Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜   作:春風駘蕩

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災厄の波

Side:Sento

 

 イラッとする連中と分かれてからほぼ丸一日。

 盾を確認したナオフミに聞いてみれば、波が起こるまであとちょっとらしい。

 正直波がどれだけのものかもわからないし、あんまり緊張とかしないな~…。

 

「あともう数時間程度だな…」

「ナオフミ様……」

 

 ちょっと暇を持て余していたら、ラフタリアちゃんがうつむきながら口を開いた。

 …そうだった、この子は波で家族を亡くしてるんだった。

 あんまりふざけるのはよしておこう…。

 

「どうした。今更腰が引けたか?」

「いえ…ただ、妙に感慨深くなりまして」

 

 言われてみれば、オレたちが出会ってから結構たったのか。いや、まだそんなにたってないのか。

 たしかに、結構濃い日々だったなぁ。

 

「ナオフミ様と出会わなければ、私はきっと…あのまま飢えて死んでいたでしょう。ですから、今ここにいることが、まだ信じられない部分もあります」

 

 ナオフミはラフタリアちゃんの言葉を、じっと黙って聞いている。

 ちょっと前なら、もっと冷たい態度を取っていたかもしれないけど、今はまだマシになってる……かな?

 

「私は、ナオフミ様に多くのものをもらいました……この恩を返し切れるとは思ってはいませんが、それでも…」

 

 ラフタリアちゃんはナオフミをまっすぐに見つめ、自分の胸に手を当てる。

 その目はすごく力強くて…ナオフミに向けた強い想いがうかがえる。

 ……ほんとに、成長したなぁ。

 

「力の限り、あなたの剣であり続けたい……そう思います」

 

 ナオフミはじっと立ったまま、ラフタリアちゃんを見つめる。

 そのうち、固かったその表情がふっと柔らかくなった、気がした。

 

「…わかった。なら、頼む」

「…! はい!」

 

 正直ちょっと素っ気ないんじゃないのかって思ったけど、ラフタリアちゃん的には満足だったらしい。ルンルン気分で準備運動なんかしてる。

 そしたら、ナオフミは今度はオレの方に顔を向けてきた。

 

「お前は死亡フラグを立てなくてもいいのか?」

「縁起でもないこと言うなよ…」

 

 いや、たしかにこの場でああいうセリフを言うのは危なそうだけど…。

 せっかく頑張りますーって気合い入れてんだから、もうちょっと考えて言おうよ、ナオフミ…。

 そう言う奴だってわかってるけどさ。

 

「ただまぁ……長いようで短い日々だったなとは思うよ。あんたと出会ってさ」

「…確かにな」

 

 一緒に戦って、守って守られて、ちょっとは仲良くなれた気がして。

 勇者のパーティーにしてはだいぶよそよそしいかもしれないけど、ちゃんと互いのために頑張ってる。

 大丈夫だ、これからだってやれる。

 ……ああ、そうだ。

 

「そういえばさ、オレってまだ試用期間中だったよな」

「…ああ」

「このまま正式にパーティーメンバーに加えてくれる気はない?」

 

 忘れてたけど、まだちゃんとしたメンバーとしては認められてなかったんだよな。

 戦力的には、オレの実力はちゃんと見せたからいいけど、仲間という意識内ではまだ仮扱いなんだよな。

 今さらよそにいこうとかは考えられないし、いいよな?

 

「オレさ、ナオフミのこと気に入ってんだよね。口悪いし疑り深いし目つき悪いし……正直とっつきにくいんだけど」

「うるせぇな…」

「でもそれ以上にさ。いい奴だよ」

 

 思わず笑みがこぼれて、オレは後頭部で腕を組む。

 ナオフミはそんなオレに、ちょっと恨みがましそうな目を向けてきた。

 

「……奴隷の女の子を、無理やり戦わせてるのにか?」

「必要なことだと思うよ。少なくともあの子にとっては」

 

 …やっぱり気にしてたんだな、そのこと。

 今は見た目も全然変わってるけど、ラフタリアちゃんはまだ子供。戦いの場になんて連れてくるべきじゃない。

 …な~んて考えてるんだろうな。

 

「波で家族を失った。そして戦う力もなく、いずれは死にゆくだけだった……あの子にとっては、剣をとって戦えることは望ましいことなんじゃないのかな」

 

 聞いた感じ、もう身寄りもないし帰るところもない。

 ナオフミがいなかったら、もっとひどいところに行ってたか、最悪死んでいたかもしれない。

 ナオフミはあの娘にとって、十分恩人やってんだぞ?

