艦娘とは恋愛出来ないので鎮守府の外の子と仲良くしていたら艦娘でした   作:茶蕎麦

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 お久しぶりです! 前回の投稿だけではギャグを書ききれていなかったと思いまして、ちょっと別ルート書いてみました。

 今回は基本的にギャグであり、少しばかり凝った感じになりますー。
 少しでも今までの設定等を用いた話の流れに面白みを覚えて下さいますと嬉しいです!


③戦慄のロリコンルート

 おぎゃあばぶうと産まれてきたからには、誰だって両親には世話になる。

 那珂ちゃんさん程ではないが、前世の知識で他の提督と比べても上出来なくらいに成果を挙げたためか世間にそこそこ知られたオレとて、人の子。

 海よりも深い母なる愛を持ったゴーヤだけでなく、当然父に母も存在した。

 父は常に景気の悪そうな面構えだったが切れ者で、母はどこかぽやぽやしていたがそれ以外は完璧だったかもしれない。

 また、彼らだけでなく蓄えた白い髭をよく触らしてくれた爺さんに兄ちゃんには負けたくないと事あるごとに叫ぶ小生意気な弟までいたオレは、相当に幸せ者だったろう。

 

 正直なところ、オレが前世を持ち込んでいた子供であったからには中々与しづらいものだったと思う。だが、あの人達はオレをこれでもかと構った。

 捻くれれば撫でてきて、怒れば語りかけて、泣けばそっと寄り添ってくれる。そんな人達とともに過して安心せずにはいられない。

 

 だからその昔、世間様には神童ぶっていたオレも、家に帰ればただのガキとなる。

 家族とテレビの内容に笑い合って、いたずら見つかれば拳骨を打たれ、駄賃のために家事手伝いを熟したりもした覚えがあった。

 そして一時ガキでいられたからこそ、オレも曲がりなりにもそこそこ見られる大人になれたのだろう。

 心預けられる家族というものはそれだけ大切で、無二だ。何時かかつての我が家のような家庭を持ちたいと願うくらいに、オレは確信のようにそう考えていた。

 

 そして、それは一人づつ建造したある種我が子のような艦娘たちに対してだって同じこと。

 深海棲艦との戦後の平和に家族を持つ幸せを感じてもらう練習にもなるように、オレはなるべく彼女たちを拒絶しなかった。

 おかげでそれこそ、一家の大黒柱とはいかなくとも、兄のように頼りにはなれるように仲を深めることは出来たと思う。

 まあ、信頼も時に行き過ぎて、恋のようになってバーニングしてしまうこともあったが、それはそれ。

 受け流しながらも、オレには艦娘たちにはもうちょっと平和によって視野広くなってから好きを選んで欲しいな、という思いがあったりもする。

 

「はぁ……まあ、彼女らの心変わりの前にオレの心変わりもあり得るだろうが……とはいえ、あんまり拗らせて欲しくないんだが……」

 

 最近試しに解禁したズボンの後ろポケットに件の連続愛していますの重レターだけでなく、私だけを見てと達筆で一言書かれた謎手紙を忍び込まされていた昨日を思い出し、オレは一人ため息をつく。

 流石に歩いているなか尻に違和感を覚えて三枚目を入れられる前に気づいたが、いつの間に仕込んだのだとは思う。

 それはオレのケツが余程鈍感なのか、それとも下手人が上手なためか。

 いや、憲兵さんや吹雪さんらから尻に向けられる邪な視線には敏であるからには、手紙を入れてきた犯人がの上手さこそ褒められるものだったりするのだろう。

 

「しかし、あの二枚筆跡全然違ったよな……人の服に知られず物を入れるなんてマジックじみた謎の技術を持った艦娘が複数居るとは考えにくいが……」

 

 まだ、愛していて、私だけを見て欲しい艦娘が一人オレの尻ポケットをポストと勘違いして手紙を寄越しているのならいいのだが。

 そうでない場合、オレは誰かに一度艦娘の隠密性を一度検証してもらいたくなってしまう。スニーキングが得意なゴーヤと言い、どうして皆オレの感覚と常識を超えてくるのか。

 

