Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜 作:春風駘蕩
Side:Naofumi
「……近くで見るとマジで怖ぇんだけど」
地響きと共に向かってくる巨体を見つめて、セントが呆然とした声を漏らす。
お前……さっきまでのやけっぱちなやる気はどこいったんだよ。ここぞって時に怖気付きやがって。
まぁ、気持ちはよぉ〜くわかるがな。俺だってやつの進行方向がメルロマロクじゃなかったら、知らない奴らしかいない国だったらさっさと逃げてるだろうし。
霊亀の巨体もそうだが、空や陸を埋め尽くす使い魔の多さも絶望的だ。いくら個々が強くても、数は確かな脅威だしな。
「請け合いはしたが、一番大事なのは自分の命だ。もうこれ以上は無理だと判断したら、お前らは撤退しろ。俺もなんとか足止めしてから退く。いいな?」
「はい!」
「はーい!」
確認を取ってから、俺はこの戦いの方針を確かめる。
地形を利用し、ある国を囮に霊亀と使い魔達を谷底に追い込む。行動を阻害された霊亀に、俺達で全力の攻撃を加え続ける。
為政者達からすれば苦渋の決断だっただろうが、復興資金や人命を代価にこの作戦をのんでもらった。
失敗すればどのみち霊亀に全員殺されるんだ、どうにかして成功に導かなきゃな。
盾も今現在俺が使えるものの中で、一番性能がいいものに変えてあるし……準備としては、これが最善。他にあれこれする余裕もない。
「……時間だ、いくぞ!」
「くそったりゃあ! 変身!!」
【クジラ!】【ジェット!】【ベストマッチ!】
セントが二本のフルボトルをベルトに挿してハンドルを回し、鎧を身にまとう。
うん、クジラはわかるぞ。カルミラ島で戦った次元の勇魚……俺の今の盾の元になった魔物の力だろう。
だがジェットってなんだ!? お前それどっから手に入れてきた!? 時々持ってくる見慣れないフルボトルはお前、どこで調達してきてんだよ!?
え? フォーブレイで手に入れた? ……あの国で一体何やってたんだよお前は。
【天翔けるビッグウェーブ! クジラジェット! イェイ!】
相変わらず、このベストマッチの法則性がわからん……どういう基準なんだ?
もやもやする俺を放置して、セントは背中に装着されたジェットから火を噴き、空中に浮かび上がる。
かと思えば、一瞬でものすごい速さに加速して天空へと飛び立っていった。
「ヘイトリアクション!」
俺は使い魔に向けて、スキルを発動する。
目に見えない、魔物を挑発し引き寄せる波動が発せられ、人里を目指していた使い魔達が一気に俺に襲いかかる。
「アチョー!」
「はぁぁぁぁ!!」
飛びかかってきたコウモリ型の使い魔と雪男型の使い魔を、ババアとエクレールが迎撃する。
ババアは言わずもがな、マジでどこにそんな力があるんだと言いたくなる身体能力で使い魔達をぶっ飛ばし、エクレールもババアには劣るものの鋭い剣撃で使い魔達を切り刻む。
それに負けじと、ラフタリアとフィーロもよってくる使い魔達を次々に蹴散らしていく。
「いきます、陰陽剣!」
「ぷちくいっく!」
ラフタリアが剣を振るい、使い魔を切り裂けば、切り裂かれた使い魔が白と黒の球体に変化して他の使い魔に叩きつけられる。
フィーロも目にも留まらぬ加速で使い魔達を切り裂き、死骸の山を築き上げていく。
やはり、あいつらは他の奴らとは一線を画す力を得ているな……ババアとの修行がここで活かされてるのか?
