Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜 作:春風駘蕩
Side:Raphtalia
「……おお」
なぜか少し、刺々しい態度のシスターの方々に案内され、私達は教会に入りました。
そしてその奥にあったものに、セントさんがそんな声を漏らしました。
そこにあったのは、私達の背丈をはるかに超える、大きな砂時計です。
「これが龍刻の砂時計か…!」
「スゲェな……なんていうか、こう、おごそかな感じ? がする」
「私も初めて見ました…!」
ガラスの中でさらさらと零れ落ちていく砂、その周りには不規則に動く輪があります。
光り輝くその砂は、とても神々しいというか、奇麗な印象を抱きました。
しばらくじっと、その光景に目を奪われていた私達でしたが、しばらくしてセントさんがナオフミ様の肩を叩きました。
「そんでナオフミ、肝心の波までの期間は?」
「ちょっと待て…」
ナオフミ様が盾を見ると、盾の中心についた宝石から光が放たれ、砂時計に当たります。
すると何かが起こったのか、ナオフミ様が何もない目の前に目を見開いています。おそらく、波が起こるまでの時間が表示されたのでしょう。
「あと20時間か……かなりギリギリだったな」
「うわぁ、下手したらいきなり呼び出されてたかもしれないのか」
セントさんはいやそうに呟きますが、私の身体には緊張が走ります。
波……お父さんとお母さんを殺した魔物を生み出す、終末の災厄。
それと私達が戦う時が、あと20時間まで迫っている。恐怖か武者震いか、私の手は震えたままです。
反対にナオフミ様は落ち着いた様子で、龍刻の砂時計を前に眉間にしわを寄せていました。
「なら、それまでどうするか…」
「あらぁ? そこにいるのは大罪人の盾の勇者じゃない?」
その時、私達のもとに初めて聞く声が届きました。
何かとても…いやな感情でいっぱいの見下すような声です。
その声が聞こえると、ナオフミ様の表情がとても怖くなってしまいました。
「こんなところに一体何の用かしら?」
振り返ってみると、何やら煌びやかな装いの方々が数十人、私達のいる方へ入ってきているのが見えました。
先ほど声を出されたのは、あの赤い髪の女の人でしょうか? とてもきれいな方に見えますが…その表情は、言い方は悪いですが、悪い人のように見えました。
「……おい、なんだあのケバい女」
「ナオフミ様のお知り合いですか?」
思わずセントさんと一緒にナオフミ様に聞いてみましたが、ナオフミ様は答えて下さいませんでした。
それどころか、とても苛々した様子で歯を食いしばっています。
あの方々と…何かあったのでしょうか…?
「ナオフミ様…?」
「なんだお前、まだそんなしょぼい装備で戦ってるのか。あわれだなぁ!」
無言のまま立ち尽くすナオフミ様に、先ほどの女の人の隣にいた、槍を持った男の人が話しかけます。まわりにいるのは女の人ばかりですね。
この方もなんというか…ナオフミ様をバカにするような話し方をしています。
それを聞いて、ナオフミ様の機嫌がますます悪くなったように見えました。
「ちょっと! モトヤス様が話しかけているのよ!? 返事しないなんて何様のつもりよ!」
赤い髪の女性が声を荒げて睨みつけてきました。
ちょっとうるさいですね…セントさんも少し迷惑そうにしています。人より耳がいいですからね。
どうにも、ナオフミ様にいい感情を抱いていない方の様なので、私が前に出て応対してみます。
もう、守られるだけじゃありません。
「失礼ですが、あなた達はどこのどなたでしょうか?」
少しきつめに尋ねると、赤い髪の女の人は胡乱気に私を見てきます。
この目は覚えがありますね……私達亜人によく向けられる、いやな目です。
「なに…? 亜人? なんでこんなところに…」
「どこの誰かは知らないけどさ、うちのオーナーをあんまり馬鹿にしないでもらえない? ムカつくからさ」
セントさんもナオフミ様を守ろうとしてか、私に合わせてくれました。
いえ、それだけではありませんね。単純にこの方々が気に入らないのかもしれません。
すると、それまでずっと黙っていた槍を持った男の人が、また口を開きました。
「可愛い…」
え? と反応するよりも早く。
男の人は優し気な笑顔を浮かべると、両手でそれぞれ私とセントさんの手を取り、顔を覗き込んできました。
何でしょう…背筋にぞわっと寒気が走りました。
「美しいお嬢さん方、お名前は…?」
「え、えっと…ラフタリアと申します」
「……セントだけど」
「ラフタリアちゃんにセントちゃん……二人とも可憐な名前だ」
…聞かれたのでつい答えてしまいましたが、何でしょうか、この感情は。
セントさんも同じ気持ちなのか、ものすごく居心地悪そうに男の人を睨んでいます。
ああ…そしてナオフミ様の機嫌がますます悪く…。
「俺は元康、槍の勇者として召喚されてきた者です。以後、お見知り置きを」
「はぁ…」
どうにもこの人が持つ槍に見覚えがあると思っていたら、ナオフミ様の盾と雰囲気が似ていたのですね。
なるほど、ではこの人が…そしてあちらにいる剣と弓を持った方々も、同じ勇者ということでしょうか。
すると、セントさんがパシッと軽く槍の勇者様の手を払いのけました。
「おい、気安く女の手に触んな」
「おっと、これは失礼…だけどなぜ君たちはこんなところに? それも…」
槍の勇者様の目が、ナオフミ様を見下すように向けられます。
さっきから何なのでしょうか、この方々は、ナオフミ様とどんな因縁があるというのでしょうか…?
