おっさん憑依でヒャッハーLORD   作:ししお

20 / 83
サブタイトルに今回の題名はなし
作中に出てくる題名を知っている人は大体どんなことが起きるのか予想はできるでしょう
前章でのラスボス戦です

注意事項:今話には変態シーンがあります












最後まで救いはない


episode.5

 ラナーから聞いた情報はある意味で値千金だったかもしれない。

 聞けた情報など、たかだかトブの森その王国側にほど近い場所に……今にも崩れそうな塔があったというだけ。

 周りがくり抜かれたようにその塔と荒廃した大地が少々残っている有り様だと。

 その情報を手に入れてから俺はパンドラとムジナを連れその塔へと駆け抜けていく、予想が外れていることを願いながら。

 辿り着いた塔は物理的に崩れ、長い年月が経っていることが見て取れる。

 崩れ方は強い力が加わり、積み木を崩すように崩れている場所もあれば、何かに抉られるようにぽっかりと穴を開けている場所、いまだにその力が残っているのか何も映さぬように『無』に浸食された場所。

 

「……あぁ……くそったれ……予想は、外れてくれなかったか……」

 

「モモンガ様?この塔は……?」

 

 俺が人を好きになった場所であり、あの世界の人が滅んだ場所。

 人が最後の砦として立て籠もり、最期の一人まで抵抗したあの世界での人がいた証であり墓標。

 

episode.5

「管理者の塔」

 

 鈴木さんが塔の扉に手をかけているところで俺は目を覚ました。

 普段は寝ている時間であり、目をこすりながら寝ぼけ眼から意識を覚醒させる。

 

『ここは?』

 

「起こしちまったか……眠れるなら寝ていてもいいぞ」

 

「此処から先は故人の過去だ」

 

「……見たくねぇなら目を瞑っていろ」

 

 俺は聞こえてくる声に疑問に思った。

 いつものように主導権を渡したときの部屋ではあるのだが、鈴木さんの視界とリンクしていると思っていたテレビモニターの画面に映っているものが違った。

 フルカラーのものではなくセピア色の画面で、歩くのとは違う視界の揺れ方をしている様に感じられた。

 視界の高さも鈴木さんのものとは違うもっと低く、子供と大差がないように感じられる。

 疑問はある、でもそれを聞くの憚れた……俺はただこの画面を黙って見ていた。

 塔の中は石造りで、装飾はほぼなく燭台が所々に見られる程度に飾られた円形の造りをしている。

 

「■■■■!」

 

 声をかけられそっちを振り向いたのだろう視界が動き、5~6歳の少女が駆け寄ってきて抱きつこうとしていた。

 それを抱きとめようと屈んだのだろう視界がさらに下がり、その幼さを前面に出した笑顔が通り抜ける。

 それを見て俯いたのか、一面に床が映り、ぽつりと呟かれた言葉がとても切なかった。

 

「……■■さんはもう三十年も前に……」

 

 その声は抑揚がなく感情がまるで籠っていないように聞こえる合成したような機械音声。

 顔を上げて奥へと進んでいけば、今度は武装した人間が、エルフが、ドワーフが、妖魔族が、ラミアが、ハーピーが鬼が駆け抜けていく。

 その武装は所々刃が欠けていたり、鎧も様々な場所が大小に凹んだりしていた。

 駆けていく者達も場所こそ違うものの無傷なものなどおらず、変色している包帯を巻いたまま通り抜けていく。

 

「あんたら!どいつもこいつも一匹たりとも通すんじゃないよっ!!」

 

「儂たちの後ろにゃ戦えねぇ連中がいるんだ!通すわけねぇだろが!」

 

