艦娘とは恋愛出来ないので鎮守府の外の子と仲良くしていたら艦娘でした   作:茶蕎麦

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 凄いお久しぶりに失礼します……実は本日はお蕎麦の誕生日で、それ以上に金剛さんと時雨さんの進水日でもあったようだったのでおめでとうとしたくて今更ですが書いてみました。

 ルートに別れるで両方でも片方でもお好きな感じでお読み下さいー。

 ギャグもありますがしっとり多めとなり……LGBTQの勉強による反省とか最終回失敗のトラウマとかと戦い頑張ったのでどうか少しでも楽しんでいただけたら幸いですー。


④金剛/時雨ルート

 

「よし。今回は誰もつけてくる様子はないな」

 

 強まる日差しに瑞々しい色をましてきた自然を愛でつつ試しに振り返れば、寂しいくらいに通った未舗装路には人っ子一人見当たらない。

 親愛なのか恋愛なのかよく分からないものを持ち合わせ過ぎな我が艦娘達を置いて、今オレは五月晴れの良き日に休暇として街への散策中。

 市街地への長い一本道を進んだ後に振り返ると、オレには広すぎる鎮守府の姿も流石に小さく映った。

 

「視線は、未だに感じるが……」

 

 その中でも最近どうにも懐いてしまったのだというウミネコを肩に乗っける警備員の姿は未だに微かにうかがえた。見守りのつもりか身じろぎもせずこちらを見つめ続けている様子は少し怖くもある。

 近頃頻繁する他鎮守府の問題から出張を繰り返している担当の憲兵さんが今も留守をしているからか、どうにも彼を慕う男連中はこのところ欲求不満気味だ。

 ナチュラルトレーニングで自分を虐めるのすら物足りなくなってきたらしい彼らのトレーニングルームの使用率は過去最高で、中々利用が出来ないと艦娘達からも文句が出る始末。

 それ以外にも隠れて男性更衣室にて闇ポージング会を行い、あまつさえ夜な夜な彼らが憲兵さんへの愛を海に叫んでいることに一般人からの通報すら発生してしまった。

 叱りはしたが、反省の色を浮かべながらもオレからの叱咤に何を感じているのかニコニコとしてもいる彼らには、ほとほと困ったものである。

 

「面倒だからお前らの誰かが憲兵さんに告白でもすればいいと伝えたら、貴方がそう言うのかと迫真の詰め寄りをされたこともあったな……まさかの憲兵さんロスがここまで痛いものだとは」

 

 いや、どうしてオレは艦これ世界にて男同士の恋愛沙汰というか、それに端を発した彼らの異常行動に巻き込まれて苦労する羽目になっているのだろう。

 ちなみに憲兵さんに一昨日電話で報告したところどうも平和ボケしているようだから、戻り次第しっぽ……いや確りと指導してきますとの返事。

 これはこれで不安になるので、しばらくは観察してくる新参の秋雲ならぬ同人漫画家オータムクラウド先生の鼻血は止まらず、彼女の描く薄い本は厚くなり続けるに違いなかった。

 

「まあ、オレの前世経験が活かせない事態が増えてきたこのことも、平和になってきたという証か」

 

 哨戒に異常なしという報告も多くなり、大規模作戦の頻度も減ってきた昨今。

 そう、深海棲艦達との戦闘行為自体も最盛期よりも随分と下火になってきていた。

 国民も戦争を意識することが減り、那珂ちゃんさんが鎮守府に帰ってくるのは年に数回程度。

 次はどの鎮守府が解体されるかと囁かれる中、前世の経験にて大体の最適を理解できるからと何時だって最前線にて艦娘たちを酷使してきたオレにとって、艦娘等が国の保護下にて安堵していくのはむしろ喜ばしいことでしかなかった。

 

「実際色々ゴタゴタがあるみたいだが、頑張ってくれた彼女らが幸せになることに否と言う者が世に少ないのはありがたい」

 

 これまで零細鎮守府の統一、一極化していた戦力の分散などオレの周りにも様々な事が起き、他所でも元提督が誰とケッコンするの問題や、幼い艦娘達の預け先とのミスマッチ等が社会問題化してはいる。

 勇敢にも我々の代わりに戦ってきた彼女らを功労者として大切にするという、そんな当たり前を多くが出来てくれていることが、オレには嬉しい。

 