「まあ、いいか。ポケットはまた封印したから次は当分ないことだろう……ゴーヤがちくちくしてくれた後に刻まれていたバラの刺繍が二本になっていた意味は気にかかるが……」

 

 本日のお付きの探照灯妖精さんを頭に乗せながら一人疑問を零し、上等だかどうかまでは分からないが兎に角旨い珈琲を飲み込み、オレはのんびりと秋の午後を過ごす。

 鎮守府最寄りの街中にある喫茶PUKA-PUKAの人の入りは、意外と多くはない。

 おかげでここ一年ちかく休みに訪れているオレの、奥の指定席のような席は今日も守られて平穏だ。

 店内に流れるシックな音楽は実に落ち着くものが選ばれており、時折識ったものが流れて心地よい。

 マスターとも馴染みに馴染んで気安くなり、近頃は提督であることも話して艦娘のお忍びの場の一つにさせて貰っている程。街歩きの後に寛ぐには、もってこいの場所と言える。

 

「偶には、一人もいいもんだな」

 

 そう。今回オレは一人で休みに街を歩くなんてことをしている。勿論、それは鎮守府の皆の公認だ。

 流石に、以前抜け出すなんて大事をやらかしてからしばらくは監視のように艦娘達と一緒の休暇を余儀なくされたが、一年も過ぎれば警戒も風化する。

 というか、一番の警戒対象だった吹雪さんが鎮守府の中に居るのだから、無駄に外を気にすることが阿呆らしくなったのだろう。

 故に、重々気をつけて帰ってきてくださいね、という大井からの言葉を大事にしながら、気づけば両手に主にあの娘らへの土産を携えながら、今日はここPUKA-PUKAで安堵している次第だった。

 

「束の間とは言え、平和はいいものだ」

 

 オレは、心よりそう思う。近頃の子らはそれこそシーレーンを押さえられ、軍備にばかり力が入って全体上手く富めずに、燻った時代を生きている。

 彼らのためにも発展を、そして海外と手を結び合う可能性を求め続ける平和のために、最前線の近くにあるオレはもっと頑張らなければいけないだろう。

 

「旨い」

 

 まあ、幾らそう考えていようとも、平和の中で構え過ぎるのは毒。

 あの仕事には真面目な憲兵さんだって、仕事終わりに酒くらい飲むのだ。だから、オレが昭和テイストな硬めのプリンを笑顔でいただいたところで悪くはないのだろう。

 無理は明日で、休みの今日は存分に楽しまなければ。今日のオレは提督さんではなく、ただのレトロマニアな甘党男子。

 ニコニコしながら、オレは載っかったさくらんぼにクリームを付けて食むのだった。

 

 

 だが、人生はそれこそ波乱万丈で当たり前。昨日が晴れでも今日は荒天なんて、よくあることだ。

 それこそ、唐突な事態なんて、凪の中にすら潜んでいることもある。

 

「ん、アヤネ?」

 

 始まりは、店内に小さく響いた店主の声色。

 そして、パタパタと響く足音は何故か真っ直ぐオレの前にて止まる。

 気になり、これから大好物になりそうなPUKA-PUKAプリンから名残惜しげに首を上げたオレは、彼女を見つける。

 そう、この店の看板娘と言うには稚すぎる七歳児のアヤネちゃん。彼女は真っ直ぐにオレを見つめて涙すら浮かべていた。

 

「お兄ちゃん……」

「どうしたんだい、アヤネちゃん?」

 

 呼ぶ声すら弱々しく、その黒く長い髪の重さに負けているかのように若干うつむき加減でアヤネちゃんはじっとオレを注視する。

 確か、お祖父ちゃんであるマスターはこの子だけはオレが提督であると教えたそうだ。

 そんな彼女がオレに何かしらの救いを求めている様子。これは、何か海の関係で大変なことがあったのかと身構えるオレ。

 

 だが、本当に大変なことが起きたのは、直後だった。

 一瞬だけためらい、だがしかし彼女は大きく口を開け、こう宣言をする。

 