 先頭に立つ頭に包帯を巻いた片角の折れた鬼の女性が吼えれば、右腕を失ったドワーフの老人が戦槌を歪な化け物の顔面に叩きつけながら怒鳴り返す。

 それが戦いのゴングだったのか俺では目で追うことができないスピードでのバトルが繰り広げられていく。

 生物とはとても思えない変なところから腕や足の生えたもの、機械と合成したかのような生き物としても機械としても中途半端な化け物が次々と撃破されていく。

 床に叩きつけられどす黒い跡を残すもの、壁をピンボールのようにバウンドして視界から消えるもの、後ろから撃ち込まれた巨大な火球に焼き尽くされながら悲鳴を上げるもの。

 これなら普通に勝てるんじゃないかと思えば、奥から次から次へと化け物たちは無尽ともいえるような数がひしめき合っていた。

 

「はっ!今回は随分と大盤振る舞いじゃないか!Lサイズがいないからって気ぃ抜くんじゃないよ!」

 

 かけられる言葉に応える戦士たち。

 小型は尖兵でありそこまで強くないのだろうが、それでもこの戦士たちの一撃に耐えて反撃してくる者たちもちらほらといる。

 小型とはいえ人と大差無いサイズではあるのだが、それのLサイズなどと考えればどうなるのか想像に難くない。

 

「ちぃっ!一番奥!ありったけの火力を叩き込め!」

 

 背が低い筈のドワーフの老人は何を見たのか、大声を張り上げるのと同時に核の光が最奥をぶち抜いていく。

 

「ピナーカァァァァッッ!!」

 

 ぶっこわれインド神話の神様の武器だったと思うけど、光の通った後の雑魚たちの身体が蒸発して一番奥のナニカに防がれた。

 

「血路開いておくぞ、逃げられる奴は逃げろ!木端微塵切り!」

 

「■■■■!隔壁閉めな!生きたいやつはとっとと隔壁まで走るんだよっ!」

 

「ふん、お前さんと地獄の道連れとは……酒でも奢れよ?」

 

「はっはっはっ……自慢の鬼殺しでも振舞ってやるさ」

 

 鬼の女性とドワーフの老人は殿を務めるのか閉じていく隔壁の前に仁王立ちとなり、仲間たちの撤退を援護していた。

 後ろ姿しか見えず、姿形も考え方もしゃべり方も違うのに、なぜいつも言い争いをしていたウルベルトさんとたっちさんに見えてしまったのだろうか。

 抑揚は無いのに、感情は籠められていないように感じられるのにとても悔しそうな声を聞く。

 

「アポトーシスXXタイプ初の襲来……誰も残りませんでした……」

 

 撫でる壁は隔壁があった場所で、歪んだレールの溝だけが残っていた。

 通路を通り階段を上っていった先には階段がありそれは中腹の広場に繋がっていたのだが、ガラクタのように積み上げられた人形の残骸に混じり額縁等も転がっているのが見える。

 先ほどと同じようにかつての出来事なのだろう、これを見せているものが覚えている記憶。

 

「■■■■ちゃんもこっち来て飲みましょう」

 

 額縁から出てきている全裸の女性の上半身が湯飲みをもってこちらに手招きしている。

 

「(こくこく)」

 

 頷きながら手招きをする影のような女性……の幽霊だろうか膝から下が霞む様に消えていた。

 そんな彼女たちの背後からとんでもない爆発音が複数回鳴り響き、複数体の人形が絡み合ったようなホラーにでも登場しそうな存在が階段を上ってくる。

 

『怖っ!?』

 

 その姿に驚いてしまった俺はきっと悪くない筈、そんな歪な人形が背後から出てきたら誰でもびっくりするのではないだろうか。

 

「はぁ……全く勘弁してほしいもんよね。いくら自爆が一番威力高いからって何度も吹っ飛ぶのは辛いわよぉ」

 

 そんな彼女たち(?)の定位置なのだろう場所に座り影のような人物から湯飲みをそれぞれに渡される。

 それを飲み干すように煽り、それぞれの進捗を話し合う。

 

「飲み物なんて貴重なもの、私たちドールやゴーストには必要ないんだけどねー。からでも一息つけるのがいいわぁ。それで貴方たちの調子はどう?こっちはまぁ……あと三日くらいは持つかな?」

 