「オレ達も地域住民への理解促進のための祭りの企画やボランティア活動の推奨など鎮守府を上げて行ってきたが、それが現状への寄与になっていたならありがたいな」

 

 近場の農家さんに手を振られ、お辞儀をする。そんな初期から農作物の都合を断ることに苦労する段階を経て、今は彼らから押し付けられる見合い写真を艦娘たちから隠す場所に困る今。

 

「飛鳥尽きて良弓蔵る、狡兎死して走狗烹らる……取り敢えず、後はオレが要らなくなるまで、頑張るか」

 

 オレがつい呟いてしまったのは価値なんて時勢によって変わるという昔のことわざのようなものだ。

 大恩ある艦娘たちが必要ないからと雑に扱われてしまうのは許せないが、しかしオレなんてこの世の非常時にしか役に立たない知識くらいしか特筆すべきものがない存在はいずれ大事にされなくなっても仕方がないだろう。

 

「それでもオレは、昔のグッズが好きでいるだろうがな」

 

 鎮守府は、どうやっても残すつもりだ。だがそれが将来的に艦娘たちが管理する資料館となったところでオレはいい。

 オレはあいつらが好きで、それはずっと続くだろう。オレが時に色とりどりのモーラーと戯れているところを大井にバカにされるように、そんなのはあまり健全ではないのかもしれないが。

 

「忘れられないものが、一つくらいあったっていいだろう」

 

 帽子のつばを真っ直ぐ、姿勢をただしてしばらく鎮守府を眺めていたオレは歩きを再開する。

 続いていた視線は既に外れていて、艦娘たちが各々好きなことに興じてオレなんて忘れられることこそ、素晴らしい。

 

 前世なんてものを引きずり続けるマイナーなオレは、だからこそ別に愛されなくなっても仕方がないと覚悟していた。

 

 

 

「ふむ……」

 

 鎮守府創設時からある近場のデパートにて、オレは手帳に記された名前の数に少し悩む。

 最盛期の百を超える数から少しは減った。とはいえ未だオレが助けてもらっている艦娘達はそれでも多い。

 もう入っている冷房に白い軍服の上からでも冷えを覚えながら、オレはつい独り言を続けてしまった。

 

「4月に引き続き5月進水日の艦娘も多いな……今日もデパートの店員達が喜びそうだ。しかし折角の彼女らの誕生日のために妥協は出来ないか」

 

 リストを見直すと、古参の時雨と金剛が18日同日であることが目に留まったが、それだけでなければ今日の買い物は中々骨だ。

 そう。オレは月の初旬に必ず休暇を貰ったうえで鎮守府の皆に向けて誕生日プレゼントを都度購入することを恒例としていた。

 ちなみに、鎮守府の男子共は9月、10月生まれが多く、何故かクリスマスを妙に嫌う彼らのためにその頃もオレは繁忙だ。

 

「しかし同性は大体酒か飯で楽だが、異性に対しては気を使うな……皆ゴーヤみたいにオレの私物ですら喜んでくれるならありがたいものだったが」

 

 そう呟きながらも、安心安全母親地味た優しきゴーヤ相手にだってオレは多少考えた後に衣類など――毎回大切にするでちねと喜ぶばかりで着てもらえないが――プレゼントはしている。

 先月は龍驤にツマミの詰め合わせと誤って自分のために購入したまな板を贈ったことで大分拗ねられてしまったことがあったが、基本的にはどれも喜んでもらえた。

 転属になったばかりでこの鎮守府の慣習を知らなかった秋雲に至っては、あげた画材に痛く喜んだ上にオレの肖像画的なものを早速作成してくれたこともある。

 

「普通に裸で、隣に同様の男の姿――聞けば前に所属していた鎮守府らしく、スキンヘッドで強面で絵では顔を赤くしていた――があって嫌に絡んでいたのは良くなかったが……まあ今回も外さないように気をつけなければな」

 

 嫌な記憶を思い出してしまったが、頭を振って改めてオレはデパート巡りをはじめていく。

 衣類や小物類などを改めていく制服男性なんて目立つものであるが、それも月一のイベントと化していれば多くは慣れて気にしないでくれる。

 流石にオレもアピールのためか唐突に数字を叫んでくることすらある金剛以外のスリーサイズは分かりはしない。

 だから、購入する多くは装飾品となる。キャラものが安牌とは分かっているが、それでも惹かれる特売コーナーへの足を止め、オレは浅く息を吸い直す。

 

