火をつけるの大変そうだったな
そや、油生産しよう
なんか色々使えるんだけど?
鉄をあまり使わない方がいいだろう
五右衛門風呂よりもこっちが簡単か
そんな塩梅で出来上がった今回のお話
長閑な村、それがカルネ村のイメージだろうか。
つい最近、野盗もどきの騎士まがいの賊に襲われたとは思えないほどには他の村とそう変わらない程度に見える。
「すごいよ悟君!木造の家だ……アーコロジーだとコンクリの打ちっぱなしみたいなアパートメントが無機質に並んでるだけだったし……なんというか人の温かみというのが感じられて、僕はうれしいよ」
俺は蒼井さんと共にカルネ村の入り口に立ちながら村の中を窺うのだが、村の様子は……男性の大人たちが集まり何かを話しているのと、女性たちは田畑の再生に精を出していた。
俺にはどれが田んぼで畑なのか……水が張っていないから田んぼじゃないんじゃないかなと思っていたのだが、畝という盛り上がりのものがあるのが畑で、盛り上がりの無い平らに均されているのが田んぼなのだと蒼井さんに教えてもらえる。
どう違うのかがよくわからないとうなっていると、大鎌を振るって収穫しやすいように均していて、俺が昔に資料で見たような水田はまだ伝わっていないか水源が遠いからできないのだろうと鈴木さんから説明される。
『畝は他の植物が育てる野菜の栄養を取らないようにするのと、盛り上げているのは雑草を取りやすくするためだ。高くしすぎるとこれもダメなんだがな』
そんな説明を蒼井さんとも共有すると、「農業に関しては僕よりも知識がある?」などと吃驚していた。
『風呂は簡単な作り方を教えられるし、火も油を使えばおが屑から火をつけるよりもずっと楽になるだろう、油の取りやすい植物は知らんがな』
「あぁ、お風呂は清潔の為にも必要だねぇ。油は……植物油だよね。それなら一年草の菜種が一番手っ取り早いかな……種以外も飼料や肥料に使うのもありだし」
『確か早期収穫で料理に使われる奴もあったはずだな、食用、
菜種ひとつでどんだけ活用法があるのかと驚きながら、そんなもののアイテムがユグドラシルにあったかなぁと頭の中の知識を探っていると、蒼井さんからさらに驚く言葉を聞く。
「というかそこに生えてるね。元が雑草で雑交配種だったはずだから、僕の知ってる菜種かどうかはわからないけど」
「はいぃっ!?なんでそんなにも簡単に見つかるの!?なんか便利な植物なんでしょ!?」
驚いた声で気が付いたのか村の何人かが俺達に気が付き、駆け寄ってくる。
一番に気が付いていたのは金色の長髪に村の人と変わらない服で背に翼をはやした、あの鎧から庇い、そして村のすぐそばに大穴を開けた彼女だった。
「おはよう!あなたが助けてくれたっていう鈴木さんね。私はルシファナ、戦おうって気のある人たちに戦い方を教えることになったわ。ありがとう、それとこれからもよろしくね!」
ルシファナと名乗った二十に見えるかどうかの女性は俺の右手を両手で握り上下に激しく振って感謝の言葉を伝えてきた。
だが、それはとたんにピタリと止まり顔を覗き込んでくる。
その表情は剣呑で、殺気か殺意か敵意に近い感情に彩られているように見える。
「助けてくれたから普通の人だと思ったんだけど……貴方中に何が居るの?」
「え、っと……」
俺が返答に窮していると、鈴木さんが諦めたように声を出す。
『俺がいるっていうことにも気が付いているってことだろ。彼女の頭の上に天使の輪があるからわかるだろう?俺のような不死者ってのは彼女の敵だったんだよ。警戒されるのは当然だ』
『どう説明するべきなんでしょう……?俺は鈴木さんが化け物のように見られるのは我慢が……』
『まんま話しゃいい』