 

「だからさ、あんまり一人で背負い込むなよ?」

 

 ナオフミはしばらく俺を睨んでいたけど、そのうちため息をついてそっぽを向いてしまった。

 でも見間違いかな……ちょっとだけ笑ってた。

 

「余計なお世話だ。バカウサギ」

 

 

Side:Naohumi

 

 チッ、チッ、とカウントダウンが刻まれ、数字がゼロになる。

 その瞬間、俺の視界は一変し、それまでいた町中とは別の場所の風景に代わる。

 なにより異常だったのは…空一面に広がる赤色と、空に走る亀裂だった。

 

「すげぇ…! これが盾の転送能力!」

「ナオフミ様! セントさん!」

 

 興奮した様子のセントと、狼狽しているラフタリアがそれぞれで騒ぐ。

 ラフタリアは俺に見覚えのある行動を指さし、表情を青ざめさせた。

 

「ここ……リユート村の近くです!」

「なっ…!?」

 

 時間になれば盾が勝手に勇者を転送すると聞いていたが、こんなにピンポイントに波が起こるのかよ!?

 いや、問題はそこじゃない。どこで起きようが同じことだ。

 問題なのは、人がすぐ近くにいる事だ!

 

「避難なんかしてる暇ないよな…!?」

「あいつらは…!?」

 

 他の勇者共の姿を探すが、ようやく見つけたあいつらは村の方には目もくれず、一目散に空の亀裂の方へ走っていく。

 こっちには何もしないつもりか!? そう思っていると、あいつらが向かった方から白い花火が上がった。

 

「のろし……騎士団に知らせてハイ終わりってか!」

「間にあわねぇだろ!」

「行くぞラフタリア、セント!」

「はい!」

「おう!」

 

 俺の後に続き、ラフタリアは剣を抜き、セントは鎧を纏う。

 正直この世界の奴らを守るなんて反吐が出るが、顔見知りがいるとなれば後味が悪い。

 クソッ! 何でよりによってここなんだよ!?

 村に入ると、そこはもう悲惨な状況になっていた。

 デカいハチに、ゾンビみたいな腐った兵士、他に巨人のようなアンデッドと、大量の魔物が村人を襲っていた。

 こんなの…俺たちだけでどうにかなるのか…!?

 

「おらおらおらおらぁ!!」

 

 ウサギと戦車の鎧を纏ったセントが、魔物の軍勢に果敢に立ち向かっていく。

 ドリルの形をした剣で切り裂くと、魔物たちが気持ちいいぐらいに斬り裂かれていく。

 高い攻撃力があるようで羨ましい限りだよ、くそっ!!

 

「早く行け! 戦線を立て直せ!」

「は、はいぃ!」

 

 俺も魔物の方に向かい、村の住人を守りながら必死に立ち回る。

 手に入れたスキルを連発して、どうにか村人に向かう攻撃を防ぐが、正直手が足りない…!

 国の兵士はまだ来ないのか!?

 

【ボルテックフィニッシュ!】

「どっせい!!」

 

 セントの必殺技が炸裂し、魔物が何匹かまとめて吹っ飛ばされていく。

 だがそれでも相手はわらわら湧いて出てくるため、すぐに周りを取り囲まれていく。

 あいつらさっさと終わらせろよ!!

 

「きりがないぞ…!」

「ラフタリアは住民の避難誘導を! セントは俺と敵の注意を引きつけるぞ!」

「はい!」

「わかった!」

 

 とにかくやれる事を全部やるしかない。

 ラフタリアに村の住人を任せ、俺とセントで敵を引き付ける。

 セントはともかく俺はサンドバックにでもされそうな勢いだが、それでも何もしないよりはましだ!!

