艦娘とは恋愛出来ないので鎮守府の外の子と仲良くしていたら艦娘でした 作:茶蕎麦
今回は少しギャグ多めに戻してみましたー。
みんな大好き(?)憲兵さんの出番多めでお送りします!
居酒屋鳳翔。名前の通り空母の母とも言われる軽空母、鳳翔を前世の知識から抜擢して女将を任せているこの居酒屋にて、俺は酒をちびちびと楽しんでいた。
下戸に近い酒の弱さで、酒類の知識も浅い半端な俺だが、酔いの心地はとても好きである。ふわりふわりと浮かぶような感覚を覚えながらそれに身を任せるのを堪えて静かに会話を楽しむのは実に乙なものだった。
しかし今、俺の周囲はとてもではないが、静かとはいえない。いやまあ、決してうるさくはないのだが、とても無視できない会話が続いているというか。
「ふぅ……」
「むむむ……」
溜息を吐く逞しさの塊とも見える厳つい男性に、それを睨み付ける小柄なツインテールの
そう、端的に言えば、俺を挟んで龍驤と憲兵さんが喧嘩していたのだった。
「なあ、司令官。ちょっち、そこの憲兵さんの言うことおかしくないかなー。いや、確かにうちが二人仲良く呑んでた時にちょっかいかけたのは悪いと思うけどさぁ。司令官を誘惑するには肉が足らなすぎるなんていうのは酷いでー」
右の側から愛らしい見目の龍驤の可愛らしい猫なで声が聞こえる。この矮躯でウワバミというのだから、驚きだ。今も何というか、酒臭い。
そして、次に俺の左からいかにもうざったそうにして、憲兵さんが口を開く。そういえばこの人、どうしてタンクトップなんだろうか。それにやたらと近い。
「事実でしょう。龍驤さん。貴女はあまりに細身過ぎる。胸(筋)もない、そんな身体ではとてもではありませんが、提督さんの好みには合致しませんよ」
「こ、このっ、あんた言うてはならんこと言うたなー!」
何やら行き違いがあるような気がするが、先からこの二人はこのようにとても剣呑である。
やはり同じ険しき道を歩む者であっても、男同士と女同士という異なる方向に進んでいては、心同じくするのは難しいのだろうか。
しかし龍驤は仲良くとか言っていたが俺は最初は一人で呑んでいて、いつの間にか憲兵さんが隣に座っていたというだけだ。俺からしたら彼がぼうっとした間隙を縫い、置かれた碗へ唐突に酌をはじめ出したその手際に驚愕した覚えすらある。
「し、司令官! この唐変木になんか言ってぇな。というか、この男放っておいたら鎮守府の男子皆ホモになるでぇ!」
「確かにそれは由々しき事態だな……憲兵さん、何か弁解の言葉はありますか?」
「なに、私はただ、彼らが隠していた願望を育ててあげただけですよ。決して無素質な人間に無理をさせてはいません」
「うひゃあ……潜在的なホモだらけやったんか、この鎮守府……」
戦慄する龍驤に、俺も内心で同調した。それなりに鍛えていた俺よりもガタイのいい男らしい奴がいやに多いな、とは思っていたがまさかのオールそっち系。
いや、ひょっとしてこの鎮守府って同性愛者の流刑地だったりするのだろうか。勿論、自分に無理やりしてくることさえなければ、彼彼女らを悪く思うつもりはないのだが。それとはなしに、龍驤にも言う。
「俺はまあ局所的に出生率が大変なことになったとしても、自由意志を縛るようなつもりはないが……」
「こんなの黙認せんといてやー」
唐揚げをつまんだ箸にてさし、憲兵さんをこんなのとのたまう龍驤。彼女の中では彼の評価はそれほどに低くなってしまったようだ。
しかし、と俺は思う。そんな龍驤とて、憲兵さんをただ悪しざまに罵れるような潔白さを持っているのだろうか。それはどうだろうと思い、俺はうなる。
「うむ……だが龍驤、それを言ったらお前も大概だぞ?」
「うちが?」
「そうですね……まるで童女と見紛う体躯であることをいいことに同性の身体を触り放題……貴女が男だったら正直、指導ものですよ」
「い、いやあれはただのスキンシップっちゅうかなんというか……冗談やで?」
しら、とよく分からない方向を向いて述べる龍驤。なるほど、確かに彼女がいい笑顔で同じ艦娘達の胸元を弄るのは、冗談とでも取らないと拙いとは思う。
本気だったらどれだけ気が多いのだという話だし、もし龍驤が嫉妬で人の胸を揉まずにいられないとしたら大変だ。直ちに病院を呼ばなければならない。いや、ここに病院を建てなければならないか。
