金属と金属がぶつかり合う音を鳴り響かせながら、突きには突きを、なぎ払いにはなぎ払いを、打ち下ろしに打ち下ろしを、袈裟懸けに袈裟懸けを合わせながら、差をまざまざと見せられる。
「ぬっ!……くぅっ」
こちらは苦悶の声を上げ必死にかじりついていくのに対し、笑みさえ浮かべ息つく間もない連撃を繰り出してくる。
「ふん!はぁ!まだまだギアは上げれるぞ!」
余裕すら見せ魔力を練り上げ、魔法を放つ素振りすら見せてくる。
「コ『コール・グレータ―・サンダー』!」
魔法が互いに発動し、現実であればぶつかり合うはずのない雷が空中でぶつかり合い相殺しあう。
「くそ!貴様は何者で、なぜこんなことをする!」
鍔迫り合いの様に状態で密着しながらも、この疑問が晴れない。
こいつが強いのは相手取っている俺がよくわかっている、それでもわからないのだ。
殺意や殺気というものが感じられない、まるで殺すことを目的にしているわけではないと自分から言っているようにも感じられる。
だというのに戦うことを望みまた愉しめる性格をしながら、狂っているわけでもない非常に理性的なのがわからない。
「あぁ、これは失敬。戦う前に名乗るべきでしたか……恐らく気づくと言われていましたが。その質問が来るということは気づかなかったということでしょう」
鍔迫り合いから押すように打ち払われ、追撃のように火球を生み出し距離を無理やりに作られる。
「私は魔人ジーク。魔王ジルに仕えた魔人の一人です、一度消滅しましたが環が神に生き返らせていただきましてね。その為、環が神の思惑にお付き合いしているのですよ」
綺麗にお辞儀をして、そんな説明をしてくれるのだが蘇生は普通に……出来る……は……ず。
「消……滅……からの蘇生……?」
ワールドアイテムのロンギヌスの槍による消滅からも蘇生をさせれる相手が黒幕にいる。
「えぇ、えぇ、その想像通りで問題はないですよ。故に述べたでしょう?あなたは頂上の神々からの加護を得ていると。そしてご想像通り、私は環が神に強化されておりましてね。あなたの能力と同値にするわけではなく私の能力に加算するという形になっていますよ。もう一度言わせていただきましょう、あなたでは私に勝利することはできない」
今まで出していなかっただけの殺意や殺気がジークと名乗った俺から噴出されるそれはアンデッド達ですら怯ませる様な濃密なものだった。
そんなものに経験も耐性もない俺は、縛られるような梗塞感が強く襲い掛かってくる。
「何よりもあなたは格上や同格の戦闘経験が圧倒的に足りていない。あなたのしてきたのは所詮仮想空間でのシミュレーション、此処で知覚しながら死んでいきなさい。下劣なことは私は嫌いなのでね、安心しなさい……あなたが動けなくなれば最後に殺してあげますよ」
「それを聞いてなおさら引けるものか……」
殺される恐怖、ぶつけられる殺意に震える手を使って自分の頬を思いっきりぶん殴る。
恐怖に狭まった視界が拓ける、震えも小さくなる、体も動く。
「なんでだろうな……俺が殺されるよりも『そうされること』の方に怒りが湧くのは……」
殴って口の中を切ったのだろう、いつか振りに味わった鉄錆の味が口内の広がり唇の端からこぼれて伝うのを感じながら、『俺が負ける』ことで今まで話した、顔を見た、たかが一日なのにその生活を支えてくれた人が死ぬのだと、自分に関わることで殺されるのだと、目の前の存在を野放しにすることでそうなるのだと、知った。
ちりちりと燻る様な小さなものだが、確かに芽生えた火種。
「そんなことはさせない、俺の目の前でそんな前を許すことが出来るか!」
「ほぅ……結構な答えです。目の前でなければ多少は目をつむれる……いえ、そこまで自分の手が広くないと知っているのは実に結構。そのうえで自分の身内に降りかかるものを打ち払うと、相手にも何かしらがあろうとも己が断ずると」
互いに打ち込める距離でありながらこちらは出方を警戒し、そして向こうは笑みを浮かべて拍手を向けてくる。
それは一種異様な光景だろう、戦いにそぐわぬ光景でありながらその在り方は如実に互いの力関係を示していた。
今、俺に勝ち筋はない、だがそれは相手も同じ。
互いにダメージを負わせすぎることが出来ない制約の元、条件は同じでありながら強者と弱者の構図が生み出されている。
それが腹立たしく思う。
