艦娘とは恋愛出来ないので鎮守府の外の子と仲良くしていたら艦娘でした   作:茶蕎麦

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 スランプで遅れました……ようやく何とか出来た今回のお話で完結となりますー。
 ここまで読んで下さり、どうもありがとうございました!


 ※当時の焦りや推敲の足りなさやそもそもの方針ミスが重なり読者様の望むようなお話ではないかもしれません。
 ただ、それでも削除はせず残しております。
 後で修正するかもしれませんが取り敢えず、こんな終わり方も書いていました。(2025/05)


最終話
①ケッコンカッコカリ ※没ルート


 

 艤装憑依型。それは艦娘の艤装研究をしていた研究者達が、妖精さんたちの助言をとある女性提督に通訳してもらいながら開発した新たな艦娘のかたち。

 妖精さんたちが開発した艤装に秘められた、艦のパワー的な何かを適合者たる女性に伝達させて、まるで艦を憑依させたかのように艦娘と同等の力を発揮させる、というのが憑依型の目的らしい。そして、それは大いに結果を出し始めている。

 いや、実戦こそ捕獲したイ級相手にしか未だにしていないが、しかし艤装憑依型艦娘たる吹雪さんの()()馬力はもはや人間の域を越えているところにあるのは間違いなかった。

 たとえば、それこそ俺のような一般男性には敵うものではないのだ。ブルワーカーを友として貧弱な自分からさよならしてはいるが、その程度。

 そう、両腕を封じて組み伏せられて、真っ赤などこかハイライトの失せた顔を近寄せられてもどうすることも出来ないくらいに、俺と艤装憑依済みの吹雪さんには力の差があった。

 呆然とする俺の顔に、熱い吐息がかかる。その息のあまったるさに、逆に俺は正気に戻った。

 

「いや、無理矢理は駄目だろう! 吹雪さん、目を覚ましてくれ!」

「……じゅるり」

「無言で舌なめずり!?」

 

 俺を押し倒し、鼻息荒くする吹雪さん。無駄に艶やかな表情でぐっとくるほど嫋やかでもあるが、同意なく無理矢理というのは普通に犯罪だ。これはいけない。

 吹雪さんは最近どうにも艤装憑依の認知度アップのためか、テレビ等の取材をよく受けるようになっていた。

 しかし彼女は生粋のアイドル那珂ちゃんさんではないのだから疲れるだろうと、内勤をして貰うついでに試しに秘書艦を務めて貰ったところ、こんな風に。

 どうしてだろうか。俺はただ、資料だらけの執務室の整頓を二人でおこなったり、何時も指揮している時の指示だしのやり方を試しに見せたりしただけだったのだが。

 どう考えても、吹雪さんが発情するのはおかしい。俺は、胸元で急に静かになった彼女を、恐る恐る見下ろす。耳を澄ますとなにやら、ぶつぶつとした声が聞こえた。

 

「提督さんが悪いんですよあんな素敵な笑顔で距離を絶妙に維持したまま安心しきってこんな見事なお尻で私を誘惑して……」

「怖いからそんな虚ろな瞳のまま尻を撫でないでくれ……」

「提督さんは私のものだから提督さんのお尻も私のもの私のものはもはや私で提督さんはつまり私で提督さんのお尻も私で我は汝で汝は我で……」

「これはいけない」

 

 どうしてこうなってしまったのか、俺の尻をすりすりしながら、吹雪さんは句読点が逸脱した早口を続ける。

 俺の尻まで自分のものにしようとする謎のジャイアニズムにて境界を越えてしまった彼女は謎の電波まで受信したようだった。

 焦点の合わない視線で新たな自分を発見しようとする吹雪さんに、これはいけないと俺も思う。

 しかし、身動きが取れないからには、助けを呼ぶ方法は限られていた。もっとも、手も足も出ないとはいえ未だくちづけまではされていないから大声をあげることは出来る。

 だが、それで騒ぎになってはただ血迷っているばかりの吹雪さんが現行犯逮捕されてしまうことだろう。葛藤があるのか何もされていない今の犯罪者未満でのそれは、俺の望むところではない。

