Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜 作:春風駘蕩
Side:Sento
「いやぁ…」
「なんていうか、見違えたな…」
鉱山の一件から数日後、オレたちはおやっさんの店に久々に向かった。
理由は装備の一新と、そろそろナオフミの格好をどうにかしようかってラフタリアちゃんと相談したから。
で、今おれ達が唸っているのは、ラフタリアちゃんに起こった変化についてだ。
「あんなにやせっぽちだったのに…! 時が経つのは早いなぁ! …出会ってまだちょっとしか経ってないけど」
「結婚前夜の花嫁の親父かお前は」
ナオフミはそんな風にいうけど、ホントに変わったよなぁ、ラフタリアちゃん。
ぼさぼさだった髪はサラッサラに。
チビで痩せてた体はなかなかナイスバディに。
こういうのなんて言うんだっけ、げきてきびふぉーあふたー?
とにかくラフタリアちゃんが美女に変身したって話だ。
「そんなこと言ってぇ〜、ナオフミだってこんなに別嬪さんに育ったラフタリアちゃんを見て心がざわつかないわけないだろ〜? ドキッてしてんじゃないの〜?」
「そうだぜアンちゃん。あんたは今ものすげぇ恵まれた立ち位置にいるんだぞ? 羨ましいなぁおい」
「うぜぇ…!」
こんなにかわいい子が二人もいるんだ。ちったぁドヤれよこのやろう。
人間不信に陥ったナオフミだって、こんだけ奇麗な子がそばにいるならそのうち心開くだろうさ。
「10歳前後の子供に欲情するわけないだろ。人をロリコン扱いするな」
「…………?」
…………ん?
あれ? なんか…おかしくない?
ナオフミ誰の事言ってる? 今オレたちラフタリアちゃんのこと話してたよね、そうだよね?
「おやっさんおやっさん、どゆことこれ?」
「…ひょっとしてアンちゃん、本当にわかってないのか?」
「あ?」
おやっさんが聞いてみるけど、ナオフミはマジでわかってない様子で眉間にしわを寄せている。
うわぁ…うわぁ、マジかぁ。
そこまで重傷だったのか我らが主は。
「親父さん、セントさん、その辺で……」
「あ、ああ…」
「不憫なラフタリアちゃんだこと…いや、この場合不憫なのはナオフミの方か」
どんだけ深いんだよ、こいつの心の傷は。
こいつがずっとこの調子なら、ラフタリアちゃんの想いの成就も当分先になりそうだなぁ。
…まぁ、それはまた後で考えよう。
「で、今回は何しに来たんだ?」
「こいつの装備を新調しに……」
「ナオフミ様の装備を買いにきたんです!」
「おい!」
「まあまあまあ」
ナオフミの発言を遮っちゃったけど仕方ない!
いやいやナオフミさん……あんた今、村人とほとんど変わらない格好してるよ?
誰一人勇者なんて思わないよ? いいの?
「予算はどのくらいだ?」
「銀貨180枚くらいで」
「その値段だと……鎖かたびらが妥当か」
「ケッ!」
おやっさんが鎖帷子を出した途端、ナオフミがつばを吐いた。
え、何? あんたの地雷ってどこにあるの?
