Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜 作:春風駘蕩
Side:Sento
渾身の一撃で、姐さんをぶっ飛ばした。
死ぬまでの威力じゃなかったけど、姐さんは勇魚の上に転がったまま動かない……だ、大丈夫だよな? 殺してないよな?
あ、姐さんがガバッと起きた。よかった。
『フ、フフフフ…! ハザードレベルも順調に上がってるようだな……強くなったな、お前ら』
ゆらりと立ち上がる姐さんに、オレ達は咄嗟に身構える。
何だ? こっちが追い詰めてるつもりなのに、逆立場になってる気がする……この人の妙な存在感がそう思わせてるのか?
『だがこっちもまだまだいけるぜぇ? こっちにも通さなきゃならねぇ意地ってもんがあるんでなぁ』
「ええ…こちらにも、譲れないものがあるんです」
「イスルギ姐さん……!」
正直……もうここで退いてほしいと思う。
一回覚悟を決めたオレだけど、やっぱり姐さんを殴るのは心が痛む……さっきも実は、ほんの少し拳が鈍ってた。
ナオフミ達にはバレてないっぽいけど、次ぶつかったら多分、もっと迷いが出てくると思う。
「本当に強ぇよなぁ、坊主達……こうなりゃこっちも、奥の手を出さなきゃならねぇな!」
ラルクがそう言って、グラスに鎌を向けて何か、意識を集中させているような素振りを見せる。
何をするつもりなんだ……と、訝しむオレ達の前で。
ラルクの鎌からポンッ、と。
見覚えしかない道具……魂癒水、だったか? が飛び出した。
「アイテムドロップ…!?」
「ほらよ、グラスの嬢ちゃん」
「!」
ラルクは魂癒水の蓋を開けて、グラスに頭からぶっかける。
グラスも何が何だかって顔で困惑してるけど……魂癒水って、勇者独自の力であるSPを回復させるアイテムじゃなかったっけ?
と、オレが困惑していると、だ。
ドゴンッ!! と。
拳を構えていたリュウガが、何かの衝撃を受けて思い切り吹っ飛んだ。
「ぬあぁ!?」
宙を舞ったリュウガは、そのまま海に真っ逆さまに堕ちて、大きな水飛沫を立てる。ぶくぶく泡が立って、浮かんでくる様子はない。
な、何が起こった…?
さっきリュウガが立ってたところには、困惑した顔になっているグラスがいる……あの一瞬で、リュウガをぶっ飛ばしたってのか?
「……ラルク、これはどういう事でしょう。力が恐ろしく湧いてきます」
「こっちの世界の技術らしくてなぁ、グラスの嬢ちゃんには最適なものだろ?」
「……そうですね」
ふっ、とグラスが怪しい笑みを浮かべ、扇を構える。
オレの見間違いか、人間っぽく見えない奴の目が、ギラリと不気味に光った気がした。
「逆式雪月花!!」
「憤怒の盾!!」
ものすごい加速と共に接近してきたグラスに、ナオフミはあの黒い盾を構えて迎え撃つ。
触れた瞬間、強烈な炎が噴き上がってグラスを呑み込むけど……平然と、ナオフミとギリギリ鍔迫り合いをしている姿が目に入る。
「ナオフミ! 気ぃつけろ!!」
「わかってる!!」
あの炎でもまだ効いてないのかよ…! あいつ、魂癒水を浴びた途端、力を上げただけじゃなくて防御力も上がってないか?
あの魂癒水に特に変わった様子はなかった……って事は、あの急激なパワーアップはあいつの体質によるものって事か?
あいつ、どういう種族なんだ…!? 人間っぽくないし、亜人ですらなさそうなんだが…!
『そら、ローグ…! お前さんもしっかりやりなぁ』
『フン……言われずとも』
オレが考えている間に、姐さんとコウモリ野郎がオレ達の方に向かってくる。
姐さんはまたあの蛇を出して、コウモリ野郎は……背中からでっかいコウモリの翼が生えた!
『フッハハハハハ!!!』
『ハァアアアアア!!!』
片や哄笑を、片や雄叫びを上げて、二人はオレに襲い掛かってくる。
オレは勇魚の上をごろごろ転がって、二人の攻撃を躱す。だけど、二人ともすぐに戻ってきて、執拗にオレばかりを攻撃してくる。
くっ……まさか、オレの拳が迷ってるせいで鈍ってんの、ぜんぶばれてんじゃないだろうな!