「私、お兄ちゃんとケッコンしたい!」

「へ?」

 

 間抜けにも、オレはそんな声を漏らす他になかった。

 

 

 

 

「酷い目に遭った……」

「はぁ。だから、こんなに遅くに帰ってきたんだね、提督」

「事態を収拾するために時間かかってな……いや、マスターの怖いこと、怖いこと」

「お疲れ様デース!」

 

 それからきっかり四時間後。夜の頃合いになってくたくたになって帰ってきたオレは、今閑散とした食堂にて数人の艦娘に囲まれ過ごしている。

 土産話を強請る金剛と駆逐艦の子らの前で疲れに崩れながら、オレは先の異常事態の切っ先までを話せた。

 彼女らから向けられるケッコンなどという言葉を幼女からかけられたオレへの視線は、生やさしい。

 まあ、流石に彼女らも喫茶マスター程幼子の言葉を本気にはしていないのだろう。

 

 いや、キレたあの爺さんの瞬発力は異常だったから、あのままボコボコにされてPUKA-PUKA海に浮かされてしまうかもしれないとも思ったが、その怒りもアヤネちゃんの一言で治まったから良かった。

 怖いお爺ちゃんなんて嫌い、なんて言って止めてくれた彼女には、少しマッチポンプじみているが感謝せざるを得ない。

 常連の白い目を後目にマスターを慰めながら幼いアヤネちゃんに発言の次第を聞き取るという大変を行ってくたくたのオレに、目をパチクリ照れに顔を紅くしながら雪風は問う。

 

「それで、どうしてそのアヤネちゃんはしれぇとその……ケ、ケッコンなんてしたいと思ったのですか?」

「あー……それがな。実はアヤネちゃんも、妖精さん見えててさ。オレはてっきりこの子は純粋な提督適性持ちなのだろうなと思ってたんだが……」

「違ったのデスかー?」

「ああ。なんと、血液検査もしたところ、吹雪さんと同じで艦娘適性も持っていたとさ。しかも戦艦のもの」

「……それは凄いね」

「ああ」

 

 オレは、どこか憂いを瞳に宿した時雨の言に頷く。

 艤装憑依型艦娘の先達となった吹雪さんから一年足らずに、有望な新人が出てきたことは確かに凄いことだ。

 それが同じ地元でとなれば、それこそ運命か何らかの作為を疑ってしまいたくなるくらいに。

 

「その子は……大丈夫、ですか?」

「ああ。オレが付いている」

「……それなら一安心デース」

 

 そしてまた、年端も行かぬ少女が戦艦という巨大な力を可能性だとしても持ってしまったのは力が人型となった艦娘達が憂慮するのもおかしくないことだ。

 過ぎたる力は争いを呼ぶもの。そして、持ち主の無知はその力を管理する大義名分たり得てしまうだろう。

 この世界ではその見目言動の稚さから前線に中々出させて貰えなかった過去を持つ駆逐艦雪風、そして初期は移動能力を管理され海上トーチカのように扱われたこともある戦艦金剛は、心配を隠せていない。

 

 オレも関わった以上怖じて退く気は毛頭ないが、アヤネちゃんはこれから様々な利権争いに巻き込まれることだろう。

 本当は大丈夫と言えるほどオレに力はないが、しかし残念ながら艦これの知識を持って上層部相手に立ち回ったこともあり、面倒事の対処には慣れている。

 オレはどうなってもいいが、彼女はどうにかする、そんな覚悟は話を聴いた時に既にしていた。

 眉根を下ろす彼女らに安心してもらうように笑んでから、オレは語りを続ける。

 

「で、だ。まあアヤネちゃんの持つ力に関しては後々だな。何かしら鎮守府の皆の手も借りるかもしれないが、それはそれとしよう」

「そうだね……それはそれで大事だけれど、今はどうしてそんなことになった彼女がケッコンとか言い出したか、だね」

 