セントは……空中で錐揉み回転しながら、ドリルクラッシャーの銃形態とホークガトリンガーの二丁で銃弾をぶちまけている。
なんかあいつだけ別の世界観で戦ってないか? ああいう戦闘機を操って標的を撃ち落としていくゲームがあったぞ。
「うおらあああああああああああ!!!」
で、一番派手に暴れてる奴がいるわけで……俺が集めた使い魔達に、青く燃える炎の拳を叩き込み、粉々にしていくリュウガがすぐ目の前にいる。
こいつも完全に別の世界観で戦ってんだろ。どこの無双ゲーだよ、爆風でとんでもない数の敵が吹っ飛んでいってるぞ。
頼もしいといえば頼もしいが……あの勢いをいつまでも維持できるはずがない。しょっぱなから飛ばしすぎなんだよ、あいつは!!
「本体を叩きにいくぞ! こい、フィーロ! ラフタリア!」
二人を呼び寄せ、フィーロの背中に移る。ヘイトリアクションを発動したまま、霊亀を目指して走らせる。
「リュウガ! お前も来い!」
「おう! ……おいバカウサギ! あれ貸せ!」
どがっ、と雪男型の使い魔をぶっ飛ばしたリュウガが、大空を舞うセントに向けて怒鳴る。
すぐさまセントは空中で旋回し、リュウガの頭上に接近すると、例のスマホっぽい道具とフルボトルを取り出して投げ渡してきた。
「大事に使えよ筋肉バカ!」
「うっせー、わかってらぁ!」
言い合いながら、リュウガはスマホもどきにライオンフルボトルを挿し、バイクに変形させ跨る。
俺達は崖を一気に駆け下り、谷の間を突き進む霊亀の目の前に飛び出した。
うぉ……近くで見ると絶望感半端ないな。
「もう一発、ヘイトリアクション!」
霊亀に向けて、俺はもう一度ヘイトリアクションを発動し注意を引く。
霊亀はそれに反応したのか、それとも単に足元をうろつく俺達が鬱陶しかったのか、巨大な足を隕石みたいに振り下ろしてきた。
「流星盾!」
即座に展開した流星盾に霊亀の踏み付けがぶつかる。一瞬耐える流星盾だが……すぐにびきっ、とヒビが走り砕け散る。
最大強化してるってのにこれかよ! 嘆く間もなく、降ってきた足の裏を盾を上に向けて受け止める。
ぬぁ…! 重っも……!!
だけど耐えられないわけじゃない。周囲が陥没するレベルの重量を気合と根性で押し返す。
【ボルテックフィニッシュ!】
「おらおらおらおらぁ!!」
俺がメキメキと地面に埋められ、埋められそうになる中、セントが上空から無数の水の弾丸を乱射して霊亀を銃撃する……あの勢いはもはや爆撃だな。
それを嫌がったのか、霊亀がわずかに体勢を崩した。その隙に、俺は一旦霊亀の足の下から逃れる。
「はぁぁぁっ!」
「とーっ!」
「オラァァ!!」
加えて、俺が注意を引いている間にラフタリア達も霊亀に攻撃を加え続ける。
狙うのはどう見ても硬そうな胴とか足より、普段は甲羅で守られてて柔いイメージのある首だ。
ざしざしと斬撃によって霊亀の首から血飛沫が飛ぶが……あの巨体からするとさしたる傷じゃないらしい。すぐに再生して塞がってしまった。
焼け石に水……というわけでもなさそうだが、ちまちま削るだけじゃいつまでたっても倒せそうにないな。
「だったら……一点集中攻撃だ! お前ら!」
「おっしゃあ!」
一度つけた傷に一気に攻撃を叩き込み続け、釘打ちの要領で打ち貫く。首を落とせばどんだけでかい魔物だろうと止まりはする……はず!
そう決めて、散開しようとした時だった。
!? 何だ……急に体が重く……いや、違う! 重力が倍になった……!?
「うが……ぐ!?」
「おわ───っ!?」
これは……霊亀の魔法か何かか!? こんなこともできるのかよ!?
