艦娘とは恋愛出来ないので鎮守府の外の子と仲良くしていたら艦娘でした   作:茶蕎麦

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 二年とちょっとぶりで申し訳ございません……最終話で大失敗したと思い込んで、艦これすらトラウマになってしまい、戻ってくるのに時間がかかってしまいました。

 それでもやっと何とか不満に思われた方々のために、また別の最終話を用意といいますか、ルートとして書いてみました。
 可能ならば他のルートっぽいのも書いてみたいところですが……とりあえずよろしくお願いします!


 ※書き方ちょっと変わっていて、シリアス多めです!


②吹雪さんルート

 艦娘というのは、前世の艦に準じるほどに強靭な存在だ。己を鍛え上げることに余念のない憲兵さんすら及ばない力の強さは言わずもがな。

 更に彼女らは人の大怪我と同じ大破をしても入渠を続けていればみるみる内に直ってまうし、何ならバケツ一杯の高速修復材を使えばそれこそ瞬く間に全身元通りである。

 せっかくの入渠がカラスの行水になってしまうのが嫌だとうちの艦娘達には不人気だが、妖精さんが時折汲んでくるあの謎のバケツの中身は実に不思議だ。

 そういえば前に妖精さんたちが中身で顔パックしている姿を見たことがあるのだが、つまりあれはひょっとしたら傷だけではなく美容にも効果があるのかもしれない。謎は深まるばかりである。

 

 さて、強靭な艦娘を知った世の中の偉い人らは、人間より余程設計図が確りしているのだと言い出した。実際、彼女らは老けることもなく、可憐な花の容姿はずっと変わらない。

 しかしだからこそ、嫌う人間たちは艦娘達を人外と捉えて攻撃したりもする。こんな深海棲艦と大差ないバケモノに守ってもらわなくても良いだろう、と。

 

 勿論、オレはそんな見識を持ったこともない。前世でゲームをやって彼女らが味方であることが当たり前という認識を最初から持っていた。

 そして何より、彼女らの間近にて戦いの指揮を続けて感じたこともある。というか、それは最近殊更強く向けられて困るくらいに覚えているものでもあった。

 心。それを兵器()()ある彼女らが持っているのはとてつもなく大きい。

 

「どうして今と昔でこんなに戦果が違うんでしょうね……作戦の差でしょうか?」

「あー……そうだなそれもあるけど……強いて言うなら一番は艦娘の心を大切にするかしないか、かな」

「心、ですか?」

 

 オレは、秘書艦が毎日整頓してくれても相変わらずな、これでもこのポンコツ頭を補佐するには足りない資料の山が乱立している執務机の隣で勉強している彼女に、疑問の答えを送る。

 ちなみに、彼女がオレに呈した疑問とは、この深海棲艦との泥沼の戦争の初期と今との違い。どうして現在戦局の良化が著しいのか問われたのに対する、オレなりの答えが心だった。

 何故かちらちらオレのお尻に熱視線を送りがちな吹雪さんに向けて、オレは当たり前のことを並べていく。

 

「吹雪さんもよく知っている通り艦娘には、心がある。そして願いもあるんだ。そんな彼女らの想いを蔑ろにしていたら、バチが当たる。そして、大いに当たってたのが戦争初期さ」

「よく見たら資料には深海棲艦が内陸にまで押し込んできた、とありますね……」

「そう。軍の被害は甚大。一般人にまで死人が出た。それに何より……盾に使われた艦娘達は……」

「そんなことが、あったのですね……」

 

 吹雪さんは、表情を一気に暗くさせた。

 きっと、ひどい目に遭っている艦娘を、特に身近な子たちの姿で想像したのだろう。或いは、自分が盾にされてそれでも死地に抗うことを考えてしまったのだろうか。

 戦線を押し返した今はもうそんな事態が起きることはないだろうし、オレたちが二度とそうはさせない。だが、それは本当にあったことであった。

 ひた隠しにされていたために深海棲艦を前世の記憶でしか知らずその場に()()()()()だけの一般人のオレには、手を引いて一人の艦娘の死にどころを奪うことしか出来なかった、あの日。

 

 私の代わりに幸せになりなさいと、彼女はオレに言った。だから、オレはオレの幸せのために皆の幸せを強く願うようになる。

 まあ、それがちょっと行き過ぎて迷ってしまったが、その迷子があって今があった。

 ならば、それなりに先達として提督の卵でもある艦娘というとんでもない吹雪さんに語ってあげられるのだ。

 オレは、オレなりの答えを言う。

 

