艦娘とは恋愛出来ないので鎮守府の外の子と仲良くしていたら艦娘でした   作:茶蕎麦

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 駆逐艦回です!


モテる

 

「司令官、おはようございます」

「司令官、朝ご飯ですね。朝潮もご一緒させて頂きます」

「司令官、鎮守府の見回りに出かけるのですね。朝潮も付いていっていいでしょうか?」

「司令官、今度はどこに……お、お手洗いでしたか! 失礼しました!」

 

 最近、朝潮がどこに行っても付いてくるようになった。それこそ、遠征や出撃を命じた時以外の殆どの時間を彼女はオレの近くで過ごしている。

 最初は伊58が皆の前でした、オレが恋人探しに鎮守府から出奔したという話に対するショックから離れられなくなったのかもしれないと思い、気が済むまで好きにさせることにしていた。

 だがしかし、一週間経ってもその謎の忠犬振りが変わらないとあっては困りもする。主に、何かしたんじゃないでしょうねと睨んでくる大井へ上手くいいわけ出来ないがために。

 まあ嫌われはしても懐かれるような理由はないので、きっと朝潮なりにオレが逃げないよう見張っているつもりなのだろう。柴犬の監視と似たようなものと思えばかわいいものだが、しかし嫌われているかもしれないと思うと少し残念だ。

 

「ま、自業自得だな」

「しれぇ?」

 

 思わずそんな風に、常に後ろに控えている朝潮のことを気にしていたがために変に零してしまった。

 首を傾げてどんぐり眼をいっぱいに開いてこっちを見ている雪風に、オレは思わず笑顔になってから、首を振る。

 

「いや、何でもない。それで雪風、何だい?」

「あの、しれぇ。こっちに付いてきてください!」

「ああ、分かった。でもあんまり駆けるなよ、危ないぞ」

 

 オレの返事を待たずにあんよをてこてこと板張りの床を駆ける雪風。頭がひょこひょこ、中々に危なっかしい。

 こんな少女が海では大の大人が束でかかっても敵わない深海棲艦を沈めて回っているのだから、恐ろしい。

 

 そして、そんな雪風をたぶらかして告白させてしまったオレも、自分のことながら恐ろしいと思わずにはいられなかった。もう、オレなんて奴は戦慄のロリコンと言われても仕方ないのではないか。普通に最低だ。

 

「司令官は、雪風にはどこか甘いような気が……」

 

 そんな風に自分の業から逃避するために自虐していると、どこかスネたようにして朝潮が後ろで呟く。というか、オレの袖を引いていた。上目遣いに媚びの一切を感じ取れないのは、心根の真っ直ぐさが表れているのだろうか。

 全く、オレのことを嫌っているにしては随分といじらしい。まあ、構ってもらいたいのはこの年頃の女の子の常か。思わずオレは微笑んで答える。

 

「自覚はある。それがもしひいきと感じたら言ってくれ。直ぐにこうしてやるから」

「きゃ。し、司令官……」

 

 そして、オレは朝潮のつやのある黒髪に手を置き、無造作にかき混ぜた。まるで幼子に対する嫌がらせのようで傍から見たら通報ものかもしれないが、構わない。

 そんなんで寂しがり屋の女の子に遠慮してしまうほどオレは馬鹿じゃないのだから。でも、散々やったオレが言うのもアレだが憲兵さんにチクるのだけは勘弁してください、後生だから。あの人の()()はキツいんだって本当に反省しました。

 

「先行ってるぞー」

「も、もう! 司令官!」

 

 オレはぼさぼさになった髪を整えんとする朝潮をわざと放って、雪風が向かった食堂へと向かう。

 真っ赤になった朝潮の、怒っているのか混乱しているのか、とりあえずは憂いなど欠片もない表情を見せるようになった彼女に晴れる心地を覚えながら。

 

「見てください、しれぇ」

「ふむ……」

 

 やがて後ろに遅れて駆けてくる足音を聞きながら、オレはソレを持った雪風と対面する。

 元は主に黄色かっただろうケチャップで毒々しいハートが描かれた炭を差して、彼女は言った。

 

「しれぇ。オムライスを作ってみました。どうでしょう?」

「なるほど……ちょっと真っ黒だが、オレはいい形をしていると思うぞ。実に芸術的だ。よく頑張ったな。勲章ものだ」

「ふわぁ。そうですか……嬉しいです!」

「あの……司令官、それは褒め過ぎではないでしょうか?」

「そうか?」

 

