Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜 作:春風駘蕩
Side:Naofumi
「ーーーってわけで、坊主達との出会いを祝してカンパーイ!」
「「「イェ〜イ!!」」」
……どうしてこうなった。目の前に広がる光景に、ふとそう考えてしまう。
俺達を迎えに来たラルク達に誘われるまま、酒場に連れてこられて同じ席についている。
これで俺が女だったら、連れ込みとか言われてもおかしくないぞ、ラルク……元康じゃあるまいし。
「…何でこうなるんだよ」
「親交を深めるにはまず酒だろ! 目一杯飲んで騒いでしゃべろうぜ!」
「そう、その通りだ嬢ちゃ〜ん!」
「ほぼ出来上がってるな」
「もう…ラルクったら」
ジョッキに注がれた酒を一気に飲み干し、上機嫌に騒ぐラルクにテリスが呆れ顔で肩をすくめる。
幼馴染っつってたっけな……こいつ、地元でもこうやって飲んで騒いで、テリスに手間をかけさせてたんだろう。
「まぁ、そう難しい顔をするなよ、盾の勇者殿。親交だの何だのより、こいつはただ飲んで騒ぎたいだけなのよ」
「あっ! 言うなよイスルギ!」
「はぁ、そんなことだろうと思った」
イスルギがため息をつきながら肩をすくめ、じとりと冷た目をラルクに向けている。
こいつとの関係はいまいちよくわからんが、たび仲間にもこんな目を向けられるとは、親しみが深いのか小馬鹿にされているだけなのか……まったく。
ふと横を見ると、フィーロがラルクに勧められて俺の酒に口をつけていた……ってオイ!
「ぶぇ〜、おいしくなーい」
「子供に飲ませるなよ、ラルクお前……ラフタリアは大丈夫か?」
見た目が完全に幼女のフィーロに飲ませるとか、何考えてるんだ……まぁ、どうせフィーロが興味を持ってちょっと欲しいとか言い出したんだろうが。
ラフタリアにも勧めていたが、まぁこっちは見た目が大人だから大丈夫に見えそうだが……実年齢は一桁のはずだぞ?
「これがお酒……初めての味です」
「平気そうだな。ま、果実酒なら初心者でも飲みやすいだろうが……ん? というかそもそも呑ませて大丈夫だったのか?」
こっちの成人年齢は知らないし……レベルアップとともに肉体年齢も急激に上がるって性質があるそうだし。
俺の世界の常識が完全に通じないんだよな……と、こう言うときは一番詳しそうなやつに聞くのが一番だな。
「なぁ、セント……」
「らいじょーぶらいじょーぶ……らふたりあひゃんはもうおとなのおんならぜニャオフミふへへへへ」
早っ! 泥酔すんの早っ!!
さっき一口飲んだだけだろうが! どんだけ弱いんだよ!?
「らからよぉ〜、ひゃっひゃとらふたりあひゃんのはぃめてもらっへやれっへんらよぉ。おまへいひゅまれたっれもどーてーのままでいいろか〜?」
「何を言っているのか全くわからんが、とりあえずバカにされていることはわかるぞコラ」
「らふたりあひゃんをいひゅまでまたせんらよ〜? しゅえじぇんくわぬはおとこのはじっていうらろうが〜」
もう、お前、寝ろ。
ベロベロになってる上に目がぐるぐる回ってるし……ってか、そんな状態なのに酒を注ぎ込もうとするんじゃねぇ! バカかお前は!!
俺が呆れるそばでは、リュウガがぐびぐびとジョッキを次々に空にしていた……って、それ何杯目だよ。
「お前は自分で言っていた通り強いな。さすがドラゴン」
「酔う前に腹がタポタポになるんだよな……そうなる前になるたけいい酒を飲んでおきたい」
「その方が確かに得だな、どうせ女王持ちだ。飲め飲め」
ラフタリアもなかなか強そうだが、こいつは格が違うようだな。
そういえば俺も酔った覚えがないし……サークルの飲み会でみんなが潰れてる中でガブガブ飲んでたと、翌日二日酔いに悩まされた友人が言っていたような。
こうして酒を飲む機会も今までなかったし、親近感のわく連れもいるし、今日は精々存分に飲ませてもらうとするか。
「ごしゅじんさま! フィーロあっちでうたってるね?」
「おう、いいぞ! 歌え歌え〜!」
「にゃおふみ〜、つまみつくっへ、つまみ〜。はらへっひゃよぉ、おりぇ〜」
「黙れ、酔っ払い!」
くそ……いい気分になったと思ったら今度は酔っ払いに絡まれるとは。
やめろ、抱きついてくるな、口を近づけるな! つまみを作って欲しいんなら邪魔するな! ダル絡み女め!
