Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜 作:春風駘蕩
Side:Raphtalia
「……!? 気をつけろ、お前ら! 波だ!!」
突如、顔色を変えられたナオフミ様が叫び、思わずぎょっと振り向きます。
そんな、次の波までまだ余裕があったはずです! まだ他の勇者様達を見つけられていないのに、こんな緊急事態に起こるだなんて……!
ですが周りを見渡してみても、異変は見当たりません。転送もされていません……霊亀国に向かう道の途中です。
「落ち着いてください、波なんて起こってません!!」
「何……!?」
強張った表情のナオフミ様に呼びかけると、ようやく落ち着いてくださいました。荒々しく息を吐いて、周りを見渡して、ようやく冷静さを取り戻してくださいました。
「だが今……確かに何かが割れる音が、波で空に亀裂が走る時と似た感覚がしたんだが……」
「……オレもなんか、やばいことが起こった感覚は感じたぞ」
「やばい事ってなんだよ」
「そんなもんオレが知るか!」
リュウガちゃんも何か感じたのでしょうか? 険しい顔で周りを睨みつけています。
これは、勇者が持つ独自の感覚?でももしそうならどうしてリュウガちゃんにも……わからない事だらけです。誰にとっても未知の状況すぎて、なんの答えもまだ見つけられそうにありません。
「そもそも次の波が起こるのは2日くらい先だろ。色々ありすぎて神経質になってんじゃねぇか?」
「それならそれでよかったんだ、が……」
「……ナオフミ様?」
虚空を、ステータス画面を確認しておられたナオフミ様が、大きく目を見開いて固まっているのに気がつきました。
何でしょうか……私も、とてつもなく嫌な感覚がしてきました。
「……波のカウントが、止まってる」
「え?」
カウントが……止まっている?
あの、災厄の波の、多くの人々に血と涙を流させ、大勢の人が立ち向かってなお無慈悲に苦しみをもたらし続ける理不尽な災害のカウントが、止まっていると?
「……おい、それはマジでやばい事じゃないのか。どうなってんだ!?」
「わからん。わからんが……代わりに7という数字が現れている」
「ちょっと待て、この状況……妙な魔物が現れたり、波のカウントがおかしくなったり、変な事ばっかりが連続で起こってるこの状態、まさか」
突然の話に、私達は全員、呆然としたまま言葉をなくしていました。
だってこれでは……フィトリアさんが前に言っていた通りの状況じゃないですか。
うまくすれば波は来なくなる。けれどそのために、世界のためか命のためか選択をする必要がある……けれど、どちらの道も多大な犠牲を支払わなければならない、と。
だとしたら、今起こっているのは───
「霊亀が、復活した?」
【タカ!】【カメラ!】
霊亀国へ向かうの一旦中止し、私達は山道の途中にあった広場にとどまりました。
そこで、二つのフルボトルをベルトに挿し、二色の鎧を身に纏ったセントさんが小高い岩場の上に登り、霊亀国の様子を遠目から伺います。
あの鎧だと、鷹の目というスキルで遠くを見て、さらにもう片方の鎧に視界を拡大する能力が備わっているようです。この場にうってつけですね。
「……霊亀国がある方角ってこっちで合ってるよな? ずっと見張ってるけどそれっぽいのは全然身あたらねぇぞ…?」
話を聞いた感じですと、恐ろしく大きい魔物のようですし、動き出したのならきっと遠目でもわかるとは思いますが……今のところセントさんが気づいた様子はありません。
まだ動き出していないのならそれでいいのですが……不安はどうしても拭えませんね。
「とにかく情報だ。もし本当に霊亀が復活したのなら、今の俺達で立ち向かえるのかわからない。あいつらの動向や使い魔の反応、調べられる事は全部調べておきたい」
「おう、わかった」
ナオフミ様の指示に頷き、セントさんはじっと周囲の異変を確認し続けます。
使い魔のように目立った異変が起きていない以上、待つ事しかできないのは非常に歯がゆいですが、仕方ありません。
ふと、すぐそばで不安げな表情でうつむいているリーシアさんに気がつきました。
「イツキ様は……ご無事でしょうか」
「あいつらの事だしな……またいつもの根拠のない自信と中途半端な前知識で無謀に挑んで、あっさり返り討ちになっている未来しか想像できないんだが」
「ふぇえええ!?」
「ナオフミ様!」
どうしてそう不安になる事をこの状況でおっしゃるのですか!?
