Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜 作:春風駘蕩
Side:Melty
「謎の魔物?」
母う……女王陛下の前で、整列したナオフミ達が訝しげな顔をしてる。
急な話で驚くわよね。こちらとしてもいきなり浮上してきた問題で、まともな調査がまだできていないのよね。
……それはそれとして、なんか全員、凄く汚れてないかしら?
「いや、まぁ、女王には色々助けて貰ってる以上、頼み事は断らんが…………はぁ」
何よ、ナオフミってばため息なんてついちゃって。
そりゃあ、強くなるための修行中に別のことを頼まれるなんて大変だなんてわかってるけど……ナオフミの性格的に面倒臭がるのはわかってるけど。
「何よ、なんでそんな急にやる気なくしてるのよ」
「……いや、別に」
あえて聞くと、バツが悪そうに目をそらすし。
……あ、いいのよラフタリアさん。ナオフミのこういう反応なんて予想してたし、気にしないでいいの。
ただ意外だったのは……他の勇者様方なのよね。
「えぇぇぇ……マジかよ」
「せっかく修行に対する熱意が盛り上がってたところだったのに……」
「俺の……俺の変身ベルト……」
聞いた話だと、最初はこの人達、修行の成果を感じられないってものすごく駄々をこねてて、挙句ボイコットしようとしてたみたい。
でも今は、なんか逆に修行ができない事が不満で仕方ないように見えるわ。
槍の勇者様は女性陣を見てないし。
弓の勇者様はがっくり肩を落としてるし。
剣の勇者様なんて絶望の表情でその場に崩れ落ちてるし。
仲間の冒険者達もみんな呆れてるわよ。ラフタリアさん達だって困り顔でナオフミの事を見てるし……フィーロちゃんはよくわかってないっぽいけど。
あぁ、女王陛下も困惑の視線を向けておられるわ。
「……一体何があれだけ噛み合わなかった勇者様方を一つに団結させるのです?」
「「「「男の浪漫だ!!」」」」
声揃った! 仲良しか!!
「……こちらがお願いした事を中断させる形となって大変申し訳なく思います。ですが、すでにその魔物による被害も多少で始めていますので、早急な対処をお願いしたいのです」
「……なら、しょうがないか」
「ですね……」
ずっとうなだれていた剣の勇者と弓の勇者がようやく顔をあげたわ……ほんっと手のかかる人達。
ちょっとナオフミ! あんたはこういう時に他の勇者達を説教する方でしょ!
仲良くなってるのはいいけどしゃんとしなさい!
Side:Naofumi
「ふぅん……謎の魔物ねぇ。噂は少し聞いてたが、俺ぁてっきり、いつもの魔物の大量発生くらいにしか思ってなかったな」
女王に頼まれた調査について、俺達はまず武器屋の親父に報告に向かった。
これから戦力の増強を考えて、色々と準備を手伝ってもらってたからな。頼んでおいて悪いが、装備作りは一旦中断してもらう事になる。
「だが勇者様にご指名がかかるんじゃ、結構な大事になりそうだな」
「あぁ……それで、いまできてる武器と装備は?」
「おう! 嬢ちゃん達の武器は仕上がってるぜ」
親父に頼んでおいたもの……カルミラ島でポップしたウサウニーソードとイヌルトクロウがお披露目される。
ん? 全体的に白くなってるな。
「わー! かるーい!」
「それでいてすごく使いやすいです! それにこの刃の感じ……斬れ味も維持されていますね!」
「マイナスの効果を打ち消したんだ。苦労したぜ?」
利点を保ったままそこまで改良できたのか、さすが親父だな。前も誘って断られたが、やはり領地にきてくれないもんかね。
「そんで、こっちはウサギの嬢ちゃんの分な」
「お! あんがとな〜」
セントの方は、鎧を纏う時に自動的に手元に現れる武器の……ドリルクラッシャーとかのバージョンアップだったな。
しかしこいつのこの、ニチアサ感バリバリの武器まで整備できるってのは……流石に凄すぎないか? 世界観まで超えた技術力だぞ。
まぁそのおかげで、今後の戦いへの期待感も強まってるわけだけどな。
「そんで、こっからが本番だ!」
「ん?」
「着ぐるみの嬢ちゃんの分だ。結構な傑作ができたぜ!」
そう言って親父が取り出したのは……フィーロだった。
いや、フィロリアルクイーン形態のフィーロを模した着ぐるみなんだが……いや、待て待て。最初はペックルだっただろ、なんでこうなった!?
