Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜 作:春風駘蕩
Side:Raphtalia
「助かったぞ、女王。短期間でここまで揃えてくれるとは……」
「世界を救うための助力を惜しむ気はありません。そもそもこれまでが異常だったのです」
私達は今、女王様が手配してくれた船の上に乗っています。
海を進んでいるのは、この一隻だけではありません……10隻以上の大小様々な船が集まり、兵士や集まってくれた冒険者達を乗せています。
本当に…前回、前々回とは頼もしさが雲泥の差ですよね。
「といっても……水兵の少ない我が国では、この程度の助力しかできないのが口惜しくありますが」
「…サディナ姉さんがいれば」
女王様の言葉に、私は思わず唇を噛んで、あの人の名前を口にします。
前にも触れる機会がありましたが亜人への差別意識が強いこの国では、兵士も人間が主となっていて、亜人の兵士は非常に数が少ないです。
私の知っているあの人なら……きっと大きな力になってくれたでしょうけど。もし生きていてくれたなら……ぜひ会いたいですね。
「…ってか、なんでお前までいるんだ、メルティ」
ふと、ナオフミ様がそう言って、女王様の隣に立っているメルティさんの方を向きます。
お城で女王様に報告をした時にまたお会いできて、こうして女王様と一緒に軍の指揮を手伝ってくださるそうなのですが……ナオフミ様が心配されるのもわかります。
「何よ、ダメなの?」
「女王もだが、国のトップとその後継者がホイホイ現場にきて大丈夫なのかと思ってな」
「母上の指揮がなくちゃ、軍はちゃんと動けないわよ。……それに私だって、ナオフミの仲間なんだし」
じっとナオフミ様をにらんでいたメルティさんが、ぷいっと顔を背けて唇を尖らせます。
そうですね……一度お別れをしましたが、私もまだメルティさんは仲間のままだと思っています。仲間外れにされたら嫌ですものね。
ナオフミ様もそのことに気づいたのか、ふっと微笑みを浮かべると、メルティさんの頭を撫でてあげてました。
「…頼りにしてるぞ」
「…うるさい」
メルティさんは照れているのか、赤い顔でそっぽを向いてますが、振り払わないあたり嫌ではないようですね。
……あの、女王様? どうして急にそんな、慈愛と期待に満ちた眼差しをメルティさんに向けているのですか?
セントさん? リュウガちゃん? どうしてそんなニヤニヤとした目でナオフミ様を見ているのですか?
私が言い表しがたい焦燥感に駆られていた時です。
ふと視線をずらしたセントさんが、突然ハッと目を見開いてナオフミ様の肩を叩きました。
「おい、ナオフミ。あそこ見てみろよ」
「ん…? ラルクとテリス、それにイスルギか……あいつらも参加してくれてるんだな」
最近の姿を見かけませんでしたが、ようやくお顔を見ることができましたね……全然見つからなくて、ナオフミ様も珍しく落ち込んでいましたし、一安心です。
あんなにもお強いお二人が一緒なら、今回の波は本当に安心して挑めそうですね。
「さって……そろそろ時間だな」
「ああ、気を引き締めろよ」
「おう!」
「はい!」
「おー!」
私達はナオフミ様とセントさんの号令で、声を合わせて拳を突き上げます。
そして、ナオフミ様の視界で刻一刻と減っていた時間が、ついにゼロになった瞬間。
私達の周囲の景色は一変し、毒々しい極彩色の空が広がる海原へと、船ごと放り出されました。
「転送された! 波の亀裂はどこにーーー」
「上だぁぁぁぁ!!」
全員で敵の姿を確認しようと、辺りを見渡した時です。
セントさんが叫び、指差す方向を見上げた私達に。
無数の魚型の魔物と、巨大な角を持ったクジラのような魔物が、遥か高くに開いた亀裂から落ちてきました。
「ーーーきゃあああ!!」
「メルちゃん!」
私達は角クジラ……次元ノ勇魚という名の魔物が落下した衝撃で、船ごと大きく揺さぶられました。
危うく吹き飛ばされかけたメルティさんはフィーロが救出しましたが、多くの兵士さんや冒険者さんが海へ投げ出されてしまったようです。
「…! 被害報告!」
「数隻が航行不能に! 死者・負傷者数はまだ把握できていません!」
揺れる船の上で、女王様が確認をとっています。
この状況で動けるなんて、なんて肝が座った方なのでしょう……私も負けて要られません。
ですが、海に落ちた方々をどうにかしなければ、みなさん溺れてしまいます。
「今いくぜ、お前ら!!」
【オクトパス!】【ユーフォー!】
声がした方を見ると、セントさんがベルトに挿すフルボトルを交換して、別の色の鎧を纏っています。
タコと、レベル上げ中に見たゆーふぉー?なる謎の乗り物の鎧です。
「つかまれ!」
「あ、ありがとうございます……!」
セントさんはふわふわと空中に浮かび上がると、タコの足を伸ばして落ちた兵士さん達を次々に救出していきます。
……いいですね、あれ。
セントさんにその気がないのはわかっていますが、私も欲しくなってきました。
と、私が考えている間にも、救助活動を行うセントさんが、ふよふよと別の船の方に……あれは、剣の勇者様がいる船に向かっていますね。
「剣の勇者! 大丈夫か!?」
「ふっ……問題ない! あぁ、何も問題ないとも!! 俺は今、これ以上ないほどに清々しい気分で戦っている!!」
「あ、はい」
ザクザクと剣を振り回し、これ以上はなさそうなほどに清々しい顔をしていますね。
波で気分が高まっているのはわかりますが、そうしてしまわれたのでしょうか、彼の方は……?
