艦娘とは恋愛出来ないので鎮守府の外の子と仲良くしていたら艦娘でした   作:茶蕎麦

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 遅くなりました!
 そして申し訳ありません。今回ギャグで抑えきれなかったシリアスさんが暴れだして大変ですー。
 どうなのでしょう?


ウザい

 

 

 比較的自由な時間を取りにくい立場の提督といえども休みはある。何故か休暇を貰っても鎮守府から離れようとしない周囲のやけに歯が白い男子達にならうことなく、オレは再び街へと繰り出した。

 もっとも、先の脱走の不信を払拭するための調整から艦娘ひとりを監視に付けた休暇となってしまったが、それは仕方がない。

 そして彼女への愛からか大井が嫌に渋っていたのもまた、どうしようもないことだ。オレだって別に、二人の愛を阻みたいわけではないのだが。

 ただ、偶に同日を休みにしていたのが北上だけだったというだけ。

 建造が上手くないと定評のあるオレが率いる艦娘だって相当な数に上っている。その中で今日この日に休みを申請していたのが彼女独りだけというのはまあ奇妙な話ではあったが。

 

「いやー、流石は提督。いい店知ってるねぇ」

「そんなにウインナーコーヒーが美味かったのか?」

「いやさ。確かに美味しかったけどそれだけじゃなくて。んー、雰囲気とか?」

「なるほど。それにはオレも同感だ」

 

 日が陰ったおかげで過ごしやすくなった中。オレは、ぶすりとはしていないがにこりともせずに飄々と感想を述べる北上の隣で安心を覚える。

 大井と北上は出来ている。そのことを前世の知識から確信しているオレは自分に矢印が向くことなんてあり得ないと理解していた。

 いや、自分に気のないだろう相手と一緒というのは中々気の休まるものだ。

 

 オレには北上が出かけてから直ぐぴたりとくっつきそうなくらいに距離を縮めてきたことだって、休みにテンションが上っただけだと理解できる。

 また彼女が頼んだブラックコーヒーを、思ったより苦かったから提督のと交換して、とオレが口を付けた店長のお孫さんオススメのウインナーコーヒーと取り替えたことだって、ちょっと背伸びをしてみたのだろうなと気になりはしない。

 むしろ、北上とオレが異性と意識しないくらい気のおけない仲になれたと思うと嬉しいものだ。最初はどうしてだかオレのことを何だか信じられないものを見るかのようにして遠巻きになっていたからな。

 オレを叱るために付きっきりだった大井とそれは真逆で、これでは二人仲良くなれないのではと危惧したオレは二人の仲を取り持つために奔走したものだった。

 彼女らが大井っち、北上さんと呼び合うようになった時の感動は今もよく覚えている。

 

「……提督はさ、どうして最初、私のことをあんなに気にしてたの?」

「ん? それは……そうだな」

 

 そうこう考えていると、丁度そのところの質問が来た。まあ、実際問題それはオレが大井と北上が二人で()()になれないのを嫌ったがためというのが理由の大部分を占めている。

 だが、それ以外にも当然のわけがあった。オレはすらりとそれを口に出す。

 

「何しろ北上はオレが最初に造った子だからな。ひいきしてしまうのも、仕方ないだろ」

「そっかー……」

 

 そう、何を隠そう北上は初建造で生まれた艦娘。その後続々とぐずる妖精さんが駆逐艦を中心に建造してくれたが、やはり彼女と会えた感動を忘れることは出来なかった。

 スーパーハイパーと進化を重ねた北上には前線に立ち続けてもらっているため、昔ほど親しくすることはなくなったが、それでも大切なものは大切なのだ。

 勿論鎮守府の艦娘は皆大事に決まっているし、好感度こそ大恩ある那珂ちゃんさんには及ばないが、それでも北上はオレの宝の一つだった。

 

「嬉しいな」

 

 北上はにへりと、愛らしい笑みを見せてくれる。それが嬉しくも、何だか物足りなくもあった。

 個人的には北上のような子が彼女になったら良いだろうなと思うが、相手もいる上そもそも艦娘だしで、無理なことは分かっている。

 だからまあ、オレは異性の友人として親しむ今を楽しんでいるのだった。故に。

 

