Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜   作:春風駘蕩

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セーアエットの遺志

Side:Raphtalia

 

「兄ちゃん、頼む!」

「私達を……ナオフミさんの奴隷にしてください!」

 

 会議から戻ってこられたナオフミ様に、キール君とリーシアさんが深々と頭を下げます。

 先ほどまで悩んでいた二人が決めた事です。私が口を挟む気はありません……ですが、その。

 

 もう少し言い方があったのではないでしょうか……?

 

「……よし、わかった。とりあえずまず一旦落ち着いてから続けようか」

 

 思った通り、とてつもなく険しい顔になられたナオフミ様が、額を押さえながら目をそらしました。それを見ていると……すごく、申し訳ない気持ちになります。

 

「おい、セントにリュウガ。……どうしてこうなった」

「波と戦えるように強くなりたいんだってさ」

「で、オレが奴隷の成長補正のことを教えた」

 

 あっけらかんと、お二人が説明して、ナオフミ様は深い溜息と共に頭を抱えてしまいました……そうですよね、勝手に決めていい話ではありませんよね。

 

「……お前らはそれでいいのか? 特にキール、お前は再び奴隷になる事に抵抗感があると思っていたが……」

「……正直言ったら、嫌だ。好きで奴隷になんて、なりたくない」

 

 キール君の目に、暗い気持ちが混じって見えます。

 やっぱり……あの暗く冷たい地下牢での苦痛は、忘れられませんよね。

 

 私も、今はもう悪夢に見る事もそうそうなくなりましたが……目を閉じれば、簡単に思い浮かべられます。

 リファナちゃんを笑いながら死に追いやったあの男の顔も……この手で仇を討った今ですら、鮮明に思い出せます。忘れられるはずもありませんし、忘れる気もありません。

 

 ……けど、ナオフミ様の下でなら。

 

「だけど、兄ちゃんなら絶対ひどいことしないって、そう思うから。それに、強くなるのに手段なんか選んでる場合じゃないだろ」

「わ、私も…! 私も早く、イツキ様に追いつきたいですから!!」

 

 変わる様子の見当たらないキール君とリーシアさんの目を見つめ返し、ナオフミ様が肩をすくめます。そして、私の方に振り向きます。

 

「ラフタリア、お前も何も言わないんだな」

「先ほど、キール君とは充分話しましたから……本気で戦うつもりでいる以上、止める事はできません」

「……そうか」

 

 ここまで覚悟を決めてしまっているのですから、仕方ありません。

 けど、私が認めたのはあくまで波から自分の身を守れるようにという点です。命懸けで波に立ち向かう戦士になる事を許したつもりはありませんからね!

 

 ナオフミ様もきっと、それを望む事はない、と思います。

 

「できるだけ早く、波の被害を止められるように努力する……俺ができるのはそれぐらいだ。世話を掛けるな、ラフタリア」

「そのお言葉だけで、十分です」

 

 申し訳なさそうに顔を歪めるナオフミ様に、私は首を横に振ります。

 平和な世界が訪れるまで、なすべき事をなすまで、一緒にいてくださると約束してくださったのですから。

 

「ぶー、またごしゅじんさまとラフタリアお姉ちゃんがイチャイチャしてるー」

「しーっ、言うんじゃありません!」

「さっさとくっつきゃいいのにあの朴念仁とむっつり……見ててイライラすんだよな」

 

 ……横から何やら余計な言葉が聞こえた気がしましたが、聞かなかった事にします。幸い、ナオフミ様には聞こえていないようなので別に構いませんが。

 

 ですが、後で覚えておいてくださいね?

 

「まぁ、俺からも提案するつもりではあったからな、好都合だ。このあと奴隷商のところに行くし、二人とも奴隷の契約を結ぶとしよう……覚悟しろよ」

「おう!」

「ひゃ、ひゃい!」

 

 にやり、と不敵に笑ったナオフミ様に、キール君は元気に、リーシアさんは慌てふためきながら頷きます。

 少し不安もあるままですが、ここは堪えます。この先の戦いで死なないための、無用に傷つかないための奴隷としての契約ですから。

 

「ここにおられましたか」

 

 その時、私達の下に女王様が近づいてきました。

 何でしょう、何かナオフミ様にご用が……?

 

「先ほど申しました戦技教導の件で、腕に覚えのあり、信頼のおける者を連れてきましたので、先にイワタニ様にご挨拶を……と」

「ああ、そうか。もう見つかったのか」

 

 教導、ですか?

 もしかして、先程までナオフミ様が参加されていた勇者会議で決定された事でしょうか?