 少し息を乱しながら、そんなことを口にする朝潮に、オレはすました顔で答える。

 まあ、確かにこのオムライス? は芸術的に過ぎている。むしろ食に対して冒涜的なカタチとも言えた。

 朝潮の進言通りに、本来ならば褒めるべきものではないのだろう。もしこれを間宮が出してきたらオレも流石に苦笑いとともに注意せざるを得ない、そんな代物だ。

 だが目の前の満足そうに、にこりとしている雪風の笑みを裏切ることをオレは出来なかった。案の定、彼女は言う。

 

「しれぇ、出来るならこのオムライス、食べてもらえませんか?」

「ああ……分かった。いただくよ」

「し、司令官!」

 

 止める朝潮の手をすり抜けいただきますをしてから、オレはがりがりばりばりもぐもぐと、ご飯物にしては中々出ない擬音を立てながら食む。

 なるほどとんでもなく苦い。苦いが、意外にも中のケチャップライスは普通だった。果たしてそれは救いとなるか、はたまた悪点際立たせるばかりになるか。

 凄まじい苦味の中で、ケチャップの酸味が際立つ。そして柔らかいご飯粒に焦げの硬い食感が混じり、強過ぎるアクセントと化していた。鼻から抜ける香りは、今はなき中学校の焼却炉を思い起こさせてくれる。

 ああ、これはやっぱり。

 

「不味いな」

「そ、そんな……美味しくないのですか?」

「雪風……どうして貴女はあの炭の塊が美味しいっていう自信があったのよ……」

 

 オレが漏らした本音と朝潮の突っ込みに、愕然とする雪風。その横で、オレは無駄に量のあった比叡カレーに匹敵しているかもしれない危険物、雪風オムライスを平らげる。

 そしてどうしても噛み砕けなかった炭の塊をまるごと嚥下してから、彼女に言った。

 

「ごちそうさま。ありがとう、雪風。堪能させてもらったよ」

「しれぇ……ごめんなさい。雪風は失敗していたのですね……」

「……出来上がったオムライスが黄色よりも黒が多かった時点で気付きなさいよ……」

「そうだな、確かに失敗していたな。だが愛は間違いなく感じられた。嬉しいよ。……ただ、次は味見をしてくれると助かるな」

「しれぇ……」

 

 涙目の雪風のボブカットを撫で付けて、オレは笑顔で本音を口にする。見た目も味も悪い、ならどうしてオレがそれを最後まで食べることが出来たかというと、一重に彼女がオムライスを食べるオレに喜んでくれていたからだった。

 そもそも、雪風本人は隠していたつもりだったのだろう、指先のハムスター柄の絆創膏を目にして食べきらないという選択肢はなかった。

 だが、愛は時に毒にも変わるものだ。自分の顔が青から白に変化しているだろうことを感じながら、オレは最後にと口を動かしていく。

 

「そして、二人共、すまない。限界だ。誰か他に人を呼んできてくれ。オレを運ぶことの出来るくらいに体力のある誰かを……憲兵さんは勘弁な」

 

 そう、ためらわずに胃にダイレクトアタックしてきた雪風の愛に耐えられずに、オレは崩れ落ちるのだった。

 

「しれぇ!」

「司令官!」

 

 駆け寄ってくる雪風と朝潮の慌てた顔を最後に見て、意識はブラックアウト。

 後は、この休憩時間が終わるまでに自分が目覚めるのを祈るばかりだった。

 

 

 

 

「苦いな……」

「はい、お水でち」

「ありがとう」

「え? ゴーヤさん、提督に自然に水を差し出しているけれど、何時部屋に入ってきたの?」

 

 雪風オムライス事件から少し時が経ち、それでもまだオレは苦いものを飲み込む羽目になっていた。

 最近、胃薬というお友達が増えたオレは、執務室にて書類とにらめっこしながら苦味と親しむ。そして相変わらず神出鬼没な伊58から湯呑を受け取り、それをあおるのである。

 オレが勝手しないようにと多数決で付けられた秘書艦ことお守り、時雨はそんな普段のオレたちに慣れずに、目を白黒とさせていた。

 自然な時雨の疑問を無視して、口をとがらせて伊58は言う。

 

「むやみに格好つけるからでちよ?」

「面目ない……」

 

 きっと優しいだろう伊58の目を見ることも出来ず、オレはただひたすらに反省する。

 オムライスに完膚なきまでに敗北したオレは、大人が見当たらなかったがために小さな子たちだけで行われた、つまるところ駆逐艦バケツリレーにて救護されて、何とかその日のうちに意識を取り戻すことに成功した。