「なら提督のことお父さんって呼んだほうが良い? それともパパ?」

「それは止めてくれ……」

 

 こんなからかいも笑って許さねばならないのだろう。

 いや、実際のところ、年若き少女にパパと呼ばれている男なんてのはとても笑えない代物かもしれないが。下手をせずとも通報ものだ。

 そう思ってオレが苦笑いしていると、ふと肩が叩かれる。振り向くとそこには白髪交じりのおじさんがよく見知った制服を着て仁王立ちしていた。

 

「キミ……ちょっと話を聞いてもいいかな?」

 

 あ、警察さん。奇遇ですね、こんにちは。

 

 

 

 

「大変だった……少し急がないとな」

 

 直ぐに身分を明かし、どうやら高校生くらいの娘がいるらしい警察の方から小言を頂いてから開放されたオレは、ようやく緊張を解いて身を伸ばす。

 そうして、腕時計を確認してから再びオレは歩みだした。日差しが再び元気を取り戻した中、あまり長くこの暑い中に北上を置くのは良くないなと思って足を早めながら。

 

「だねー」

 

 だがしかし、当の北上は汗を特にかくこともなく、平気な様子でオレの後を付いてくる。頭の上の妖精さんはへばっているのに、元気なものだ。

 このままなら目的地までそれほどかからないだろう。順調に進むそんな中で、北上はオレに問う。

 

「……あ、そうだ。大変といえば、提督が困っていたあの手紙、どうなったの?」

「あれか……」

 

 思い出して少し、オレは返答に窮した。

 思い出すのは、愛言葉がぎゅうぎゅうに認められ過ぎて滴りそうなくらいに真っ黒けな手紙。

 何時の間にか後ろポケットに入れられているその呪わしき一枚のことは、正直対処に困っていた。

 不明な差出人には悪いとは思うが、毎度容赦なくゴミ箱に捨てて処理してはいる。だが、まあ知らない間にポッケの中が膨らんでいるのは怖いものだ。

 気をつけていても何時の間にか忍ばされている重すぎる愛。困り果てたオレに対処法を教えて実行してくれたのは、伊58だった。

 どこか心配げに見上げる北上に笑いかけて、オレは口を開く。

 

「物理的に入らないようにしておいたら、それでぱったりだ」

「物理的?」

「不便だが後ろポケットを縫い閉じたんだよ」

「あー。その手があったね」

 

 それなりに換えの制服があったが、伊58は鼻歌交じりにやり遂げてくれたのだった。

 手縫いにしては精密過ぎる封印に、更に彼女は何故か薔薇の刺繍まで付けてくれて、ひょっとしたらその大輪が魔除けになったのだろうか。以降あの妙な手紙が忍ばせられることはなくなった。

 だが、そうすると今度は臀部に嫌な視線が向けられるようになったのだが……主に最近親しげに近寄ってくるようになった憲兵さんのねっとりとしたものとか。

 どうにも薔薇の図柄が彼らに勘違いされているようだった。いや、赤い薔薇の花言葉は愛情とかで、ホモとかそんな意味はないはずなのだが。あれか、尻という位置が悪いのか。

 

「すいまセーン」

「はい?」

 

 思い出し、何となく男の無遠慮な視線を向けられる女性と同じ気持ちになってブルーになっていると、甲高い女性の声がかけられた。

 その片言のようなイントネーションに何となく金剛の姿を思い出しながら振り返ると、そこに居たのは。

 

「はじめまして、デース! そこの魅力的な男の人、ワタシとお茶、いかがですカー?」

 

 正しく金剛だった。いや、私服でサングラスをかけて何時もと多少は異なっているが、髪型とか全体的な雰囲気が完全にそのままだ。

 まあ、ここまで脇だけノーガードなそんな奇抜な私服が似合うのは金剛型か、どこぞの空飛ぶ巫女さんくらいしかオレは知らないというのもあるかもしれない。

 いや、どうしてこの子はまるでオレを知らないように話しかけたのか、今日は休みではなかったのではないか。ぐるぐる考えるオレを他所に、北上はストレートに言う。

 