 ならば毒には毒を、と俺は()()が何時ものように取り付けられているだろうはずの場所に向けて、声をかけた。

 

「あー……全部聞いていたんだろう? 今日誰がそれを付けていたのかは知らないが、出来たらこっちに来て助けてくれると嬉しい」

「提督さん? 引き出しなんて狭い中には誰も……居ませんよ? 妖精さん達には二人きりの邪魔しないでねってちょっと高めのお菓子を渡してどいてもらっていますし……」

「通りで妖精さん達が揃ってハンカチ振りながら執務室に入る俺達の見送りをしていたわけだ……だがまあ、俺が今声をかけているのは妖精さんではないよ」

「なら何にですか?」

 

 こてんと首を傾げる吹雪さん。話をしているうちに少しずつ正気が戻って来ているのか、まず仕草から何時もの可愛らしさが戻ってきたようだ。

 だがまあ一向に俺を押さえつけるその力が弱まることはないのは困ったことだが。変な覚悟を感じる。

 あれだろうか、ここまでしたら後戻り出来ないとでも思い込んでしまっているのだろうか。真面目な吹雪さんだからこそ、それは有り得そうなことだ。

 だが、まあそんなことはない。存外冗談で済ませられることは多い。場違いにも笑って、俺は彼女に声をかける。

 

「ははっ。吹雪さんは自分の行動が取り返しのつかないものだと勘違いしているかもしれないが、それは違うぞ?」

「え? で、でも私、こんなことまでして……もうなにもないで済ますわけにも、気持ち的にも……」

「大丈夫だ。自慢じゃないが、俺はグレーゾーンなら目こぼしするタイプだからな。たとえばそう――執務室の机に取り付けられた盗聴器をまあいいかと見逃すくらいには、俺はその手のことに慣れている」

「え……?」

「ほら、盗聴犯が俺を助けにやって来た」

「―――大丈夫、提督!?」

 

 足音。そして、焦りを多分に含んだ大きな声とともに、ばんと執務室の扉は開けられた。特徴的な三編みが大きく揺れるのが目の端に映る。

 ああ、今回盗聴器を仕掛けたのは彼女か。柳眉を怒らせた時雨は、足早に俺と直ぐに上から退いてくれた吹雪さんへと向かう。

 疾く立ち上がる吹雪さんに、時雨は言った。

 

「なにしてるのさ、吹雪さん。守るべき提督を襲うなんて……」

「……ごめんなさい、あの、気持ちが暴走しちゃって」

「全く、未遂だからいいのかもしれないけれど、それって普通に犯罪だからね」

「時雨の言う通りなんだが……受信機能付きのヘッドセット付けたままそれを言うのは格好つかないな」

 

 やれやれと、起き上がるついでに身体を伸ばしながら、俺は吹雪さんを糾弾する時雨に零す。

 私的な趣味に妖精さんは力を貸さないし技術の進歩が遅れている分お高いだろうに、時雨は大事にすべき謎の通信機器を身に着けたまま駆けつけてくれた。

 そのことを素直に喜べないのは、その金をじゃぶじゃぶ投じたのだろうその全てが俺に対する盗聴のために使われているせいか。

 僕が提督を守護(まも)るんだと時雨が意気込んでいるとは知ってはいたし、実際今回助けてくれたが、しかしどうにも彼女は俺のプライバシーを守ってはくれないようだ。

 聞き、そういえば取るの忘れていたね、と冷静にヘッドホンのようなものを首に下げて、時雨は俺へと向いた。

 