「くっ…んなろぉ、舐めんなよ!!」
【ドラゴニックフィニッシュ!】
すると、海から這い上がってきたリュウガが走って来て、ベルトのハンドルを回し始める。
そして、自分の周りに青く燃える龍を呼び出して……上に乗った!?
「うおおおおお!!」
『ふんっ!!』
龍の背に飛び乗ったリュウガは、同じく大空を舞うコウモリ男に向かっていき、炎を纏わせた拳を振り下ろしていく。
ガキン、ガキンとぶつかって、空中での対決が始まっっちゃったんだけど。
え? いや、あの、色々と突っ込みたい所があるんだけど……まずお前、それ、どうやってんの?
「……あんな機能、つけてたっけ」
『おいおい、自分の作ったもんのスペックぐらい把握しとけよ、バカウサギ…』
「う、うるせぇ!」
姐さんに冷静なツッコミを受けて、思わず頬が熱くなる。
だってあんな風に作ったつもりないんだもん! あれは必殺技をやる為に呼んでいるのであって、背中に乗ったりするなんて考えてなかったんだもん!
ああ、もう!
うるさいからぶん殴って黙らせてやる!
「……ここまでして倒れないとは、本当に厄介な方々です。もはや、自分の身を惜しんでいる暇すらもない…!」
オレが姐さんと殴り合ってると、不意にグラスがそう言う。
そして……奴の気配が膨れ上がり、オーラが目に見えるようになってきた。
…代償付きのパワーアップ、ナオフミの憤怒の盾みたいなもんか?
奴め、ここで何が何でもオレ達を始末しておくつもりのようだな……しかも、自分の身を犠牲にしてまで。
「! グラスの嬢ちゃん……それは!」
「ここで終わるわけにはいかないのです。いずれさらなる強敵として立ちはだかる敵ならば……ここで倒しておかねば……!」
「待て、嬢ちゃん!」
「グラスさん!」
ラルク達が止めてるけど、グラスが止まる様子はない。みるみる威圧感を増させて、オレ達を見据えてくる。
まずいな……あれの威力がどれだけかは知らないが、距離的にラフタリアちゃん達が巻き込まれかねないぞ! 如何すれば……と、焦りを抱いた時だった。
「―――今です、放て!」
突然、オレ達がいる勇魚の上に、幾つもの樽が投げ飛ばされてくる。
何だこれ……と、オレが訝しんだ途端、勇魚の体にぶつかった樽が爆発、紫色の煙を撒き散らした。
「うわわわわあぶ、あぶ、危なっ!?」
「うお!?」
樽はオレ達の周りに落ちて、何度も何度も爆発を起こす。
あっという間にオレ達の周りは紫色で埋め尽くされ、姐さんやグラス達の姿が見えなくなる……リュウガの所まで及んでるな。
ん? この煙の臭いって……まさか!?
「うっ…!? こ、こりゃあ……」
「ルコルの実の……爆弾!?」
煙を吸ってしまったせいで、ラルク達は顔を赤くして膝をついていく。
そりゃあ……一口で大の大人がぶっ倒れるような酒の元だもの、そんなもんを使った兵器を受けてただで済むわけがない。
……ってか、オレもこの状況は結構まずいんだけど。ここで沈むのはやだぞ!?
「女王か…! 助太刀感謝する! 今なら……」
「くっ、こんな、もの…!」
何でナオフミ、あの煙の中でピンピンしてんの!? グラスなんか千鳥足になってんのに!
めったくそに酒に強いって聞いたけど、いくらなんでも強すぎだろ!!
ああ、上でもリュウガがコウモリ野郎相手に無双してる! 逆にコウモリ男の飛び方ふらふらしてんのに!
「助かるぜ……これで全快だ!!」
【ビリオンスラッシュ!】
『ぐああああああ!?』
リュウガはビートクローザーを取り出して、ロックフルボトルを鍔部分に差し込んで、柄頭を引っ張って力を溜める。
そんでコウモリ男に、この間よりがぜん強力になった斬撃を浴びせかける。
コウモリ男はそのまま、グラス達のすぐ近くに墜落してった……頭からいったけど、大丈夫か?
「ですが……まだ!」
「だめだ、グラスの嬢ちゃん……時間だ」
フラフラの体で、なおも戦おうとするグラスをラルクが止める。
時間……前にも言ってたな、何かに気付いたと思ったら、急にオレ達を襲うのをやめて。何の時間だ……?