「金剛じゃん。どしたの」

「No! ワタシはただの通りすがりの英国帰りデース」

 

 そんな風にうそぶく金剛。ぴゅーと無駄に上手な口笛まで吹いた彼女の泳いだ目を見て、オレはようやく察する。

 ああ金剛はサングラスひとつで変装したつもりだったのだな、と。

 金剛は紅茶を泥水と称するジェームズ・ボンドのことが好きではないらしいが、華がありすぎて変装しても観ている人にはバレバレになってしまうところは似ているかもしれないな、と思う。

 

「このご時世、海外渡航経験のある若い者は貴重というかほぼ皆無なんだがな……」

「ていと……いいえ、こんなに格好いい男の人に若いと言って貰えて嬉しいデース!」

「あー……金剛って今の所最古の艦娘だからねー。大丈夫、腰痛くない?」

「老人扱いしないで下さーイ。ワタシは身も心もぴちぴちデース!」

 

 北上に揶揄され、しゃんと身を伸ばす金剛。そのため中々に立派なものが揺れ、オレはそこから目を背けた。なるほど確かに彼女は若々しい。

 鎮守府で度々ぱんぱかぱーんと披露される大震動に慣れているとはいえ、やはり男が女体を意識しないというのは無理がある。目が少しでも行ってしまったのは仕方のないことだ。

 そんな風に思っていると動きからオレの心の中の言い訳すらも察したのか、うろんな目をして北上は話す。

 

「そ。提督風に言うなら、金剛はナウなヤングってところかな?」

「むー……何だかバカにされている気がしマース……」

「大丈夫だ金剛。北上が一番バカにしているのはオレだから」

「あ、バレてた?」

「そしてどうやらワタシの変装もバレバレだったようデース……」

 

 ここに至ってバレていたことに気付いた金剛はサングラスを外した。すると、形の良い紺碧の瞳がオレの姿を映す。

 そこにどこか惑っているようなものが見えるな、と思っていると彼女はオレに素直に聞いてきた。 

 

「デートかと思って邪魔をしに来たのデスが、そういうことではなさそうデスネ。あの、提督と北上はどこに向かっているのデス? 出来ればワタシも付いていきたいのですガ……」

「……提督、いいの?」

「まあ、仕方がないだろう。先方も艦娘に会う機会を喜んでいたようだし」

「デース?」

 

 オレと北上の話が何が何だか分からずに、首を傾げる金剛。大きく開いた瞳が子供のようでいかにも愛らしい。

 このままそんな戸惑う姿を見ていたくもあるが、さほど時間に余裕があるわけでもない。オレは端的に金剛に言う。

 

「これからオレたちは、未来の提督候補に会いに行くんだよ」

「なるほドー。ヘッドハンティングということデスねー!」

 

 すると、勧誘と勘違いしてうきうきとし始める金剛。そんな暑い日差しの中でキラキラと輝く彼女に、にやりとして北上は呟いた。

 

「後、お嫁さん候補だったっけ?」

「なんデスっテー!」

 

 そんな嘘を聞いて、今度は炎天下にてバーニングラブしはじめる金剛。湯気でも立ちそうなくらいな熱情に、オレはたじろいだ。

 

「いや、別にそういうのじゃなくてな……」

「むー。ワタシ達艦娘を差し置いてしまうのは酷いデース! 提督のハートを掴むのは、私達デース!」

「あははー。聞いてないね、これ」

 

 何故か義憤に燃える金剛に、からからと我関せずと笑う北上。

 オレも流石にこんな場面で艦娘は範囲外だとは言えず。これは説明に少し時間がかかりそうだった。

 

 

 

 

「ようこそお越しくださいました。提督さんと……えっと?」

「押しかけたのはオレたちだが、楽にしていい。この二人は右から戦艦金剛に、重雷装艦北上。那珂ちゃんさんと同じく艦娘だ」

 