「ふぅ……どうもオレはナウでヤングなアメリカンスタイルの柄物を気にしがちだな。だが、オレの趣味は古いらしいから、気をつけないと」

 

 あの那珂ちゃんさんにすら提督って嗜好が80年代だよねと言われるオレなのだからこそ、自分に素直になるべきではないと分かっている。

 オレはあんまりにガーリー過ぎるピンクも今風ではないと知りながらも、前につい暁に似合うだろうと選んでしまい、閉口された経験を持つ男だ。

 どぎつい花柄ワンピースの誘惑から辛くも勝利を収めて、無難を買い漁ってから次はと彷徨い歩くオレに。

 

「花か……」

 

 一階にて発見したのは、それこそ先にモチーフとなっていた花々。

 母の日があるからだろうカーネーションのピンクがメインとなって華やかな一角にオレの目は行く。

 

「すみません」

「はいっ!」

 

 最早当たり前――刷り込み――のようにオレのはカーネーションを母の日にゴーヤに贈る手配をする。無論その後実母へも。

 そうしてからオレはしばらく北上のじょうろが忙しくなってしまう結果になるからとそれ以上の花の購入を避け、見て回っていると。

 

 知らず、オレはとても綺麗なそれを発見する。

 

「面白いな……これ包んでいただけますか?」

「かしこまりました……ふふ。お客様の思いがお相手に伝わりますように」

「ありがとうございます」

 

 店員さんのトークを話半分に聞きながら、2人分それをラッピングして貰ったオレはそれで満足し、にこやかに買い物を終えたのだった。

 

 

 オレはそれを。

 

 

 ①金剛にあげる。

 

 

 ②時雨にあげる。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

→①金剛にあげる。

 

 

「うー……心配デース……」

 

 金剛は、焦っていた。彼女は珍しく部屋の中にて行ったり来たり。

 その心には、当たり前のようにあの妙に昔贔屓な鈍感提督の姿があった。

 うろうろする彼女は本日本来あるべきものがないことに不安がる。どんな大きなものだろうがWelcomeとすっかり空けていおいた棚の上が今は淋しい。

 

「……ティータイムが終わるまで誕生日プレゼントが届いてないなんて、あり得ないデース……」

 

 金剛は何を隠そう提督に対してあんまりなまでにバーニングラブ。 

 どうしてか金剛型戦艦が彼女だけという珍しい鎮守府にて妙に癒やしとして愛される彼女であるが、実際彼女のラブは生半可なものではない。

 奇矯にも朝から夜までラブを続ける金剛は、しかしその全てがプロポーズと同義。だから何時も提督のつれなさに心折れているのである。

 なんとも不憫だがもっとも、直ぐに彼女は持ち前のラブにて自然回復するのであるから、なんともライフなラブ様々だった。

 

「あの日買い物について行かなかったのは失敗だったのかもしれませんネ……」

 

 いつも通り1日に行われた当月生まれの艦娘たちへの提督による誕生日プレゼント購入。

 当然、今月5月が誕生日である金剛はそれを楽しみにしながら、行きのタクシー代をケチるのだとなんとも半端に庶民派に徒歩で出ていく提督を笑顔で見送っていた。

 しかし、その日に買われていた筈の贈り物が、昼過ぎどころか夜に差し掛かる今になっても手元にない。

 前はそれこそ朝に手渡しされていたのに。そんな事実が金剛を不安にさせる。

 

「ワタシ、忘れられてしまったのかもしれまセーン……」

 

 結果、そのキャラクターの濃さ故そんなことあり得る筈ないのに、平年より温度のある本日に彼女は不安で震えた。

 最初のプレゼントは何故か孫の手を渡されてあんまりデースと金剛も憤慨したが、しかし茶葉に始まり最近はティースプーン等中々に良化しているため彼女も安心し切っていた。

 そこに、暗がりが増してきた時刻になっても何も届きすらしない今である。

 これには、恋する少女(?)は不安で圧し潰されそうになって当然だった。

 

 彼女は移動し、カトラリーを保管している小箱を空け、そこに安置されている銀の匙を弄りながら呟く。

 

「でもラブは、確かにあったんデスよぉ……」

 

 去年の贈り物のその冷たさを指の腹で感じながら、しかし乙女な金剛は脆い自分のための言葉を小さくしていった。

 恒例の朝バーニングラブ。何時だって燃えているそれは提督へ早々に受け渡し済みで、だからちょっと今は心もとない。

 