まあ疑わしいところもあるが、確かに雪風まで揉みしだく彼女の動機がいかがわしいものではないと考えるとしよう。だがしかし、それ以外にも龍驤には妖しいところがあった。
まるでひな鳥のように唇を尖らせていたその時の龍驤を思い出しながら、俺は少し照れ紛れに口にする。
「鳳翔に対してキスをねだるのもか?」
「うぅっ!」
「流石に私も、接吻は想い合わなければしませんね」
「あ、あれは……酔っ払ってたんや! たった一度の過ちやんかー」
「俺は三度見たな」
「私は五度」
「あうぅ……」
そう、龍驤は酔っ払って、酒が回りきったその時に鳳翔を求める癖があった。えらい赤ら顔の小柄な彼女が、両手を広げて一人の女性を求める。
それが母性を欲するものではないのは要求から明らか。ならば、と俺は確信しながら彼女の両肩に手を置く。
驚くほど華奢な龍驤は、口元をひくひくさせながら、俺を見た。
「大丈夫だ、龍驤」
「し、司令官? ま、まさか……」
「なに大井と北上という前例があるし、俺はそっちの方にも寛容だから、安心しろ」
「どこに安心する要素があるんや! 全く、どいつもこいつも唐変木やでー!」
完全に応援態勢になっている俺を、龍驤は一蹴。ツインテールをぶんぶんとして彼女は怒った。
俺は顔面にべちんとあたった龍驤の尾っぽを気にせずに、続ける。
「なに、鳳翔は人の気持ちが分かる女だ。俺たちのような唐変木と違って龍驤、お前をしっかり包み込んでくれるだろう」
「確かに、私がノーマルでしたらきっと鳳翔さんに惹かれずにはいられなかったでしょうね。実際のところは提督さんの可愛らしいお尻にばかり惹かれる私ですが……」
「……なんやて?」
「失礼。少々口が滑りました」
「いや、大滑落なおっそろしい本音がぼそりと聞こえたような気がしましたが……」
やはり尻なのか。というか、尻に可愛いも格好いいもあるとは初めて知った。知りたくもなかったことである。大してなかった好感度が直滑降で急降下だ。
何時もはそこそこ紳士な憲兵さんにこんなことを口にさせる酒が恐ろしいのか、それともそんな恐ろしいことを考えている本体がおぞましいのか。
俺は両方だと確信して、距離を取ろうとする。しかし、彼はがっしと異様な力強さで俺を片手で制してから、龍驤に向かって言うのだった。
「まあ、とにかく提督さんのことは私にお任せ下さい、ということです。あまりふらふらとしていては、どちらにも逃げられますよ?」
「あほぅ。うちの本命は司令官一人だけやで。それを言うなら、あんたの方が浮ついてるやないの」
「いえ、私は全てに本気なだけのことですよ。龍驤さんのように、異性好きを広言して同性を安心させて忍び寄るような手口はいかがなものかと」
「手口ってなんやー! というかうち、オープンホモにそんな風に思われとったんかー。これは傷つくでー…………鳳翔ー!」
「きゃ、龍驤さん。そんなところ触らないで下さい!」
龍驤は大いに荒れ、そうして一気に日本酒をあおったかと思えば一転。彼女専用の段付き椅子から脱兎のごとくに抜け出して、カウンターを越えたかと思うと他の客の対応をしていた鳳翔へと抱きついた。
いや、抱きついたとは違うか。あれは明らかに揉んでいる。優しく、いいやとてもいやらしくグネグネさせていた。
ああ、この様で龍驤は俺に自身のノーマルを信じろというのだろうか。流石にそれは無理があるだろう。
そして、無駄に熱い流し目を送り続けてくる憲兵さんと、締まらない顔でこれならどうや、とか言って揉みしだき出した彼女を見比べて、俺は結論づける。
「どっちもどっちだな……」
そういうことになった。
「んー。ちょっと空いたから、こっちの席に来てもいいかしら?」
また今度は男同士会話少ない、しかしねっとりとした憲兵距離は確りと保たれた中でちびちびと潰れるまで酒を飲むことになるのだろうかと俺が思っていると、大きな影が。
いやそれは一部だけだった。胸元に残酷なまでに巨きなものを持つ彼女、この鎮守府では数少ない重巡洋艦である愛宕が俺らの前にやって来た。
「愛宕さんですか。あそこのらんちき騒ぎは中々静まりそうにありませんから、提督さんがよろしければ結構かと」