「艦娘の中には、己が武器だと思い込んでまでいる者もいるが、でもそれは違うよ。彼女らはそれ以前に想いを運ぶ船だ。そして、愛されるべき女の子でもあるんだぞ? 性能ばかり見てた昔の人は馬鹿だよ」

「ふふ……なるほど、そうですね」

「そして、性能ばかりを見なくなっても、今度は艦娘の見目に焦がれる奴らが増えたのにも困ったもんだ。吹雪さんもそうだが、艦娘って綺麗所ばかりでなぁ……」

「えっと、私はそんな……」

「いや、吹雪さんは美人だよ美人。それは那珂ちゃんさんをアイドルに見出だしたオレだからこそ、断言できるね。いや艦娘適性ってのもひょっとして妖精さんが顔で選んだ結果だったり……」

「私なんて、芋女ってよくお母さんから言われてて……」

「ははっ、可愛い芋もあったもんだ」

「もう……提督さん、意地悪です!」

 

 オレの本音をからかいと捉えたのか、ぷんぷん頬をふくらませる彼女はしかし自称芋の仲間とはとても思えないくらいに垢抜けた愛らしさを持っている。

 最近は、艤装憑依型艦娘として那珂ちゃんさんとよく仲良くテレビに出ていることもあってか、美人が美人さを増して来ていて、それこそ目に毒なくらいだ。

 だから、時にオレは胸が痛いくらいにときめいてしまうので、そんな時の対処として最近は憲兵さんに押し付けられた若い頃に出たという学生ボディビル大会時の写真を胸に潜ませている。

 そう、毒には毒を、それこそ劇薬をということで、見れば思わず真顔になるレベルのマッチョをオレは持ち歩いていた。

 てーとくが憲兵面に染まったでちとゴーヤには泣かれたが、正直こんな残念写真を覗いて相殺でもしなければ、煩悩がヤバい。

 

 余裕ぶってはいるが、それくらい元一般人で艦娘な少女というのは、オレにとって扱いに困る相手だった。

 一度告白されているのもまた大きく、この子のお尻ばかり気にしてくる悪癖さえなければ、正直直ぐにでも付き合いたいくらいである。

 だがまあ、彼女もここに来て浅く、そもそも艦娘になったばかり。これからの彼女のためにオレが我慢するのは当然だ。これからもきっと、オレは憲兵写真と仲良くしなければならないだろう。

 オレはげっそりしている内心を隠しながら、時計を見て吹雪さんに告げる。

 

「さて、そろそろ時間だ」

「あ……そういえば、そうですね。そろそろ……」

 

 吹雪さんも見上げて時刻を確認。時計は三時ちょうどを指している。

 気づいた途端、ノックの音。オレが入室を許可すると、どたどた騒がしく複数の艦娘がやって来た。

 

「Hey、提督! ティータイムの時間デース!」

「しれぇ、吹雪さん! 今日のクッキーは雪風が担当したんですよ!」

「はぁ、今回は真っ黒に焦げる前に僕がクッキーを助け出しておいたから安心していいよ。……どうして雪風は火をつけておいて忘れちゃうかな」

「今日はうーちゃんも一緒に来たぴょん! し、司令官、一緒にお茶を飲む、ぴょん?」

 

 ティータイムという名の休憩時間に、オレを誘いに彼女らがやって来るのはいつものことだ。別段紅茶の味が分かる男でもないのだが、歓談に参加させてくれるのはありがたいことである。

 どうしてだかオレの容姿をからかいがちな何時もと違い不安げな卯月に、オレは応えた。

 

「ああ。それじゃあ吹雪さんも行こうか」

 

 そして、最近はその中に吹雪さんが居ることも多くなっている。彼女は特別な艦娘ではあるが、皆垣根なく仲良くしてくれていた。

 ゲームの印象からそもそも悪い子がいないのは分かっていたが、実際我が鎮守府の艦娘たちはこの戦争に歪んでもいないようで何よりだ。

 オレは思わず笑顔になる。だが。

 

「あ、はい……」

 

 どうしてか、少し居心地を悪そうにした吹雪さんの様子がオレには気になったのだった。

 

 

 

 

 上坂吹雪は、人間である。そして、今は艦娘でもあった。また、いずれ提督にもなれるとされている。

 最初は、それこそそんなことを深く考えることはなかった。ただ、愛おしい人の側にいるために都合がいいというそればかりを喜んだだけ。

 だが、次第に自分が他と違うというその事実こそが、重荷になっていった。

 