 どうしたんだろう。何かあったか聞きに行かないと。でももし嫌いになっていたとしたら、それを知りたくない。

 

「提督ぅ……」

 

 そんな全ての迷いの結果、漏れるのは最愛の相手の名。震えるその声は誰にも届かず、虚空に消えていく。

 

 

 

 金剛型の艦娘はほとんど全て自らの提督を愛するもの。

 だが、実はこの金剛は最初それほど提督のことが好きではなかった。

 

『提督。この書類対応、お願いしマース』

『ああ。ありがとう、金剛』

 

 何しろ、金剛からしたらとんだ若造だった提督は、当時トーチカ同様の運用しかされておらずほぼ冷遇されていた戦艦金剛を引き取っただけの人だったから。

 駆逐艦種などを疲弊するまでローテーションする、機動力優先で組まれていた当時の編隊。

 そんな中異論を発したがために押し付けられた彼はしかし、大井と金剛とその他数隻の駆逐艦と共にやってきた小さな鎮守府にて何一つ文句を言わずに働き続けた。

 

 頑張っているのは、好ましい。だがこれはどうにも勇敢ではなく、生真面目。

 それが少し金剛のタイプから外れていたからしばらく彼女はラブを持て余していた。

 

 しかし、提督はその艦娘運用手腕から着実に味方と資源を増やして、結果周囲の海を青く戻していくことに成功し、そして。

 

『金剛、お願いだ。どうか皆を頼んだ』

『提督……』

 

 彼は、当時絶対に敵わないだろうとされていた姫級の打倒という任務を負わされる。しかし絶望する艦娘たちを前に彼の瞳に諦めなんて欠片もないのだった。

 

 金剛には、出立前に他の艦娘にやっていたように自分の手を握ってくれた彼の心が分からない。

 これまで、何度も出たいと駄々をこねても君を持て余す訳には行かないと何度も説得された。

 本当はワタシはこれまでより冷遇されていて、ひょっとしたらとても嫌われているのではないかと思ってすらいたが、けれども。

 

『君となら、オレ達は勝てるから』

『っ!』

 

 しかし、境遇に捻くれてろくに見もしなかった彼の瞳は想いに燃えていて、そこには信頼以上の愛があった。

 

 金剛には、その理由がこれっぽっちも分からない。だが、そんなのよく考えたらどうでも良いのだった。

 好きに好きで返す必要なんてないけれども、それでもついそうしたくなるからこその愛であり。

 

『――Burning Looove!』

 

 故に彼女は愛を叫ぶのをためらわなかった。

 はじめに金剛が心で持って黒を撃ち抜いて、そのために平和に繋がる今がある。

 

『提督! 愛してマース!』

『はぁ?』

 

 入居前のぼろぼろの身体を気せず飛び込んでくる彼女を彼は困惑しながらも抱きとめて。

 だから金剛のラブは燃え続けるのだ。

 

 

 

 過去は眩い。だが、それでも今を頑張らない理由なんてないと彼は言う。

 なら、未来はきっともっと明るい。そんな信じていたことを、金剛は本日うっかり忘れていた。

 

「金剛」

「う……て、提督ぅ!」

 

 椅子の上、テーブルに顔を乗っけたふて寝の横に、最愛の人の顔。

 突然の推しのドアップに、しかしよだれとか垂れていないかが気になり金剛は照れるばかり。

 

 顔を両手で隠しだした彼女に、提督は笑いながら素直に可愛らしいなと思うのだった。

 

「はは。寝てたみたいだな」

「むー……乙女の寝顔を覗き見するなんて、Badデスよー!」

「そうかもな……まあ、でも遅くてもこれを渡したくて、な」

「提督?」

 

 そして寝ぼけ眼に手渡されたのは、小箱。

 少女の手のひらにすら収まりかねないその赤い赤い箱は、ひと目見ただけで金剛の視線を奪い期待に心を爆発させる。

 

「開けて、いいの?」

「勿論」

 

 愛を何時だって語ってきた口は、しかしこんな時にろくに囁くことすら出来ずにただ動く指先ばかりが正直だった。

 開いて、期待以上のものが目に入り金剛の蒼眼は湿潤する。彼女は恐る恐る問った。

 