 空かもしれないが元気を取り戻した時雨。そして、幼女のケッコン発言という中々のとんでもに関して、話は進む。

 すると、オレが続きを話す前に、顎に小さな指先を当てて考え込んでいた雪風が、悩みながら呟いた。

 

「うーん……アヤネちゃんは、混乱していたのでしょうか?」

「かもネ! ひょっとしたら、不安で心の奥で頼りにしていた人への思いがついついBurningしてしまったのかもしれませんヨー!」

「まあ、それともちょっと違ってだな……なんでかあの子、ケッコンカッコカリのシステムとか吹雪さんに聞きかじったことがあったらしくてな。それを間違って覚えて、艦娘になったらケッコンしなけりゃならんと思い込んでて……」

「それで、ケッコンという言葉が出たんだね……でも、どうして提督を相手に選んだのかな?」

「それは、吹雪さんが……提督さん……つまりオレとケッコンしたいとか言ってたらしくて、結果的に提督しか選べないと考えてしまったらしい」

「で、よく見知っているキミが選ばれたんだね。うん。結局は提督が告白されたのは同じで……良かったじゃないか」

 

 嫉妬心か可愛らしく少し頬を膨らませている時雨にオレもなるほどとは思う。

 彼女なりによく考えて選んだ結果がオレならば、まあありがたいと考えるべきだったか。

 あの時は正直、マスターのタンブラーを両手に用いた謎の攻撃を止めるのに必死で、それどころではなかったのだが。

 しかし、それを抜きにしても、まあ認められない部分はあった。

 

 何せ、あんなあどけない子の告白を受け容れてしまったら、それこそ戦慄のロリコンどころの騒ぎではない。

 ケッコンカッコカリではなく、ケッコンカッコロリ。そんな奴疾く刑務所行きになった方がいい。

 

「彼女がせめて二十代……せめて十代後半……それもなしか。まあ、一緒になっても後ろ指指されない年齢なら良かったんだがな……」

「Hey、提督! 年齢で言うなら、私が一番安心安全デスよー!」

「……むしろ金剛さんは提督と比べると彼女と逆方向に歳離れ過ぎかな。実年齢三桁はちょっと……」

「時雨ー! 実年齢の話題は艦娘全体を敵にしマース! いけまセン!」

「えっと、雪風って幾つだったでしょう?」

「あー……すまん。あんまり良い話題の変え方じゃなかったな。後、雪風は指折り数えなくて良い」

 

 進水日1912年5月18日。それがどの戦艦のものだとはオレは彼女の名誉のため語らない。

 とはいえ、実年齢相応の見目で艦娘達が現れなかったことは、人類にとってきっと幸運だったろう。

 何せ、そうなったらここが最早鎮守府なのか老人ホームなのかよく分からないことになるだろうし、そもそもオレはきっと枯れ枝のような腕のお婆さん相手に艤装を着けて戦えとは言えないだろうから。

 

「まあ、アヤネちゃんにはケッコンは君がもっと()()()()()()から、と言っておいたから、大丈夫さ」

「あー、それ大人の常套句だよね。大人になるまでに忘れてもらおうって寸法かな? 子供相手にちょっと卑怯だよ、提督」

「いや……他にあの娘を泣かさずに穏便に済ます方法が見つからなかったというのがまあ、本当のところだ。子供には勝てない」

「しれぇ、優しいです!」

「ありがとう、雪風」

 

 そもそも子供と大人が争うものではないと両手を上げて降参を示すオレに、目をキラキラさせて雪風が褒め称えてくる。

 その裏のない視線はあまりに嬉しい。癒やしを感じたオレは思わず手が伸び、その栗色の髪をかいぐりかいぐりしてしまう。

 撫ぜられたのが心地よかったのか、笑顔になった雪風はオレに礼を言う。

 

「えへへ……ありがとうござます、しれぇ!」

「む、雪風ばかりいけずデース。私も撫でてくだサーイ!」

「すまん。このサービスはバーニングしている戦艦は対象外なんだ」

「Oh! 私がBurningしているばかりに……残念デース!」

 