本当の事だとしても、心から慕っているリーシアさんの目の前で言ってはいけません!! ……あれ、私も大概な事を言っているような?
んんっ……とにかく、先に霊亀の元に向かっているであろう他の勇者様達のことも確かに心配です。
最初から協力を……そうでなくても最低限情報を教えてくれていれば、もっと前から対策を取る事もできたでしょうに。ナオフミ様と同じように、ため息ばかりが溢れます。
と、その時、あたりを探っていたセントさんが、不意に顔を強張らせたままぎこちなくこちらに振り向きました。
「……ゆーしゃ様ゆーしゃ様、確認させていただきたいのですが」
「なんだその妙な話し方は」
「あの、あのですね? オレ達が目指してる方角にですね……なんか、あの、とんでもないものがあるみたいでして……」
顔中冷や汗まみれになったセントさんが、震える手である方角を指さします。
東……霊亀国のある方角。その態度と表情に、私達は言い表しようのない不安に苛まれ出します。
セントさんの立つ岩の上に私達も登り、セントさんの指差す方角に目を凝らします……フルボトルを借りるまでもありませんでした。
示されてようやく、私達はその存在に気付きました。
遥か先に並び立つ山々……何百何千年もの間、その地でじっと佇んでいたであろうそれらの一つが、確かに動いていました。
耳をすませば、遠くかすかに地響きが聞こえてきます。
ずん、ずんと、およそ生物が出すものとは思えない重く大きい足音が、一定の間隔で轟いているのがわかりました。
あれが……あれが!?
「ウソだろ……まさか、あれが」
「お察しの通りでごじゃる」
絶句する私達の背後に、ある声と共に黒い人影が降り立ちました。
この声、そしてこの特徴的な口調……振り向く私達の前で、その方はどこか緊張した雰囲気を仮面の奥から醸し出しながら跪きました。
「影!」
「間に合ったというべきか、間に合わなかったというべきか……盾の勇者殿が霊亀国に辿り着く前にご報告ができた事は幸運でごじゃる」
影の方々は確か、他の勇者様達の動向を調べていたはず。
それがここまで慌てた様子でナオフミ様に報告しにきた、という事は。
「すでに、進行方向上にあるいくつかの国が使い魔と霊亀自身の攻撃を受け、壊滅状態にあるでおじゃる。抵抗はしたものの、あの巨体が相手ではまるで歯が立たず……」
「三勇者は?」
「現地の同胞の最後の情報によると、お三方は霊亀が動き出すや否や同時に挑みかかり……そのまま生死不明と」
無慈悲なその報告に、リーシアさんがその場でふらりと倒れそうになり、慌ててフィーロと支えます。
まさか、まさかこんな事になるだなんて…!
というか、あれに挑んだんですか!? あんなものに勝てると本当に思っていたんですか!? どういう考えをしているんですかあの方々は!?
「イツキ様……!?」
「最悪だ…! あのバカ共を止めるのも、霊亀の復活も間に合わず、悪い展開ばかりが続いているぞ!? 残ってる勇者は俺一人じゃないか!?」
嘆かれるナオフミ様に、かける言葉が見つかりません。
私はもちろん、セントさんやリュウガちゃんも強張った表情で立ち尽くし、言葉をなくしています。
「どうにかしねぇと……マジでフィトリアの言う通り、手遅れになっちまうぞ」
「そのために拙者がこちらに参った次第。まだ無事な国で終結し、霊亀に対抗するための連合軍を発足しているでおじゃる。盾の勇者殿にもどうか、その会合に加わっていただきたく」
「……わかった。フィーロ、行くぞ」
「はーい!!」
もうそんな動きを!? ……いえ、すでに壊滅している国がある以上、遅いというべきかもしれませんね。
何にせよ、こんな問題は私達だけでは手の出しようがありません。
ナオフミ様はすぐさま踵を返し、影さんのいう連合軍の拠点へとフィーロに向かうように指示します。
「いやいやいやいや……これはマジで無理だろ。あんな……あんな……あんなとんでもない奴、戦うなんてマジで無理だろ!! あんなもん……どうやって倒せってんだよ!?」
ただ、いつになく弱気なセントさんがブンブンと首を横に振っています。
意気地なし、と言えればいいのですが……流石にその言葉を否定する気にはなれません。
かつてないほどに圧倒的な敵の姿を見て、絶望せずにいられる人が果たして存在するのか。