なんでオーバーロードの姿から人間になってんだって?これからわかっていくからのぅ
男は気が付けば其処に居た、としか表現のしようがなかった。
「……どういうことだ?」
男は意識したわけでもなく勝手に言葉を発した自身にこそ驚いていた。
『何が起こっているんだ?』
「うぇっ!?」
更に頭の中に鐘でも鳴らすように響くような声が響きこめかみを押さえる。
『なななななななななななななぇぇぇえええっ!?』
『まずはもちつけ。ほれ、ひっひっふー、ひっひっふー』
「いやいやいやいやいやいやいやいやいや!?」
でたらめに動く骨の腕や、下に視線を向けてみりゃ足まで骨でやがる……まじでなーにこれぇ。
「んー……おらは死んじまっただー?」
顔を上げる気配がする、そっちに視線をやれば顔を真っ青にしてこちらを心配そうに見る顔、顔、顔、真横にも顔。
「ふむ……」
全員の顔を見渡してから挨拶をしてみる。
「どーも、『鈴木 悟』です。一人ずつ名前を教えてくれないかな?」
『あの、俺も『鈴木 悟』なんですけど……というか人の身体勝手に使わないでもらえますか?』
『わはは、同姓同名じゃん。俺も切り替え方わからんし、交代したいと思ってもできないのよな』
「守護者統括のアルベドでございます。お忘れなのでしょうか?モモンガ様」
真横に居た美人が名乗りを上げてくれるが、アルベドという名前に心当たりがないかと記憶を探ってみれば、おそらくこの身体の本来の持ち主であるナザリック地下大墳墓の記憶を流し込まれるように見ていく。
そうしてみれば不思議なことに、此処『ナザリック地下大墳墓』のことがおおよそ知ることができた。頭が割れるように痛いが。
「セバス・チャンでございます」
「ユリ・アルファでございます」
「ルプスレギナ・ベータでございます」
「ソリュシャン・イプシロンでございます」
「ナーベラル・ガンマでございます」
「エントマ・ヴァシリッサ・シータでございます」
「…………シズ・デルタでございます」
「おK把握、セバスと……メッセージが使えて尚且つ飛行ができるのは誰か?」
名前を聞いて、最初に名乗ったセバスとメッセージと飛行ができるという条件で絞ればエントマとナーベラルが名乗りを上げる。
「それじゃセバスと……もう一人はセバスが決めて、異変があればメッセージにて俺に知らせること。ナザリック地表に出て半径一キロを調べてきてほしい。一時間半後に二人の報告をもって第六階層のアンフィテアトルムに来るように」
さて、細かく指定はしていないがこれで自己判断ができるかもわかるだろう、友好的に接するのか敵対し攻撃を優先させるのか……それも外に出られるなら、かね。
「残ったプレアデスはシズ以外で第十階層、第九階層に異変がないか調べること。他ギルメン及びの俺の部屋もノックして返事がなければ入りチェックすることを許す」
アルベドは静かに佇んではいるものの瞳は期待に輝かせているのが見て取れる。
その期待を無視するようにアルベドに声をかける。
「アルベドは第八階層より上の階層守護者に異常の有無の確認及びに、セバスらと同じ時間までにアンフィテアトルムに集合する旨を伝えろ。シズは近くに」
アルベドは慌てて俺を止めようとするが、同時に鈴木 悟の声も頭の中に響く。
「そんなモモンガ様、私ではだめなのですか!?」
『シズに何をするつもりですか!?あなたは!』
「宝物庫のギミックの確認なのだから、アルベド。お前ではダメだろ」
『アッハイ』
わざわざシズを選んだ理由を説明しなきゃならんとはため息をこぼす。
「シズは宝物庫を含めてこのナザリックのギミックを網羅している。直接確認することで齟齬がないかの確認。俺がともに行くのは宝物庫に用があるのも確かだが、行くのにリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンが必要だからだ。全員、行動は理解したな?異常事態を前に私情を持ち出し無駄に遅延させるつもりか?早く行動に移せ」
その言葉に弾かれたように全員が動き出す。
シズは近くに近寄り、その手を握りしめ指輪による転移を試みる。
目の前には金貨の山が無造作に積まれ、その中にはそれなりのドロップアイテムがちらほらと黄金の山を彩る様にちりばめられていた。
などとという風景ではなく、ホラーハウスよろしく不気味な雰囲気満載な第五階層にある氷結牢獄の中に直接転移することができていた。
シズの様子を見てみるが冷気によるダメージがあるのか、ぶるりと身を震わせていた。
「これを着けておけ。冷気遮断効果があったはずだ」
アイテムボックスから赤いビロードマントを取り出しシズに渡しておく。
「ですが……」
表情こそ変わらないが大体何を言いたいのかはわかる。