いや、俺の説明で良いのか?荒唐無稽でよくわからない説明になると思うんだけど……そんな心配をしていたのだが、そんな心配すら笑って答える。
『ルシファナさんも同じ状況だぞ?訳が分からないのはお互い様さ。信用はまた別だがな』
俺の言葉だからこそ大丈夫だと太鼓判を押してくる鈴木さんだが、なぜここまで断言できるのだろう……本当に見えている景色は同じなのだろうか。
「あー……なんと説明したらいいんですかね……俺もこの状況はよくわかっていないのですが。俺はユグドラシルというDMMORPGというゲームの最終日まで接続していました。本来ならそのままゲームの世界は電子の海に帰り、俺は現実に待っている仕事に行くはずでしたが……現状としてはこの世界でこうしているんです」
「私が聞いているのは、そういうことじゃないわ。『何』が居るの?」
剣呑な目は変わらず俺の内側を探る様につぶさに見つめてくる。
「まぁまぁ落ち着いて、村の人たちも何事かって様子見てますし」
蒼井さんがなだめようとしてくれるが、収まるはずもない。
視線を逸らせば少なくない人数の村の人たちが集まりこちらを注視していた。
その中にはエンリやネムもいて……これからしようとしていることで、鈴木さんを見せることで『人ではない』と知られることが俺の心臓を締め上げられるように恐ろしかった。
『くっくっくっ……いやぁ良い感じに育ってるじゃねぇか。このまま真直ぐ育ってもらいたいもんだね……んじゃ時止めるぞ?』
『え?』
時計の歯車が一度音を奏でるとそこで止まる様に回りが静止する、俺が得意としていた時間停止の魔法ではあるが、その空間の中ルシファナさんは俺たちに警戒心を隠さず武器に手を回す。
「まずは落ち着け。こんな姿、村の人にゃ刺激が強すぎんだろ」
ルシファナさんの前にはいつのまにか表に出たのか鈴木さんがオーバーロードの姿で立っていた。
「あー……確かにその姿は刺激が強すぎるわね。その為に時間を止めたのね、ごめんなさい早とちりだったわ」
「いや、こっちこそ声もかけずだが、声をかけるわけにもいかんでな」
緊張していた空気が一気に弛緩して緩い流れになったような気がする、ルシファナさんの身体からも強張りが取れているように見えるし、鈴木さんはいつものように顔は変わっていないのに飄々と受け流すようにしている。
「それで?あなたの目的は何なのかしら……ねぇ?死んだ者を操る外道さん」
「で、お前はどうしてこんなところにいるんだ?男に股を開いて堕天した元天使長さんよ」
前語撤回、和やかな雰囲気から互いに青筋浮かべての一触即発な空気に張り替えられた!?
さっきのピリピリした空気が春の陽気なんだって思えるくらいの、修羅と修羅の戦う寸前といった瘴気と魔力というのか、精気と天力というのか真逆の力が互いに喰らい合うような地獄絵図のような感じになってるんだけど。
なんでこんなことになってるの!?たすけて……
身長差があるのに互いに上下でメンチをきり合う骸骨と女性天使、蒼井さんなんてそれが始まったくらいですぐに村の人たちの方に避難してるし、俺もそっちに逃げたい。
「こちとら糞イリアスに反旗翻したから堕ちたんだよ、イカレ骸骨」
「こっちもそういう連中狩るのが仕事だよ、アバズレ」
「「あ゛あ゛ん!?」」
止めて、止めて、怖くて胃が痛いの。
「流行り病でルカに看取られながら逝ったと思えば、宿屋もない住んでた田舎よりも田舎なのよ!?」
「わはは、そんなこと俺の知ったことか、こちとら名前以外まともに思い出せるものなんぞ昔の知識ばっかりだよ」
「はっ!その年で健忘症とは恐れ入るね!養護院よりも納骨堂の方がお似合いだよ!」
「ふんっ!息子にルカだぁ?キラキラネーム付けられる子供の事も考えられねぇ毒親が!」
誰か助けて!?マジで助けてぇっ!?