 

 カルミラ島でレベル上げをした割に、現地で起きた波であまり活躍できていなかった他の勇者様方に、ナオフミ様もかなり苛立っていました。

 その改善のためなんでしょうね……あの方々が素直にそれを受けるかどうか、疑問ではありますが。

 すぐ目の前にいるナオフミ様も、微妙な顔をしておられますし。

 

 それよりも私は、女王様に連れられてやってきた騎士らしき女性に目を奪われていました。

 

 ストロベリーブロンドの、大変美しい女性です。

 切れ長で吊り上がった目は、その方の意志の強さを示しているように見え、存在そのものが手入れされた剣のようです。

 

「……そいつか?」

「はっ、お会いできて光栄です。盾の勇者イワタニ殿。教導の任を賜りました、エクレール・セーアエットと申します」

 

 性格も見た目通りの真面目な方のようで、綺麗な姿勢のままナオフミ様に礼をしてみせます。

 

 ですがその時、私は……私とキール君は、エクレールさんが口にしたある単語にはっと息を呑みました。

 

「セーアエット……って! ラフタリアちゃん!」

「まさか……」

 

 驚きの声を上げる私達に、エクレールさんが視線を向けます。

 そして、何かを察したように目を細めると、私とキール君に向けて深々と頭を下げました。

 

「ルロロナ村のラフタリア殿、キール殿、我が父がお前達を守りきれなかった事、私が代わって侘びをする。すまなかった」

「父……ではあなたは」

「そう。私はセーアエット領領主の娘……お前達には、私を恨む権利がある」

 

 私達は、咄嗟に声をあげられなくなっていました。

 伏せっていてどんな表情かはわかりませんが……私とキール君に向けられた態度は、本気だとわかります。

 

 本気で、私達に申し訳ないと思ってくれている、そう感じます。

 

「……お前、今まで何してたんだ? 親父は……領主は死んだって聞いてたけど」

「恥ずかしながら、投獄されておりました」

「投獄ぅ!?」

 

 ぎょっと目を剥くセントさんとリュウガちゃんに、女王様が代わって説明してくださいました。

 

 エクレールさんは波の直後、奴隷狩りの暴徒と化した、同じメルロマロクの騎士達に剣を向けたそうです。

 ルロロナ村のみんなを助けようとして……ですが、反対に反逆者として囚われてしまったのだとか。

 

 その話を聞いて、思わず胸が熱くなります。

 こんな方がまだ、ほかにもこの国にいてくださったんですね。

 

「ふむ……捕まったのはもしかしてアレか、相手の騎士が自分より格上の家柄だったとかそういうのか」

「そうですね。イワタニ様方のご活躍で、そういった貴族の大半を粛清することができましたが」

「なるほどなるほど……性格は信用できるな」

「ああ、大した女だ」

 

 ナオフミ様も、エクレールさんに対しての印象はいいようです。

 私も思わず笑みをこぼしながら、頭を下げたままのエクレールさんの手を取りました。

 

「私達はあなたを責めたりしません。あなたのような高潔な方を誰が詰れるものでしょうか……その上、こうして私達の助けになろうとしてくれているのですから」

「オ、オレも! オレも許すよ! 騎士の姉ちゃん、いい人だってわかったから!」

「ラフタリア殿……キール殿」

 

 はっと顔を上げたエクレールさんに、私とキール君は微笑みを返します。

 うっすらと、エクレールさんの目元が潤んで見えるのは……言わないほうがよさそうですね。

 

「よかったねー、騎士のおねえちゃん!」

「そうだな。……だがまず、肝心なことを確かめねぇとな」

「ん?」

 

 感きわまるあまり、お互いに手を取り合っていた私達を見て、ナオフミ様達が真剣な眼差しを向けてきます。

 そうでした、エクレールさんがここに呼ばれた目的は……。

 

「女王さん、どっか場所借りれない? 多少暴れても問題ない広いところがいいんだけど」

「すでにご用意しております」

「さすが……仕事が早いね」

 

 セントさんの問いに、女王様がエクレールさんに目配せをします。そして頷いたエクレールさんが、私達を案内してくれました。

 向かう場所は……以前、ナオフミ様と槍の勇者様が決闘をさせられた闘技場に似た、広い外の空間です。

 

 案山子や的がいくつも並んだその場所はない、何に使う場所なのか一目瞭然でした。

 

「お前さんが本当にオレ達の修行相手にふさわしいのかどうか……納得するには、やり合うのが一番手っ取り早い。だろ?」

 

 舞台のような修練上の中心に立って、セントさんがにやりと不敵に笑ってみせました。

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