Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜 作:春風駘蕩
Side:Milelia
「一体勇者様達は何をやっておられるのか!?」
急遽用意された天幕の中で、とある国の王がそう叫ばれました。
復活してしまった霊亀、ただ歩くだけで破壊されていく国、容赦なく民に襲いかかる使い魔達……。
増え続ける犠牲を食い止めんために集った近隣諸国の為政者達ですが、最初の歩み寄りとしてはよろしくない反応でしょう。
「こうしている間にも霊亀はどんどん進行し続けている! だというのに三人の勇者は行方も生死も不明、いるのは盾の勇者だけ! 絶望的としか言いようがないではないか!!」
「まさか、我が身可愛さに逃げたのではあるまいな!」
同席していただいた盾の勇者様の顔がやや険しくなっておりますね。
自国が危うい今、冷静でいられないのは百も承知ですが、こうも好きかって言われるとご不快な気持ちになるのは当然でしょうが。
「これはメルロマロクの責任問題になりますぞ!」
「一体他の勇者達は今どこに……!」
「まさかすでに、霊亀にやられて……」
「三人の勇者様は逃げてなどおりません。いち早く危機を察し、霊亀の討伐に赴かれたのです」
これはまずい流れですね……一旦落ち着いていただくことにいたしましょう。
実際はお三方の勝手な行動なのですが、嘘は言っておりません。正直に話してより険悪になるよりは、好印象になるように誘導しておくべきでしょう。
イワタニ様も察してくださっているのか、何も言わずにいてくださっている事ですし。
「な、なら現在姿が見えないのは……」
「そちらもご安心を、勇者様達は皆さんご存命です。フォーブレイに確認を取ったところ、どの聖武器の勇者も欠けていないと報告が返ってきました」
そう、着いたばかりの吉報をお伝えすると、イワタニ様からもほっと安堵する声が上がりました。
お話に伺った、伝説のフィロリアルの女王の話によると、四聖が一人でも欠ければ波への対処が厳しくなるとの話ですね。ご心配を取り除けたようで何よりです。
……気になりますのは、同じくフィロリアルの女王からお聞きになったというもう一つの情報。
霊亀の復活が疑われた際、イワタニ様がフィロリアルの女王に告げられた話。
うまくいけば、波はもう来なくなる。
ただし、それは多くの人々に犠牲を強いる茨の道だと。
……重要だとは思われますが、今それを伝えるのは得策ではありませんね。
まだ曖昧な部分も多く、詳しい真相もわかっていない今、無駄に場を混乱させる必要はありません。
「フォーブレイは何をしている!?」
「あの国はいつも腰が重い! 動くのは問題が起こってからだ!!」
「あの国を頼っている暇はない! 我々だけで何かせねば!」
「あんな化け物を相手に何ができるというのだ!?」
本来、共通の敵が現れた各国は同じ方向を向くものですが……この場合はその類ではないようですね。
相手が強すぎる、という事実がある以上、及び腰になるのも当然です。
なればこそ……現時点において誰よりも強者である盾の勇者様にご意見をうかがう事にいたしましょう。
「奴を倒して、犠牲者を一人でも減らすべきだ」
私の目配せで察してくださったイワタニ様は、紛糾する会議の場にそう堂々と告げてくださいます。
まるで勝算があるように、不動の自信があるように。
後ろ向きな事ばかりを口にしていた連合軍の代表者達の顔に、ほんの少しですが安堵が浮かび出しました。
「……そもそも、こうなっているのは世界を守るべき勇者達が不甲斐ないせいではないか!! 守ることしかできない盾の勇者に何ができる!?」
それでも、やはり納得できない方はおられます。
ただでさえ我が国は、夫の暴走で独自に勇者召喚を行ってしまった汚点がありますからね……こちらから誘ったところで素直に頷くことは難しいでしょう。
不意に、小さなため息がイワタニ様から聞こえました。
「お前達に聞こう……勇者とは何だ?」
「む……」
唐突に問われ、戸惑う某国の将軍殿。
勢いが一旦落ち着いたのを見計らい、私もイワタニ様のお考えを察し、話を合わせます。
「勇者とは強い力を正しい事に使う、勇気ある者の事です」
「俺は確かに防御しかできない、頼りない勇者かもしれない……だが、その代わりに守る事については誰にも負けない自負がある。たとえ、相手が国を滅ぼせる巨大な化け物だろうとな」
……お見事ですね、イワタニ様。何があろうとも揺るがない絶対的な自信、をしっかりと演じてくださっております。
報告に聞く行商で得られたお力なのでしょうか? それか元々持っておられた才能か……噂に聞く料理といい、イワタニ様は思いの外多才な方でございますね。
「だ、だが、それではただ耐えるしか……」
「俺には、共に戦ってくれる仲間がいる。多くの困難を共に乗り越え、強敵を打ち破ってきた心強い仲間が」
にやり、と不敵に笑い、イワタニ様は天幕の外を見やります。
これこそが自分の勇者としてのあり方、そうおっしゃるように。
「あの強大な敵に打ち勝つためには、お前達の協力も必要不可欠だ……それを決して無駄にしないために、俺も全力を尽くそう」
そう言われた将軍殿は、もはや何も言い返せず、テーブルに拳を打ち付け黙り込んでしまわれました。
納得はできずとも、反論はもう何もないようです。
お陰様で、方針がまとめられそうです。
またしても助けていただきましたね……我が夫にもあのように勇ましかった時代に戻っていただきたいものですが、ままなりませんね。
Side:Sento
「……ナオフミ、お前あいつらに何言ったんだ? なんか雰囲気がさっきと全然違うんだけど」
天幕の外で待ってたオレ達の元にナオフミが戻ってきた。
んで、遠目で様子を伺ってたリュウガが、なんとも言えないじとっとした目で尋ねた。
「勇者様! 盾の勇者様!」
「どうか我らに、我らに勝利を!」
外にいた兵士達がナオフミに向かって祈る仕草を見せると、ナオフミは自信満々な態度と一緒に手を振ってみせる。
そうすると、どよめきと歓声がわっとそこかしこで上がり始めた。
なんだろ……今まで見たことないぐらいナオフミが勇者っぽい。あれ、なんかコイツ、かっこよくね?