…あの、どうしてナオフミ様は、そんな呆れた目をされているのですか?
「おらおらおらおらおらぁ!!」
【ドラゴニックフィニッシュ!】
ものすごい轟音が響いてくる方を見れば、リュウガちゃんが拳に青い炎を纏わせて魔物をタコ殴りにしていました。
最後に強烈な一撃を見舞うと、リュウガちゃんは鬱陶しそうに舌打ちをし、自分の周りに群がる魔物達を睨みつけます。
「ちっ……雑魚共が結構多いな」
「デカブツはナオフミ達に任せろ! オレ達は雑兵の片付けだ!」
【【タカ!】【ガトリング!】【ベストマッチ!】【【天空の暴れん坊! ホークガトリング! イェイ!】
ぼやくリュウガちゃんにそう言って、セントさんは空中でフルボトルを交換します。
次に纏ったのはタカと銃器の組み合わせ、同時に生み出された銃を握りしめ、眼科の魔物達に無数の銃弾を浴びせかけていきます。
海の顔を出している魔物も船の上に這い上がってきた魔物も、すべて銃弾に貫かれ、ぼとぼとと海に落とされていきました。
あれも羨ましいですね……使えるように練習を始めてみましょうか。
「くぅぅ…! 今だけセントちゃんが羨ましい! 妬ましい! いいなぁ、変身……」
「飛行能力、羨ましい限りです」
「お前ら見惚れてないで戦え!!」
セントさんの戦いを見て、どうしてだか槍の勇者様や弓の勇者様が熱い眼差しを向けています。
前々から思っているんですが、あの方達……ナオフミ様もですけど、セントさんの鎧に異様に注目しすぎじゃないですか?
と、私が魔物を切り捨てながら、そんなことを考えていた時です。
海の中からまた、あの次元ノ勇魚が飛び出し、大きく強烈な波と水飛沫を巻き上げてきました。
「どわーっ!? あ、あっぶな……びっくりさせんじゃねぇよデカブツめ!!」
危うく角に貫かれかけたセントさんが、フラフラしながら体勢を整えています。
すぐさま発砲しましたが、銃弾は水飛沫に阻まれて届かず、それが収まった頃には、次元ノ勇魚はまた海深くへと潜って行ってしまいました。
「厄介だな……奴め、普段は海の中にいてここぞと言う時に突っ込んできやがる。その上皮膚がかなり硬い…!」
「飛び出してくるタイミングがわかればいいんだけどなー」
「そこは考えがある……考えるべきは仕留める方法だ。早くに決着をつけなければ、こっちの足場……もとい船が次々に沈められる」
こうして、恐ろしいほどに揺れてますからね…!
馬車旅で慣れてきたとはいえ、ここまでひどいとまた気分が悪くなりそうで……うっぷ。
「よし、オレがその辺の事を勇者達に説明してくる! ナオフミが言うより聞いてくれるだろ! 貸しあるし」
「ああ、頼む!」
「おーい! お前ら〜!」
ナオフミ様にそう言って、セントさんはそれぞれ他の勇者様の乗っている船に向かって飛び立ちました。
こういう時、セントさんの気の良さと気軽さが役に立ちますね。
私も力を貸したいですけど……できるのは精々、這い上がってくる小型の敵を倒すことだけ。不甲斐ないばかりです。
その時、兵士さん達を指揮していた女王様が私達の方へ近づいてきました。
……いいえ、私達ではなく、私の方に?