 だが、その代償は大きいもの。これまでよりもずっと朝潮は真剣になりオレの行動に口を出すようになり、雪風までべったり付いてくるようになった。

 それどころか、オレをリレーした駆逐艦の子たちも心配そうに時間を空けず見に来る。提督の周り駆逐艦がウザい、とは北上の言葉だったか。

 そんな那珂、いや中。最近卯月にまでラブレターを頂いてしまったオレ。ああ、戦慄のロリコンがオレの正式名称になる日は近いのかもしれない。

 案の定、にやりとして時雨が揶揄する。

 

「提督はモテるね」

「好意はありがたいんだがな……」

「年齢が問題でちか? でも、実際どこから年を数えればいいかも難しい艦娘に年齢という概念は薄いでち。気にすることはないでちよ?」

「確かに、大正どころか明治生まれといっても過言ではない艦だった艦娘も居るしね……」

「金剛が泣くから、その話題は止めようか……しかし、とはいっても誰も敬老精神を以て関わられたくもないだろうし、実際見目の年齢で扱うのが正解のような気もするんだよなあ」

「てーとくは真面目でち。ずっと年頃のお嫁さんなんて、普通の男子からしたら垂涎ものだと思うのでちが……」

「……ひょっとして、提督ってホモ?」

「それは違う!」

 

 進水日1912年の彼女のことから話を逸らしたところ、最近皆に勘違いされはじめているオレの疑惑に直撃した。オレは、本気でそれを嫌がる。

 あの憲兵さんと二人きりの夜に、気付けば知らない間に流されて何故か男同士夢を語り明かす羽目になったりしたが、断じてオレはノーマルである。

 最近妙に警備員に馴れ馴れしくされて、偶に整備員からジュースの差し入れを貰ったりして、案外気のいい彼らと会話をするのは楽しいものだと思ったりもするが、間違いなくオレは女性が好きなのだ。

 そんなこんなを熱弁したところ、伊58と時雨は揃ってチベットスナギツネの目でドン引きした。解せぬ。

 

「完全に毒されてるね……」

「てーとくはちょろいでちからね……」

「そうか?」

「そうだよ。最近も、鎮守府外の子からの手紙を鼻の下を伸ばして楽しそうに読んでいたじゃないか」

「鼻の下を伸ばしてはいないが……まあ、確かに楽しみにはしているな」

「お嫁さん候補でちね……」

 

 ぼそり、と変なことを呟く伊58。

 そんな彼女を他所に、オレは吹雪さんから先に貰った返事の手紙を取り出して眺める。綺麗な、しかしまるまるとした字が整然と並ぶそれを見て、オレは少し考える。

 

「手紙、か……」

 

 本当ならば気楽にメールやらSNSアプリやらでやりとりをしたいところではあるが、あれらの便利は深海の憎いあんちくしょうたちのせいで文化が停滞しているこの世界には未だに生まれていない。

 電話でやり取りする、というのは吹雪さんの方が同居している家族にあまり聞かれたくないと乗り気ではかったし、そもそも艦娘たちからの盗聴の可能性を考えれば控えた方がいいだろう。

 しかし、便りを送るのは故郷の両親と弟相手に日頃からしていて慣れてはいるが、女子相手というのは相当に久しぶりのことだ。

 今世でも子供の頃にクラスメイトの女子と文通したことくらいはあるがまあ、あれは気心の知れた相手とのお遊びであるから、役に立つ経験とは言いがたい。

 そういえばあのどこかカピバラに似ていた彼女はクマに似た体型の男性と付き合うようになっていたようだが、今も健在だろうか。聞くにフクロウのような女性が二人の仲を引き裂こうとしていたようだが、果たして。

 オレがそんな動物園の中の昼ドラのような人たちを思い浮かべていると、時雨が問うてきた。

 

「それにしても、妖精さんを見れる子がそこらに居たなんてね。彼女も何時か提督になるのかな?」

「検査から漏れたのは初めてのことだということで大本営も慎重になっているのか吹雪さんは現在適性検査中、らしいな。彼女自体は提督に憧れがあると言っていたが……」

「ふーん。提督に憧れ、ね」

「なんだか言葉に棘があるな……」

 

 憧れ、という言葉を一重に受け取ると確かに時雨が勘ぐるのも仕方ない。

 が、吹雪さんは那珂ちゃんさんの大ファンであるからこそ提督になりたいとオレに公言すらしているのだ。そんな彼女に、オレは二心を疑うことは出来ない。

 だが、時雨は言い募るのだった。

 

「そりゃ、提督はモテるからね」

「こればかりは時雨の勘違いだと思うが……ん?」

 

 言いながら座り直したオレは、何やら臀部に違和感を覚える。

 そして何時の間にかポケットに忍ばされていたそれを取り出し、広げたオレはそれを読む。

 

 そう、読んでしまったのだった。

 みっしりと、黒々とした愛の告白を。

 

