Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜 作:春風駘蕩
Side:Naofumi
「おいフィーロ! フィトリアに声を届けられるんだよな? 俺達をあの三馬鹿のところに送ってくれるよう頼んでくれ」
女王のもとから一旦離れて、人気のない外に出た俺はフィーロに……フィーロを通じてフィトリアに連絡を取る事を試みた。
あいつの持ってる馬車の転送能力があれば、先に行った三勇者に追いつけるかもしれない。
世界を守るために仲違いするな、と言ったのはあいつだ。もう少し手を貸してもらうぞ。
フィーロはしばらく黙り込み、アホ毛をぴこぴことアンテナのように震わせて……ん? なんだ? なんか困惑した表情になったな。
「……えっとねー、ごしゅじんさま」
「何だ?」
「フィトリアがねー、『悪いけど、もう手遅れ』だってー」
……は?
手遅れ、って言ったのか? フィトリアが。
動揺し言葉をなくす俺達に、フィーロは辿々しくフィトリアの言葉を……冷酷な拒絶に満ちた言葉を発する。
『四聖勇者の仲がここまで悪いのなら、もうどうしようもない』
『前に言った。世界のためか命のためか、重大な選択を強いられる時が来る』
『うまくいけば、もう波は来なくなる。勇者が、世界の戦士達が戦い続ける必要はなくなる』
『三人の勇者は選択した、結果的には命を守るための茨の道を』
『フィトリアにできる事はもう何もない───残念だけど、世界のために諦めて』
「……だって!」
……誰も、何も言えなくなっていた。
いや、待て待て待て。そりゃあないだろう。
「待てフィトリア! そりゃあいつら、何も言わずに今回の騒動に首を突っ込みに行ったけど、いがみ合っていたわけじゃない! 少しだが通じ合い始めていたんだ! 手遅れと判断するのはまだ早い!!」
「……それでも、もう選択はされた。どの道、あの場所はフィトリアの管轄外だからもう間に合わない……だって」
いやいや待て待て本当に待て!
マジでちょっとずつだが足並みを揃えようとしていたんだ! 男のロマンがそれを現実にしようとしていたんだ! 本当に!!
それにお前が言ったんだぞ、四人の勇者がいがみ合っていては世界を救えないって。だからこそあいつらに追いつかなきゃならないってのに。
まさか……ちょっと待て、お前。
「おい……まさかあいつ、オレ達を見放したのか!? フザケンナよこんな緊急事態に!!」
「そんな……」
リュウガが鬼の形相でつぶやき、ラフタリアも言葉を失っている。そりゃ、味方だと思っていた奴に突き放されりゃそんな反応にもなるわ!
……だが、こうなるのは当然の話だったかもしれない。
あいつは前に言っていた……自分の役目は人のいない地で起こる波の対処だと。
長い年月を、それこそ気の遠くなるような年月を一人だ守り続けていた奴にとって、今の勇者がどれだけ頼りなく見えた事か。
あげく、明らかな以上事態が起こっているというのに、それぞれが独断専行……。
俺があいつなら、見限る……そう思いかねない。
「……いくぞ。こうなったら俺達だけでやるしかない」
「大丈夫なのか? あいつ、もう間に合わないっつってたぞ」
「……それでもやるしかないだろう」
無理だ、と言われても受け入れられるわけがない。
このままだと大勢の人間が死ぬ。それは見ず知らずの他人だけじゃなく……俺の知ってる奴も、俺を助けてくれた奴らもだ。
踵を返そうとした俺の手を、俯いたフィーロが掴み、小さくこぼす。
「あのね、ごしゅじんさま。……フィトリア、さっき元気なかったよ」
「……フィーロ、今もまだ繋がってるならこう言っておけ。あいにく、ここにいる奴らはみんな、諦めが悪いんだよ」
悲しげなフィーロの頭を軽く撫で、俺達は歩き出す。
今はただ、できる事をするしかない……たとえそれが無駄に終わるのだとしても。手遅れだと告げられようとも。
俺達はまだ、生きてここにいるんだ。
それからしばらくして……事態は動いた。
城の書庫に数日こもり、情報を探していたセントとリーシアが、ついに
「「ああああああああああ!!!」」
本の山に埋もれていたセントとリーシアが、がばっと山をはねのけながら起き上がる。
そして、無数の資料の中から見つけ出した一つの記述を……今回の騒動の黒幕そのものを描いた一冊を見つけ、真っ青な顔で凝視した。
「思い出した! 古の勇者の記録!!」
「遥か昔にでかい被害を出して、古の勇者に封印されたカメの化け物! その名は───」
「───霊亀ぃ?」
目の下に大きな隈を作ったセントとリーシアの説明に、リュウガが胡乱げな声で反応する。
ていうか大丈夫かお前ら……三日三晩かけて書庫から資料を見つけ出してきたすぐあとに出発したからな。めちゃくちゃふらふらになってんぞ。
「そう! 遥か昔、先代勇者が対峙するも倒しきれず、やむなく古の魔法で封印するしかなかったヤベェ化け物! それが霊亀だ」
「どうヤバいんだよ、そいつは」
「とにかくデカイ。山を一個背中に背負った超でかいバケモノ亀だ。封印された後、そいつの背中には国がまるまる一つできてるらしい……それが今オレ達が向かってて、例の使い魔達がやってきてる方角にある霊亀国だ」
……そういえば、俺の元いた世界の伝説上の霊亀もそれぐらいデカイって話だったな。背負ってるのは国じゃなくて蓬莱山だが。
しかし、本当にそこまででかい敵を相手にするなんて想像だにしてなかったぞ……どう戦えばいいんだ?
