Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜 作:春風駘蕩
Side:Raphtalia
「ぐああああああああああああああああ!!?」
バリバリと迸る青い電流をその身に浴び、リュウガちゃんが悲鳴をあげます。
というかこの光景、ものすごく見覚えがあります!!
最初にドライバーで強引に変身しようとした際もこんな風に苦しんでいましたよね!? どうして同じ事を何度も繰り返すんですかあなたは!?
「リュウガ!?」
「ぐぅぅぅ……ぐぎ…! ギ…!」
「…! あのバカ! だから止めたんだよ!!」
電流が走るたびに、リュウガちゃんはとてつもない苦痛に苛まれているらしく、きつく食いしばった歯をむき出しにして顔を歪めています。
その姿に、あの新しいベルトを作ったセントさんが苛立った……いいえ、悔恨のような表情を浮かべて頭をかきむしっています。
自分があんなものを見せなければ、そもそも作らなければこんな事には、そんな後悔が透けて見えます。
そうこうしている間にも、霊亀の攻撃が再び迫りつつあるというのに……! ど、どうすれば!?
リュウガちゃんを心配しながら、私達が凄まじい焦燥に駆られていた時でした。
いつのまにか、リュウガちゃんの漏らす悲鳴が途切れていることに気付きました。
あれだけ苦しそうに上げられていたのに、目を吊り上げ、みしみしと歯を軋ませながら、リュウガちゃんは唸り声を漏らしています。
あれは……耐えているのでしょうか?
「ウゥゥ…ウゥゥゥ…! グゥゥオオオオオオオオオオオ!!!」
苦悶の声が唸り声に、そして咆哮に変わった直後、リュウガちゃんに変化が現れます。
足元に何か機械の台のようなものが現れ、透明な器がリュウガちゃんの足下を囲み、その中に青い液体が満たされていきます。
かと思うと、透明な器が突如ぎゅっと絞られ、青い液体がリュウガちゃんの全身を飲み込みました。
【潰れる! 流れる! 溢れ出る! ドラゴン・イン・クローズチャージ! ブラァ!】
あの野太い声が響いた直後、青い液体が無数の水飛沫となって飛び散り、リュウガちゃんを解放します。
再び姿を見せたリュウガちゃんは……まるっきり格好を変えていました。
銀色に輝く胴着に、はためくスリットの入った腰巻、胸に巻かれた晒し。
そして先ほど飛び散った青い液体が上半身に降り注ぎ、まるで意思を持つようにひとりでに固まって、両肩と胸の装甲、更に仮面に変わります。
豊満な胸には雄々しい竜の横顔が備わり、顔は半透明の竜の顔の仮面が張り付きます。
「あ……あれは!?」
「アイツ……やりやがった」
「ぐるるるる……がるるるるる……!」
呆然とする私達の見つめる先で、リュウガちゃんは荒々しく息を吐き、目前に迫る霊亀を睨みつけます。
霊亀が私達に向けて大きく片足を上げた瞬間───リュウガちゃんの姿が突然搔き消えました。
いいえ、私達の目にも留まらぬほどの速さで、霊亀の元へと肉薄したのです。
【スクラップブレイク!】
「うおらぁぁぁぁぁぁ!!!」
どごん!!
と……とてつもない轟音と衝撃波が私達に襲いかかりました。あまりの圧に、私達はナオフミ様に庇われたまましばらく動けなくなりました。
なんとか薄目を開けて様子を伺うと、信じられない光景が広がっていて、私達は絶句します。
あの巨大な霊亀が……私達の攻撃では少し傷をつけることしかできなかった霊亀が、リュウガちゃんに足を殴られ、大きく体勢を崩していたのです。
「ギャオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
「──────────────────!!!」
リュウガちゃんと霊亀、双方の放つ咆哮が雷鳴のように轟きます。
霊亀も流石に、自分を傾けさせる一撃を放ったリュウガちゃんを脅威と認識したのか、まっすぐにリュウガちゃんに標的を絞っているようです。
【ツインブレイカー! ビームモード!】
リュウガちゃんが構えた左腕に、青い液体がまとわりつき、固まって一つの機械に……籠手のような武器に変わります。
リュウガちゃんが左手を前に構えると、籠手の前方に伸びた二本の円柱から無数の光弾が放たれ、霊亀の顔に炸裂します。
それを受け、顔から煙を立ち上らせながら、霊亀は怒りの咆哮を返しました。
「ア、アレは一体……なんだか、リュウガちゃんが感情をあらわにする度に、力が増していっているみたいな……!?」
「……その通りだよ」
思わず呟く私に、セントさんが苦虫を噛み潰したような表情で答えます。
もうその表情だけで、リュウガちゃんが使っているものの危険性が嫌というほどわかります……最初に見た時にされた説明通りなら、相当に恐ろしい道具ですから。
「アレは……スクラッシュドライバーには装着者の感情の起伏によって出力が上がっていく機能がある。つまり、怒れば怒るほど、アイツの力は増していく!」
「それであの威力……!」
「だが代わりに闘争本能が刺激されまくって、どんどん制御が効かなくなっていく!!」
再びリュウガちゃんに視線を戻せば、霊亀に再度殴りかかる姿が見えます。
しかし霊亀が首を一振りし、圧倒的な重さと大きさで弾き飛ばされています……ですが、リュウガちゃんはすぐに立ち上がり、咆哮と共にまた襲い掛かります。
その姿は……まさに狂戦士と呼ぶに相応しいです。
「……この件が終わったら絶対封印させるぞ」
「悪かったよ! あんなもん作って!!」
「なんにせよ今の内だ! リュウガが暴れて注意を引いている間に、お前らの最大の一撃で霊亀を仕留めろ!!」
「はい!」
「わかったー!」
リュウガちゃんの身を案じながら、ナオフミ様の指示通りに私達は動きます。
剣に手を添え、集中を重ねて気を込め、フィーロと共にたった一撃の奥の手を放つ準備をします。
リュウガちゃんが作った時間、決して無駄にはしません!