 ショックに崩れ落ちる金剛。だが実際、暇があれば愛を語ってくる女性の頭を撫でるなど、オレとしてはありえない。

 実際、言われるがまま金剛を撫ぜたら了承と取られてそのまま押し倒されそうである。

 尤も、愛らしい彼女を存分に可愛がりたいという欲はあるに決まっていた。だが、それを抑えられるくらいの理性も備えているのが損でもあるか。

 そんなオレの懊悩を知ってのことか、あくどく笑みながら時雨はオレに向けて呟く。

 

「雪風は良くて金剛さんは避ける……提督って……ひょっとして、ロリコンじゃないよね?」

「時雨……ホモだのロリコンだの、オレを何だと思ってるんだ?」

「それは勿論……」

 

 オレの前で果実の唇が、一拍溜める。そして、彼女は満面の笑みでオレをこう揶揄したのだった。

 

「優柔不断な男の子だね」

 

 断言。続いてチェシャ猫の笑みを見せられ、オレはぐうの音も出なかった。

 

 

 

 

 その日の休み時間、オレは珍しくも暇をしていた二人と共に筋力トレーニングに勤しんでいた。

 そのうち一人は艦娘。だが艤装も着けていない彼女は非力であり豊満だった。

 

「うーん……提督、ちょっとへっぴり腰になってるわー」

 

 故に彼女、愛宕はトレーニングルームで真っ先に音を上げてからこの方オレ達の回数やトレーニング姿勢などを見ることに努めてくれている。

 更に応援に手を振るその度に、ぶるんぶるん揺れるごく一部。正直なところ普段だったら目を行かしてしまい、効率が下がってしまう可能性があった。

 だが今は、隣で極めて上手にバーベルスクワットを行いながらキレた肉体を露わにしている彼への闘争心に火が点いてしまい、オレはそれどころではない。

 

「流石は提督さん……やりますね」

「憲兵さんこそ」

 

 勿論オレもただの腑抜けではなく、むしろ外でのナチュラルトレーニングを好む彼よりむしろ機械トレーニングは得意な方。そこそこ数字としては優れた結果を出せた。

 互いの筋肉を見つめ合った二人に褒め言葉が交差する。オレは腕の太さに感心しきり。反して相手の視線は嫌に大臀筋寄りな気もするが、それはまあどうしようもないことだ。

 そして、オレともう一人、言わずと知れたマッチョマンの憲兵さんは次第に回数を競うようになっていく。

 

「ふん、ふんっ!」

「はっ、はっ、はっ」

「97、98、99……二人共凄いわぁ。もう百超えちゃった」

 

 愛宕が驚いた百回程度、オレ達にとっては中間地点ですらない。

 止まらない汗にマットに置いた手が滑るが、それでも止められはしなかった。これは意地と意地のぶつかり合いだから。

 勿論、本気の憲兵さん相手なら勝てないかもしれない。でも、相変わらず彼は上腕の屈伸につられて上下するオレの尻肉に釘付けだ。

 

「ふん、ふん!」

「はぁ、はぁはぁ……ごくり」

 

 正直、段々彼の息も嫌な感じに荒くなってきて気持ち悪いが、だがしかしこれはチャンスでもある。

 どうしてこうなったかといえば、正直好みの美人の愛宕に良いところを見せたかったという本音があるが、とはいえ一旦火が点いてしまえば止めることは難しい。

 凄いわー、と言いながら無邪気にも並の鉄アレイより重量のありそうなその豊満なバストをマットに置いた彼女を後目に、オレは更に回数を重ねようとして。

 

「ふん、ふ……」

「失礼する! ここにこの鎮守府の提督が居ると聞いたのだが……おお、トレーニング中だったか。申し訳ない」

「……いいえ、貴女は……長門型?」

「その通り、私は戦艦長門! 提督、どうかよろしく頼む」

「……はい」

「ふむ」

 

 スパートをかけようとしたオレを求め何故か艤装を一部身に着けたままの長門型戦艦1番艦が訪れた。

 残念だが競うのは中座し、敬礼に敬礼で返すオレ。まるで何かを見定めるかのように目を細めて、長門は上から下へとオレの全身を見つめる。

 