「それで、提督。どうするの?」

「どうもこうも、今回はちょっと吹雪さんにアグレッシブに好意を向けられただけだから、気にもしないさ」

「はぁ……提督がこんな人で良かったね、吹雪」

「提督さん……お尻までなら許してくれるんですね……なるほど」

「いや、尻なんて普通にセクハラの終着点だし、次はないからね?」

「残念です……」

 

 俺の釘刺しに心底悲しそうにする吹雪さん。そこには、恥じらいも何もなかった。

 おかしい。彼女はこんな子だったろうか。果たして何が純だった少女を変えてしまったのだろう。

 首を傾げる俺に、隣の時雨はどこか呆れ顔。溜息と一緒に、彼女はそのまま感想を口にした。

 

「はぁ……提督はどうしてそこで不思議そうにしてるんだろうね。吹雪がこうなったのは全部、提督が悪いのに」

「俺が?」

「優しさも時には毒だよ?」

「そうなの、か?」

 

 何やら訳知り顔の時雨に、俺は戸惑う。俺は吹雪さんに対して、普通にしていたつもりではあった。

 そう、普通に喋って笑って、仲良くして。彼女が艦娘だとか人間だとかそんなの関係ないと分け隔てなく接していたのだ。差し入れに貰ったチェリ○を共に飲んだり、物欲しそうにしていたので○~ぼ~を半分こにしたりして。

 それがどうして悪いのだろうかと俺が悩みだしたところ、くしゃりと時雨は笑む。なんだか少し悲しそうな笑顔だな、と俺が思うと、感想に応じたかのように彼女は答えを告げた。

 

「あのさ。フるならちゃんとフりなよ」

「ああ……そうだったな」

 

 そして、俺は納得する。なるほど拒絶された筈の相手が優しくしてきたら、血迷いもするだろう。ようかいけむりのパッケージに幼子が怯えることくらいに、それはあたりまえのことだ。

 しかし、と俺は思わずにはいられない。吹雪さんは元が一般人であろうとも()()なのだ。おまけにこの鎮守府所属でもう他人ではない。言うなれば、家族に近い。

 だから、出来るだけ楽しくいてもらおうと思ってしまうのは悪いことか。

 

「悪いことだな……」

「だね」

「でち」

「あれ……ゴーヤさん何時の間に?」

 

 つい口から溢れた言葉に、頷く時雨。そして、通りすがりのゴーヤが肯定のコメントを残した。

 突然のスクール水着を着込んだ少女の登場に首を傾げる吹雪さん。しかし俺らは慌てずに当たり前のように隣に居るゴーヤが語りだすのを待つ。

 本来ありえないはずの大型艦建造で誕生した経緯を持つ謎の伊58は、建造のときにかかった大和レシピの資材分をすら凌駕する大物ぶりを発揮することがある。

 彼女は半ばうなだれている吹雪さんの頭を撫でて、こううそぶくのだった。

 

「てーとくも吹雪も、もっと好きの違いを考えてみるべきでちね」

「あ……」

 

 ぷるぷると、かかとを必死に持ち上げながら少女を慰めるゴーヤはしかし、ちっとも背伸びなんかしていないようで。

 

「ゴーヤはどんな好きでも受け止めるつもりでちから」

 

 大人びた表情で、俺をちらりと見た彼女はそんなことを言うのだった。

 

 

 

 

 そんなこんながあった翌日。

 吹雪さんの暴走に続いたかのように、珍しく酔っ払ってしまった憲兵さんに追いかけられた、お尻の受難の前日を忘れんと俺が仕事に励んでいた時、強めのノックの音が響き渡った。

 少し嫌な予感がしたが、無視することは出来ない。入っていいと口にしたところ、強面の彼が顔を出した。

 

「失礼します、提督」

「どうしたんだ警備員さん……うおっ、君も一緒だったか」

「みゃあ」

 

