Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜 作:春風駘蕩
Side:Raphtalia
「勝利の法則は、決まった!」
【ボルテックフィニッシュ!】
「たー!」
船から降り、宿に泊まった翌日。
私達は港で船頭さんを雇い、人が住む町がある島とは別の、豊かな自然が広がる魔物達の領域に入りました。
そこで早速、遭遇する魔物を相手に戦い、倒して経験値を獲得していたのですが……。
「経験値たっか! こりゃ結構な結果が期待できそうだな」
「たーのしー!」
「噂通りだな……あとで別の弊害も出てきそうだが」
セントさんやフィーロがはしゃぐ通り、そこらで現れる大した強さを持たない魔物から、驚くほどに高い経験値を得ることができたのです。
メルロマロクでナオフミ様がよく利用していたバルーンと同じくらいの強さの魔物なのに、得られる経験値が十倍近かったり……活性化、おそるべしです。
嬉しい限りなのですが……お手軽に強くなりすぎて、精神的な鍛錬が遅れてしまいそうですね。
ナオフミ様はどうやら、そこを気にされているようです。
「ぃよっし! この調子で最大レベルまで上げて―――おわーっ!?」
セントさんがぐるぐると腕を回し、新しく近づいてきた魔物に挑もうとします……がその前に、空中で弧を描く光の弓矢が飛来し、セントさんの足元に深々と突き刺さりました。
思わず仰け反ったセントさんは、そのまま尻餅をつきます。
なんて危険な……というかこれは、非常に見覚えがある攻撃です。
「おっとと、すみません。新しい武器の性能を試していたら、勝手に妙な方向に……って、なんだ尚文さん達でしたか」
そう言って、弓矢が飛んできた方からぞろぞろと、弓の勇者様のご一行がやってきました。
よく見ると、弓の勇者様に手にはセントさんの作った機械の弓が握られています。
そういえば、セントさんの弓をコピーさせたとナオフミ様がおっしゃっていましたね……って、問題はそこじゃありません!
「おい樹! お前人の獲物に手を出すとか、素人でもやらないマナー違反だぞ!」
「何を言う! 貴様らが危険な魔物に遅れをとる前に、先んじて悪を滅したイツキ様のご厚意を無下にする気か!!」
危うくセントさんが串刺しになりかけた事で、ナオフミ様が弓の勇者様に抗議の声をあげます。
が、弓の勇者様ではなく、分厚い鎧を着た例の男性が声を荒げ、ナオフミ様の前に立ちはだかります。弓の勇者様も諌めませんし、他の方々も……お一人だけ、あの気の弱そうな女性を除いて同じ考えのようですし。
……この方々、前々から思っていましたが自分勝手すぎませんか?
「何言ってんのこいつ……何言ってんの?」
「こういう奴なんだよ。前もこんな感じで突っかかってきてよ……」
「少々騒ぎすぎたと反省していますが……大半の原因がこの方である事は確かです」
ひそひそと小声で話しかけてくるセントさんに、リュウガちゃんと一緒に説明します。
本当……横柄な態度であの気弱そうな女性に突っかかるわ、他の方々を邪魔そうに扱うわ、人格的に問題があると言わざるを得ない方ですね。
「落ち着いてください、マルドさん。大した問題ではありません。……言っておきますが尚文さん、ファーストアタックは僕がとったんですから、この獲物は僕のものですよ。そちらこそ気をつけてください」
「お前……はぁ、もういい」
ナオフミ様も、心の底から呆れられていますね……当然としか言えません。
この島の領主様の説明で、獲物の横取りは禁止、という項目があったでしょうに。それをさも私達を思ってのことのように……。
鎧の方はもちろんですが、弓の勇者様もかなり難しい性格をされているようですね……似た者同士のパーティーといったところでしょうか。
「ここは僕は先に狩場にしたので、どうぞ尚文さんは他の島へ。場所はダブると、お互いの成長に差し支えますからね」
「あぁ!? 何でこっちがどかなきゃならねぇんだ! ふざけんじゃ……」
「やめとけやめとけ、真面目に怒っても通じねぇよ、この手の奴には」
リュウガさんが食ってかかりそうになりますが、セントさんがそれを止めています。
セントさんもとても苛立っているご様子ですが……必死で堪えているように見えます。
なんといいましょうか……勇者様とそのお仲間達というよりも、神とその熱心な信奉者という構図に見えますね。
狂信者には以前、ロクな目にあわされていませんし、ここはあまり関わらないほうがいいかもしれません。
「仕方がない……他の島を回ろう」