「……ナオフミ、鎖かたびらになんの恨みがあるの?」
「悪かったよアンちゃん。今のはナシだ」
おやっさんはなんか事情を知ってるのか、ナオフミにものすごく申し訳なさそうに頭を下げてる。
……いい加減、詳しく聞いてみるべきか。
「素材は結構揃ってるし、頼めばオーダーメイドしてくれるんだよな?」
「おう、色々オプションもつけられるぜ」
「なるべく安価に……それでいて高品質にできませんか?」
「勝手に決めるな!」
怒鳴るナオフミだが、ここは譲るわけにはいかない。
だってお前、こないだ油断して魔物に攻撃食らってたじゃん。あのハリネズミだかヤマアラシだかいう奴に。
いい素材だったけど。
「ナオフミ様……」
と、渋るナオフミの前で、ラフタリアちゃんが異様な雰囲気を伴いながら剣に手をかけた。
何て言うかこう、有無を言わさない感じで。
「戯れはほどほどにしないと……死んでしまいますよ?」
「ヒェッ…!」
思わず、オレの口から悲鳴が漏れる。ついでに下の方からも漏れそうになったけど、根性で元栓を締めた。
当の本人はおやっさんと「いい剣ですね!」「使ってみるかい?」なんて話してるけど、オレは忘れられそうにない。
あれマジで殺る気だったよ。
「な、ナオフミ…ラフタリアちゃんは今後絶対に怒らせちゃいけないと思うんだ……でないとオレたちどんな目に遭うか」
「あ、ああ……最近妙にしたたかになってきたな」
出会った当初よりも逞しくなったのはうれしいんだけどさぁ……。
何かこう、時々すっげぇ恐い視線感じるんだよね、ナオフミと一緒に調合やってたりすると。
…違うからね? オレは別にそういう関係じゃないからね?
「お忘れですか…? 災厄の波が迫っているのを」
もの言いたげなナオフミに、ラフタリアちゃんは心配そうにそう告げる。
そう、オレがナオフミの装備を気にしてるのも、期限が少しずつ迫ってきているから。
いつまでも村人Aの格好じゃ困るのだ。
「そういえば、そろそろだったか……具体的にはいつになるんだ?」
「あれ? 知らなかったのか?」
おいおい、勇者がそんなんで大丈夫なのか? パーティーメンバーとしてすげぇ不安になるぞ?
首を傾げるナオフミに、オレは説明してやった。
「国の教会にさ、龍刻の砂時計っつってでかい砂時計が置かれてるんだけど、それに波が起こる時期が表示されるんだってよ」
「……なんで記憶喪失の不審者のお前が知ってて、勇者の俺が聞かされてないんだよ」
「…なんか、ゴメン」
今更だけどナオフミに対する冷遇が凄まじい。
やっぱり気になるなぁ、何だってこいつ一人にこんなにヘイト重なってるんだ?
「なら確認しに行くか……」
「そうだな。じゃあおやっさん! ナオフミの装備、用意しといてくれるか?」
「任せとけ! 嬢ちゃんたちが結構いい素材持ってきてくれたからな。いいものが作れるぜ」
「だから勝手に……もういい」
疲れた様子で肩を落とすナオフミを見て、オレは思わず笑ってしまう。
最近、なんか話がしやすくなったな。前より壁が薄くなったっていうか……距離が縮まったような。
いいことだ。
「ならそれで頼む。セント、素材と金を渡しとけ」
「あいよ〜」
おれはナオフミとラフタリアちゃんを見送り、預かった金と素材をおやっさんに渡す。
しかし、連れ立って歩く姿はお似合いに見えたなぁ…式はいつだコノヤロー。絶対呼べよ? 絶対行くからな?
「なんかこう……尻に敷かれる未来が見えるな」
「嬢ちゃんも頼もしくなってきたからなぁ」
ときどき立場が逆転する二人に、おやっさんと一緒にけらけら笑う。
最初に会った時からは想像もつかないな。あんなにビクビクしてた子がああも立派になるとは。
すると、おやっさんは心底安堵した様子で微笑んだ。
「……俺は、安心したよ」
「ん?」
「アンちゃんがな、前よりマシな目になってきたんだ。……一時は、何もかもを呪いたくて仕方がねぇって目だったんだけどよ」
…聞くなら今だな。
ていうか、おやっさんはナオフミがこの世界に来てすぐの事を知ってるのか。
一番長い付き合いって事なのかな…?