 努めて笑顔で隣の二人を紹介しながら、オレは先に彼女、吹雪さんのご両親に提督さん直々に、と酷く驚かれたことを思い返す。

 オレは前世や立場もあってよく知っているが、一般人からしたら提督も艦娘もそれなりに謎の多い存在だ。世間から英雄扱いされてはいるがとっつき辛いものといえば、その通り。

 また、どんなご時世だろうと軍というもの自体にアレルギーを持つ人間だっている。吹雪さんがそうとは思えなかったが一応、彼女への諸々の説明時にクッション代わりに顔見知りのオレが手を挙げて出張ることになったのだった。

 

 それにしても、大本営から説明は何時でもいいと言われたのであえてオフに行っているが、秘書艦大井から許可を取るのには苦労したものだ。

 最後にはちゃんと仕事として行けばいいのに、と零されたがしかし先のことで心配をかけてしまったこともありオレとしては仕事中くらい鎮守府から離れたくなかったのである。

 それに真面目に働けば、それだけ現状は好転するのだ。せめて皆がオレの知っている()()に近い中に過ごせるように頑張らないと。

 

「は、はじめまして。金剛さんに北上さん。私は、上坂吹雪と申します! 本日はよろしくお願いします!」

 

 改めて、オレらに向けてぺこりと頭が下げられる。その動きにつられ、ひとつ結びが彼女の首に流れた。

 吹雪さんのそんな生真面目さに苦笑するオレ。親しげなオレの様子をジト目で見つめて、金剛は言う。

 

「むー。提督が外でこんないい子を引っかけていたなんて知らなかったデース……」

「さっきも違うと説明したはずだが……まあ、先日オレのしでかしたことがことだから文句は言わないが、ただその勘違いは吹雪さんが嬉しくないと思うぞ」

「そうデスかー? この子はもうワラスボレベルに提督に食いついてると思うのデスがー」

「こら、初対面の子をゲテモノ扱いするんじゃない」

「えっと……ワラスボって格好いいですよね! エイリアンみたいで」

「吹雪さんも無理に乗っからなくていいんだからな?」

 

 オレの前で、頬に指を当てて悩んでから唐突にワラスボを褒めだす吹雪さん。

 あの乱杭歯の魚と同列に扱われて、笑顔でこの台詞。吹雪さんは実に素直な子である。

 そんな風にオレが癒やされていると、横で何やら北上が呟いた。どこか遠い目をして、彼女は吹雪さんを見据える。

 

「んー? この子……いやどうなんだろ?」

「なんだ北上。お前まで金剛みたいに茶化すつもりか?」

「いや、そうじゃなくてさー。……うん。まあいっか」

 

 オレが半ばうんざりとして言うと、何やら北上は自分の中で納得したようだった。

 なんだろうと疑問符を浮かべる吹雪さんを前に、明らかな愛想笑いを作り。

 

「どうなろうと、ウザいものはウザいし」

 

 どうしてか、北上はそんなことを言った。

 

 

 

 

 

 北上は、そこはかとなくセンシティブである。だがその理由は、定かではなかった。

 ひょっとしたら前世持ちという特殊な提督が建造したはじめての艦娘だから、ということが彼女の鋭さに影響しているのかもしれない。

 だが、そんなことを北上はもう気にしていなかった。自分の提督に死後を渡ったものの達観を覗いて最初に怯えてしまったことは悔やまれるが、それも今更。

 

「ま、私は()()提督のはじめてだしね。ちょっとくらいスーパーでも仕方ないよねぇ」

 

 じょろじょろとジョウロから水を零しながら、北上は独りごちる。

 黄昏色に染まった花々の上で、水滴が数多弾ける。水の流れに負けない植物の元気を感じて、北上はどこか満足そうにした。

 

「未来を見据えた戦略で知られたホープねぇ。提督自体はとんだ懐古主義だってのに」

 

 何時かの新聞にかかれた提督評を呟きながら、提督がどこからか見つけてきてはじめてプレゼントをした、補修しながら大切に扱っているぞうさんジョウロを撫でつける。

 北上は何故提督が昭和玩具を愛するのかをなんとなく、分かっていた。彼は、変わらないものを愛している。見知ったものばかりを、認めていた。そして、台無しにされた今を否定する。