「これって……バラの、ゆ。指輪デス?」

「そうだな。なんだか綺麗で……金剛に似合うと思ったからさ。買ったんだよ」

 

 涙がぽろり。それがルビーで出来ているのだろう透き通った赤の上で弾けた。

 こんなに意味深いものを思い、預けてくれる。それが、いま真っ赤になって必死に言葉を紡いでいる男性の姿と重なり、金剛は信じていても問わずにいられなかった。

 

「て、提督……これって、そういう意味で取ってしまってもいいんデスか?」

「そう、だな……うん。そうなのかもしれない」

 

 しかし、提督の返しはどこか曖昧。

 何時もは幼いと時に言われることあるその顔を精悍にも真剣に向けて、訥々と本音を持って彼は続ける。

 

「オレは、これを見て金剛に贈りたいと思った。それがどんな意味を持つかなんて、結構どうでも良かったけれどさ。でもそんなことが本当に好きってことなのかもしれないと、今更ながら思うよ」

 

 ためらわないことさ、って本当だったんだなと彼は零した。

 金剛には当たり前過ぎて逆によく分からなかったが、しかしでも彼はつい先まで渡すかどうかすら迷っていた部分すら吹っ切れたようで朗らかにもこう言う。

 

「金剛の愛に迷ってたのは色んな理由がある。それは後で話すつもりだ。だけれど……そうだな」

 

 彼の顔は、宴にて憲兵さんと飲み比べした際に膝に乗っけて見つめていた赤ら顔よりずっと紅く、緊張していた。

 でも、きっと金剛だって同じくらいに真っ赤になっているには違いなく、期待に揺れる視界の中、彼は。

 

「俺とケッコンしてくれ」

 

 そんな真っ直ぐな燃える愛を告げたから。

 

「は、はいっ!」

 

 指輪を抱きしめながら、彼女だってそう返したくなってしまうのだった。

 

 

 

 その日の誕生日プレゼント。

 それは彼女にとって後に貰った婚約指輪と並んで大切なもので。

 

「今日もイイ天気ネー!」

 

 だから、彼女はずっとそれを胸元に下げていたのだ、そうだ。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

→②時雨にあげる。

 

 

「雨、ずっと降ってるね」

「そうだな……」

 

 沖縄でもなければ、この鎮守府にまで5月の半ばに梅雨は流石に届かない。

 とはいえ、そんな事実とは関係なく昨日からのじっとりとした雨は止む気配もなかった。

 

 時雨は雨が悪いものとは思わないし、そもそも雨は止むものであるから存外低気圧に弱い面々と比べたら平気である。

 とはいえ、本日誕生日だからと少し前から予定していたピクニックがなくなってしまったのは残念だった。

 だから今日の雨は少し悲しいと思いながら、軒下にて時雨は空をずっと見上げていたのかもしれない。

 

「ねえ、提督」

「なんだ、時雨」

「金剛さんのところには、行かないの?」

「まあな」

「……吹雪さんに電話したりは?」

「それも、いいかな」

 

 そんな隣で、彼女の提督は同じように雨雫が落ちて来る様を見つめていた。

 何時も愉快げにヘンテコな事態に巻き込まれている彼にしては珍しく、どうにもメランコリックな様子で隣りにある。

 僕の誕生日にあんまりそんな顔してほしくないな、と思いながらも彼女は言わなかった。

 ただ、時計の針ばかりがしばらく進む。雨音に慣れた頃に、提督は言った。

 

「時雨は、もう大丈夫か?」

「うん。僕には提督が居るから」

「そうか……」

 

 時雨は空を見るのを止めて、隣を見つめる。

 そこにずっと居る提督は律儀に帽子深く被りながら未だ空を見上げているが、しかし心はここにないようだ。

 在りし日を見る彼は、続けてこう呟くのだった。

 

「オレは、何時か居なくなる」

「そうかもね。でも、今は隣りにいてくれる」

 

 言のとおりに、人と艦娘の時間は違えば、そもそも愛を結ぶことさえなければ離れ離れは必定だ。現実は雨粒のごとく冷たく降ってくる。

 しかし、時雨はそんなことを気にせず隣の彼を見続けた。

 

「提督はどう思ってるかは分からないけれど……僕は、幸せものだよ」

 

 そして、柔らかにも彼女はそう断言するのである。

 

 

 