「……あのさ、聞いてもいいかな」
「なんだ?」
「オレが知ってるのは噂のさわりだけで、詳しいことは何も聞けてないんだ。……本人から聞くのも、アレだしな」
聞いてみたオレだけど、正直あまり気が進まないのも本音だ。
ナオフミとはそれなりにいい関係を築けているとは思う。信頼関係はまだまだだけど、少なくとも背中を預けるには十分な間柄にはなれてると思う。
今さら何か聞いたところでどうにかなるとは思ってないけど…影響はあるとは思う。
「俺も現場にいたわけじゃねぇ。それに…噂を鵜呑みにしてたときもあったんだ。あまり参考にはならねぇぞ」
「それでもいいよ。できるだけ……あいつのことを知っておきたい」
渋い顔で答えるおやっさんに頼み込み、オレは聞く体勢に入る。
しばらく悩んでいたおやっさんは、しょうがないなという風な顔でため息をつき、オレに目を合わせてきた。
「……アンちゃんはな」
⌘
Side:Naohumi
「あ、セントさん!」
俺とラフタリアが教会に向かって歩いていると、使いを終わらせたらしいセントが早足で近づいてくるのに気づいた。
だが…何だ? うつむいたまま無言で向かってくる。
「終わったのか? 思ったより早く来たようだが…」
何かあった様子だったため、問いただそうとした時。
セントは何も言わないまままっすぐ俺の前まで近づき、俺に抱き着いてきた。
「……は?」
「なっ…!?」
俺はいきなりの事で硬直し、ラフタリアも混乱して声を上げている。
だがセントはそれに反応せず、ただじっと俺の背中に手を回し、俺の肩に顔をうずめるだけだった。
何だ? 何がきっかけでこうなった?
「なななっ…何をやっているんですか!?」
「……ん」
ラフタリアが引きはがそうとした時、ようやく満足したのかセントは自分から離れた。
「よし、行くぞ! 待ってる間にまたレベル上げにでも行こう!」
「あ、ああ……」
なぜか不機嫌そうに睨むラフタリアを放置し、セントはずんずんと先に進んでいく。
全く意味がわからんが…まぁ、本人がやる気に満ちているならいいか。
と、その時。腹の虫が盛大に鳴り響く音が聞こえた。
「……その前に腹減った」
「お前な…」
腹を抑えるセントに、俺は思わず脱力する。
こいつ…珍しくシリアスな雰囲気だったなと思ったら、台無しじゃないか。
まぁいい。腹ごしらえに行くか…
「いい加減にしてくださいナオフミ様!」
そうして、ラフタリアと最初に言った定食屋に行き、前と同じメニューを頼むと今度はラフタリアが騒ぎ始めた。
何を怒っているんだ? お前の好きな食べ物だろうに。
「私はもう子供じゃありません! お子様ランチはもういいですから!」
「そう遠慮するな。今のうちにしっかり食べておけ」
「そういうことじゃ…ああもう!」
顔を赤くして俺に抗議するが、なんだかんだ言ってちゃんと食べてるじゃないか。
…ん? セントがラフタリアのお子様ランチを凝視している。
……こいつ、もしかして。
「…なんだセント。お前、そっちの方がいいのか」
「あ、いや、なんていうかさ…こういうもの食べてたかどうかも忘れてるもんだからさ……どんなのかなって思って」
俺が尋ねると、セントは気恥ずかしそうに頭をかいて答えた。
ああ、たんに物珍しかっただけか。
「なら交換しましょう! 是非しましょう!」
「お、おう…?」
すると、ラフタリアがいきなり立ち上がって、セントの分の定食と自分のお子様ランチを入れ替え始めた。
ははぁ、これはあれだな。
子供が無理して大人ぶりたくて、違うものを頼みたがるあれだな。
「ほうほう…これはまた」
セントはセントで、自分の分に回されたお子様ランチを興味深そうに調べている。
こいつもこいつで堪能していやがるな…。
「……俺にとっちゃ、どっちでも一緒だがな」
そう独り言ち、俺は一番安い定食を口に運ぶ。
味はやはり、しなかった。