「おい、親父、これは……」
「いやー、なんか鳥の嬢ちゃん見てたらできちまってよ。まぁ性能はちゃんといいから安心してくれよ」
「あ、本当です! すごいですコレ!」
「いつの間に!?」
俺が止める間もなく、というか気付かないうちにリーシアが早速フィーロ着ぐるみを着込んでいた。
躊躇いがなさすぎだろ……泣いててもわからないから着ぐるみを着てたいとかネガティブなこと言ってたけど、流石にもうちょっと恥じろよ。
ていうか本当に性能高いな! 役には立ちそうだけど、なんでそこらの鎧よりスゲーんだよ!
俺がおかしいのか? 親父の、ってかこの世界のやつらと感覚が合わないのが原因か? ……やめよう、頭がこんがらがりそうだ。
「んで最後は……新しく入った坊主のだな。ほれ、お前さんの分だ」
「わぁ! すっげぇ!」
親父に剣を渡されたキールが興奮した声をあげてる。
なんか、懐かしく見えるな……あぁ、そうだ。昔のラフタリアがあんな感じで……いや、あんな風にはしゃいではいなかったか。
ふとラフタリアの方を見てみると、こっちも懐かしそうに、だがどこか寂しそうにキールを見つめている。
……一番キールが戦うことに反対していたけど、過去の自分と重なったせいで、何も言えなくなったのかもな。
さて、親父がキールに色々とレクチャーしてくれている間に、馬車の準備でもしておくか。
と、俺が親父の店を出た時だった。
「───盾の勇者様ですね」
誰かが、俺の前に立っていた。
一瞬身構えた俺は、目の前にいる何者か……分厚いローブで全身を隠した、声でかろうじて女だとわかる謎の相手を睨む。
何だ、こいつ。声をかけられるまで気配も何も感じなかったぞ。
「誰だ、お前は」
「時間がありません。手短にお話しします……どうか、どうか私を殺してください」
は?
いや、急に出てきて殺してくれって……何を言ってんだ。
というか、何だ……この、妙な感覚。目の前にいるこいつ……人間なのか、それともフィトリアみたいな魔物なのか。
いや、そのどちらでも、俺が知ってる他の何でもない気ようながする。
「このままでは、私は使命を果たすことができません───」
困惑する俺を放置して、そいつは続けて願い続ける。
思わず俺が聞き返そうとした時、武器屋から出てきたリュウガにぽんと肩を叩かれた。
「どうした、ボーッと突っ立って」
「あ? あ、あぁ……この女が妙なことを言ってきてな」
「この女? …どの女?」
どのって、だから目の前にいるこの……っていねぇ!?
さっきまで確かに目の前にいたはずなのに、ちょっと目を離したあの一瞬でどこに。
「いや、さっきまでここに変な女がいて……」
「んん〜? それっぽいやつは見あたらねぇけどな。そいつがどうかしたのか?」
「……いきなり話しかけてきて、自分を殺してくれ、だとか」
「はい?」
いや、そんな訝しげな顔すんなよ。俺だって困惑してんだから。
まさか俺だけにしか見えてなかった…? こんな世界じゃあり得なくないのが嫌だな。
「亡霊でも見たんじゃねーのか?」
「亡霊が殺してくれとか言うのかよ」
「そりゃそうだけど……じゃあ、何だ?」
「知るか!!」
聞き返すな! いきなり話しかけられた俺が一番困惑してんだってのに!
はぁ……もういい。さっきのはほっといてさっさと出発の準備をしちまおう。
得体の知れない謎の女より、実害が出てるらしい謎の魔物の方が重要だ。早急に片付けて修行に戻ろう。
───ここからそうかからないうちに、俺はその女と再び会うことになる。