Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜 作:春風駘蕩
Side:Sento
「ふぇぇぇ助けてくださいぃ〜〜!!」
オレとナオフミが訓練場に戻ると、リーシアがなんか妙なバーさんに腹を撫で回されて悲鳴をあげていた。
いや、いやいやいやいや、マジで何これ。
ていうか、えっと? あのバーさん、あれだよな、三回目の波ん時に大暴れしてた、やたらと強いあのバーさんだよな?
「あのババア……なんでこんな所に」
「しかもなんか、えらく立派な格好してないか?」
道着、っていうのか? どっかの拳法家が着てそうな、詰襟の分厚い感じの服。
そんでもってめっちゃ機敏な動きでリーシアの脇だの腹だのをまさぐってて……うん、普通にセクハラで訴えられそうだな、あれ。
「……で、ラフタリアちゃんや? 何ですかいなこれは?」
「え、えっと……」
オレはそこらへんで息を切らせて座り込んでたラフタリアちゃんに話しかけて、詳しい事情を聞いてみる。……先にやられたんだろうなぁ。
「あ、あの方が城の兵士さんに案内されてここへ来たかと思うと、私やリュウガちゃんやリーシアさんの体を触って『この子らこそ次代の変幻無双流の継承者じゃあ!』と騒ぎ始めて……」
「反応する間もなく関節決められて全然動けなかった……ってかマジで何しやがんだあのババア」
うん、説明されても謎だわ。
本人達もいきなりすぎて全然状況把握できてないんだろうな……そりゃそうだわなぁ。
……ていうか、いつまでやってんのあのバーさん?
「いい加減にしろ、ババア! 女同士でもセクハラだぞ!」
「ほっほ……手荒じゃのう、聖人様」
挙句、ナオフミに首根っこ引っ掴まれてやめさせられてるし。
おーい、大丈夫かお前らー?
「ふぇぇぇぇ……びっくりしましたぁ、もうお嫁に行けません〜……」
「ババアに脇腹まさぐられたぐらいで何言ってんだ、お前。オレなんか関節決められて押さえつけられたんだぞ」
あーあー、解放されたリーシアちゃんが泣いちゃった。
ラフタリアちゃんもリュウガも疲れ切ってんな……修行中だってのに、なんだってんだ全く。
「全員、災難だったなぁ」
「他人事か!!」
「そんなに嫌なら誰か……ナオフミにでも上書きしてもらえ。あれだ、ラフタリアちゃん、あすなろ抱きでもされてみな、飛ぶぞ」
「何の話だ!?」
「わ、私はイツキ様のものなんです!!」
「重いわ!!」
と、オレがリュウガに突っ込みを入れられながら、おどけてみんなを慰めていた時だった。
「───ぐあっ!?」
突如、バーさんを捕まえていたナオフミが悲鳴をあげた。
ばちっ、てなんか電気が走るみたいな音が聞こえて、バーさんがナオフミの拘束から抜け出して、ひらりと降り立った。
な、なんだ? 何が起こった?
「……ババア、お前、今、何をした?」
「ほっほ……ババアもなかなかやりますじゃろう。若者に教える時はまずこれですじゃ」
旋律の表情を浮かべるナオフミに、バーさんはにやりと不敵な笑みを浮かべて手を見せる。
え? いきなりすぎてわかんなかったけど……このバーさん、ナオフミに攻撃食らわせたのか? 防御力バリカタのナオフミに?
「お、おい、何があったんだ?」
「……あのババアに軽く触れられただけで、ものすごい痛みが走った。指先がちょっと当たっただけだったのに」
は……いやいやいやいや、わけわからんわ。
何をどうやったらそんな真似できんの?
前に波の魔物相手に大暴れしてた事もそうだし、マジで何者なんだこのバーさんは……?
「こちらにおられましたか」
オレ達が呆然としていると、女王さんがちょっと急ぎ足でやってきた。
こちらにおられましたか、って……あ、このバーさんに向けて言ってる? じゃあこのバーさんは女王さんが呼んだってことか?