その後、ラルクにも頼まれた通り全員分のつまみを作り、日を跨ぐまで飲み会を続けた。
そして案の定……結構な大惨事となった。
「もっと、もっと確実に強さを得るには……ナオフミ様ともっと……一緒に連携を鍛えて……そして……」
「ぐっ…嬢ちゃん強ぇな、らがまだまだ負けねぇろ……!」
酒を口に運びながら、熱心に俺に話しかけてくるラフタリアと、いつのまにか飲み勝負しているつもりになって入るラルク。
だがもう途中から関係なくなってきてるな、ラルクも呂律が回らなくなってきてるし。
離れたところでは、フィーロが歌を披露している。思いの外上手くて、酒場にいた他の客から拍手が送られているほどだ。
あいつ、あんな特技があったのか。
「L・O・V・E・フィーロちゃん、サイコー!!」
……知らない間に、元康もギャラリーに混じってるし。
なんだあれ、あいつの周りだけアイドルのコンサート会場みたいになってるぞ。どんだけ金髪碧眼の天使好きなんだよ。
「本当にお二人共、強いんですねぇ」
「酔った事ないんだよな、水みたいなもんだ」
「同じく」
「自称・盾の勇者様はこっちもお強いようだ。はっはっは!」
ラルクに比べて、テリスは実に上品に飲んでいるな……それを見て笑ってるイスルギは、豪快ながらきちんとしているように見える。
ふむ、ちょうどいいし、こいつには色々聞いておくか。
「……なぁ、聞きたい事があるんだが。こいつの事で」
「んん? …ああ、セントとオレの過去についてかぁ?」
俺が尋ねると、イスルギはすでに察していたのか、眉ひとつ動かさずに返してくる。
ぐびぐびとジョッキを空にし、テーブルに置くと、深いため息をつきながら脱力する。しばらくの間虚空を見つめていたが、やがて口を開いた。
「オレぁ、色んな国や世界をめぐる旅をしててなぁ、セントとはその途中で出会ったのよ。雨の中、ボロボロの格好で倒れてるこいつを見つけてな」
「……何があったんだ」
「さぁな。こいつ、その時にはもうなーんにも覚えちゃいなかったから、謎のまんまだったのよ」
ちらりと横を見ると、顔を真っ赤にしたセントが気持ち良さそうに眠りについている姿が目に入る。
ったく……こっちは結構真面目な話をしてるってのに、呑気な奴め。
ていうか、こいつ普段あんな飄々としてるくせに、なんであんなテンション高く過ごせてるんだ……そこが一番わけがわからんわ。
「ま、放っとくのも気分が悪いんで、オレが拾ってしばらく面倒見てたってわけ。…これでいいかい?」
「……結局謎ばかりが残ったわけだ」
聞きたい情報はあんまり手に入らなかったな……まぁ、いちばんセントの事を知ってそうなこいつが知らないんじゃ仕方ない。
過去に何があろうと、こいつは俺の仲間だ……敵しかいなかったこの世界で、ラフタリアと一緒に俺を信じてくれた数少ない存在。
俺が言うのも変な話だが、こいつの事はしっかり信じてやりたい。
「ナオフミ様! ちゃんと私の話を聞いてくらはい!」
「お、おう。悪いラフタリア」
び、びっくりした……初めてだぞ、ラフタリアがこんな声を荒げてきたの。
ていうか、大丈夫か? 目ぇ据わってるし顔も赤いし……酔っ払った人間そのままの状態だぞ。
どうしたものかと考えていると、ラフタリアの後ろの席にいた奴がドタッと倒れ込んできた。どうやら酔ったまま腕相撲に挑んで、負けたらしい。
「ちょっと! こっとは大事な話をしてるんれす! 邪魔しないでくらはい!!」
「なんだぁ? 文句があるなら勝負だ、お嬢ちゃん!」
「望むところれす!!」
ラフタリアはギロ! とすげぇ恐ろしい目で後ろの酔っ払い達を睨みつけ、腕まくりをして隣の席に向かっていく。
怒り上戸ってやつか……なんかもう、ラフタリアに対して申し訳なさが滲み出てくるな。普段のストレスとか我慢してそうだし。
「あれは……放っといていいのか?」
「ラフタリアも色々溜まってる事があるんだろ、好きに酔わせておけ。自分にとってちょうどいい量を知るいい機会だ」
「そんなもんか……」
リュウガに問われるが、そっとしておく他に俺ができそうな事はない。ていうか今行ったら絶対絡まれて不満をぶちまけられそうだ。
「勝ちましたー! 次の相手は誰ですかー!?」
で、当のラフタリアは腕相撲で次々に相手をなぎ倒してるし……あれ、いま挑んでるのって、樹の所の鎧じゃないのか?
