礼儀に反しますし、名乗っても信じてもらえないのであれば、もうどうする事もできませんね。

 もっとこう……善行が知られればこんな事にならないのでしょうけど。

 

「よろしく、今後の長い付き合いを期待してるぜ。自称・盾の勇者殿」

「……自称ってお前」

 

 そんななんとも言えない自己紹介が終わり、私たちとこのお三方の初邂逅は終わったのでした。

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