「は?」

 

 ただ愛していますとだけ用紙にびっしりと書かれた、まるで呪詛の塊のようなそれ。

 オレが絶句したそんな手紙を覗いた伊58は。

 

「てーとくは本当にモテるでち」

 

 ただそう言ってのんびりと笑っていた。

 

 

 

 

 

「……司令官は気付いてくれたでしょうか?」

「司令官さん、ですか?」

「電。そうね……朝潮はちょっと提督にお手紙を忍ばせたのよ」

「はわわっ、朝潮ちゃん、大胆です!」

 

 夜。ところ変わって、艦娘寮。その中でも駆逐艦にあてがわれた一角にて小さな声が二つ。

 ファンシーと簡素が並んでいる部屋にて、一つのベッドにより集まる少女たち。

 相部屋である暁型駆逐艦の末っ子電と朝潮型駆逐艦ネームシップの朝潮の二人は、仲睦まじくお話をしていた。

 反応が良い電に朝潮はにこりと笑い、続ける。

 

「ふふ。恥ずかしくって名前は書けなかったのだけれどね。でも、朝潮の愛は伝わってくれたと思うわ」

「わあ、なんだか大人ですね、朝潮ちゃん」

「そうかしら?」

 

 思わず、羨望の視線を向ける電。当然のように、彼女も提督のことが好きである。だが、しかしその想いは春のように淡い。

 故に、想いを燃え上がらせている朝潮を格好いいものであるように見てしまうのだった。

 彼女のその想いの表し方に多分に問題があるだろうことを知らずに、電は言う。

 

「司令官さんも大人だから、きっと朝潮ちゃんの想いは通じるんだろうなあ……なんだか素敵なのです」

「ふふ、ありがとう。でも、電も司令官を運んだ時に顔真っ赤にしていたのを知っているわよ。電はその愛を伝えたりはしないの?」

「はわわ、あの時は司令官さんの身体がとても男の人らしくて、格好良くて……恥ずかしかっただけなのです!」

 

 思い返し、電はいやいやをするようにして頬の熱を飛ばそうとする。

 真っ赤になりながら男の人を思い出す自分をいやらしいと考える電に、意地悪く微笑みながら朝潮は告げる。

 

「そんなことを言ったら、憲兵さんもがっちりしているわよ?」 

「あの人はちょっと……こわいのです」

「つまり、司令官は怖くないのね」

「なのです」

「なら、好きなんだ」

「どうしてそうなるのです!?」

 

 目を剥く電。しかし、それを気にせず朝潮は彼女を優しく撫で付ける。

 偶にからかってみた楽しさと、異性に対する緊張を思い出すあまりカチカチになっている電のおかしさに、朝潮はくすくすと笑う。

 そして、撫でられるがままにされている電が笑みとともにそれを止めた朝潮を見上げると、ぽつりと彼女は呟いた。

 

「まあ、良かったわ。電が敵にならなくって」

「そうですか? 朝潮ちゃんなら電なんて敵じゃないと思うのです」

「ううん。恋する乙女はみんな強敵よ。朝潮なんてちっぽけなもの」

「そうなのですか……」

 

 強く思ってはいるが、恋にしては少し浅いものを持っている電は、朝潮の言葉をうまく呑み込むことが出来ない。

 彼女は、想いに焦がれて美しく輝く眼の前の少女を見て、それがとても見逃しても仕方ないようなものとは思えなかった。

 しかし、朝潮は笑窪を深め、まだ続ける。

 

「でもね。だからこそ気付いて欲しいし、愛して欲しいと思うわ。愛って、ためらわないこと……これは至言ね」

「ためらわない……それってちょっと危ない気もしますが、でも恋愛ですからね……」

「そう。結局の所競争なのよ。だからね……」

 

 そうして、少女は空を見る。窓越しに月の光に照らされた朝潮は輝きにその肌の白さを際立たせ、闇に溶ける黒髪を蠢かせてから、電の方へと振り向いた。

 彼女は、宣言をする。

 

「何度でも何通でも、朝潮の愛を司令官に送るわ。それこそ病みつきになってしまうまで」

 

 朝潮は満面の笑みを以て、そんなある種トンチンカンなことを口にするのであった。

 

「すごいのです!」

 

 しかし、呪いのように想いの篭った朝潮の文体も何も知らない電は憧れに喜色満面。

 彼女のような恋をしたいなあ、と心から思うのである。

 

 

 

「やっぱり駆逐艦はウザいなぁ……」

 

 そして、そんな彼女たちを外から見上げて。おさげの少女はジョウロでシクラメンに忘れた水をあげるのだった。

 

 

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