 時雨は、提督が初期に建造した艦である。

 そして、彼から酷く大切にされてきた実感が彼女にはあった。だが、それは皆並べて同じようにである。

 誰にでも優しく、それが変わらないからこそ時雨は不安だった。

 

『僕はここにいて、いいのかな』

 

 雨が降る日に限って、何時も孤独を感じながら彼女は空を見上げる。

 一人ぼっちの呟きなんて雨音が消してくれる、その筈だからと時雨は本音を空に溶かし続けていた。

 

『雨は、いつか止むさ。でも、彼はきっとずっとずぶ濡れだ』

 

 そんな彼を見ていられない。だから彼女はここに居る。

 ずっと時雨は、空を見上げていた。涙をこぼしたくないから。

 

『辛いな』

 

 時雨は、提督のことが好きだ。

 それは父性に対するようなもの。だが他所の時雨達から聞く扱いと比べてずっと幸せだとも識っているから、必死ではあった。

 

 その頃は、駆逐艦は人々が生きるために()()()()()()()()とすら認識されていた時。

 それなのに、この提督はおかしなことに深追いは決してせず引き帰らせる。

 勿論、帰ってくる場所があるのは、とても良い。だがそれを守る彼はずっと辛そうだ。

 

『……時雨、こんなところに居たのか』

『提督』

 

 時雨の所感として、彼はこの世にマッチしていない。少し視点が違う。そのために苦労してるのは明白なのに。

 しかし、それでも僕らを大切なものとして扱ってくるなんて、なんてずるいのだろうと思う。

 真っ直ぐは見ていないし、どこか歪んでいるのかもしれないけれど、でも。

 

『オレが時雨を不安にさせてるみたいで、申し訳ない』

『それは……』

 

 ほら、こんなことを言って先に謝ってくるのだから、と時雨は内心思う。

 当然、時雨は不安だ。

 何せ、この人は本当に自分たちを捨てられるのか分からないから。

 前の大戦の船の残滓。そんな艦娘すら大切にしてしまう彼は、ひょっとしたら僕らと一緒に終わってくれてしまうのではとまで、彼女は錯覚して。

 

 だから頭を振ってから、時雨はこう呟くのだった。

 

『ねえ、僕は提督のこと、信じるよ』

『ありがたいが……それでいいのか?』

『うん。だって……』

 

 

「提督のおかげで、僕は雨が好きでいられる」

「そう、か」

 

 ずっと、そう。

 時雨は雨が嫌いではない。だが、それでも彼の隣で見る雨の輝きがこんなに綺麗ならば。

 

 それだけで僕は死んでもいいと、思うのだった。

 

 そんな愛も知らず、提督はラッピングされているだけの長物を持ち示す。

 あまりに形状で明白なそれを差し出しながら、彼はきまり悪そうに言った。

 

「そういえば、これ。時雨へのプレゼントなんだが……」

「ふふ。どう見ても傘だね。開いてもいい?」

「ああ……どうだ?」

「うん。提督にしてはセンスがいいね」

「全く……」

 

 傘は開かれ、顕になったのは深くシックな青に紫陽花のワンポイント。

 自分の頭上に掲げた時雨は何となく、そのまま濡れた地面に向かって歩む。

 そして、雨粒が薄い一枚の上を流れていく姿を愛おしく眺めてから、彼をこういざなった。

 

「提督。ちょっとこっちにおいでよ」

「濡れるな」

「そんなの気にしないで」

「はぁ……分かった」

 

 嫌そうにしながら、でも実際口元では微笑んでいる提督に、意地っ張りな優しさを時雨は覚える。

 そして、傘をもとに隣り合った彼の肩だけが濡れているのを察した彼女はぐいと引き寄せて。

 

「っ」

「……温かい」

「時雨」

 

 止めよう、という意味で提督はその名を呼んだ。

 だが、時雨にとってそれは止まる理由にならずにむしろそれこそが存在証明なんだと、とても嬉しそうにしてから。

 

「雨が上がるまで……そう、この雨の間だけ、こうしていよう。いいよね?」

 

 そんな、可愛らしいわがままを口にするのだった。

 

 

 シーレーンの回復も著しければ、凡その深海棲艦の被害の程度も分かってきている。

 きっともうすぐ待ち望んだ平和はやってきて、戦争の全ては忘れられていき、きっと僕らもずっとこうしてはいられないのだろうけれども。

 

 

 今だけは、お願い。

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