「ラフタリアさん、実は任せたい役目があるのですが…」
「え? は、はい」
実は初めてな、女王様との一人での対面。
思わず緊張する私に、女王様は勇魚を攻撃するある方法を教えてくれました。なるほど……それなら私にもなんとかなりそうです。
リュウガちゃんは自力で泳げると言っていましたし、フィーロと一緒に勇魚を誘い出す役目に向かうようです。
私達全員が、この戦いでなすべきことを見出し、配置についていきます。
「メルちゃん! フィーロ、行ってくるね!」
「うん、気をつけて!」
フィーロはメルティさんにそう告げると、ナオフミ様を背中に乗せて海へ飛び込みました。
フィーロの白い影が海に沈み、見えなくなった頃、海の中に見えた魔物達の動きが明確に変わり始めました。
あの巨大な勇魚までもが、海中を動く存在の後を追いかけ、深く潜り……そして。
「出てくるぞーーー!! 構えろーーーーー!!」
遥か空を舞うセントさんが、円形に整列した船の上に向けて叫びます。
そして、海中からごごご……と低く轟く音が響いてきたと思えば。
どばっ! と。
鼻先の角にナオフミ様とフィーロを引っ掛けた勇魚が、勢いよく飛び出しました。
「ラフタリアちゃーん! 女王さんに教えてもらった通りにぶちかませぇ!!」
「はい!」
「集中攻撃だ! ぶちかませ野郎共!!」
「流星弓!!」
「流星剣!!」
「流星槍!!」
ヘイトリアクションを使い、魔物達を自分に引き寄せたナオフミ様が、勇魚に攻撃するチャンスを作ってくださいました。
そこへ私が、船に取り付けられたバリスタで大きな矢を撃ち、攻撃します!
あらかじめセントさんが伝えてくれたため、他の勇者様も攻撃に加わってくれています。こういう時はタイミングが合うんですね、全く!
ですが、いくら攻撃を加えても、勇魚が弱っていく様子は見受けられませんでした。ずっと力一杯暴れまわっています。
「おい!! ほとんど効いてねぇじゃねぇか! 連発しろ連発!!」
「無茶を言わないでください!」
「リキャストタイムが長い技なんだよ!」
本人達は一生懸命やっているようですが、やはり実力が足りていないようです。この数日間、カルミラ島で何をしていたんですか!?
かろうじて、剣の勇者様と弓の勇者様の武器が強く効いているくらいでしょうか。それでもやっぱり力不足は否めません。どうしたら…!
「くそっ……また潜られちまうぞ」
「大変だなぁ、セントーーーまぁ、あとはオレ達に任せとけよ」
その時、セントさんやリュウガさんそのそばを抜け、飛び出す影が二つありました。
それは、大鎌を構えたラルクさんと、蹴りの体勢に入ったイスルギさん。
お二人はナオフミ様に労いの言葉を送ると、冒険者さん達から攻撃を受ける勇魚に向かい、そして。
「ヴェノムスパーク」
ごっ! ととてつもない轟音を立て、イスルギさんによって勇魚の体が歪むほどの一撃が叩き込まれ、毒が叩き込まれ。
その後、ラルクさんによって勇魚の体はバラバラに切り裂かれました。
目を疑うほどの早業で、正気を疑うほどの強力な技に、私達は唖然となるばかりでした。
「……あのデカブツを、ほとんど二人だけで。マジで何者だよ、あいつら……」
「やっぱ姐さん強ぇ〜」
小型の魔物を掃討し終えたセントさんとリュウガさんが、そう言って海に浮かぶ勇魚の死体を。
そしてその上に乗っているラルクさんとイスルギさんを見上げます。
落ち着いて見ても、本当に大きいです。こんな怪物を瞬く間に倒してしまうなんて、あの方達は一体何者なのでしょうか……?
「つかこれ、やっぱあいつらの獲物になるよな。今回ナオフミ以外の勇者は、こいつを倒すのに全然役に立ってねぇし」
「……オレも成分採取できない感じ?」
「勝手にしたら流石に怒るだろうな……体張ったのあいつらだし」
確かに、今回の戦いの勝利の立役者はラルクさん達です。
いくら勇者だからといって、手柄を横取りするのは礼儀に反します。
……まぁ、先に登っていった弓の勇者様方は、そんなことを考えているようには見えませんでしたが。
「しゃーねぇ、姐さんに土下座でもしてわけてもらうか。おーい!」
「セントさん……それはちょっと」
「プライドねーのか、お前」
「ラフタリアお姉ちゃん、フィーロお腹すいた」
「これが終わったら、ナオフミ様に作っていただきましょうね」
ぐずるフィーロをなだめながら、私達も勇魚の上に登ります。
セントさんではないですが、こうして力を貸してもらったのですから、ちゃんとお礼を言っておかなければなりません。いえ、別に土下座はしませんが。
そうして、ナオフミ様とラルクさん達の姿が見え始めた時。
「ナオフミ様! ラルクさんもイスルギさんも、ありがーーー」
「来るなぁ!!」
そこで私達は、信じられない光景を目の当たりにします。
倒れ伏した三人の勇者様達と、ナオフミ様に大鎌を突きつけるラルクさん。
そして、申し訳なさそうに黙り込むテリスさんと、不気味に笑みを浮かべるイスルギさんという。
どうしても受け入れがたい姿を見てしまったのです。