 私は、元々人間であるはずだ。だがしかし、艦娘たちと共に入渠すれば傷が直ぐに癒えてしまう。

 最初は他の人間には見えない妖精達と交流できて鼻高々だった。だが、彼女らに場所関係なく構っていたら白い目で見られていたことに気づき、恥じ入るようになる。

 

 ああ、自分は違う。

 

「っ!」

 

 今だって、そうだ。自由がきかない海の上に立つのに慣れ、走ることが出来るようになっても、遠くの的に当てるというのは理解できないほどに難しかった。

 12.7cm連装砲が、煙を上げながら何度も音を立て、ペイント弾を送りだす。

 けれども、それが的に当たることはない。普段艦娘達が使っているのではなく、わざわざ大きく頼んでもらった特注。それに、30メートルほど離れてしまえば掠りもしない。

 

 そんなの当然である。揺れ動く水面の上にて時に波に隠れることすらある的に当てるなど人間業ではない。だがしかし。

 

「妖精さんの手助けがあってもこの命中率、か……やっぱりまだまだ実戦は難しいわね」

「はぁ、はぁ……そう、ですか」

 

 それは、艦娘にとっては当然至極の当たり前の技術である。だから、どうしたって教官役の大井にだって残念感がにじみ出てしまう。

 捕獲してきた深海棲艦イ級に対する魚雷攻撃にて、武装の威力は確かに発揮されるとは周知され期待された。

 だがしかし、運動をテニス程度しか経験していないずぶの素人の人間が基であっては、どうしたところで機械的に当てることは難しい。

 よって、未だに練習は続けているが、しかし実際にこのままでは吹雪が実戦にて深海棲艦と対決することはないだろう。

 それこそ、先に学んだ、人が地にまで追い詰められてしまうことがまた起きでもしなければ。そして、そんな事態は望むことすら許されない。

 どうしても出てしまう溜息を吐いて、吹雪は零す。

 

「私、ダメ、ですね……」

 

 そう。今になって彼女は思うのだ。知れば知るほど英雄としての記録が出てくるここのお尻の素敵な提督と違い、大したことのない、どっちつかず。告白が玉砕して当然だったのだと。

 人としておかしく、艦娘として足らず、提督としての気概もない。

 そんなの、ダメでしか無いと飛沫で濡れた靴下を持ち上げていると、意外にも大井から柔らかな声がかかる。

 

「そんなことないわよ。教官としてあまり褒めすぎたくはないけれど、予想よりずっと貴女は優秀」

「えっ?」

 

 疑問に顔を上げる吹雪。長いおさげが一緒に持ち上がり、肩に乗っかった。

 そのどことないおかしさにくすりとしてから、大井は語り出す。

 

「あの女提督と妖精さんが描いた成長曲線を貴女は大幅に上回ってるのよ。何せ、本来ならば、未だに水上歩行にあくせくしているのが関の山という筈だったのよ?」

「はぁ……」

「信じられないって顔してるわね。でも、本当よ。だって」

 

 それは、本気の称賛。何の裏もなく、むしろ優しさから出た言葉ばかり。

 だから、その言葉が吹雪の胸に刺さってしまったのは、誰が悪いというわけでもなく。

 

「――――普通の人間なら、本来水に立つことだって出来ないんだから」

 

 ただ、自分の弱さが悪いのだと、上坂吹雪は考えたのだった。

 

 

 

 改めて語るまでもないが、ここの男子は憲兵さんに影響されて、全身角張った男子しかいない。それこそ怖いくらいにマッチョマンだらけである。

 そして、遺憾ながらオレもそのマッチョの一人ではあった。いや、別にオレの場合は筋肉に愛があるだの皆と汗を流して風呂を共にするのが楽しいとか、そんな癖はない。

 ただ、せっかく一度鍛えた身体を鈍らせるのが何となく嫌だというだけ。それだけなのだが。

 

「……提督さんって、マッチョが好きだったのですね……」

「それは、ご、誤解で……」

「いや、こんな筋骨隆々とした方の写真を大事に胸ポケットに隠している人が……ってこれ、憲兵さんですか? ああ、私フラれる筈です……」

 

 しかし、ある日憲兵さん写真という猛毒を使って吹雪さんに惹かれる心を鎮めようとした時、それがぽろりと落ちてしまった。

 ひらりひらりと写真が向かったのが、また悪いことに勉強中の吹雪さんが広げた書類の上。

 拾った彼女が一瞬やっぱりなあ、という顔をしたのがオレには悲しかった。

 

「いや、君を振ったのは……改めて言うのは酷いが、仕事に専念したいと思っただけで、オレ自身吹雪さんのことは」

「は?」

「うぅ……」

 