「さて、話はこのくらいにして……殺し合いの続きをしましょうか!」
その言葉と同時に巨体がジークの後ろに倒れこむ。
その巨体は二対の腕を持ち、頭部にはねじれた角、紅く輝く双眸、翼こそないもののもっぱら悪魔と表現するべきその巨体は二体いて、同じものが同じように殴り飛ばすというこちらと似たようなことをしていた。
「なんかいつの間にか怪獣大決戦になってる!?」
「あれ……大叔父さんみたいです……」
すごく申し訳なさそうにエンリが教えてくれるんだけども、どうすればレゾさんがあんな姿になってるんだ。
「おや、それなりのドッペルゲンガーだったと思っていましたが写せたのは表面的な強さだけでしたか……いや、変装を変身というしとよりはましかもしれないですね」
かなり余裕のある口調で喋りながら、ほぼ同時にも見える三連突きから流れるようになぎ払い、廻し蹴り、叩きつけ、すくい上げ、逆側を廻してのすくい上げ、サマーソルト、体を捻ってかかと落としと息つく間もない連撃を必死に打ち払っていく。
しかも攻撃の合間に
文字通りの必死に、三連突きで手のひらの皮が全てダメになる、なぎ払いで腹部には裂傷、廻し蹴りで鼓膜が破れ耳から血を流れる感覚がありながら右からは何も聞こえない、叩きつけで左肩が外れた、すくい上げられたことで肘もダメだろう。
秒とかからず俺は血反吐を吐いて地に伏し、背を踏みつけられていた。
「この程度ですか?」
足を一度上げ、位置をずらして喉を踏みつぶされる。
「ふぅ……この程度で終わるとは……なぜこのような弱い存在に神々は加護を与えているのか。実に不思議でなりませんね。本来の貴方であればこのまま持ち帰り殺すことなく加護を奪おうと画策するかただ心臓が動いている状態にでもするのでしょう」
喉が物理的に潰されたことで声を出すことが出来ず、虚しいうめき声の様な音が口から洩れるだけ。
逃げろと叫びたかった。
「…………」
出てくる音は壊れた笛を吹くような不協和音と血から泡立つ音だけが小さく聞こえる。
ゆっくりとジークの語る言葉遠くに聞こえる。
頭の中には電子音が鳴っている。
言葉にはできないが、腕が悲鳴を上げる中、掌だけを浮かせて本を呼び出す。
『待……て……』
鈴木さんの声まで遠くに聞こえる。
ただ心の中でそれに縋る。
「(白地蒙昧の瞳よ……)」
世界は凍る、心に応えるように。
世界から色は失われ眼前がひび割れ、その隙間から見える幾億もの廻る歯車に繋がれた数えきれないほどのケーブル。
忙しくなく動き回るモノアイの一つがこちらに視線を送ってくる。
『力が欲しいか』
その声がどこから出ているのか、ただ頭の中に直接送られてくるような問いかけ。
「ああ、欲しい」
『力はお前を歪ませる。それでも欲しいか」
「ああ、欲しい」
俺が歪もうとかまわない。
左拳を握り締め、もう一度声に出す。
「力が欲しい!……為の力が!」
無機質な機械の目は変わらないのに、目を細めこちらを見つめているように感じられた。
『
「かまわない、在るのなら!
『
憤るとも、悲しむとも、嗤うとも言えない表情を見た気がする。
それを最後に世界は色を取り戻し、解凍される。
手のひらが痛むが、いうことを聞かない腕を動かし、身体に力を入れてゆっくりと立ち上がる。
「まだ立ち上がれますか……終わったかと思ったのですがね」
「【
「サトルさん!」
左腕を掲げ、手のひらをかまえる。
ページがめくられながらその中に積み込まれてきた知識というモノが文字の形をとって、脳髄を焼くようにシナプスを無理矢理に稼働させていく。
「俺の
皮が引っぺがされて中の肉はおろか所々白い骨が見える、その掌からは赤かった血が流れ燃料として陽彩の火に飲み込まれていく。
「おめでとう。そしてようこそ……ヒトの道を踏み外すものよ。ここに私の敗北は決定した、潔く
ジークは拍手をしながら魔法陣に縛られたまま、薄ら笑いを浮かべ終わりを待っている。
ジークの姿は鈴木悟の姿ではなく黄色いナメクジを無理矢理人の形にしたような姿でスーツを着込んでこちらを見ていた。
「餓えず!乾かず!無に、還れ!レムリア・インパクト!」
アッザ「なんかいろいろ混じってない?」
デウッさん「元の詠唱を知らないからだな」
L様「魔法の詠唱がそれでいいの?」
アポ「それはアカシックレコードがまかなうからいいんじゃない」
カオス「まぁそんなとこじゃの」