「そんな犯罪者と一緒に?」
犯罪者…?
何のことを言っているのかわからず、私が首を傾げていると、ナオフミ様が槍の勇者様を鋭い目で睨みつけました。
怒り…いえ、それだけではありませんね。
憎しみ、殺意にも似た激しい感情が伺えます。
「何だよ、本当のことだろ? 悪評なんか自業自得だろ」
槍の勇者様が発言するたびに、ナオフミ様はますます険しい形相になります。
セントさんも何だか…見る見るうちに不機嫌に…。
「どうせ守ることしかできないんだ。せいぜい自分の命だけ守って、俺の活躍を見届けてろよ」
「っ…!」
何かを言おうとして、何も言えずにいるナオフミ様。
何でしょう……ナオフミ様がけなされているのはわかりますが、その理由がわからなくて私も言葉が出ません。
何故、この人にここまで言われなければいけないんですか…!?
「君達もさっさとこんなやつとは離れたほうがいいよ。こんな奴がそばにいたら君たちの方が危険……」
「お前に言われたくないんだよ、下半身直結野郎」
危うく文句を口に仕掛けた時、私よりも先にセントさんが口火を切りました。
初めて聞く、ものすごく低い声でした。
「へ…?」
「さっきからベタベタベタベタ馴れ馴れしいし、しかもチラッチラ俺とラフタリアちゃんのおっぱい見てただろ。そういうの分かるんだぞ」
ああ、さっき感じたいやな感じの原因はそれですか。
知らない人に勝手に…む、胸を見られていればそれは気持ち悪いですよね。
これはもう、ナオフミ様だけのものですから!
「オレ、お前みたいにチャラい奴嫌いなんだよね」
「なっ…!?」
「モトヤス様になんて暴言…!」
槍の勇者様もさすがに傷ついたようですね、優しい顔が崩れました。
赤い髪の女の人がまた騒ぎそうになりましたが、その後ろから鼻で笑う声が聞こえて止まりました。
「自業自得ですよ」
「鼻の下を伸ばしているからですよ」
あれは、剣の勇者様と弓の勇者様でしょうか?
同じ勇者なのに、あまり仲が良くはないようですね…でもそのおかげで助かったみたいです。
すると、ずっと不機嫌そうだったナオフミ様が歩き出しました。
「…行くぞ」
「は、はい!」
「うぃ〜っす」
私はセントさんと一緒に、慌てて後を追いかけます。
その時、すれ違いざまに剣の勇者様と弓の勇者様が、ナオフミ様に視線を向けました。
「波で会いましょう」
「足手まといにならないようにな」
「…こっちのセリフだ」
挑発するように、ナオフミ様は答えると教会を出て行きます。
ナオフミ様はずんずんと無言で歩き続け、あの方々や教会が見えなくなっても立ち止まりませんでした。
…そんなにも、きらいな方たちだったのでしょうか。
「…あの、ナオフミ様」
まだ怒っているのでしょうか。
気になって尋ねてみると、ナオフミ様は不意に肩を揺らし始めました。
やっぱり、まだ不機嫌なままで…?
「…く、くくっ、くくくく…!」
不安になっていた私ですが、ナオフミ様が声を漏らし始めたことで今度は混乱します。
わ、笑っていたのですか…? いつから?
「おいセント、お前まさか狙ってたのか? 見たかあいつのあの顔!」
「あいにくほぼほぼオレの本心を言ったまでだよ。あー気持ち悪かった」
「振られた経験もないんだろうなぁ…しかもあんなに盛大に!」
…こんなに愉快そうなナオフミ様は初めて見ます。
セントさんもおどけて返していますし、喜ばしいことなんでしょうが…。
「お二人とも……気持ちはわかりますが人の不幸をそう笑うものではありませんよ」
「じゃあラフタリアちゃんは、あのままあいつと一緒でよかったの?」
「そ、それは……大きな声では言えませんが」
確かに、私もあまり傍に近づきたくはなかったですし、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけいい気味だとは思いましたけど。
思いましたけど!
「なーナオフミ、オレ戻ってあいつの顔ぶん殴りたくなってきたんだけど、いいかな?」
「やめとけ。触っただけで孕まされるぞ」
教会がある方をまた睨むセントさんに、ナオフミ様はなだめるように肩を叩きます。
槍の勇者様は確かに、整った顔立ちでしたが…正直言って下心が丸見えなので、ナオフミ様の制止にも納得してしまいます。
本当に…何なんでしょうか。
「さて…残りの一日をどう過ごすか」
「ギリギリまでレベル上げするか? それとも薬でも用意しておくか?」
「そうだな…まぁ、やれるだけのことをやっておこう」
「はい!」
そうでした、あんなことを気にしている暇はありません!
災厄の波に立ち向かうために、できることを精いっぱい頑張らなければいけませんよね…!
頑張りましょう…ナオフミ様、セントさん!