「じゃあな、盾の勇者ナオフミ……やっぱ違うな、坊主のままでいいか。この決着はいつかまたつけよう」
「! 逃げるのか!?」
「死ぬわけにはいかねぇからな……」
姐さんもオレから離れて、グラス達の所に後退する。
コウモリ野郎も起き上がって、五人で一箇所に集まって……そんで、グラスがものすごい目でこっちを睨んでくる。
「……またすぐに相見える事でしょう。その時は必ず、私達の世界を守るために……」
『そんじゃあ、この辺で失礼させてもらうぜ……チャオ〜♪』
「待て! 逃げんなぁ!!」
『待たないねぇ、オレが次に来る時まで、せいぜい強くなっている事だな……ふふふははははは―――』
リュウガが吠えるけど、姐さんはあの黒い銃を構えると、銃口から真っ黒な煙を撒き散らし、自分達の姿を隠してしまう。
ルコルの実の煙も、煙幕もすべて腫れた時には……姐さん達はもう、影も形も見当たらなくなっていた。
しゅ、瞬間移動…? それとも姿が見えなくなった?
自慢の耳で気配を辿ってみるけど……どこにも感じられない。完全に、この場から居なくなってしまった。
「ラルク……くそっ!」
「テリスさん、イスルギさん……」
ナオフミが悔しげに声を上げ、ラフタリアちゃんやフィーロちゃんが切なげに顔を歪めている。
……なんで、こうなっちまうんだろうなぁ。
オレ、久しぶりにあの人に会えて、嬉しくて、楽しくて、最っ高の日だと思ってたのに……なんで、こんな。
「イスルギ姐さん……オレはやっぱり……」
あんたが敵だなんて、思いたくねぇ。信じたくねぇよ……姐さん。
だけど、そんなオレの想いに同意してくれる奴は、どこにもいなかった―――。
「…ん? なんだ、コレ?」
波の亀裂が閉じて、魔物の発生が収まった海。
今回もほぼほぼ役に立たなかった勇者共を回収して、兵士達が今回手に入った素材の回収に入ってる、けど。
オレはそこに混じる気になれなかった。
ボーッと空を見てるだけで、いつもなら喜んでいくフルボトル精製も、全然やる気になれなかった。
「大丈夫か、セント」
「…ああ、大丈夫だ。なんてことはねぇよ…」
「嘘つけ、バカ」
やべ、リュウガに情けねぇとこ見られてた。
慌てて平静を取り繕ったつもりだったけど……ダメだったか。
リュウガは無言でオレを睨みながら、オレの隣に立ってくる。そして、ため息交じりに口を開いた。
「……お前、あいつに対してちょっと手加減してただろ」
「……バレた?」
「むしろなんでバレねぇと思ったんだよ……ったく、甘っちょろい奴め」
やっぱバレてたかぁ……筋肉バカのコイツに見破られるって事は、相当酷い顔してたんだな、オレ。
オレが自分の頬をムニムニ触ってると、リュウガはまたため息をついて、オレから目を逸らした。…そんなに見苦しい顔してるか?
「気持ちはわかる、恩義を捨てきれないのもわかる……だがあいつは次こそオレたち達を殺しにくる。そん時、お前ちゃんと戦えるのか?」
「…わからねぇ」
「じゃあ、次はオレがあいつの相手をしてやるよ。お前は引っ込んでろ」
そう言われて、オレは思わず苦い顔になる。
他人にあの人が倒されるのは……なんか、いやだ。
たぶん、次に会っても拳が鈍ると思うけど、それを他の奴に任せるのは、なんか違うと感じる。
「それが嫌なら、しっかりテメェでケリをつけるんだな」
……ほんと、今日の俺って最っ悪だわ。
筋肉バカに説教されるし、あと多分ナオフミ達にも心配かけてるし、まじで凹む最後だっての……こんちくしょうめ。
「あ、そうだ。忘れてた……ほれ」
オレが黄昏てると、リュウガが何か手渡してきた。
何だコレ? リュウガが渡してきたのは、なんかこう……赤い、銃のグリップみたいな形で、メーターがついてるなんらかの機械だった。
「……何だコレ?」
「あのヘビ野郎とコウモリ野郎が逃げてった後に落ちてた。なんかの機械だよな、これ」
「……姐さんの持ち物、か?」
あの戦闘中に落としてったのか? だとしたらなんか違和感があるな……あの人が落し物したまま逃げてくなんて、イマイチ想像できない。
オレはリュウガに渡されたそれをしげしげと見つめ、ある部分に気付く。
機体のはしっこに、小さく文字が刻印されている……なになに?
「〝ハザードトリガー〟…?」
刻まれていたその文……いや、名前。
その名に何故か、オレは背筋にゾクリと寒気が走った気がした。