あ、数秒で体ごと吹っ飛ばされた……ざまぁ。
ちょっといい気分になっていると、テーブルからガチャンとガラスがぶつかる音が聞こえてくる。
ああ、ついにラルクが限界に達したか……あの状態で飲み続けてたもんな。
「までゃまでゃ……のめるろぉ〜」
「もう無理よ、ラルクったら。…ごめんなさいね、ナオフミさん。そろそろ連れて帰るわ」
「明日は地獄だから覚悟しておけよ、若殿」
「そうだな……ラルク、帰るぞ」
「なんろ…こりぇしきぃ……」
意地を張るラルクだが、テリスとイスルギに引きずられて強制的に酒場の外に連れていかれる。
ありゃあ、多分イスルギの言う通り、凄まじい二日酔いに襲われるだろうな……うちのセントもだが、ご愁傷様と言う他にない。
「じゃあな〜、坊主〜、嬢ちゃんたひ〜、こんろ一緒に冒険しようぜ〜」
「失礼します、ナオフミさん」
「じゃあな、チャオ〜♪」
酒場の入り口でラルクが手を振り、テリスがそっと会釈を、イスルギが洒落た敬礼みたいな仕草を見せ、夜の街の中に消えていく。
まったく……騒がしい上に、人の距離感も考えずにズカズカ踏み込んでくる、どうしようもないお人好し達だったな。
ふっ、と苦笑を浮かべながら、カウンターにおいてある適当な果実を口に運ぶ……ん!?
「お、この実なんかうめぇな!」
「だろ? 前から好きなんだよな」
俺が感嘆の声を上げると、リュウガが自分もとばかりにやってくる。
そうか、そういえば船で言ってたな……うまい酒があるって。もしかしてこれのことか?
すっかり気に入って、リュウガとともにばくばく食べていると、酒場に店主らしき男が話しかけてきた。
「あ、あの、お客さん……大丈夫なんですか?」
「ん? ああ、すまない。高いものだったのか、これ」
「んー、まぁそれなりだけど。別にこれくらいどうってことないと思うぞ?」
「い、いえ、そういうわけではなくて……」
さっきから何だ…? やけにビクついてるような……恐る恐るって感じで話しかけてきてるし。
俺と…リュウガを? なんか化け物でも現れたように見ているな……失礼な奴だ。
「何食ってんだよ、尚文」
「元康……フィーロの所に行かなくていいのか?」
「フィーロちゃん、歌いすぎて疲れたみたいだから飲み物でも頼もうと思ってな。ん? これ食ってたのか」
実を咀嚼していると、ドルオタみたいな事をしていた元康がニヤニヤしながら近づいてくる。
こいつ……あんだけフィーロに嫌われてるくせに、しつこく高感度を稼ごうとしてるな? 周りの女で我慢しとけよ。
とか思ってる間に、元康は俺の食ってる実を一つつまみ、自分の口の中に放り込む。
ん? その瞬間、店主の顔がより一層青くなったな。
「そんで? 何をそんなに青くなってんだ?」
「……そのルコルの実は、樽いっぱいに張った水に一粒入れて、ようやく飲めるほどの酒精を含んでおりまして、その」
店主がそう、心底申し訳なさそうに答えた直後。
ドターッ!! と、元康がその場で勢いよくひっくり返った。
何だ? いきなり……って、こいつ泡吹いてやがる。
「槍の勇者様が倒れたぞ!!」
「ルコルの実に当たったんだ! 早く吐かせろ! 命に関わるぞ!」
元康が倒れた事で、酒場は蜂の巣をつついたような大騒ぎになった。
すぐにどこかから担架が運ばれてきて、虫の息になっている元康を治療所に連れていく。
それをぼーっと眺めていたら、いつの間にか俺とリュウガの方にも視線が集まり始めたのに気がついた。
「ナ、ナオフミ様……それ、何を食べて…!?」
「やー! フィーロそれきらいー! はながもげそう!」
ラフタリアやフィーロでさえ、俺達に戦慄の目を向けて絶句している始末……例外は、酔いつぶれているセントだった。
……いや、別にそんな対したものじゃないだろ、これ。
「この程度で墜ちるとか、だらしねぇ勇者様だよな」
「まったくだ」
そう言って、俺とリュウガはまた実をーーールコルの実というんだったか、を口に放り込む。
そしたら酒場の音が突如消えて、ややあってからどっとものすごい大騒ぎになった。
「ウワバミじゃあああああああ!!」
「バケモノがいる!」
「酒の神も尻尾巻いて逃げ出す酒を飲み干すヤバい奴らだあああああああああ!!!」
誰もかれもが、俺とリュウガを指差して慌てふためいている。
ラフタリア達もそれにまじって、ギャーギャーわーわーやかましくなった酒場を眺めながら、俺とリュウガは思わず目を合わせる。
「何だってんだ、全く」
「なぁ?」
お互いに肩を竦めながら、俺達はまたルコルの実を口に運ぶのだった……うまっ。