「全く博士たちも酷いものです。いくら絵画の亡霊とはいえ魔法陣なんて専門外です。最近はもう色も落ち始めちゃいましたよ。■■■■なんて削れて髪が無くなっちゃってますからね」

 

 黒い影のような女性は元々髪が長かったのだろうか?今はボブカット?のように肩口くらいまでになっている。

 見ている誰かは抱きあげられ、そのまま一緒に座らされる、その時はそうだったのだろう。

 触れられないとしてもそういう風に視点が動いた。

 頭を撫でられているのだろう、ほほえましく見ているのだが……人形の人は服着てるのに他の二人が全裸である、どうするんだよこの絵面。

 抱きしめられたまま人形の人に髪を撫でられながら声をかけられる。

 

「そんな情けない顔しないの、あんたがいるから私達が頑張れるんだから」

 

「そうですよ。一人じゃこんな無茶なんてせずに絶望で動けません」

 

 絵画から出てきている人は笑顔でほっぺたを突きながら笑って言う。

 この風景を見て俺は、強さというものを考えてみる。

 力が強いとか、破壊力があるとかのゲームみたいなレベル的な数値の強さとは違う……なんていうんだろう『人としての強さ』とでもいうのだろうか。

 じっと自分の掌を見る。

 

『俺の力はただのゲームの強さが宿っただけなんだ』

 

 ここに居る、いやここまで見てきた人たちの誰よりも俺は弱いんだと思えてしまう。

 自分の背にいる誰かを守ろうとする心が、絶望の中を立ち向かおうとする勇気が、困難に真直ぐ向き合う力強さが、未来を信じて託そうとする輝きが……何よりも眩しく映っていた。

 

『俺もこんな風になりたいな……』

 

 そう画面の前で呟いた俺の声に合わせるように答えが返ってくる。

 

「なれるわよ、きっと……悲しみを知っているから優しくできる、強くなれるってのは学者さんの言葉だっけ?」

 

「確か、図書館で本をまとめている文学者さんだったと思いますよ」

 

 笑い合っているその時間が止まる様に、記憶の海から引き上げられるようにあの広間に戻る。

 

「皆居なくなりました」

 

 思い浮かべてしまうのは茶釜さん、やまいこさん、餡ころさん……よく知る三人の女性像がなぜか重なってしまう。

 握られたスカートの裾は必死に力を込めて堪えているのだろう、細かく震えているのが見えた。

 

「私は泣けません悲しみを知りません……本当に強くなれるのですか?」

 

 逆だった。

 必死に泣こうとしているのだ、強く在りたいと願っているのだと理解できる。

 顔を上げて広間の先にある会談へと向かい昇っていく。

 その先には貯蔵庫や植物園、研究室、図書室、談話室と書かれたプレートが文字が霞んだり削れたり歪んだ状態で掛けられていた。

 それで思い出すのは、ここは故人の過去だと教えてくれた言葉。

 手を掛け開けられたのは談話室、正確には言■舌室と真ん中が削り取られてはいたが。

 その中には会話する姉妹と料理をするシスター姿のラミアの女性、寛いでいる何か大きな人魚などがいるがこれもまた過去のものなのだろう……きっとこの塔に生き残れた人物は……

 そんな中後ろから扉を開けて夢魔族の人だろうか、露出の多い服装に蝙蝠の翼と悪魔の尻尾と呼ばれる形状の尻尾をつけた片腕の、肩口から白い骨の見えている女性がテディベアを持って入ってくる。

 

「ほいよ、今日はお嬢ちゃんらにお土産だ」

 

「あ、くまさんだー」

 

 駆け寄る妹と思われる幼女が女性からぬいぐるみを受け取り嬉しそうに顔を綻ばせる。

 そんな妹を諫めるように姉と思われる女性が女性に向かって頭を下げる。

 

「ありがとうございます」

 