 何故か素直に首を傾げている吹雪さんに、オレは及び腰になる。

 だがしかし、それは良くない。このままだと筋肉偏愛の男色家とされてしまうことだし、そもそも好きなものを好きだと言わないのは良くなかった。

 ここはためらう場面ではなく、そして見れば観賞用の水飲み鳥もしきりに頷いてた。だから、どうしようもなくオレは本音をとうとう口にする。

 

「時にそんな牡臭い写真で逃避しなけりゃ我慢できないくらいに、好きだ」

「っ!」

 

 迂遠な告白。そもそもの出会いの始まりからきっかけまでがアホ過ぎる。でも、こんなのがオレらしいとは思わないこともない。

 だがまあ、これで付き合うだの何だのは直ぐに始まらないだろう、と甘く考えるオレに、吹雪さんは。

 

「私は、普通の人間じゃないのに?」

 

 そんなことを言ったんだ。

 

 

 上坂吹雪は、駆逐艦吹雪ではない。そして駆逐艦娘吹雪でもない。ただの、吹雪と同名の普通の少女であり、でも艦娘であった。

 そんな、おかしな自分。それがどうしようもなく寂しいことだと、彼女は何者でもなくなってから気づく。

 

 震える身体。海の水が冷たくって、通り抜ける風が寒くって、何よりも。

 

「私、強くなってるんですって」

「それは……」

「そして、海の上が当たり前の気持ちになっていて」

 

 そんなのが普通だと思い始めた自分が、おかしい。だからつい、笑ってしまう。

 滑稽な言い訳をした提督よりも尚、面白いのは恋によって後戻り出来なくなった自分。

 

 ああ、愛ってためらうべきものだったのだ。今になって、吹雪はそう考える。

 

「ふふ。私は、何時まで人間でいられるのでしょうね?」

 

 そして、涙を溢さず笑顔で言った、そんな言葉。それを聞く、いや理解する前に。

 

「あ」

 

 提督は、吹雪という少女を抱きしめていた。人間でもあり艦娘でもある彼女は酷く柔らかくって、自分とは比べ物にならないくらいに華奢である。でも、強力であり孤独だ。

 そして、何より愛おしい。今更ながら、どうしたところで止まれない心に提督は気づくのだった。

 

「好きだ」

「……私、人間じゃないかもですよ?」

「それでも、好きだ」

「艦娘にも、足りてません」

「それがどうした、好きだ」

「……私はあなたに並び立てないかもしれません」

「だからって、愛せない理由にはならない」

 

 提督は、それでも震える彼女の肩に己の制服を掛ける。嫌がらず、それを受け容れてくれたことにほっとしながら、彼は語りだす。

 少し前から扉が薄く開いているのには気付いている。聞き耳を立てているのが一人ではないのだって、察せた。

 だがしかしそれがどうした、ためらうなんて、意味がない。笑って、涙目の吹雪に言った。

 

「オレは、鎮守府の、そして大体の皆が好きだ。だから幸せになって欲しいと思うし、頑張れる。あー……けれどさ。何だかんだ、オレだって幸せになりたい」

 

 それって何か情けないかもだけどな、と言いながらもしかし、満足そうな表情をする提督。

 同じくま白い手袋をした彼女の手を握り、そしてここに彼は本当の意味で真っ直ぐに告白をした。

 

「オレが幸せになれるのは、一緒に幸せになりたいと思っているのは、上坂吹雪さん、君だけだ」

「あ……う、あ……」

 

 涙は堪えられるものではない。それと同じく、愛だって止まらずにぽろぽろと溢れて言葉にならなかった。

 

 でも、少し経って、やっと思いは笑顔とともに、纏まった言葉になって。

 

「ありがとう、ございますっ! 嬉しいです!」

「っと」

 

 返答のハグに繋がるのだった。

 

 

 

「あわわ……」

「おめでたいでちね」

「ああ、めでてぇが、何か、釈然としねぇな。つうか胸が何だか痛ぇ。病気か?」

「はぁ。結局こうなっちゃったか」

「やっぱり駆逐艦ってウザいねー……って大井っち?」

「おめでとう。二人共」

「……おめでとうって言いながら泣かないでよ、大井っち」

 

 

 

 青い空、青い海。それが当たり前だろう過去未来。しかし、今はまだ海に赤が広がり、世界は戦いに満ちてる。

 でも。

 

「私、幸せです! あなたの艦娘になって、良かった!」

 

 想い運んで、今日も船は往く。

 

 

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