 そう、彼はここ鎮守府の警備員。職務と憲兵さんの筋肉ばかりに熱を上げている、扶桑から向けられる熱視線を前世の俺のように気にもとめない、ナイス(?)ガイである。

 警備員は最近どうにも懐いてしまったのだというウミネコを肩に乗せてやってきた。でっぷりとした鳥を乗せながらも一切ぶれない体幹はさすがといったところか。

 ばさりと、おもむろに翼を広げた大きな鳥を他所に、警備員は間近の迫力を気にも留めずに俺に向けて口を開く。

 

「実は提督。自分の気付かない間に提督宛にこのようなものが置かれてれていまして……ふろむようせい、と書かれているものを流石に粗末には扱えずにぜひ判断を仰ぎたいな、と持ってきてしまいました」

「封筒、ですか……あ、確かにこのへなへなした文字は間違いなく妖精さんのものですね。どれどれ……」

 

 何やら俺の接近に応じてばさばさとし始めたウミネコを気にせず、俺は茶色い封筒を受け取った。

 現在進行系で拾い集めればちょっとした工作が出来そうなくらいに羽毛が舞い散っているが、まあそれも気にすまい。座敷箒とトタンちりとりさえあればこんなものの片付けは楽だ。

 

「さて、それでは……っと」

 

 さっとナイフで開けて、そうして確認したのはぴらりとした紙一枚。指先で摘み上げた頼りなくすら思える三枚折りされたそれの中身を俺は読んだ。

 

「ケッコンカッコカリ?」

 

 ぐにゃぐにゃと、妖精さんがその小さな身体で精一杯に記したのだろう、そんな聞き覚えある一文に俺は首を傾げる。そしてまさかと茶封筒を一振り。

 すると、ころりと、封筒の奥から銀色のリングが一つ、手の平の中に転がった。

 

「……指輪、か」

 

 さて、俺はどうすればいいのか。

 俺は、知らない間にウミネコの背に乗ってはしゃいでいる妖精さん達からの餞別を、強く握りしめるのだった。

 

 

 

 

「司令官!」

「ん? 朝潮かどうした……うおっ」

 

 その次の朝。食堂で卯月と第六駆逐隊の皆に囲まれて朝飯を食べて、戯れた彼女らが三々五々に食堂から出ていったことを確認したところに、俺にかかった声があった。

 それは、忠犬とすら例えられてしまうくらいに尊敬の念を向けてくれる少女、朝潮。何時もの綺麗な長い黒髪を引いてやって来た彼女は、笑顔で俺の前にとんでもないものを差し出してきた。

 

「Hey提督、どうしたのデース?」

「朝潮さん、プレゼントですか?」

 

 固まる俺に気付いて、後ろでほのぼの料理の先生と生徒をやっていた金剛と雪風もやってくる。疑問顔の彼女らを前に、自慢気に朝潮は胸を張った。

 

「ポケットを封じられて行き場を失った朝潮の恋心を、千羽の鶴に仕立て上げてみました! 司令官、是非とも受け取って下さい!」

「ありがと……う? おお……凄いなこの鶴……」

「この鶴たちまるで耳なし芳一さんみたいですね! 呪文がびっしりです!」

「Oh、これは凄いセンスデース! なるほど、ホラーの吊り橋効果で攻めるのもあり、ですかネー」

「えへへ……金剛さんに凄いと仰って頂けると、自信が持てますね……しかし吊り橋効果とはいったい?」

「あのびっしりとした恋文は朝潮が認めていたのか……」

 

 俺は、おもむろに手渡されたそのずしりとくるその重みをまじまじと見つめる。

 鶴は一枚一枚綺麗に折られていて、確りと想いが篭められているというのは一目で理解できた。それこそ好きだの愛おしいだのが柄となってその全身をくまなく覆っているからには尚更に。

 しかし、恋文を千羽鶴に仕立て上げるそのセンスは俺には分からない。吹雪さんは目をきらきらとさせているが、ちょっとこれはメッセージ性が強すぎはしないだろうか。

 色んな意味で想いが重い。これはどうしようか、と俺は迷い。

 