 きっとこれから見せられる絶望に俺は唇をかみしめながら見ていた。

 そう覚悟してみていたのに、拍子抜けるほどにしばらくは穏やかな会話が続いていた。

 人魚の人と一緒にご飯を食べたり談話している時間、そんな当たり前の時間が流れているときにそれは唐突にやってきた。

 叫び声と共に視線が、画面が姉妹の方に向かう。

 集中してみていた所為だろう、それはひどくゆっくりとした変化のように見えた。

 絶望に潰される絶叫の中、姉の右目が膨らみ、腰から刃物のような触手が刃物の先に内臓の残骸を抉り出しながら飛び出して鮮血をまき散らしながら痛みのせいで身を捩れば、足が五つほどに曲がり皮膚を突き破って所々に皮膚の張り付いた金属質のものに変わり果てる。

 膨らんだ目から無数の蟲の足が生えるように膨れ、こぼれ落ちた眼球を口のついた植物の蔓が咥えていた、頭には脳みそが泡立つように沸騰する水の様に泡を弾けさせながら髪が所々に生えたまだら模様の花を咲かせていた。

 俺はそのグロテスクさに顔を歪めながら、見続ける。

 

『見たくねぇなら目を瞑っていろ』

 

 そういわれた意味を今、知るが同時に目をそらしてはいけないと心のどこかが言っている。

 震える体を抑えながら、ゆっくりと進むその映像の中で確かに聞こえるのだ。

 

「早く殺して、■■■■■を傷つけないうちに、早く殺して」

 

 早口で繰り返されるその言葉を聞きとれる人が居たのかどうかはわからないが、変化の途中に首が斧の一閃で切り落とさられ、呆然とした目でそれを見上げながら口は「ありがとう……」と動いたように見えた。

 言葉の途中で斧の裏側で叩き潰されセピア色の画面でもわかるほどの黒一色の液体に変わってしまい、胴体も炎の柱のような魔法で焼き尽くされてしまった。

 それを見ていた妹は悲鳴を上げてラミアの女性に抱きしめられ……氷塊がラミアと幼女を引き離すように片腕の夢魔の女性に投げてよこす。

 

「■■■■もとっとと離れなさい!部屋の中ぶっ壊すからね!」

 

 部屋から出ると二人はいなく、ぽつりと呟く言葉に俺は椅子からずり落ちかける。

 

「部屋の中でろーれらいらだーは後片付けが大変でした……」

 

 ゆっくりと覗き込むように少し開いて中を窺うと、先ほどの整頓された部屋のように見えるが床一面が真っ白な鏡にでもなったかのようである。

 一度溶けて再び固まるとこうなるのか、それとも一瞬の高温で焼き払われることでこうなってしまうのか、俺にはわからないが家具はどうにか新調したのだろう事がうかがえる。

 だが、さきほどの人魚はどうなったのだろう?もしかして生きているのだろうか……随分と顔色が悪かったというか土気色だった気もするが。

 次に開かれたのは図書室だろう、こちらは図書の文字が消えてしまっているので初見ではわからないかもしれないが、これを見せている子が言葉にして指示してくれたからこそ、わかる。

 扉を開けば、本棚が並んでいて整頓されているように見える。

 が、それは表面だけで並んでいる背表紙や壁の方はごっそりと抉れるように外が見えていた。

 背表紙はその言葉通りに何も無くなっていた。

 無となり向こう側、壁や本棚が透けるように『外』が見えていた。

 星々も何もない、太陽の光も月も雲も空も、何もない虚無が除かせていた。

 本を開いてみても文字化けでも起こしたかのような、辛うじて何かしらの言語だとわかるそれは文字の羅列とでもいうものだった。

 こちらで見せてもらった文字も散見できれば、日本語のひらがな、カタカナ、漢字に英字、記号なども見られた。

 慎重に背表紙に触れないように本を戻し振り返れば、本を運び込む空に浮かぶ本から上半身を出している女性にそれを手伝う男性職員だろうか。

 こちらは普通に服を着ているので目のやり場に困ることはない。

 そんな二人組が運ぶ中、視界は奥へと向かっていく。

 奥には一人の男性が机に向かい何かを書いているのが見えるが、なぜか傍らに一本の棒が立て掛けられており、それは七色に輝く明らかな武器だった。

 