「私……感動しました! 怖いですけど……きっと頑張ります!」
「うむ、勇者殿のお言葉、私の胸にも響いたぞ。盾の勇者殿は口は悪いがやる時はやる方だったのだな!」
リーシアもエクレールも、目をキラッキラさせてナオフミを見つめてる。あの宣言が聞こえてたみたいだな。
……ま、ままままぁ?
オレだってあんだけ言われちまったんなら、力貸すのもやぶさかじゃないっていうか?
今まで何回も一緒にヤバい状況をくぐり抜けてきたし? こっちだって守ってもらった借りとかあるし?
今更あんなヤツ相手にするぐらいどーって事……いややっぱ怖ぇわ、今でも逃げてぇわ。
「お前、マジで一体何を……」
「えちょねー、ごしゅじんさまはねー」
本気で気になり出したリュウガに尋ねられ、フィーロちゃんが答えようとする。
だがそれを、ナオフミ本人がフィーロちゃんの頭を撫でて止めた。
「それ以上言わなくていいぞ。どうせハッタリだからな」
「「え?」」
「あそこで逃げたら勇者の評判が下がるからな、嘘八百を並べて適当に士気を上げさせておいた」
あっけらかんと、一切悪びれる様子もなくナオフミは答えた。
おま、おまっ……お前ぇ! せめて仲間にはその本音隠せよ! せっかくこいつらやる気あがってんのに、戦闘前に出鼻くじいてどうすんだよ!?
オレの横で、ラフタリアちゃんがはーっとふっかいため息ついて額に手ぇ当ててんぞ!
「そんな事だろうと思いましたよ……」
「感動した私の気持ちを返せ!!」
「そうだそうだ!!」
激昂するエクレールに合わせてオレも抗議の声をあげる。
ちょっとでもああコイツが一緒ならきっと大丈夫さ絶対生き残れる〜とかすげー安心したところにそれって! ふざけんなコラ!!
だが、オレ達が騒いでると、変幻無双流のバーさんがケラケラ笑いながら近づいてきた。
「何、人を乗せる事が必ずしも悪い事に繋がるわけでもありますまい。そうして虚勢を張って、味方を勝利に導けるのならいくらでもハッタリをかませばよろしいのですじゃ」
「そういうことだ」
「……ホントかぁ~?」
まー、会議の様子を聞いた感じ、紛糾してた場があれで一つにまとまったっぽいけどよ……あぁ、不安になってきた。
「何にせよ、こっちは持ち得る全てを以て立ち向かわなきゃならないんだ。逃げたかったらお前だけでも逃げていい……ただし、どこまで逃げれば助かるのかは知らないがな」
「うっ」
ナオフミの言葉で、オレはちょっと冷静になった。なっちまった。
聞けば、霊亀は人の多い場所を目指して進み続けていると聞く。
町や国が滅ぼされる前に、今ここから逃げたとして……そのあと奴はいつ止まる? いつになったら逃げ切れる?
ナオフミの言う通り、逃げ場なんてあるかどうかわからないんだ。
だとしたら……奴と戦って仕留めるしか、確実に生き残れる方法なんてありゃしないのかもしれない。
……こうしてうじうじ悩んでる間にも、あのデカくてヤベェ死神はどんどんこっちに向かってきてるんだよな。
「だーもうやりゃいいんだろやりゃあ!! 絶対生き残ってやっからな!!」
思わずガシガシと頭をかいて、ナオフミに向けて告げる。
そうこなくっちゃな、みたいにニヤッと不敵に笑いやがって……そこまで言うならお前しっかり守れよ!? 頼むぞ!?
はぁ……呑気に笑ってるフィーロちゃんとやる気になってるラフタリアちゃんが羨ましい。リーシアなんてまた不安げにふぇふぇ言っちまってるし。
「はぁ……こんなことなら、オレも新兵器開発もっと早くに始めとくんだったぜ。無駄に効果のでかいハッタリかましやがってナオフミの奴ぅ」
がっくりと肩を落としながら、重い足で準備に向かうオレとナオフミ達。
項垂れていたオレは……すぐ近くでリュウガが真剣な表情でこぼしていた小さな呟きを聞き逃していた。
「…………ハッタリに、新兵器、か」