 すると不意に俺たちの足元が、大きな影に覆われた。

 

「うわ、でか!」

 

 見上げると、遠くにいた巨人がいつの間にか近づき、斧を振りかぶっているのが見えた。

 慌てて避けるが、巨人はぎろりとこちらを見つけ、また近づいてくる。

 幸いなのは、こいつらがかなりノロいことか…!

 

「新しい組み合わせ、試してみるか!」

ゴリラ!】【ダイヤモンド!

 

 その時、セントが好戦的な笑みを浮かべて、二本のフルボトルを取り出した。

 …おい、ゴリラはわかるがダイヤモンドなんていつ手に入れた?

 お前いつの間にダイヤなんて貴重なもの採集してやがった!!

 

【ベストマッチ!】

 

 今はただ、この声がイラッとして仕方がない。

 前々から思っていたが何だこのベストマッチって! 何でゴリラとダイヤでベストマッチなんだよ!?

 規則性がわかんねーよ!!

 

「べ…ベストマッチ来たぁぁぁぁぁ!!!」

 

 俺の苛立ちをよそに、セントは大興奮しながらベルトのハンドルをぐるぐる回す。

 いつもの様にランナーが伸び、茶色と水色の鎧が半分ずつ生み出されていく。

 セントはその間で立ち、バシッと拳を打ち鳴らして身構えた。

 

【Are you ready?】

「ビルドアップ!」

 

 一瞬でセントはランナーに挟まれ、新たに作られた鎧に身を包む。

 右腕は異様にデカいゴリラの腕に、左腕はキラキラ輝くダイヤの籠手に、どう見てもアンバランスな格好へと変貌した。

 

輝きのデストロイヤーゴリラモンド! イェイ!】

「おらあああ!!」

 

 見た目的にはちょっと微妙だが、威力はすさまじく拳の一振りで巨人が大きく吹っ飛ばされた。

 何だあれ!? この間殴った時より威力が上がってないか!?

 

「ゴリラのパワーと! ダイヤモンドの硬度! 今のオレは、硬くて強い!!」

 

 正直何を言っているのかわからん啖呵だが、とにかくセントがパワーアップしたのはわかる。

 ゴリラパンチとダイヤガードで、セントは見る見るうちに群がってくる魔物たちを駆逐していく。数の暴力には、純粋なパワーってか。

 

「勝利の法則は、決まった!」

【ボルテックフィニッシュ!】

「どりゃあああああ!!」

 

 セントがハンドルを回し、左腕を突き出すと、手のひらの先に巨大なダイヤの結晶ができていく。

 セントはそれをゴリラの腕で思い切り殴りつけ、バラバラに叩き割る。するとダイヤの欠片が魔物たちに向かい、弾丸のように深々と突き刺さっていった。

 

「す、すごいですね…!」

「あ、ああ…本当に、勇者が必要なのか分からなくなるな」

 

 村人の避難誘導を終えたラフタリアが、俺の近くに戻ってきて、茫然とした様子でセントを凝視する。

 いや、ホントに勇者いらないだろ。

 この場所における、俺の存在意義について考えこみそうになった時だった。

 

「よっしゃ! この調子で残りの連中も…」

「セント! 伏せろ!」

「うわっ!?」

 

 俺は咄嗟にラフタリアとセントを掴み、マントの中に引きずり込む。

 いきなりの事で戸惑う二人を、オレは突然降り注ぎ始めた魔法の雨から防いだ。盾の周りで、魔法を受けた魔物たちが次々に焼き焦がされていくのが見える。

 あぶねぇ…魔法耐性の高い盾にしておかなかったらヤバかったぞ!

 思わず歯を食いしばる俺の方に、兵士らしき鎧の集団が近づいてきた。

 

「ふん、さすがは盾の勇者……思っていたより頑丈だったな」

「…! てめぇら…! 何しやがんだこの野郎!」

 

 俺を見下しながら、隊長らしい兵士が吐き捨てる。

 すると、俺が文句を言うよりも先に、怒りで顔を歪めたラフタリアとセントが飛び出し、兵士たちに飛び掛かっていった。

 

「ナオフミ様への無礼、許しませんよ!」

「明らかにオレ達ごと攻撃しやがったな!!」

 

 そうだ、こいつらの殺気の攻撃は、俺が防がなきゃこいつらだって巻き込みかけた。

 味方にまで狙われるのかよ! ふざけんな!!

