Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜   作:春風駘蕩

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レベルアップの弊害

Side:Naofumi

 

「ぬぅおらああああああああああああああああ!!!」

 

 ガリガリガリガリガリ!!!

 

 俺の目の前には今……およそ女が出すものではない怒号をあげながら、訓練場を走るリュウガの姿がある。

 

 ただし、普通に走っているわけじゃない。

 アホみたいにデカい重りをいくつも背負って、さらに腰に結んだ紐で重りを引っ張っている。

 

 見たことあるなこれ、何だっけ……ばんえいだっけ?

 

「あぁくそ! 重さまだ足んねぇ! もっと追加くれ!!」

 

 挙句、土埃がもうもうと巻き上げられ、辺り一面まっ茶色になっているというのに、さらに重量を要求する始末。

 

 おまえ、一人だけ世界観間違ってんだろ。

 剣と魔法のゲームっぽい世界観だぞここは、お前だけバトル漫画の修行してんじゃねぇか。

 

「あいつ……オレらが思ってた以上にアホだ。ていうかあんなでかい鉄の塊、どっから持ってきたんだ…?」

 

 セントもドン引きしてるぞ、おい。

 いや、セントだけじゃないな。ラフタリアもエクレールも、周りで訓練してる兵士達ですら唖然とした顔で固まっていた。

 

「もしかしてリュウガちゃん……私達に見えないところでいつもあんな修行を……?」

「何というか……凄まじいな」

 

 エクレールの語彙力が死んでる……まぁ、そうとしか言えんわな。

 

 前々からすげー馬鹿力の持ち主だとは思っていたが、あんなもんいつもやってたならそりゃ強くもなるわ。阿保の一念何とやらというが。

 昔見たアニメの……引退した怪力のヒーローが電車を引っ張って鍛え直すシーンを思い出した。

 

 ……てか、あれならライダーシステムいらなくないか? 過剰戦力だろ。

 

「リュウガ、お前今度からフィーロの代わりに馬車引け。何台かまとめて繋げば丁度いいトレーニングになるだろ」

「あ? 何だそれ、いいな。次からそうしよう」

「やー! 馬車を引くのはフィーロなのー!」

 

 冗談で言ったのに乗り気になってるし……マジでバカだろこいつ。

 

 とりあえずやめさせよう。

 幼女姿のフィーロに引かせて虐待とか思われないようにしてたのに、あいつに引かせたらもっとややこしくなる。

 

「というか、盾の勇者殿も十分凄まじいと思うが……」

「ん? ……あ、そういえばもう何周してたっけ?」

 

 エクレールに指摘されて、俺は我に返った。

 

 奴隷商のところにいって、キールとリーシアを奴隷として登録してから、再び城の訓練場に戻ってきてしばらく。

 

 本格的に鍛え始める前に、まずは全員の身体能力を把握しようってことで、全員で訓練場をぐるぐる走ってたんだった。

 そしたらリュウガがどんどんペースも負荷も上げてくもんだから……いつのまにか無我の境地に至っていた。

 

 その上、ほとんど息も上がっていない。エクレールの方が先に疲労を見せ始めている。

 

「こんなに体力があったわけじゃないはずなんだがな……」

「高レベルのステータスによって、身体能力そのものが影響されているのでしょう。カルミラ島でかなりお強くなられたようですし……」

 

 そういうことか……考えてみれば、微々たる数値とはいえ魔物狩りで腕力とか上がってるしな。防御力に関してはありえないくらいになってきてるけど。

 ラフタリアも、普段からやばい回数の筋トレとかしてるもんなぁ……あれ、そのうち何とか言ってやめさせるべきか。

 

 ……しかしこれじゃ、三馬鹿の事を悪く言えんな。

 これは確かに、真面目に訓練するのが馬鹿らしくはなるか。

 

 そういや錬が言っていたな、この世界はレベルがものを言うと……ある意味真理だったな。

 

 で、そんな俺達とは正反対に……へろへろで地面にへたり込んでいる二人がいるわけだが。

 

「ふぇぇぇ……も、もしかして、私もあれができなきゃいけないんですかぁ……!?」

「に、兄ちゃん、嘘だよな。アレをやらせたりしないよな?」

 

 ぜーひゅーぜーひゅーと荒い息を吐き、全身汗まみれになったリーシアとキールが絶望の表情で俺を見上げてくる。

 さっきのやる気はどこ行った……と、言いたいところだが。

 流石に、アレを目指すべき壁と定めるのは気が引ける。

 

「いや、アレができるのはあの脳筋だけだ。ていうか真似すんな、死ぬぞ」

「だ、だよな!? ……でもオレ、兄ちゃんやセント姉ちゃんにも追いつけてないし」

 

 あー、たしかに、この辺はしっかりしないとな。

 

 リーシアはなぜかレベルに比べてステータスが低く。

 キールはそもそもレベルが低い……成長補正がかかっていても、ある程度の経験値を積ませないと話にならない。

 

 だが次の波まで時間がない。それまでバルーンやエグッグなんかの雑魚ばかり狩ったところで、戦えるようになれるかどうか。

 

 ……こうなりゃ、多少はゲーム的にやり方を変えるべきか。

 

「キール、お前はフィーロと一緒に魔物狩りに行ってこい。だがまだ直接戦う必要はない、フィーロの背にしがみついていればいい」

「えっ?」

「というわけでフィーロ、晩飯の食材ついでにキールを連れて爆走してこい。日暮れまで帰ってくるなよ」

「うん、わかったー!」

「えぇっ!?」

 

 フィーロに適当に走らせて魔物を撥ねさせてくれば、勝手に経験値が入ってレベルも上がるだろう。俗に言う養殖だな。

 