「っ」

 

 そんな中、オレは運動によるもの以外の要因で胸が痛くてたまらない。

 何しろオレにとって長門というと、それは。

 

 紅き空、紅き海、そして紅いばかりのオレたち。そして、彼女はオレの幸せを願い、約束させた。

 

 そんな、あの日終わらせてしまった彼女を思い出しそうになったその時、すっと立ち上がった憲兵さんがオレと彼女の間に入り込むかのように移動して、首を傾げる。

 

「はっ、と。お客さんですか……しかし確か本日は来客の予定は無かったはずですが……」

「何か怪しいわー。貴女何者なの?」

「ふっ。私は怪しいものじゃないさ」

 

 ニヒルに笑む、長門。確かに、艤装を纏ったまま現れた見知らぬ彼女は怪しい。

 憲兵さんに愛宕がオレの前にて護ろうとしてしまうくらいには、言葉一つで信じられるものではなかった。

 

「君は……」

 

 だがしかし、オレには彼女の笑みが見知った彼女の最期のものと重なり、信じる信じないどころではない。

 思わず涙が零れ落ちそうになるところを堪え、そうしてどうしようかと今更になって悩みだした頭が答えを出す前に。

 

「私は彼……ここの提督と一つ約束をした者……今日は約束を果たしに来たまでだ」

「え」

 

 誰知らず自然な一歩で距離をゼロにした彼女は、何故か震えているオレを抱きしめて。

 

「大丈夫……私は貴方と共にある」

 

 耳元で、そう告げたのだった。

 

 

 

 それはもう十年近く前のこと。

 オレは、艦娘の存在を知らずに呑気に日々を過ごし、だがその日々の大切さを知らずに上陸した深海棲艦達の手により全てを奪われそうになった。

 まるで、辺りは資料で見た戦時の空襲のよう。人も、建物も燃え盛る中で、しかしオレは。

 

『……大丈夫か?』

『っ、貴女は……長門?』

 

 一般人のオレを敵弾の嵐から庇って血だらけになりながら、それでも反撃の砲撃を轟かせる戦艦長門、ひいては艦娘という前世の記憶と陸にて出会ったのだった。

 

 

 

 あの日、オレはオレを庇って撤退した結果戦地の外にて亡くなった彼女を知っている。

 最期まで人を守って海で沈まず、陸で没したことは、彼女にとって果たして幸せだったのだろうか。

 だが、それ以降長門型がどこかで建造されたという話は聞いていない。

 口の悪い人間は彼女は怯え逃げ惑う我々を見限ったのだと口にしていた。それを聞きながら怒りを我慢しオレは思ったものだ。必ず彼女、長門は帰ってくると。

 

 そして、今日その思いは叶った。それどころか、なにやら彼女はオレを覚えている様子でもある。

 これが奇跡と言わずにして他に何と言うのだろう。彼女の存在を怪しむ憲兵さんらを置き、オレは二人客間にて長門と向き合った。

 

「まさか、貴女が……艤装が記憶を繋いだのか、それとも妖精さんの仕業か……兎に角、また会えて嬉しいです」

「ふっ。私には難しいことは分からん。だが一つ言えることがある」

「それは?」

「これが運命ということだ。……幸せには、なれそうか?」

「っ、はいっ!」

 

 真っ直ぐな彼女の真っ直ぐな視線が、久方ぶりにオレを貫く。そしてその発言もオレの心に真っ直ぐ届いた。

 ああ、彼女はずっとオレの幸せを願ってくれていたのだ。そのことはとても嬉しいことだし、それ自体がオレを幸せにしてくれる。

 感動に涙を流しそうになるオレに、一度咳払いをしてから彼女は続けた。

 

「こほん……それで、だな。提督。もし良かったら、だが……」

「はい、何ですか?」

「ああ、まずその敬語を止めてから、これを見てくれ」

「は……いや、分かった。それで……っ!」

「この二組の簡素な指輪が、ケッコンカッコカリとやらのリングだそうだ。……着けてくれるか?」

 