『七色鋼の武器、か?でもあんな虹色に色を変えるようなのは見たことが……』

 

 それに手を伸ばす小さな手だが、武器が重たいのか持つことすらできない。

 棒から手を離し、じっと自分の手を見てから、何かを書いている男性へと声をかける。

 

「ますたー、なぜ私は戦えないのでしょうか?」

 

 男は書くのをいったん止めて、こちらに振り向くのだが、男性だということはわかるがその顔がよくわからない、影でもかかる様にその顔を認識することができない。

 

■■■■(ラディオ)、僕はお前に戦ってもらうために生みだしたんじゃないんだよ。みんなを覚えていてもらうために生みだしたんだ。残酷なのは百も承知の上で言わせてもらう、戦う力を持ってしまえば、きっとそれに頼るだろう。お前は迎えが来るまで必ず生き延びてほしい」

 

「迎え……ですか?」

 

「所長まーたそんな奇跡を■■■■ちゃんに吹き込んでるんですか?諦めなければ奇跡が叶うだなんて……ならあきらめない私たちの前にイリアス様でも呼び出すような奇跡を起こしてくださいよ」

 

 画面に向かって話している男性の言葉に先ほど本を運んでいた本の女性が本を机の上に積み上げていく。

 積み上げられた本の題名には『オーバーロード』と書かれていた。

 残念ながら背の高さから表紙は見えないが十八冊と少なくない分厚いもので積み上げるときにそれなりの音が聞こえてくる。

 

「奇跡なんて、信じちゃいないさ。でもね諦めてしまえばそこで終了なんだ、ならあきらめない為の詭弁なら何でも使わせてもらうさ」

 

 肩をすくめておどけるような素振りを見せながら、その剣幕に圧されたのか後退る音が聞こえる。

 

「まさかSFマンガに載っていた並行世界が原因なんじゃね?なんて戯言で言ってみたら学者先生たちが調べまくって、大当たりするとは思わなんだがね。■■■■(ラディオ)まだ仕事が残っているなら行きなさい、こちらもかまってやれるほど暇じゃなくてね」

 

「はい……」

 

 それは声に抑揚がなくてもわかるほどに残念がる声だった。

 離れる中、呟くように聞こえたのは何だったのだろうか。

 

このプログラム()はお前には重すぎる、か。……戦争を起こす人など嫌いだった、だがここの人はどう、だろうな……僕はお前には重すぎる

 

 呟く声に振り向くがそこには徹底的に破壊され、そこに机があったと知らなければ机があったという痕跡そのものが消されるような、それほどの徹底ぶりが見られるほどに何も残っていないように見えたのだが、何かが光っているように見える。

 本が一冊だけ其処に残っていた。

 

「これは……?皮の表紙に……何かの模様……」

 

 何の皮かはわからないが表紙は革製のもので手作りされ本だろうか、紐で十字に縛られているのだが中央の部分に紋様に重なる様に何かしらのペンジュラムが付いている。

 透き通りながらも黒光りする赤い線が走る多面結晶体、中には小さな鍵と何かの種だろうかその二つが面の反射により揺蕩っているように見える。

 中を見ようと紐を解こうとひっくり返すが結び目はなく、どうやって開くのか、そしてどうやって結んだのかがわからない。

 そしてこの子にその紐を切るような道具も力もなかったので、スカートのポケット部分に入れて持っていくことにしたようだ。

 次に訪れたのは研究室と呼ばれている場所で、開ける前から喧々諤々と怒鳴り合う声が聞こえてくるのだが、その怒鳴り声達は何か色々とおかしかった。

 

「そうか、ゲッターとは……!ゲッター線とはぁぁっぁぁっっ!!」

 

「ふふふ……ふははははは……はぁーはっはっはっはぁぁ!!次元連結システムのぉ!」

 

