これだけはこの作品のカルネ村に行くより前のこと……
円卓の間にて鏡の前で悟君は操作を試している。
俺の背後にはセバスが、影の中にはパンドラとハンゾウ(後のムジナ)がいる。
「なるほど動かし方はこうか……」
指を拡げるように上下に動かせば縮小され視野が広がる、逆に縮めれば視野は狭まるが拡大されて詳しく見ることが出来る。
左右に開閉すればそれぞれに一点を中心に縦軸回転を始める、指を動かす方向に視点を動かすことが出来る。
『(すまんがしばらく口を借りるぞ、身体のコントロールももらうことになるが何処が見たいか言ってくれ、そっちが見えるように操作する)』
『(操作のしかたもわかりましたし……でも、あんまりいじめないでやってくださいよ。たっちさんに似て凹みやすいと思いますから)』
『(全くもって、もうちょいメンタル強くあってほしいんだがねぇ……)』
一瞬映った姿に目を細める、実際には一瞬よりも短い一刹那ともいえる時間かもしれないが、確かに映った緑の三角帽に杖先に紅玉の付けたスタッフ、襟を立てるように纏うマント。
ただ似ている、というには楽観主義過ぎる。
それは映ったものにしても、セバスのしなかったこと、もしくはしてしまったことに関しても放置するには危うすぎる。
「セバス」
「はっ」
声をかければ血を失うような顔色で立ったまま返事を返す。
鏡に目を向けたまま、セバスに振り返ることなく質問をする。
「お前が報告した通りにナザリックの周りは草原だ……草原だなぁ?俺の記憶が確かなら沼地だったはずなんだが?」
「はっ……その通りでございます」
返事は肯定、確かに報告した通りではある。
「では、他には?」
「……は?」
気の抜けた返事は全く考えていなかった質問をされたことがよくわかる反応だった。
確かに報告はされている『メッセージでこちらから進捗を聞いたとき』に報告されている。
「俺は、異変があれば報告しろ、と言って向かわせたはずだが……草原に変化していた以上の異変があったのか?そしてそれを報告しなかった……ということになるんだが?」
後ろに視線を送るように片目だけでセバスを見据える。ただ返事があるのを待つようにじっと見つめる。見つめる先には俯き全身が震えている。何もしゃべらずただただうつむいていた。
身の内を震わせるのは悔恨か?恐怖か?後悔か?畏怖か?畏敬か?
それは怒りに身を震わせていた。
過去の自分を殺したいほどの憤怒。
「(いや怒るのはいいんだが、そりゃ的違いだろ……過去を悔いようが過去に憤ろうがどっちも今のお前だよ)」
根本的な部分で弱いサトルの心情をコピーしたようなNPC達。
自分の行動が与える他者への関係を慮って怯え竦み足を踏み出せずに後悔をしていく。
たっぷりと一分返事を待ち、溜息を一つ吐き、改めてセバスに向き合う。
「
うつむいたまま脂汗を浮かべるのを嗅覚で感知して、何よりも俺たちからの信用信頼が失われ棄て置かれることを恐怖していることにようやく気が付く。
「(そんなことは俺の知ったことじゃないがな)」
『(酷くないですか?鈴木さん)』
恐怖していることに気が付き思った事に悟君からすぐにツッコミが入ったが、現状における認識の甘さを鑑みれば本当に知ったことじゃない、それよりも優先することがある。
「お前はこの草原を見た時、報告をしなかった。セバス、お前が報告せずこちらが確認を取るまでにどれだけの時間が経過した?」
「い、一時間ほど……かと」
質問に対して返される返答に一つ頷き、さらに質問を連ねる。
「沼地から草原に変わっていた。お前はなぜそうなったか……沼地から草原に変化した原因に心当たりは何かあるか?」
「わ、わたしには皆目……」
その答えに溜息を一つつき、そして一つ指を立てて、仮説を上げていく。
「そうか、見当も付けられず、その上で報告しなかったのか。まず考えられる仮説がナザリックの転移、ナザリックはそのままで地形が転移した、時間経過による土などの累積による地形の変化、魔法または別の何かしらでの地形を変化させられた。まぁ、軽く考えられるのがこのくらいか……セバス、お前が報告しなかった一時間、この変化を基にした対策が一切立てられない状態だった。この危険性は……流石にわかるな?」
その言葉に跪き頭を垂れて許しを願い出ることもなく震える。
願い出ることすら不敬とでも考えているのだろう、それともニグレドと同じようにこの首をもって、とでも始めるつもりか。
「お前の命でこの失態つり合いが取れるなどとほざくなよ?少なくともツェーグ達の姿は見当たらないことから時間経過による地形の変化は消してもいいだろう……ユグドラシルの分布システムがまだ生きていると仮定して、の話だがな。となると地形を変えられたか、転移させられたか、したか。そうなれば何を警戒するべきだ?セバス」
「そ、それは……し、しかし、至高の御方ならば!」
勢いよく顔を上げてこちらを見る。
どこまで妄信しているのか、盲目の羊と変わらないな。
「警戒するまでもない?少なくとも俺はそうは思えんがな……最大限の警戒を傾けるべきだ。こちらに出来ないことをして見せられて慢心できるとはな、呆れたものだ。慢心を棄てろ、生態系は不明少なくとも轍や舗装された道はおろか獣道も無いことから居ても草食の小動物、肉食動物は少なめ、大型が徘徊している様子は見られない、近寄らない理由が有るのか……自動POPモンスターに異常がなかったということはナザリック内では最低限のシステムは生きているということ、外ではその様子がないということであり周囲が転移してきたということも捨てられる、となるとナザリックが転移をさせられたかしたか。こちらにその方法に心当たりがないとなれば転移させられた、ということになる……」
セバスと悟君が理解するまでしばらく待つ。
『(何でそこまで掌握してるんですか!?俺じゃ精々外のレベルが高いかもって警戒するくらいしかできないですよ!?)』
「(こっちもできるのは精々そんなもんだよ……ただ、悟君ほど過剰に恐れてねぇだけよ。取れる手は多くはない、下手に地形を弄るのは情報を潰すことになるから悪手だろうよ)」
『(それじゃどうするんです?)』
「(考えろ、そして学ぶ。思考を止めるな、一つで満足するな、可能性から考え一つ一つロジックにはめ込んで道を造れ。過剰に恐れるな、幻に掴まれるぞ)」
起因があって因果が繋がり結果に結びつく、それを正しく丁寧に解きほぐす手法から教えていこう。
「もしお前がいの一番に報告していれば、対応も変わっていた。百聞は一見に如かず、百閒は一考に如かず、百考は一行に如かず、百行は一果に如かず、百果は一幸に如かず、百幸は一皇に如かず。最後までいけとは言わんがな……一時間あれば一行位までは行けただろうな。少なくともナザリックの外に見張り位は立てれたろうよ。朝まで何もなかったことから杞憂に終わったがな」
説教はこのくらいでいいだろう。
「(それじゃコントロール戻すぜ)」
一つ一つ教えて行きゃあいい……全部は無理だろうが、そこから進めれさえすればいい。
そして、カルネ村を発見することになる。