 どうしてそれを、何でオレなんかを選んだのか、等疑問は幾らでも湧いてくる。

 普通なら不審だ。何か仕掛けられているかもしれない。だが、オレは彼女の純な視線を受け取り、その本気を理解する。

 或いは先の運動の疲れで判断力が低下しているのかもしれないが、だからこそ迷うことはなかった。元より貴女に助けられたこの身。命を預けるに迷いなどあるはずもないのだ。

 だから、銀のリングを受け取ったオレは真っ直ぐそれを自らの指に過たずに嵌めて、そして。

 ああ、もう優柔不断なんて言わせない。

 

「……貴女となら、勿論!」

「良かった……」

 

 心より喜色溢れさせながら、長門の薬指へとそれを収める。前世だとレベル開放アイテムだったが、今世だとどうなるのかとも思ったが、問題なく指には着けられた。

 最初はぶかぶかだったが、きっと妖精さんの力で作られているのだろうそれは、ピタリとオレたちの指に合うように縮む。

 

「ふふ……」

 

 感慨深げにリングを見つめる長門。その、まるで童女のようですらある喜びぶりに、オレは自分の運命を決めた相手と一緒になれた幸福を覚える。

 

 そして、更に喜びに表情を変えた彼女は笑顔でこう言って。

 

 

 

「えへ。ありがとう、お兄ちゃん!」

「へ?」

 

 

 時が、停まった。

 

 

 

 んー……なんか背中によいしょってしたらわたしが大っきくなったからみんなびっくりしてどっか行っちゃった。

 あ、吹雪お姉さんさっき自慢してたケッコンカッコカリのリングって奴落としてる。捨てちゃったのかな? もーらい!

 暇だから出かけよー……あれ、お姉さん誰? ごーやさん? あのね、わたしお兄ちゃん探してるんだ……あ、トレーニングルームってとこに居るんだね。ありがとー!

 

 わーい。トレーニングルーム……ここにお兄ちゃんが居るんだね……わ、お兄ちゃんすっごい汗! 頑張っていたんだね、格好いい!

 あれ、なんか邪魔する人たちがいるね。まあ、みんな今のわたしの姿知らないものね。仕方がないかー。

 

 お兄ちゃんケッコンの約束果たしに来たよー。()()()()()()()からいいよね!

 あれ? おにいちゃん震えてる? ぎゅっとしてあげよ!

 

 やっとお兄ちゃんと二人になれたよ! でも何かぎそー? がどうのこう言われてもよく分かんないなー。

 でも、こうして会えるのは当たり前だよね、わたしたちケッコンする予定だし! 一緒に幸せになろうね!

 そうだ、そのしょうこにリング! あ、敬語なんて止めてねー。

 それで、お兄ちゃんは着けてくれるかな? え、良いの? やったー! わあ、ピッタリになったよ。これでケッコンだね!

 

 

 えへ。ありがとう、お兄ちゃん!

 

 

 

 

 それは、深海棲艦との戦役時。一人の優秀な提督が多くの艦娘を率いていたらしい。

 彼はまるで未来を先読みしたかのような優れた方策を次々と編み出し、全体に貢献していた。

 そんな彼にはまた優れた伴侶が存在し、長門型艦娘の彼女と二人比翼連理を証明するかのように付かず離れず戦役を戦い抜いたそうだ。

 

 人類に海を取り戻すために大いに活躍したその提督。

 だがしかし、そんな彼にも一つ悪名があった。多くは笑って仕方ないとしたそれ。だが彼は本気で嫌がっていたそうだ。

 

 彼がその最期まで勘違いしたせいと否定し続けたそのあだ名は――――。

 

 




 勘違いなお話でした!

 ケッコンカッコカリだからギリギリセーフでした……彼女が結婚できる年齢になってから、改めてお二人はご結婚された感じですねー。




 あ、ちなみに彼女は艤装()()型ですから、実は元の長門さんもお喜びになっていたりしますー。
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