「愛宕か。構わないぞ」
「うふふ。それじゃあ失礼しまーす! どーん!」
そして愛宕がおもむろに俺の右隣に座った、それだけで脳裏に響くぶるんという擬音。
なんというか、先に居た龍驤との落差が凄い。いや平坦から急勾配に変化するというのは視覚的なインパクトが大きいものだ。
ちまーんからぱんぱかぱーんへ。どこを見ても安心できた龍驤と違い、どこを見ても愛宕に対してはセクハラになってしまいそうだ。
俺はいつの間にかなみなみと注がれていた酒の表面に目をやり、それにそっと口を付けた。別段、俺はそれを旨いとは思わない。だが、悪くは感じなかった。
そして再び顔を上げると、愛宕がこっちを潤んだ瞳で見つめている。なるほど、これは彼女も大分酔っ払っているな。そして、それを表すかのように、彼女は突拍子もないことを言った。
「ねえ提督。貴方ってどんな子が好きなの? 好みのタイプとか私、気になるわー。うふふ」
「私も気になるところですね。やはりこう、引き締まった肉体に焦がれるものがおありで?」
「それは憲兵さんの趣味じゃないですか……俺は……ん?」
そうして酒も手伝ったのか素直に俺が好みのタイプを思い起こそうとしたところ、何やらあまりにはっきりとした一人の姿が浮かんできた。自分が彼女を気にしているそのことに、驚きを覚える。
それは、長い黒髪を束ねた、素朴な笑みが似合う女性。そんな彼女の名前は。
「吹雪さん、か……」
「えぇー。提督のことだから余所の鎮守府によくいる吹雪型のあの子じゃないわよね。ひょっとして噂の提督の不倫相手?」
「不倫相手ってなんだ、そもそも俺は誰とも付き合ってすらいないだろうに……それに、あの子はそんなのじゃなくてな」
「検査から漏れた提督候補の女性ですね。提督さんがよく文通されていらっしゃるのは知っていましたが……提督さんのタイプはまさかの女性ですか」
「提督の好みが女性なのは当たり前よぉ。何時も私の自前のものをよく見てるもの。でもそれじゃあ困ったわねぇ……」
自前のもの、というところでぽんと自分の豊か過ぎる胸を叩く愛宕。俺が思わず目を行かせると、何やら左隣から剣呑な雰囲気が襲う。
明らかにそれは憲兵さんのものであり、思わずそちらに目を向けると、親の仇に会ったような顔をして彼は愛宕の胸元を凝視していた。
まるで巨乳を羨んでいる時の龍驤のようなその嫉妬の視線を間近に見て、俺は雰囲気を変えようと頬に手を当て悩んでいる様子の愛宕に水を向ける。
「ま、まあ、ただ思い浮かんだのが彼女というだけでしかなく明確な恋愛感情があるというわけでもないが……それで愛宕、何が困るというんだ?」
「一緒にぱんぱかぱーん出来ないと思ってよぉ」
「? それはどういうことだ?」
思わず、首を傾げる俺。はて、ぱんぱかぱーんという言葉はただの擬音等ではなく隠語だったのだろうか。
そしてそれが出来ないとは果たしてどういうことか。悩む俺に、愛宕は満面の笑みで答えをくれた。
「簡単よぉー。ぱんぱかぱーん、ぱんぱーかぱんっていう曲があるじゃない」
「どこかで聞いた覚えがあるな……ん? ひょっとして……」
「そうよー」
続くぱんぱかぱーんなリズムに考えてから、俺は少し経ってようやく合点がいく。なるほどこれは確かに聞き覚えがあった。
だがしかし、それを最近聞いたのは、親戚のめでたい式の時であり、つまりは。
なにやらむっとしている憲兵さんをよそに愛宕は俺に顔を寄せて、それこそ口吻を思わすくらいに近くで。
「婚礼の合唱って曲よぉ」
にこりとした本気かどうかまるで見当もつかないそんな面で柔らかな唇を動かし、彼女はそう嘯くのだった。
「うふふ。寝ちゃったわぁ」
「うーん……那珂ちゃんさん、子供向けの曲を思いついたって、確かにポップな曲だがこれ肝心なところで曲が途切れちゃってるじゃないか……え、これが本当のサビ抜き? んなアホな……むにゃ……」
「やれやれ。眠っても愉快なことを語りますね、提督さんは」
「本当ねぇ。寝ても覚めても私達の事ばかりで、本当に可愛いわぁ」
ぐうぐうすやすや。何時の間にか、提督は居酒屋鳳翔のカウンターにて眠りこけていた。奥で酔いにまかせて暴れる龍驤の凄まじさをよそに、彼の周りはごく静かである。