 そっと中を覗くのだが、そこには狂喜乱舞する研究者たちの姿で、さまざまな機械をいじったり何かしらのグラフに一喜一憂している狂気の徒達だった。

 

「…………」

 

 そっと静かに閉じてしまおうか、それとも入って進捗を聞くべきなのか悩んでいると一人が気が付き扉を開けてしまう。

 

「■■■■ではありませんか……あぁ、もう進捗報告の時間でしたね。どうぞ私からの提案書であるグランゾンとDr.ウェストからのデモンベイン、マサキ博士からゼオライマー、サオトメ博士からのゲッター・ロボの作成図です。この世界ではもう素材はなく作ることはできないことはわかっています。ただ……これを受け取りに来る何者かが在るのならば、貴女が持っていてください」

 

 それは様々なものが書かれた設計図なのだろう、ロボットばかりなのだがもしも作れていたのならば今の状況も打破できたのかもしれない。

 シラカワ博士は画面に視線を合わせ頭を撫でながら、悔しそうに語りかけてくる。

 

「これは私達が生きた証であり、受け取る人に託す望みです」

 

「何を諦めているのであるか!アポトーシス達が並行世界から来たという観測者であるというのならば、吾輩たちも同じく大天災である皆のものも!渡れない道理も!渡ってこないという否定も!ないのであーーる!だからこそ頼むである」

 

 ギターを鳴らしながらDr.ウェストが叫び声を上げ画面が揺れる。

 蹴り飛ばされたのだろう部屋から転がりだされ、もう一度見たときには天井や床から生えた触手に貫かれた博士たちがモズの早贄のように千切れた体の様々なパーツに分けられて飾られていた。

 ふと思ってしまう、これはどこまでが現実で、どこまでが過去なのだろうか。

 渡された設計図を手に急ぐように、それほど速度が変わったようには感じられないが、上へ上へ登っていく。

 上る度に何が放たれる音と塔が揺れる振動、そこかしこから鳴り響く警報音の音。

 目まぐるしく視界の端に表示される何かのパラメータ。

 

「XXタイプの襲来……防衛システム損壊5%……」

 

 最後に辿り着いたのは棺が四つ置かれた部屋で机と本棚、何かの魔法陣が描かれた床。

 鳥のようなマスクをつけ黒い帽子と黒いコートを身に着けた人物が、こちらを見ていた。

 

「博士……」

 

 一度しっかりとこちらを見て、手に持っているものを確認したのか自身の手を開きその指についているものを確認していた。

 指には指輪が十個ついておりそれぞれから糸が伸びて棺の中に繋がっているようだった。

 

「生きなさい、あなたの生に意味がある様に」

 

 顎をしゃくり後ろにある魔法陣を示す。

 

「博士……」

 

「皆が託したものを無駄にしてはいけない、行きなさい」

 

 首を振るい画面が揺れるが、博士と呼ばれた人物は待つことはなく、何かよくわからない言葉を呟いた後、命令を下す。

 

「ラストオーダー:行きなさい」

 

 その言葉に逆らえないのかゆっくりとだが魔法陣の方へと近づいていく。

 視界にうつるパラメータから防衛システムの損壊率は70%を超えていた。

 移動はするものの最後まで博士と呼ばれた人物を目で追う。

 魔法陣に乗ってしまえば光に包まれ転移させられたのだろう、通路に放り出される。

 

「マスター……博士……みんな……」

 

 後ろを振り返りながらも身体は前に進むことを選ぶ、選んでしまう。

 

「迎えは……」

 

 たとえ画面が通路の先を映そうともそこには誰もおらず、のろのろと身体が進んでいくだけだった。

 爆発音と揺れは収まらず、塔は本格的に崩壊をはじめ床も所々虚無に消えていく。

 

「迎えは……また……」

 

 転移の気配に振り向けば、いつの間にか画面はフルカラーに戻っており極彩色に彩られた巨大な人型のナニカが視界の先には居た。

 それはこちらを発見すると極悪と表するにふさわしい笑みを浮かべてこちらに向かってくる。

 逃げようとする速度の倍程度の速度で、弱った獲物を追い詰めるように余裕綽々に、歩を進めてくるそれは、画面を映しているこの子を嘲笑っていた。

 必死に生きようとしているものを嗤っていた。

 

