Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜   作:春風駘蕩

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甲羅の魔物

Side:Eclair

 

「なぁ、ナオフミ? ここってさぁ……あの村、で、いいんだよな?」

「あ、あぁ……」

 

 鬱蒼と茂る木々。見たことのない奇妙な、しかし美味そうに見える果実を成らせたそれらが作る曲がりくねった道を、勇者殿の馬車に乗って進む。

 この辺りはこんなにも深く険しい森などではなく、ごく普通の平地が続いていたはずなのだが……いつの間にこのような密林になったのだ?

 

 地に張られた根のために進みづらく、がたがたと揺れるその道を進んでいる中、ふとセントが勇者殿にひそひそと話しかけていた。

 

「前よりひどくなってんじゃねぇか!!」

「俺に言うな! ……いや、実際に俺のせいなのか?」

 

 ……どうやら勇者様方は、この状況にひどく心当たりがあるようだ。

 

 確かこのあたりには、以前に行商をしていた盾の勇者殿が通った村があったはず。

 飢饉に苦しみ、飢え死にするものが後を絶たないその場所で、槍の勇者殿が封じられた古代の種子を持ち込み……あっという間に村中に繁殖させてしまったんだったか。

 

 それを解決したのが盾の勇者殿だと聞いているが……全く解決していないようなのだが?

 

「おい、どうするよおい! 大丈夫っつったじゃねぇか! 調整したから大丈夫だっつったじゃねぇか!」

「ちょっと待て……俺もいま考えてんだよ。除草剤積んできたっけ?」

「多少はあるけど、これ全部を片付けるにゃまず足りないな」

「……む、村の連中は」

「こんな状況だからな……異常発生した木に呑み込まれるか寄生されるかで、今度こそ全滅してたり……」

「最悪だ……!!」

 

 聞き捨てならない言葉がいくつも聞こえてきたのだが?

 最悪の場合、国の恩人たる勇者殿を我が剣の錆にしなければならないのだが? どうすればいいのだ、私は。

 

「落ち着いてくだされ、聖人様。どうやら、皆様が心配されているような事にはなっておらぬようですじゃ」

「え?」

「……この有様なのにか?」

 

 む、師匠が頭を抱える勇者殿をなだめている。

 どういうことだろうか、と尋ねようとした時だった。

 

「あぁ! もうまた入ってきてる! ここはもううちの村の敷地だから入ってきちゃダメなんですってば!」

 

 一人の少年が馬車の前に飛び出してきて、通せんぼをしてくる。

 む? 村の敷地……やはりここは件の植物に侵された村で間違いないのか。それだとやはりこの有様は勇者殿のやらかしという事になるのだろうか。

 

 それにしては、村の住人らしきこの少年が苦しんでいる様子は見当たらんな。いや、私たちの馬車に困った顔を見せてはいるが。

 

 と、困惑する我々をにらんでいた少年が、御者台の勇者殿を見てぱっと表情を変えた。

 

「あ! 盾のお兄ちゃ……じゃない、勇者様!」

「お前は……たしか寄生されてたあの子供」

 

 どうやら、勇者殿とこの子供は顔見知りだったようだ。それも、勇者殿が直接助けた相手らしいな。

 この様子だと、勇者殿が失敗してこの惨状になった……というわけではないらしい。疑ってしまうとは、悪い事をした。

 

「ここはもう、うちの村の畑なんです。立派な村の特産品になってますよ」

「……本当か? 住人が呑み込まれて養分にされてたりしてないか? 寄生されて思考を乗っ取られたりしてないか? 村の地下深くに魔物化した植物の親玉とか眠ってないか?」

「大丈夫ですよ!」

 

 勇者殿……まさか、やらかしたのではないかという不安からひどく疑り深くなっておられる。いや、一瞬疑ってしまった私がとやかく言えたものでもないのだが。

 

「たくさん他の村に売れるようになったので、畑を増やして見回りながら管理してるんです。だけど、普通の森と見分けがつきにくいらしくて、よく冒険者の人達が勘違いして入ってきちゃって……」

「ほっほ、さすがは聖人様。凄まじい功績を残されたものじゃ」

「兄ちゃんの作った種がこうなったのか? 兄ちゃんすげー!」

 

 確かに、凄い。ここまで狙った成長を遂げる植物を生み出し育むとは、盾の勇者の力の凄まじさは感服せざるを得ないな。

 ……当の本人は、未だに青い顔でうろたえておられるが。

 

「本当か? 本当に大丈夫か? 気を使ったりしてないか?」

「大丈夫ですってば!」

「ナオフミ様……ご自分を疑われるのはもうおやめください。見てて切なくなります」

 

 未だ自分の失態を疑い、心配する言葉をかけ続ける勇者殿をラフタリアがなだめている。どこまで自信がないんだこの御仁は。

 