整った、しかしどこか貫禄の足りていないそんな顔に白魚の指が、つん。愛宕は笑顔で提督に優しく触れた。
「むぅ……」
「うふふ」
それにむずがる彼に、むしろにっこり。もう一度、彼女は頬をつつくのだった。
そんな艦娘と提督の常ではない触れ合いに、どうにも何時もの毒気を抜かれてしまったのは、提督を狙う憲兵。
彼は、珍しくも女子を心の底から慮って、酒で湿って軽くなった口を動かす。
「……愛宕さん。分かっていらっしゃるでしょうが、彼はどうしてか
「うふふ……気にしないで」
皆まで語りそうになった、憲兵。だがしかし、口元に一本指を当て、愛宕はそれを止めた。
そして、彼女は。いや、恋する乙女は大好きな、自分を造ってくれた最愛の人の髪を撫でて、上をそっと向く。そして、何にもないを見て微笑んでから、言った。
「フラれてもいい、恋もあるわぁ」
それは散るのが決まっている花。美しい、一瞬。だが、そんな素敵を機械だったこの身が僅かにでも心の底から咲かせることが出来たなら。
どんなに素晴らしいことなのだろうかと、愛宕は思うのである。
「その、通りですね……」
そして、そんな溢れんばかりの情を受けて、憲兵は笑った。ああ、こんなだからこそ、惹かれなくとも自分は彼女らを守りたいと思ったのだと、再認識して。
やがて憲兵は、何時ものニヒルな表情に戻してから、話を続ける。
「……まあ、私はフラれる気は更々ありませんが」
「そういうのも、いいわよねぇー」
「ええ。私は醜く執着しますよ。彼は、諦めるにはあまりに惜しい」
「そう」
愛宕の手の中で、からん、と溶けた氷が鳴る。
まるで弟を見るかのような視線で提督を見つめる憲兵。きっと、彼も彼に何かを重ねている。それを理解して、そっと彼女は瞼を閉ざす。
そうしてしばし。離れた喧騒と提督の寝息ばかりが響く中で、再び氷が溶け落ちた。
そんな頃合いに、三人に駆け寄る足音が。現れた店主、鳳翔は慌てた様子で言った。
「すみません! 龍驤さんが潰れちゃいましたので、これで居酒屋鳳翔は閉めますねっ! 皆様、どうもありがとうございました」
そうして、ぺこりと彼女は頭を下げてから、龍驤の介抱へと向かう。
龍驤が人にちょっかいをかける理由を察している鳳翔は、どうしても彼女に甘くなってしまうのだった。
彼女が去って、お開きを知った憲兵と愛宕は顔を合わせる。
そして、先に口を開いたのは憲兵だった。
「では、私が提督さんをお送りしますね」
「送り狼にはならないでねー」
「勿論です。同意がない限りは……まあせいぜい龍驤さんを見習ってお揉みするくらいでしょう」
「うふふー。そんなことをしたらあなたの大事なところ、ぱんぱかぱーんしてあげちゃうからねぇ?」
「それは恐ろしい。気をつけます」
殺気の秘められた愛宕の笑みに、思わずぶるりとする憲兵。
しかしそう言いながら、結局この後提督との密な接触に憲兵さんは気持ちを昂ぶらせてしまう。
だが、その時提督の私室で偶々目にしたダンシングフラワーの謎の動きに気を削がれてしまったことで、手を出すことは止めたのだった。提督は実に運がいい男である。
「それではまた」
「またねぇー」
互いにそれほど思い合わない二人は、挨拶もそこそこに別れた。
彼女に背を向け憲兵は、息も乱さずに重みを負って歩みゆく。
大切なものはその背の上に。憲兵は、大事なものを抱えることの出来るようになった自分の努力を少し誇らしいものと思った。
「ふむ……明日は晴れるでしょうか?」
やがて道々、憲兵は星を見た。彼はきらきらと天にある、届かないそれを立ち止まってからしばし眺める。
肩にかかる、健やかな吐息。背中の重みを大切にしながらも、憲兵は過去を忘れることなど出来なかった。だから、今は立ち止まり。
「んん……憲兵さん……」
「何ですか?」
「俺は、艦娘達を皆、幸せにしてあげたいんだ……俺の知っているあの世界で味わえたような、そんな幸せで笑顔にしてあげたい」
「……叶うと良いですね」
「ああ……むにゃ」
そうして、提督のそんな少し前に聞いたものと同じ文句の寝言を聞いてから、彼はようやく再び動き出す。
もう、迷わない。そう思う憲兵は間違いなく微笑んでいて。
「及ばずながら、私は誠心誠意、あなたのお手伝いをさせて頂きますよ」
皆の幸せを願う彼の幸せを願うのだった。