「私としては、あまり推奨したくない方法だがな。本来ならば、もっとじっくり時間をかけて鍛錬を重ね、学びながら強くなるべきなのだが……」

「オレもそう思う。なぁ、リュウガ……って聞いてねぇな、あいつ」

 

 エクレールが険しい顔でそう言ってくるが、この際そんなことも言っていられんだろう。まぁ、褒められた方法じゃないのは確かだが。

 

 多少は焦らなきゃ、勝てる戦いにも勝てない。

 

「に、兄ちゃん!? なんかオレ、ものすごく嫌な予感がしてるんだけど!?」

「手っ取り早くレベルを上げるためだ。軽く地獄を見るだろうが……まぁ、頑張れ。ラフタリアも一度通った道だ」

「地獄!? 地獄って言ったか今!?」

 

 加減を捨てたフィーロの背中はさぞ揺れるだろうなぁ……ラフタリアも真っ青な顔で固まってるし。

 

 ……おい、セント。手を合わせて拝むな。

 南無阿弥陀仏じゃねぇんだよ、冥福を祈るんじゃねぇ。ってかなんで知ってんだよ阿弥陀経。

 

 ガクブルしてるキールだが、もう遅い。

 最初に自分で言ったんだからな───強くなるためなら、何でもするって。

 

「というわけで行ってこい!!」

「はーい!」

「あ、ちょ! ちょっと待ってフィーロちゃん! オレまだ心の準備が───」

 

 ひょいっとフィーロがキールを自分の背中に乗せ、くるっと踵を返す。

 キールがぎょっと目を剥いて俺の方に振り向く。なんかものすごい助けを求める目をしてるが……強くんるためだ、諦めろ。

 

「ぎゃあああああああぁぁぁぁ……!!!」

 

 どどどどど、と勢い良く走り出すフィーロ。

 その背にしがみつきながら、キールが悲鳴をあげて遠ざかり、訓練場を……城を後にする。

 

 やれやれ、とそれを見送っていると、ラフタリア達がぞろぞろ集まってきた。

 

「……かわいそーに。ナオフミ、せめて飯作って待っててやれ。流石に不憫だ」

「城の料理でよくないか?」

「私からもお願いします……本人の希望とはいえ、きっとくたくたになって戻ってくるでしょうし」

 

 えぇぇ……何でわざわざ城にいるのに俺が。

 こいつら、やたらと俺の料理を食べたがるが、何なんだ? そんな大層なもんじゃないぞ?

 

 ……仕方ない。フィーロとキールが帰ってくる頃に作っておくか。

 とりあえず、キールはしばらくこの方針で行くとして。

 

「……問題はリーシアだな」

「あぁ」

 

 ちらっと視線を交わし、鍛錬を一旦中断したセントを近くに招き、訓練場の隅に移動する。

 ラフタリアには、エクレールと個人で稽古を始めて貰っておこう。リーシアはとりあえずその見学、見るだけでも経験にはなるだろう。

 リュウガは……うん、元気に走り回ってるし放置だな。

 

「リーシアちゃんはレベルリセット拒否したんだっけ? まぁ、積み上げてきたもんゼロにすんのは抵抗あるのはわかるけど……」

 

 セントの問いに俺は思わず険しい顔になって頷く。

 

 どうせ、樹との旅で積み上げてきたもんだからだろうが、どうしたものか。

 レベルだけなら樹のパーティーにいても違和感はない数字なんだがなぁ……どうなってるんだ? 元々戦いに向いてない体質とかか? だとしたら手の施しようがないんだが。

 

「どうすっかねぇ、剣とか槍の腕前は全体的にそこそこで目立つとこがないって言ってたし、鍛えるにしてもどこをどう伸ばすべきやら」

「弓とか投げ武器は?」

「味方に当てそうで嫌なんだと」

 

 あの気弱さはマジで何とかしないとな……あの性格はもしかすると、どっかで周りと比べられたりしたせいか? 頭はそれなりっぽいんだが。

 だとしたら自信をつけさせたら伸びたり……いや、元からああな気がする。

 

「戦闘技術はオレが直接相手するとして……あとは魔法か? セント、お前が見たところどうだ?」

「んー、こっちも微妙だな。得意も苦手もなし、どの属性もそこそこの威力しか出せないんだってさ」

 

 筋金入りだな……器用貧乏か?

 万能とは違うってのがリーシアらしいというかなんというか。

 

「……ん?」

 

 あれ、なんか今違和感感じたぞ。

 

「おい、ちょっと待てセント。どの属性もそこそこ使えるって言ったか?」

「え? あぁ、言ったぞ? ……あれ、そういや妙だな」

 

 俺が指摘すると、セントもそこで気付いたのか眉間にしわを寄せて考え込み出した。だよな、おかしいよな?

 本人がアレすぎて想像もつかないが、その話が本当なら話は変わるぞ。

 

「適正って普通、偏るよな……珍しいなんてもんじゃないぞ」

 

 あいつ、気付いてないだけで何らかの才能があるんじゃ……!?

 

 と、俺達が旋律を感じていた時だった。

 

「──きゃああ!?」

「──ふぇぇぇ!?」

「──うわっ!?」

「──おわーっ!?」

 

 訓練所の方から、ラフタリアとリーシア、ついでにエクレールとリュウガの悲鳴が聞こえてきた。

 

 はっと我に返った俺達は、急いで訓練場に戻りラフタリア達の方へ振り向く。

 そこで、俺達が目にしたのは───。

 

 

「この子は100年に一人の逸材じゃ〜〜!!!」

「ふぇぇぇぇぇ───────────!!!」

 

 

 ……と、なんかハイテンションで泣き叫ぶリーシアの脇腹をさすって騒ぐ、どっかで見た事のあるババアの姿だった。

 

 ……え、何この状況。

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