昔の勇者にも倒せなかったって言ってるしな。そいつがどの勇者でどの程度の強さだったかは知らんが、少なくとも苦戦するのは間違いないだろう。
「……んでその、霊亀って化け物を倒すために、あの3バカは先に行ったって事でいいのか?」
「そういう事だな」
「戦う術があるのか? どうせゲームの事前知識を元に大丈夫だとか思ってるんだろうが……不安すぎるぞ」
ただでさえあいつら、中途半端な知識しかないせいで失敗続きなんだぞ。錬あたりは多少自覚してるっぽいが……このまま油断が続くようじゃ、今度こそ命に関わる。
フィトリアの気持ちがよくわかるな……なんであのアホ共にここまで心を砕かにゃならんのか。
「この速度で追いつけるのでしょうか……」
「わからん。だが、フィーロも休ませなければならないし、魔物の邪魔も入るはずだ。予定通りにはいかないだろうな」
そもそもの話……間に合ってどうにかなるか? ゲーム知識が根本にあるあいつらが、お前らじゃ勝てないからやめろと言われて諦めるとも思えない。
間に合わなかった場合……もう波は起こらないという話も気になる。
俺が勇者をやらずに済むならそれはそれで万々歳だが……それは結果の話。過程がどうなるのかまるでわからない。
多大な犠牲を払う必要があるというのなら───ラフタリア達はどうなる?
波だろうが霊亀だろうが……生きてる奴にとっちゃ災厄には変わりないんだよ、くそ!
「あの3バカめ……見つけたらただじゃおかん!!」
「おう! ……ぅおっとと!?」
その時、がくんと馬車が大きく揺れ、寝不足のセントがバランスを崩す。
床に手をついて倒れ込んだ直後……ゴトッと何か、水色のゴツい機械がセントの懐からこぼれ落ちた。
なんだ? レンチのついた……プレス機?
「だー! これはダメだ! 絶対にダメだ! 絶対に触んな!!」
はっと我に返ったセントが、慌てて水色の機械を抱えて俺達の視界から隠す。
いや別に取りゃしねぇよ、なにかわかんねぇし。
てか、そんなあからさまに隠されると逆に何か気になるじゃねぇか。
じっと俺達が見ていると、セントは観念したようにため息をつき、隠した機械を俺達に見せてくる。
うーむ、見れば見るほどわからん。
ただなんか、セントの持つベルトに似てる気がするのは俺だけか? こいつ元々変わった武器ばっか作ってるからな。
「セントさん、これは一体……?」
「……フルボトルの研究過程でできた、あるアイテムを基に新しく作った兵器だ。
「どういうものなんだ?」
「ナオフミのラースシールドみたいな?」
「捨てろそんなもの!!」
簡潔な説明を聞いて即座にそう叫んでいた。なんつーもん作ってんだお前は!?
腐竜の一件を知らないリーシアだけがキョトンとしている。知ったところでどうせふぇふぇうるさいだけだろうけど。
「どうしてそんな危険なものを……」
「最初にナオフミが憤怒の盾を使った時にな? ものすげぇエネルギーが聖なる盾から発生してたから、資料として採取しておいたんだよ」
そう言って、セントは懐から一本のフルボトルを取り出してくる。
見せられたそれは、見るからに危険そうな漆黒に染まっていて、そのままベルトにさせば何かしらのバッドステータスに汚染されそうな気持ち悪さを醸し出している。
あれか、あのとき出てた炎を蓄えてんのかこれ。よく採る気になったな。
「で、それをフルボトルに混ぜてみた。そしたら、中の成分がゲル状になった……調べてみたら、そいつは驚きの性質を持ってたんだ」
次にセントが見せてきたのは、元の世界でよく見たゼリー飲料みたいな入れ物だった。
……おいちょっと待て、入れ物のデザインといい形といい完全にゼリー飲料じゃねぇか。やめろそういう日用品みたいな見た目にするの。真面目な話が全然頭に入ってこないんだよ。
「ゲル状になる事で、成分は液体の状態よりはるかに大きな力を発揮することがわかった。具体的には数倍から十数倍……そいつに合わせて、オレは新しくライダーシステムを作り上げた。それがこの〝スクラッシュドライバー〟だ」
ああ……なるほど。ゲル状だとボトルを振っても効果が発揮されなさそうだもんな……でもだからってなんでその形なんだよ。
そういえばこいつ、前からちょくちょくなんか実験して爆発させてたな。
そんな前からこんなものを作ってたのか……まさか、こういう緊急事態のために?
「ただこのスクラッシュドライバーには大きな欠点があった……使用者の闘争本能をばちばちに刺激して、狂戦士に変えちまうんだ」
「それは……!」
……そうか、俺が暴走していた時に採取したエネルギーだからな。使用すると
「なんでそんなものをここに……」
「この先の戦いで、今ある戦力じゃどうしようもなくなった時のために……最後の最後、切り札として持っておいてるんだよ」
そう言って、セントは頬杖をついて馬車の向かう方を見やる。
その顔に、いつもの飄々とした雰囲気はない。険しい視線で、唇を噛み締めている。
これは……科学者としての葛藤か。
元から自分の発明品の与える影響力を気にしているところにできちまった、使い手を狂わせる兵器。大幅にパワーアップできるとしても、そりゃ使うのに迷いを抱くだろうよ。
「……使わずに済めば何も問題はないんだけどな」
「……そうだな」
月並みな言葉しか吐けないが、そんな話を聞いた以上使わせたくはない。
だが、そんなセントの覚悟と想いは……。
バキッ───!!!
と、何処かから響いた破砕音と共に、無残に踏みにじられたのだった。