釈然としない気持ちを抱えたまま、私達はその場を離れ、別の島へ行くために船頭さんの元へ向かいます。
その途中で、あの気の弱そうな女性が他のお仲間にぞんざいに扱われている姿を見て……ひどく、嫌な予感に苛まれました。
ですが、他人のパーティーに口出しできる資格もない私は、そのままナオフミ様達と一緒に島を後にしてしまったのです。
そして他の島にて、私達は活動を再開し、そこで複数の甲虫の姿をした魔物―――カルマービートル達と遭遇し、戦闘を開始しました。
【サメ!】【バイク!】【ベストマッチ!】
「ベストマッチ、来たーっ!!」
早速、セントさんが新しく手に入れたフルボトルを使い、鎧を生み出してその身に纏います。
今度のはサメと……セントさんが乗っている二つの車輪が前後についた、バイクと呼ぶ乗り物を模した鎧に変わりました。
【独走ハンター! サメバイク! イェイ!】
「ひゃっほぅ! ぶちかますぜぇ!!」
セントさんが吠えた直後、ブオン! と凄まじい爆音が鳴り響き、セントさんの体が前へと滑り出します。
カルマービートルはすぐさまセントさんに襲いかかりますが、セントさんの方がはるかに早く、全く追いつけていません。
猛スピードで敵を翻弄しつつ、セントさんは不意に、カルマードッグ達から距離を取ります。
【ボルテックフィニッシュ!】
「うおおおおおおおお!!!」
ベルトのハンドルを回し、雄叫びをあげて拳を突き出すセントさん。
すると、セントさんの右手から半透明のサメが出現し、カルマービートル達に噛み付いていきます。
カルマービートル達は体の一部をえぐられ、断末魔の声をあげられないままにどさどさと倒れていきました。
骸となった魔物達の元に、セントさんが空のフルボトルを持って近づき、骸を中に吸い込ませます。
そしてボトルが変化し、カブトムシの意匠のものへ変化しました。
「うっほほほ♪ 見てくれよ、フルボトルがこんなにたくさんできたぜ〜♪」
「カブトムシに、トラに……かなりの収穫になったな」
「女王さんが手配してくれた素材もあるし、こいつらはどれとベストマッチするかな〜? いや〜、楽しみだ」
じゃらじゃらと手のひらの上に乗せた、いくつものフルボトル。
先ほどのカブトムシに、トラになど森の中で遭遇した魔物の力が、続々とフルボトルの中に集まっています。
この人は、一体何種類集める気なのでしょうか…?
「樹のパーティーとのブッキングが痛かったが、なかなか収穫がいいな」
森の奥に行けば行くほど、それなりの強さの魔物が現れ、非常に高い経験値を得ることができます。
他の勇者がいない島であれば、手付かずの獲物とより多く遭遇できるのですから、違う島にきて正解だったかもしれませんね。
……と、そこまで考えながら、私は先程から違和感を感じている武器に意識を傾けます。
「? どうした、ラフタリア」
「少し……武器が心許なくなってきてまして」
「フィーロもツメがへんー」
なんといいましょうか……刃が切れにくくなっているような、軽すぎて今ひとつ手応えが感じづらいといいますか。
フィーロも同じようで、ずっと使い続けている爪を見て首を傾げています。
「二人の急激なレベルアップに、武器が追いつかなくなってきてるのか……お前らはどうだ?」
「んにゃ、こっちは大丈夫。そうなっても大丈夫な仕様になってっから」
「オレも……と言いたい所なんだが」
レベルが上がっても、使い心地が変わらない武器とは羨ましいですね……今度、フィーロと一緒にセントさんに作ってもらえるよう、お願いしておきましょうか。
そんなことを考えていると、リュウガさんが服の裾を引っ張り、居心地悪そうな顔をしていることに気づきました。
……そういえば、そろそろでしたか。
「単純に服がきつくなってきた…」
「ああ、急成長が始まったのか。ラフタリアの時と同じだな」
「…戻ったら服の調達をしましょうか」
「手間かけて悪いな」
申し訳なさそうに頭を下げるリュウガさんに、私は首を横に振ります……仕方がないですよ、そういうものなんですから。
懐かしいですね、私も以前は急成長して、服の調整が大変でした。
……まぁ、ナオフミ様は全然気づいていませんでしたけど。直してくれたのは宿の女将さんとかでしたけど。
「リュウガもそのうち大人になるのかー……感慨深いねぇ」
「お前はオレの親か!」
しみじみとした口調で呟くセントさんに、リュウガさんが目を釣り上げて吠えています。本当に仲がいいですね。
…それにしても、成長が止まる前の段階で、随分体が大きいような…?