 だから、深海棲艦の生まれる前の日常に生まれたものをよく大切にしているのだろう。そんな風に、思った。

 

「そんなのもまあ、わびさび、よねー」

 

 艦娘寮の前に広がる花壇はちょっとしたもの。本来ならば、そこに生えた花々は多くの人により手入れされるべきだろう。

 しかし、北上は助けの手をことごとく拒絶していた。普段はひけらかさない、鎮守府二番目の艦娘としての優先を利用してまでして。

 そうして、北上は提督の愛する花たちの綺麗を独り、支配していた。

 そして孤独にも彼女は侘びに、寂び。そんなものを感じ取る。

 

「さあて、と。……誰かな?」

 

 北上の執着を知っている艦娘達は、この花壇を遠くから見つめても近寄ることは殆どない。

 だが、当然のことながら例外というものが存在した。花を見下げる北上の元へ向かう、長い影法師が一つ。

 優先順位なんて気にもとめない彼女は一人目の艦娘、だった。長い髪を風に遊ばせながら大井は、北上に声をかける。

 

「北上さん」

「あー、大井っちじゃん。どしたの?」

「愚問ね。私達の間で話すべきことなんて、そんなにある?」

「そうだねー。提督のことかぁ」

 

 あくまでのんびりとした様子の北上に、大井は斬りつけるように話す。

 傾けたジョウロから水がもう出ないことを確認してから、ゆるりと睨みつけるように見る彼女を彼女は見上げた。

 提督の妄想ほど、二人の間に熱はない。それどころか、二人は敵愾心で結ばれているようなところすらあった。

 それもこれも全て、彼のせいだった。薄く、北上は言う。

 

「大井っち、提督のこと大好きだもんね」

「北上さんだってそうでしょう?」

「だねー。似た者同士だし、仲良くしない?」

「はぁ……その気がないのによく言えますね」

 

 だから、貴女に彼を任せるのは嫌だったのよ、と零す大井。

 ため息と同じく言った彼女の嫌気に微笑んで、北上は言う。

 

「提督は、新しい子を随分と気に入ってるみたいだねー。自分では気付いてないみたいだけどなんとか、仲良くなりたいみたい」

「まあ、それはそうでしょう。あの人は、艦娘を()()としてしか見ていないから」

「だねー。私としては、本当の子供のように思ってもらいたいところなんだけどさー」

 

 長く、ずっとみていた二人は提督の間違いを知っていた。

 時折まるで物語の登場人物を観ているかのような目で艦娘を見つめる提督。だからこそ、彼はフィルターの向こうの懊悩があまり分からない。女心も、子心も同じように。

 

「それも嘘ね」

「半分は本当なんだけどなー」

「半分嘘なら切り捨てで嘘でいいと思うわ」

「なるほどねえ。流石は大井っち」

 

 うんうんと芝居がかった様子で頷く北上。それを見て、本当ならば生まれを提督と二人で立ち会った彼女のことは愛しの相方(子供)とでも思うべきだろうにと考えながら、しかしどこか憎々しく思ってしまう自分に嘆息して、大井は言う。

 

「はぁ。北上さんはいいの? このままだと吹雪って子に心を全部奪われちゃうけれど」

「うーん……そうだね。それでお父さんが幸せになるなら子供としては別に良いんだけれどさあ」

 

 言い、北上は果てに沈みかけの夕日を見つめる。あまりに綺麗な世界の稜線を望みながら、その顔はどこまでも染まらずに真剣そのもの。

 そして、彼女は騒ぐ胸元に手を当てて、語った。

 

「ただこんなウザい気持ちになるのは、困るなー」

 

 そして、ぎこちなく微笑む北上。のんびりとした口調の裏に、反するように騒々しい気持ちが入れ代わり立ち代わり。

 好きが二つもあっては、大変だ。泡のように、浮かんでは消える思いはどこまでもくすぐったくてウザったい。でもそれが心地よくもある。

 

「そうね」

 

 そんなセンシティブな北上の言葉を受け取って、一言。大井は満面の笑みで彼女を肯定した。

 

 




 ここの大井さんと北上さんの関係は複雑怪奇ですー。

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