【アタックモード! シングル! シングルブレイク!】
「おらぁ!!」
うっすらと瞼を開けて様子を伺えば、リュウガちゃんが左手の武器を変形させて、ドラゴンのフルボトルを挿している様が見えます。
籠手から金色の槍のような棘が生え、霊亀の首に突き立てられます。
苦悶の声を漏らす霊亀は、鬱陶しそうに身を震わせリュウガちゃんを振り払おうとします。
【ツイン! ツインブレイク!】
リュウガちゃんはさらにもう一本、ベルトに挿した容器を挿した事で、槍に青い水流が纏われます。
竜巻のように渦を巻く槍を構えたリュウガちゃんが、一気に拳を振り抜き霊亀の首を貫き穴を開けました。
やりました! ……と思ったのもつかの間。
怒りに顔を歪めた霊亀が首を振り、リュウガちゃんを跳ね飛ばします。
そして、大きく口を開き、ばちばちと強烈な雷光を溜め込み始めました。いけません、空中では身動きが……!!
「セント! 運べ!」
「えぇぇぇぇあの前に!?」
「早く!!」
「なんでこんな覚悟ガンギマリなんだよ……だーもうわかったよ!!」
高速で宙を舞うセントさんが、渋い表情でナオフミ様の体を掴んで空へと運びます。
霊亀の口から雷の咆哮が放たれる寸前、リュウガちゃんの前にナオフミ様が割り込み、咆哮を受け止めます。
空中で閃光が花のように飛び散り、とてつもない眩しさが辺りを呑み込みます。
「ナオフミ!!」
「ぐ……防御は任せろ! お前はただ、全身全霊を奴に叩き込め!!」
辛うじて、咆哮に耐えるナオフミ様とリュウガちゃんの声が聞こえます。
まだ二発目ですが、いくらナオフミ様でもあんな攻撃を何度も受け止められません……私達の準備も整い、動くなら今しかありません!
「いきます!」
「いっくよー!」
霊亀の咆哮がまだ止まないうちに、フィーロの背に乗り、空中へ一気に飛び上がります。
練り上げた気をありったけ込めた剣を構え、霊亀の首元に狙いを定めます。
「バケモノめ、冥土の土産に……ありったけ全部持っていきやがれ!!」
【シュワっとハジける! ラビットタンクスパークリング! イェイイェイ!】
「エアストシールド! セカンドシールド!」
霊亀の咆哮がやんだ瞬間、ナオフミ様が私達の背後にそれぞれ盾を召喚し、足場を作ってくださいます。
セントさんはあの刺々しい鎧を纏い、ベルトのハンドルを勢いよく回転させ、次の一撃に全力を込めます。
そして全員で光の盾を踏みしめ、思い切り飛び出します!
「天命八極剣!!」
「すぱいらるすとらいく!!」
【スパークリングフィニッシュ!】
私達三人の一撃が、一斉に霊亀の首に炸裂します。
大きな傷を首に刻み、大量の血飛沫と霊亀の声が撒き散らされます。
決まった……そう思った直後、霊亀がぎろりと私達を睨みつけ、再び雷の咆哮を放とうと大きく口を開きました。
まだ……足りないのですか!?
覚悟を決めかけたその瞬間、私達の大切な人の声が背後から響き渡りました。
「決めろ、リュウガ! ドリットシールド!」
【レディ・ゴー! レッツ・ブレイク!】
「オレは……オレ達はもう、誰にも止められねぇえええええええええええ!!!」
雄叫びと共に、リュウガちゃんが最後の盾を踏みつけ、拳を振りかぶります。
小さな機械の使い魔を籠手に備え、青い激流を槍に纏わせ、まるで流星のように眩く輝きながら落下してきます。
霊亀の咆哮が放たれるよりも速く、鋭い一撃が私達の刻んだ傷跡に食らいつき───貫き、肉を斬り裂きます。
首を断たれた霊亀は大きく目を見開き、ゆっくりと巨大な頭部が地面に落下していきます。
やがて首を失った体も、ゆっくりと膝を折り、大地に伏せました。
ズズン……と、重く響く大きな音が世界に響き渡ります。
びりびりと空気が震える中、私達は地面に降り立ち集合し、斃れた霊亀が巣押しでも動きを見せないかと確かめます。
ここまでやってダメなら……そう考えましたが、霊亀は立ち上がる事なく、静かに屍を晒すだけでした。
「……やった、みたいだな」
「よ……よっしゃああああ!!!」
セントさんがあげた歓喜の声で、私達はようやく息を吐きました。
こちらの様子がしっかり見えているのか、使い魔と戦っている連合軍の方々からも勝鬨が上がっているのが聞こえてきました。
喜ぶ余裕は……あまりありません。力を使い果たして、もう立っているのも億劫です。
ですがこれで……危機は去りました。
それがたまらなく喜ばしい……はずなのに。
何でしょうか……何とも言えない違和感というか、不穏な感じがして、私は心から安堵する事ができずにいました。