レベル上げも、切りのいいところで一旦終えて、野営に入りました。
焚き火のそばでは、戦闘で回収した素材と森の中にあった素材、そしてナオフミ様の盾が出したアイテムドロップ? という特殊な道具が並べられています。
「やはり、実力が上がると収穫も違う……後の懸念は、レベルに気持ちがついていけるかどうかだが。変な万能感が芽生えなければいいが」
「その辺はまぁ、終わってから考えようぜ」
どっさりと、山のように積まれた素材を眺めながら、ナオフミ様が難しい顔をされています。
セントさんはそれを楽観的に笑いますが……確かに、レベルに振り回されないかが不安です。
ですが、この先の波がどれだけの強さを見せてくるのかわからない以上、力が必要なのは揺るぎない事実です。
「ところでお前達、渡した武器はどうだ? 急場凌ぎだから、使いづらいかと思ったんだが…」
「大丈夫です。まだ使えそうです」
「フィーロもー、でもさいしょの爪のほうがつかいやすいー」
「そうか……メルロマロクに戻ったら、親父に頼まないとな」
途中でナオフミ様から渡された武器を見下ろし、私もフィーロも頷きます。
素材と、造る為のレシピさえあればどんなものも作れるという話ですが……勇者の武器の不思議さに、改めて驚かされるばかりです。
「便利だなー、アイテムドロップ。武器も作れるとは思わなかったけど」
「あいつらの力が強かったわけだ……ったく、何でこれに気づかなかったんだ、俺は。ゲームの定番だろうに」
羨ましそうな言葉とは裏腹に、セントさん…不満げですね。
まぁ、魔導科学者を名乗っているくらいですし、作るという分野においてプライドのようなものがあるのはわかります。
…その割には、武器ができた瞬間にまた盾に飛びついていましたけど。
「さて、こっからどうするよ。夜をここで過ごすか、一旦戻るか」
「ふむ…可能な限りレベルをあげておきたいところなんだがな。もう少し続けるか…」
辺りは真っ暗で、どこに魔物がイルカ耳を澄ませてもよくわからない程ですが、活性化の期間を有意義に使う為には、多少も無茶も必要かもしれません。
そう話し合い、動き出そうと腰を上げた時でした。
「……なんか来るぞ」
「敵か!?」
突如、セントさんが森の奥に振り向き、耳を立てて呟きました。
すぐさまリュウガさんが立ち上がって拳を構え、私達も武器を以て、セントさんが見た方向を睨みます。
ガサガサと、草木を掻き分ける音が徐々に近づいてきて、そして。
「やっと見つけたぜ、坊主達!」
―――大きな鎌を持ったラルクさんと、掌の上に光を灯したテリスさん、そして草木を掻き分ける石動さんが顔を出しました。
突然の事に、身構えていた私達はぽかんと呆けた顔になってしまいます。
えっと……どうして、こんな所にあなた達が?
「ラルク! テリスにイスルギも……!?」
「お前らが全然戻ってこないってんで、船頭が慌ててたのよ。心配かけさせやがるぜ」
「……それで、探しにきたのか」
「おう! まだ坊主達とは、一緒に狩りをする約束を果たしていないからな!」
敵ではない、とわかった瞬間、私は体からどっと力が抜ける感覚を抱きました。
そうでした……島まで送ってくださった船頭さんがいたんでした。レベル上げに夢中になって、完全に忘れていましたね。
「さっさと戻ろうぜ。夜の魔物は一味違うからな、また今度にしろよ」
「悪いな、姐さん。ナオフミ、そうしようぜ」
「……仕方がないな。ここまで探しにきてもらって、帰らないのは礼儀に反する」
そう言って、安堵の表情を浮かべたラルクさん達が踵を返し、騎士に向かって歩き出します。その後を、ナオフミ様も素直について行きます。
というか……一度会っただけの私達の為に、わざわざこんな森の奥深くまで探しに来て下さるなんて。
そんな人達に出会った事なんて片手で数える程しかないので、正直驚きです。
「まったく……お人好しな奴らだ」
ふと、そんな呟きが聞こえたので、こっそろ振り向いてみると。
……呆れながらも、柔らかい微笑みを浮かべているナオフミ様の顔が目に入りました。
この笑顔は……私だけの秘密の宝物にしておきましょう。