 自分でも少しやりすぎたと思ったのか、勇者殿は咳払いをして気分を切り替え、少年に向き直った。

 

「何もないならそれでいい。それで聞きたいことがあるんだが、この辺に正体不明の謎の魔物が出没し始めていると聞いてな、その調査に来たんだ」

「謎の魔物……あぁ、はい。知ってます。村で預かってます」

「詳しく調べたい。見せてもらえるか?」

「はい! こっちです!」

 

 

 少年に案内され、我々は村へと辿り着いた。

 広場らしき開けた場所には人だかりと、その間に置かれた奇妙な魔物の死骸が見つかった。

 

「あれです。畑に迷い込んだ冒険者の方が遭遇して、襲ってきたのを退治してくれたんです」

「どりゃどりゃ……」

 

 周りに集まっていた村人達に断ってから、セントが魔物を調べ始める。

 

 ふむ……見たところはコウモリだが、確かに甲羅があるな。

 飛びづらそうだと思うのは私だけか? 見れば見るほど奇妙な魔物だ。

 

「ふむ……もらっていっていいか?」

「どうぞどうぞ」

 

 勇者殿が盾を構え、その上に魔物の死骸を置く。

 するとしゅるしゅると魔物の死骸が吸い込まれていき、跡形もなくなってしまった。

 

 おぉ、これが聖なる武器の力か。こうして見るのは初めてだ。

 こうやって魔物や物を吸い込ませることで、様々な力を使えるようになるんだったか。やはり不思議な力だ。

 

「……**の使い魔?」

 

 盾を確認していた勇者殿が首をかしげ、何かを呟く。

 急に何を……あぁ、吸い込んだものが何なのか調べていたのか。成る程、そういう使い方もあるわけか。

 

 しかし、使い魔とは?

 

「使い魔ってことは……なんかがこいつを放って村を襲わせたってことか?」

「字面通りならそうだな。だが、肝心の名前が出てこない……こんなのは初めてだ」

「他にはないのか?」

「今の所はこの一体だけで……」

「そっかー」

 

 村人に尋ねたセントが何やらがっくりと肩を落としているな……あぁ、そういえばセントも魔物や物を使って道具を作っていたんだったか。

 例の……フルボトルとかいうものの成分にしたかったのだろうな。

 

 ん? 誰か近づいて来るのを感じて、私は思わず振り向く。

 あれは……村にいた冒険者パーティーか。この魔物を狩ったのも彼らのようだが、何の用だ?

 

「どうした? なんかでかいのを背負ってるが」

「あの……盾の勇者様、先ほどまた別の魔物が現れて、退治したところなんですが」

「そうか、いいタイミングだ。ちょっと見せてくれ」

 

 近付いてきた冒険者達が担いで来た……あれは、猿か? 妙にでかい毛むくじゃらの魔物をどさっと地面に放り出される。

 

 勇者殿はそれにも盾を向け、吸い込ませる。

 が、全部は吸い込ませず、半分を残すとあとはセントに促した。

 

「ほれ、お前の方でも何ボトルが出てくるのか確かめてくれ」

「あいよ、成分吸収〜」

 

 セントが取り出した空のフルボトルに、奇妙な猿が吸い込まれていく。

 残った半身が全て吸収されると、フルボトルは光と共にその形を変え……緑色に染まった。

 

 瓶に浮かび上がったのは……亀、か?

 

「何じゃこりゃ。カメフルボトル?」

「どう見ても亀じゃねぇだろ、さっきの魔物は。まぁ、確かにこいつにもでかい甲羅があったけど」

「んじゃあ、こいつらの大元は亀のなんかってことなのか?」

「さぁな……これだけじゃさっぱりわからん。とにかく他に現れる可能性もある。調査がメインだが、村人が襲われる前に探し出して駆除しよう。被害が出る前にな

 

 腕を組み、唸る勇者殿と同じく皆で頭を悩ませる。

 確かに……ヒントが少なすぎてこれ以上何もわからなさそうだ。

 

 人を襲うことがわかっている以上、それの阻止が最優先事項だろうな。

 

「では、手分けして探そう。音に敏感なラフタリアとセントは別れた方がいいのではないか?」

「ついでにフィーロも分けておこう。こいつは魔物の気配に妙に敏感だからな……3班に別れて森を調査して、あとで合流しよう」

「はい」

「おう」

「あいよ」

 

 行動指針を決定し、我々はそれぞれで動き出す。

 勇者殿はフィーロと老師。

 ラフタリアは私とリーシアと。

 セントはリュウガと、それぞれ班を作って調査に赴く。

 

 早速歩き出したラフタリアと私だったが……その時私達は、リーシアが後ろで何事かを呟いているのに気付かずにいた。

 

 

 

「甲羅……亀の魔物……何か、思い出せそうな……?」

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