「いや、迷うことはない、な」

「司令官?」

「すまないが、これは受け取れない」

 

 そう、言った。途端に、悲しみを浮かべた朝潮は力なく俺に突き返された鶴を取りそこねる。

 あ、と思った俺だったが、しかし、それは落ちる寸前で拾われた。重い想いを大事に手にとった彼女は落ち込みを顕にしている朝潮の代わりに、問う。

 

「どうして、ですカ?」

「朝潮のことが大切だから、だ」

「そんな。しれぇ……朝潮さん、断られてとっても辛そうです!」

「……分かっている」

 

 ずしりとした罪悪感の重みに耐えながら、俺は酷く真っ直ぐな金剛の青い視線に悲鳴のように心のこもった雪風の非難を受け止める。

 そして、何より悲しみに涙を浮かべながら、それでも俺の言葉を必死に聞いている朝潮のためにも、重い口を開くのだった。

 

「それでも、無理なんだ。朝潮も金剛も、雪風も皆大切でたまらないが―――俺には他に、何より好きな人がいる」

「……しれぇ?」

「ああ、()()()()そうだったのデスね」

 

 呆然とする雪風の横で、ついでのようにフラられてしまったのは残念デスがー、と力なく金剛は笑む。

 そんな二人を他所に、朝潮はぐし、と涙を袖で拭き取ってからこう言うのだ。

 

「……分かりました! 朝潮はこれからは提督の恋路、全力で応援させて頂きます!」

「……ありがとう」

 

 必死に強がる少女の前で、俺が上手く笑えたかどうかは、よく分からない。

 

 

 

 

 しばしばある大規模作戦等によって少しずつ取り戻しつつある青い海。彼女はそのさざ波立った面をか細い足で蹴り上げた。きらきらと飛沫が舞って、光は美しく散らばる。

 待ちぼうけ。そのための暇つぶし。それがあまりに綺麗な光景を生んでいることに、俺はしばし魅入ってしまう。

 だが、何時までもこうしてはいられない。すべきことがある。だからこそ、俺は一番に好きな彼女の元へと足を踏み出した。

 

「すまないな。遅くなったか」

「そんなことはないわ。ただ、改まってこんなところで待ち合わせなんて、一体どんな風の吹き回しなの?」

 

 振り返り彼女、大井はどこか面倒くさそうにそう言う。小さな岩の上に座り彼女は海を見つめたまま、しかしその頬には薄く紅が差しているのが分かる。

 期待してくれていたのだろうか。そうであるならば、嬉しいと俺は思う。だから、といった訳でもないが素直に俺はこちらへと振り向いた彼女へそれを差し出した。

 

「……大井に、受け取って欲しいものがある」

「これって……」

 

 俺が大井に見せつけた指輪は、日差しにその銀を輝かせる。

 そっけないくらいの簡素なリング。だが、しかし、これに籠められた想いは小さくない。

 妖精さんからの期待と、俺自身の願いを乗っけた銀色は期待に再び瞬いた。

 

「妖精さんが言うにはケッコンカッコカリ、という艦娘の限界拡張に用いられる指輪らしいんだが……まあ、そのまま俺の告白と受け取って貰えると嬉しい」

 

 きっと、俺の顔は真っ赤になっているだろう。恥ずかしくてたまらない。けれども、それに負けずに相手も顔を紅くしているのだから、おあいこか。

 潮風に長髪を一度流されてから、大井はおずおずと言った。

 

「……私のこと、女同士でしか恋愛できない性質って思っていたんじゃなかったの?」

「その通りだが……まあ、叶わないかもしれないからって、抑えられるものじゃないんだな、恋心って奴は。よく皆には教えて貰ったよ」

「そう」

「好きだ。愛している」

「そう、なんだ……」

 