散らばろうとしたラフタリア達はその場に膝をつき、強引に這い蹲らされている。セントに至ってはすぐ近くに墜落してくる始末だ。
ん!? 何だあれ……霊亀の顔がこっちに向いて……口の中がバチバチ言ってんぞ!?
「この状況でブレスかよ!? お前ら、俺の後ろに集まれ!!」
まずい、俺が今使ってんのは水属性の盾だぞ!? あんなどう見ても電気ビリビリな攻撃食らったらどうなると思ってんだ!?
即座に違う盾、属性的に相性のいい強めの盾に変えて、集まってきたラフタリア達を背に庇い構える。
そして……眩い光が俺達に襲いかかった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「ナオフミ様!?」
「ナオフミ!!」
とんでもない熱と圧にさらされ、思わず呻き声が漏れる。気を抜いたらあっという間に吹っ飛ばされそうだ。
ラフタリア達の声に反応する余裕もない…! ただ盾を前に構えてるだけで精一杯だ…!!
数秒か、数十秒か。その何倍も長く感じられるほどのブレスが、ようやく途切れる。
あたりを見ると、地面が俺の背後を除いて真っ赤な溶岩みたいにドロドロに溶けてやがる……マジでさっきの盾のままだったら、俺達全員蒸発してたんじゃないか?
だがなんとか耐えきった……と安堵する暇もなく、霊亀はジロリと俺達を睥睨し、向かってくる。
「くそっ! あんなヤベーの、ナオフミも何度も受けてられねぇぞ! 重力を操る攻撃も厄介だし、何か手を考えねぇと……」
セントが冷や汗を垂らしながら呟くが……そんなことは今更全員わかってんだよ。だがこの状況じゃ、一点攻撃する暇もなさそうだ。
ん? ラフタリアにフィーロ……その覚悟を決めた表情、何か策があるのか?
「……たった一撃ですが、あの巨体に通じる技があります。ですが消耗が激しく、次を放つのは難しいかと」
「フィーロもあるよ! 強いけど一回やるとヘロヘロになっちゃうやつ」
反動の大きい必殺技ってところか……それに賭けるしかなさそうだな。
だがその手の技は使うのに準備が必要になる気がするんだが……ああ、二人の表情を見る感じ合ってるっぽいな。
それを使わせてくれるまで、奴が待ってくれるとも思えんし……もう一度俺が注意を引きつけられれば、あるいは。
「……そういう事なら、オレが時間を稼ぐ」
「は?」
不意に、リュウガが俺の前に出ながらそんな事を言いだして……って!?
なんで鎧を外してんだよ!? この状況で自殺行為だろうが!
「待て! 戻れ! 何考えてんだ……って、お前、それ」
思わず叫んだ俺は……リュウガの手にある
あいつが持ってるものは……!
あの、水色の機械は……!?
「……ちょ、お前、なんでそれ持ってんだよ!?」
リュウガがどこからともなく取り出したのは、道中にセントが落としていた、新たなベルト。
俺のラースシールドのエネルギーを活用できるよう作り上げたという、本人が使用を忌避していた危険な代物。
あいつ、いつの間に持ち出してたんだよ!?
「アイツに勝つには……コレしかねェんだよ!!」
【スクラッシュドライバー!】
覚悟を決めた表情で、リュウガはそれを腰に巻く。
その瞬間、いつもつけてるベルトとは異なる……なんかこう、破壊神とか闇の街の支配者とか呼びたくなるような、野太い声が響き渡った。
アイツ……マジで使う気か!?
戸惑う俺達を放置して、リュウガはもう一つの道具……竜の顔が描かれたゼリー的なものを取り出し、蓋をひねってベルトに挿した。
【ドラゴンジェリー!】
「変身…!」
プレス機の間にゼリー飲料もどきを挿したまま、レンチ型のレバーを押して容器を押しつぶす。
その瞬間───リュウガの全身に、青い電流が迸った。