 

「なぁに、無事だったのだから良いではないか」

「てめぇ…!」

 

 俺に攻撃力がないのを、そして弱いことを知ってて兵士はにやにや笑っている。

 ますますラフタリアたちが不機嫌になっていくが、俺は逆に冷静になっていく。怒りが頂点に達すると、一蹴回って落ち着くのってほんとなんだな…。

 

「盾ごときいなくなったところで、誰も困りはせんわ。むしろこの場から消えてくれたほうがせいせいするというもの」

「まだ言うか!!」

「いい加減に…!」

 

 ラフタリアたちはもう、売り言葉に買い言葉みたいになっているが、俺は思わず兵士を鼻で笑ってしまう。

 こいつら…ほんとに馬鹿だよな。

 

「だったら別に、この場でお前たちを見殺しにして逃げても文句はないんだよな!」

 

 俺が言った途端、兵士たちの背後で別の魔物たちが起き上がる。やつらの攻撃でもさほどダメージを負っていなかった、比較的レベルの高い魔物だ。

 さっきの態度はどこへやら、尻餅をつく兵士たちに代わり、俺が壁役となり攻撃を防ぎ、ラフタリアとセントが仕留める。

 まったく…これでよくあれだけデカい顔ができたもんだな。

 

「ひぃいい…!」

「敵は波からやってくる魔物だろう! 履き違えるな!!」

 

 本当に逃げてやろうかと思ったが、村人を見捨てるわけにはいかない。

 戦力が足りないのは確かだ。仕方がないから、こいつらも一緒に守ってやるしかない。

 

「行け、ラフタリア! セント!」

「くっ…! 盾の分際で生意気な…!」

 

 くやし気な兵士の声に、少しだけ気分がよくなる俺は、ラフタリアとセント共に魔物の討伐を続ける。

 数十分か数時間か、時間の経過があいまいになるほど戦い続けた頃だった。

 

「ナオフミ様! 空が…」

「元に戻ってく…!」

 

 血のように紅い、不気味な光景を作り出していたそらの亀裂が、すーっと薄れていく。

 同時にあれだけ続いていた魔物の増援が収まり、徐々に勢いが収まっていく。

 やっとあいつらが終わらせたという事か…遅すぎるだろ。

 

「まだ波から出てきた魔物は残っている! 気を抜くなよ!」

 

 俺たちはそのまま、残った魔物を全て仕留めていく。

 なんというか…あいつらの役目の後片付けをしている気分だな。

 チッ、最悪だ。

 

 

「……村への被害は甚大だな」

「ああ…復興はかなり厳しいだろう」

 

 蔓延っていた魔物の姿が無くなると、後に残ったのは哀れな姿になった村の跡だった。

 死者は…思っていたよりは少ないか。怪我人は多いが、あれなら命に別状はないだろう。まぁ、上等な結果だろうな。

 やるせなさを感じていると、不意にセントが耳を動かし、渋い顔になり始めた。

 あれは…勇者共と国の兵士か。何を話してるんだ?

 

「…向こうはなんて言ってる?」

「祝勝の宴やるってさ。勇者を讃えようって城でやるんだって」

「村がこんな状況なのにか…」

 

 …偉い奴には、下々の連中の事はお構いなしか。

 つーか、宴っておれも行かなきゃならんのだろうか……激しく憂うつなんだがな。

 

「…ナオフミ様、セントさん」

 

 セントと同じように顔をしかめていると、顔を俯かせたラフタリアが話しかけてくる。

 何だ、どこかケガでもしたのか? そう思ったが、見た感じそういうわけでもなさそうだ。どうしたんだ?

 

「私……頑張りましたよね。誰かを、助けられましたよね」

「……ああ」

 

 …ああ、そういう事か。

 俺に向けられたラフタリアの声が震えているのに気づいて、俺はやっと理解する。

 

「お前はよく頑張ったよ」

 

 自分のような可哀想な子を減らせ、俺が言ったことをかなえられたのかどうか、それを確かめたかったんだな。

 泣き続けるラフタリアを、俺はできるだけ、優しくなでてやるのだった。

 

 ……おいバカウサギ、その妙なニヤニヤした顔をやめろ。

 なんか腹立つんだよ。

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