 俺の拙い告白で、大井はにこりと、してくれた。それが、何よりも嬉しい。

 だって、彼女には今までずっと迷惑ばかりかけてきた。ああ、俺は離れがたくて教官だった彼女を自分の鎮守府に引き抜いた、それが初恋だったことも知らなかったのだ。

 

 ひょっとしたら、大井は俺のことを想っていないかもしれない。記憶の中の彼女の姿のように、北上の方がよっぽど好きだと返されるのかもしれなかった。

 けれども、そんな恐れなんてどうでもいい。艦娘とは恋愛できないという以前の思い込みと同じようにそんなことはどうでもいいのだ。俺は目の前のこの愛おしい人を信じよう。

 

「ふふ」

 

 俺を見つめる大井は、その頬を愛らしく綻ばせる。

 そして、差し出された俺の手を取ってから、言うのだった。

 

「お受けします」

「ありがとう」

 

 大井がさらっていった指輪はあつらえたかのように、彼女のか細い指に指輪はぴたりと嵌る。

 ぽろりと涙を零した大井。一度遠くを見てから、万感の思いを籠めて彼女は呟いた。

 

「――もう私、死んでもいいわ」

 

 俺はその言葉にどきりとする。

 

 果てを見つめる少女の印象はどこか薄く。

 

 

 潮騒が、遠くに聞こえた。

 

 

 

 

 艦娘とは恋愛出来ないので鎮守府の外の子と仲良くしていたら艦娘でした、了。

 

 

 

 







「大井っちの方はオッケーみたいだね。さて、これでめでたしめでたし……だったら良いんだけれどねぇ」
「もう、提督ったらひっドーイ! 那珂ちゃんのこと、一番に想ってくれているって言ッテタノニー」
「あら。提督ったら、そんなことを言ってたのぉ?」
「どうせ一番に問題児と思ってた、っちゅーオチじゃないんかなぁ?」
「あはは……そう、かもしれませんね……」

 それは、彼彼女らが結ばれたその水平線の先。双眼鏡にて二つの影が重なり合う姿を認めた北上の呟きは、変調した声色の彼女に拾われる。
 応ずるは何を思うか朗らかな愛宕に、揶揄する龍驤、そして苦笑する鳳翔。

 向かい合い戦闘態勢になっている艦娘と深海棲艦は、こんな会話をしていた。

「逃げる、でち……」
「……那珂、ちゃん?」
「ごめんネ、吹雪チャン☆」

 そして、伊58の挺身によって辛うじて藻屑にならなかった吹雪は、水面の上にてたじろいでいた。
 同族に出来ないなら仕方ないと敵の人質となりそうだった彼女を間一髪に助けた鳳翔は、一帯に広がり始めた赤色に怖気を覚えながら、呟く。

「まさか俗世の穢を纏って深海棲艦化するなんて……それも、自ら望んで」
「全く。提督を……お父さんを水底に引き込まれたら困るんだよねぇ……軽巡棲鬼、那珂」

 そのどちらとも取れないセンシティブさからすべてを見通して。北上は仲間であったはずの彼女に、砲口を向けた。

「アハ♪」

 そしてその意気をすら呑み込むのは白き黒き死の形。


 死のアイドル(偶像)は、誰にも望まれない恋を唄う。



 彼は死んで、生きている。少女はひと目見てそれに気付いた。だから彼のために彼女は心の底から唄った(叫んだ)のだ。


 水底に還ってきてと。



 その唄は決して届かず、叶わないのだけれども。



「那珂!」
「テい、とく?」

 ただ、かもしたら彼女にも救い(掬い)はあるのかもしれなかった。




「いっつも応援ありがとう! 提督のためにもっともっとがんばるね! キラーン☆」



―――――――――――――――――――――――――――

 これでホントのお終いです!

 色々とルート違いの番外編も予定していますが、ひとまず感想評価、どうかよろしくおねがいしますー。


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