「笑わないで……生きようとした!みんなを嗤わないでください!」

 

 袖から出てくるの武器でも何でもない、ただのはたき。

 特別な力も効果も何もない、ただの掃除道具のはたきで、目の前まで来たそれに殴り掛かる。

 

「ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ」

 

 その抵抗に大笑いを上げながら、非対称の腕を振り下ろせば軽く腕が捥げる音と共に床に叩きつけられ、そのまま蹴られたのだろう身体のどこかが砕ける音と一緒にまだ無事だった壁に叩きつけられる。

 画面の半分が罅割れノイズが走りながらも、出来る限りの抵抗だといわんばかりに無事なカメラアイでそれを睨みつける。

 映るのは足の裏、踏みつぶされるのだろう。画面は電源を落としたテレビのように闇に染まりそれと同時に砕ける音が響く。

 

 

 

「ちょっと追い出されたからお邪魔するわよ!」

 

 いきなり画面の電源が落とされたようになり、声をかけられた方を見れば今まで壁だった場所に扉ができているのかそれを開き金色に輝く後光を背負った女性が入ってくる。

 

「え?いや、何事です?てか俺以外にも誰かいるんです?この空間……ってか誰ですか!?」

 

「よろしい、ならば私の名前を教えましょう!私は「ロード・オブ・ナイトメア」、L様と呼ぶことを赦しましょう。そしてこれからあなたは部下Sよ!」

 

「いや、なんで俺があなたの部下に……」

 

「鈴木 悟だからイニシャルがどちらもSだからよ!プレゼントに部下Dを呼ぼうと携帯を取り出したら他の連中にシアターから蹴りだされたわ……せっかく糞鯨を闘神都市Ⅱのくじらちゃんにして弄ってたのを肴にしてたのに、だから代わりに楽しませなさい」

 

「えぇ……」

 

「それとおっさんも同じく部下Sになるわ!そうね、とりあえず目標を言ってみなさい」

 

 唐突なことに戸惑いながらも、目標と言われ、この世界での目的というものを考えたことがなかったことに気付かされ悩むが、それは皆をこの世界に呼び出し楽しみたい、と思っていた。

 思っていたのだが……あの子を見ていてそれとは違うものを目指したいと思うようになっていた。

 

「強く……強くなりたいと、今よりも一歩でも先に進みたいと」

 

「へぇ……それはどこまでかしら?」

 

 俺の答えを聞いてL様は笑いながらこちらを見ていた。

 

「どこまでって……それはとりあえずみんなを守れるくらい?」

 

「あぁ、それはいいわね。実にいいわ……私達から皆を守れるように強くなりなさい」

 

 それは満面の笑みを浮かべ、俺の答えに満足したように扉から出ていく、携帯に向かって一言だけ残して。

 

「五分でここに来なさい。遅れたらわかっているわね?D」




※注意:今話には鬱展開、グロテスクな表現が存在します
 苦手な人はそっと閉じ推奨です



糞クジラ 出典:AliceSoftシリーズ
 主にランスシリーズの大陸地下に生息している糞クジラなのだが鬼畜王ランスにてラスボスとして登場、但し倒すと大陸が落下してしまいバッドエンドとなる。
 糞クジラの好きなものは戦争などによる怨嗟の叫びであったり、悲痛に咽び泣く声であるため大陸での戦争が起きなくなると大陸中に天使を派遣し生物を殺戮し世界をリセットしようとする。
 その為、退治しに行くのだが、殺してしまえば上記の通りバッドエンドなので別の手段を取る必要があるが、その条件を知ることも選択次第で不可能となることがあるので注意である。
 この作品ではランスシリーズの外伝である鬼畜王ランスの糞クジラであることを留意しておいてほしい。
 別名:ルドラサウムと呼ばれている。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。