「で、女王、こいつは一体……」
「今回の戦技教導のためにお呼びした、変幻無双流の伝承者の方です。初めはお断りされておりましたが、盾の勇者様の教導のためだとお伝えしたところ快く頷いていただきまして」
女王さんの説明で、バーさんは袖口を合わせながらナオフミに首を垂れた。
なんか……すげー。
ただ挨拶しただけで只者じゃない感じがする。さっきまでセクハラしてたのに。
「改めまして、聖人様には命を救っていただき、その御恩を返すために馳せ参じましたじゃ。老骨の身なれど、ぜひ聖人様のお力になりたく」
忠誠すげー……あの薬、別の効き方してないだろうな。
ていうか、なんだその変幻なんたら流って。全然知らねぇんだけど。
「変幻無双流!? マジか!?」
うお、なんか急にリュウガが元気になった。
あれ、心なしか目がキラキラしてね……? なにその憧れの英雄に偶然であった少年みたいな純粋な目。お前のキャラじゃねーだろ復讐者。
「知っているのかリュウガ」
「あぁ……特定の武器を満たず、そしてこの世のあらゆるものを武器とし、弱きを助け強きをくじくため編み出されたという幻の流派だ。詳しくは知らねぇけど、今は衰退して失伝したって聞いたが……」
「ほっほ……お察しの通り、跡を託せる者がおらんくての、わしも残り少ない余生を目立たず静かに過ごそうと思っておったくらいじゃ」
はぇー……そんあんあるんだ、へー。
この脳筋がそういうのを知ってたのはいいとして、そこまで恩義を感じてくれてんのか、このバーさん。
何がどう転ぶかわかんないもんだなぁ。
……伝説がどの程度かは知らないが、実力は確かみたいだな。
実際に一撃を受けたナオフミが真剣な表情でバーさんを凝視してる。ほんの軽い感じで、相当効いたらしいな。
「……ババア、今のはまさか、防御比例攻撃か」
「左様。相手の体内に『気』を打ち込み、内側から破壊する変幻無双流の技の一つですじゃ。相手が硬ければ硬いほど効きますじゃ」
何それこわい。
「気か、漫画とかアニメ……いや、創作物の中じゃよく聞くが、それは俺達でも習得できるものなのか? 俺に関しちゃ、戦闘に関してはほぼレベル頼りの素人だぞ?」
「無論、これは弱者が強者に挑むために生み出された技術ですじゃ。誰しもに使いこなす才は眠っておりますじゃ」
「この脳筋とバカウサギにもか?」
「当然」
「オレを引き合いに出す意味あったか今!?」
……いや、まぁ、そういう修行的なのは苦手なのは確かだけどさ。
気とか言われてもよくわからん。ステータスに出ないものをどう感じりゃいいんだよ。
「どーするよ、ナオフミ」
「……正直言えば、願ったり叶ったりだ。今後の戦いに必ず必要になる技術をあのババアは持ってる。この機会を逃す手はない」
あー、グラスの奴やたら頑丈だったし、ラルクも妙な技術持ってたみたいだしな。次またやりあう時までに備えとかねーといけないのか。
……オレも、姐さんとの戦いがあるしな。
あとコウモリ野郎とか、あいつも結構頑丈だったし。
「やろうぜ、お前ら! オレもずっと変幻無双流を体験してみたいと思ってたんだ、ぜひ習おう、すぐ習おう」
「おう、わかったからちょっと落ち着け。顔近いわ」
「ラフタリアちゃんが割とヤベー目で見てるからちょっと離れろ」
どんだけ推してくるんだよ、こいつ。
後頭部押したらチューできそうな距離でナオフミに詰め寄ってるし……冗談なんでそのこわい目やめてもらっていいですかラフタリア様。
んんっ……それはそれとして。
必要に思ってた技術の持ち主が、昔偶然助けた奴だったってのは流石に偶然にしちゃ出来過ぎだって思っちまうのは……ナオフミの影響か?
……ま、疑ってる暇も正直ないし、ここは厚意に甘えとくべきだな。
とか思ってたら、不意にバーさんがリュウガの方を向いてじっと見つめ始めた。
「龍神殿に至っては、独自に『気』を纏える段階に入られているご様子……癖がつく前に、ある程度矯正の手伝いをさせていただけますれば」
「……え?」
は? 今何つったこのバーさん。
リュウガが……気を使ってる? いや、そういう意味じゃなくて。
ってか、龍神って誰!?
「え? いや、え? ちょ、ちょっと待てよ。オレは気なんてもの使ってなんて……」
「どうやら無意識のようですが、確かに龍神様は『気』の習得に至り始めておられる……それを完全なものとすれば、必ずさらなる力を得られよう」
「……マジかよ」
え、あの、龍神様云々はスルーすんの?
……まぁ、いいか。聖人も神鳥もバーさんが勝手に呼んでるだけだしな。
リュウガが強くなるってんならパーティー的にも助かるし、本人も願ったり叶ったりだろうし。
「次の波までそんなに時間もない……俺達は今、かなり急ぐ必要がある。正直強くなるためなら猫の手も借りたい状況だ。存分に利用させてもらうから覚悟しておけ」
「誠心誠意、努めさせていただきますじゃ」
ナオフミの言葉に、バーさんは深々と頭を下げて応える。
こうして、最強のバーさんがオレ達の指南役として仲間に加わったのだった!!
……字面にするとわけわかんねーなこれ。