そんなことを切に願っていたら、不意に視界が激しく揺れて打撃音が二つ同時に鳴り響き、鈴木さんもルシファナさんも頭を押さえてうずくまっていた。
「いたぁっ……!?」
「はおぉっ……!?」
俺も痛いのだが、その痛みも忘れるような整った笑顔で二人の隣に立っているニースさんが居た。
「二人とも?」
笑ってはいるのだが、怒っているのがはっきりとわかる。
「「……はい」」
二人そろって地面の上に正座をすると昏々と続く説教が待っていた。
頭に拳骨を受けたからという訳ではないが、あのメンチ切りをしている間に時間停止の効果時間を過ぎていたのだろう、蒼井さんは村長さんと何やら話しているようだ。
「二人ともお互いの逆鱗を確認するのはいいですが、それで我を忘れて……周りの状況は見えていますか?あなたたちの気当りで柵がボロボロになっているのですよ。こんなものを村のみんなが受ければどうなるか、それがわからないお二人ではないでしょう?」
「「はい……ごもっともです」」
俺も見せられている視界の前で正座をしてしまう。
エンリを怖がらせたあの時、下手をすればそんなことになっていたのかもしれないと想像してしまえば背筋に嫌な汗が伝う。
「強い力には責任が伴う、というもののお二人には神に説法というものでしょうが戯れで漏れていた力だけでこうなるというのは想像の外という事ではない、ですよね?」
「「……はい」」
「では、なぜこのような確認の方法を取ったのですか?お二人とも嘘を見抜く目を持っていらっしゃるのだから普通に話し合うだけでも確認はできたはずですよね?」
「えー……それはね……えー……」
「すまんが、俺はその理由を言えん」
怒られ正座している状態でありながら、鈴木さんは巌とした態度でその理由を説明することを拒否した事に俺は驚いていた。
それは正座しながらも視線が真正面で合うというアバターでの身長差とも言えるほどに差があるのだが真直ぐにニースさんの真直ぐな目を真正面から受け止めている。
「ちょ!?」
「ルシファナさんは、何か理由がおありですか?」
その言葉は鈴木さんから聞くことはできないと即座に判断したのだろう、質問の矛先がルシファナさんへと向かった。
「人間の時に感じた洒落にならない邪気を調べたかったのよ!封じられてるっぽいけど確かに存在して脈動し続けてるから、ほっとく訳にもいかないのに骨になったらそれが無くなってるのよ!?外に出てるわけでもない中に隠れたわけでもない。いつ爆発するかもわからない危険物かどうかもわからないから挑発して知ろうとしたのよ……」
ニースさんは鈴木さんに視線を移すが首を横に振り、質問を拒絶する。
「はぁ……」
ため息を一つ付き最後の質問をする。
「これをする意味はあったんですね?」
鈴木さんを見据えての確認でしかない。
「あぁ、意味はあった。それと収穫もな……村の人たちは俺を遠巻きに見てはいるが、恐れてはいないだろう?」
怒られているその姿があまりにも人間臭さかったのか、確かに怒られていることで遠巻きに見てはいるがその目に恐怖というものはなく、どちらかと言えば心配だろうか、俺にもそんな感情でこの状態を見ているんだろう事がわかる。
その見ている輪の中から白銀の鎧、ツアーが近づいて来ながら驚いたような声を上げる。
「スルシャーナ!?いや、でもそっくりだ……」
「するしゃーな……するしゃな……んー……スラオシャ、か?いや、使者で表されるスルシュの可能性もあるか。確かGネットでは光の神がアーラ・アラフだったか」
いつの間にそんなものまで調べたのだろう、まだこの世界に来てから三日ほどしか経っていない筈なのに。
「そんなことまで調べていたのかい」
俺は驚愕を、ツアーは呆れに似た感情を声にしていた。
「法国は臭かったんでな。いの一番に調べさせたさ……アッラーフの使者が元になっているならお笑い草だがな……六大神はゾロアスター系がなまった名前なんだろう」
「あ、こら!まだお話は終わってません!」
そんな何でもない事のように法国の神の事を語って見せたと思えば、俺に主導権を渡していた。
ゾロアスター、確かタブラさんが言っていたような気がする、鈴木さんは宗教の話にも詳しいのか他にも知っていることが多いような気がするけども、いつかそれを聞くことはできるんだろうか。
「すみません、こちらの時間もおしていますので……」
「まったく……仕方がないですね。ルシファナさんの説教もここまでにしましょう」
説教から解放されて安堵のため息をつくルシファナさんだったが、菜種畑を作るという話が出たら、なら大規模に作って観光に使ってみるのもいいんじゃない?という案も出てきたりした。
蒼井さんはプラントシェルで簡単に家を作り、外を木材で覆った簡単な家を建ててたり、鉄パイプをU字にして木の大桶に繋げたお一人用のお風呂をあっという間に作り上げてた。
「そうそう、冒険者になる悟さんの案内人はうちのエンリに決まりましたので」
「え?」
「いつの間に決まったの!?お祖母ちゃん」
マスターホムンクルス
全身の細胞がホムンクルスと混じり、人間以上の力を誇る。
その触手はHPばかりかMPまで吸収可能。
触手で敵を捕食することでき、まさに異形の存在。
基礎ステータス
HP:A MP:A SP:C
力:A 防御:B 魔力:S
魔法防御:A 素早さ:C 器用さ:S
取得魔法:魔力、精神、その他
アビリティ:毎秒MP1%回復
マジックキャスター垂涎の極悪種族なのだが、当然のようにユグドラシルには存在しない。
触手を体から生み出し近中距離の物理戦闘すら可能であり、人間種でありながら陸棲種を召喚可能。
注:今回の畑関連知識は出鱈目なので鵜呑みにしないように
畝は本来は風害や日照関連で作られます