「文句は後で聞いて……いや、説明をしてやる。だが今は時間がない」
「……わかりました」
渋々といった感じで手渡されたものを身に着けて後をついてくる。
その間に赤ん坊のカリカチュアを用意して、アルベドの姉であるニグレドのいる部屋と辿り着く。
部屋の中には揺り篭を揺らす女性、黒い喪服を着た女性が今の目的としているニグレドだった。
ニグレドの動きがぴたりと止まったかと思えばゆっくりと揺り篭に手を入れると、そっと赤ん坊を取り出したがそれは赤ん坊ではなく、今俺が持っている様な赤ん坊のカリカチュアだ。
「ちがうちがうちがうちがうちがう」
振りかぶり、投げれば壁にぶつかり爆散する。
「お前の子供はここだ」
本来ならここから更に怖がらせるように動くのだが、今はただの時間の無駄と切り捨てる。
「おおおお!」
大切な我が子をもう手放さない。そんな母親の優しげな抱き方で抱きしめると、揺り篭に赤ん坊の人形を戻す。そして俺達に長い髪に隠れた顔を向けた。
「これはモモンガ様、ご機嫌よう」
「久方ぶりだな、ニグレド。今回はお前に頼むことがあってきた」
「そのような頼む、などどうぞご命じください」
ころころと笑う様に答えるが、その答えに俺は落胆こそすれども表情は変わらない。
「そうか。では階層守護者たちが密会するようであれば、逐次録音しその報告をし録音したものを聞かせろ……階層守護者たちの監視をせよ。これには統括でありお前の妹であるアルベドも含む」
笑顔であったニグレドの動きが凍り付くように固まり、次の瞬間には真剣な顔を向けてくるが声は絶望に打ちひしがれているように聞こえる。
「階層守護者たちが何か阻喪でもされたのでしょうか?」
「さてな。今はしていないかもしれないが、この先は保証しきれん。あぁ、言うまでもないと思うが今命じたことは……この場にいないものに話すことまかりならん」
ニグレドが恐れ戦く様に震えているのが見えるが嫌な予感しかしない。
そんなニグレドを見て本来の鈴木悟君はというと
『さらにリアルになっててこわいぃぃっ』
このように恐怖によるパニック状態になっております。
『アンデットって精神安定みたいなのなかったかいな?悟君には作用してないのかね、俺はこの顔を見ても特に動揺するようなこともないんだが』
「では階層守護者たちの首をもって粗相の謝罪とさせていただきたく……」
「お前は何を言っているんだ?」
嫌な予感的中、的中してほしくなかったがな。
「それをすることに一体何のメリットがあるんだ?人手は足りなくなる、管理する奴はいなくなる、蘇らせるのに金貨が結構な量が必要、それとも何か?俺は仲間内の争いこそ娯楽とか言う狂人だと思っているのか、人死にに快楽を見出すサイコだと?対外的にそいつの死で場を収める必要があるならわかるが……この場合いったい何が収まると?」
こいつらの基本思考がわかった。俺ないしは悟君を不機嫌にしたやつの存在を許せない、それが自身であろうともだ。
『それが当たり前』そういう思考にしてきたものの正体が見えてきた。最悪のパターンだな、こいつは……お相手は『ナザリック地下大墳墓、ギルドアインズ・ウール・ゴウン』か。
その為にNPCの大半いやほとんどが、それに気が付かないようにしているとは念の入れように胆が冷える思いだよ。この身体じゃ存在しないから冷えることはないが嫌な気分だ。
「それだけの謝罪の意識があるという事は受け取っておこう。だが安易な『消費』をもって謝罪などといわれるのは不愉快だと覚えておけ。失態はこれからの行動で取り戻せ」
あ、これ階層守護者たちにも言わなきゃならなくなりそう。
「シズ、これから宝物庫に飛ぶ。近くへ」
「……はい」
目の前に広がる金貨の山海、それを彩る幸のように所々から見え隠れする財宝。
今回も問題なく転移することができたようだ。
「シーゼットニイチニハチ・デルタ、略してシズ。これに間違いはないな?」
「はい、間違っておりません」
「玉座での名前を聞いたときに沈黙があったのは、違和感を感じたか……それとも俺の状態を見抜いたか?」
俺は金貨の山を歩きながらシズへと質問をしていく。その内容は玉座の間で気が付いた違和感の確認。
「違和感を……感じました。魔王然と幕引きの言葉で締めくくられたのに、あのような軽い言葉は不思議だった」
「当然だな。それを感じることが当然な筈なんだ。その上で俺は『モモンガ』ではなく『鈴木 悟』と名乗った。違和感を感じていないものの方が俺には不気味に思えたよ」
「ニグレド様に先にお会いされたのは?」
「情報特化の彼女であれば見抜くかと思ってみたのだがな。残念ながら当てが外れた、が改めて『敵』の大きさを知ることができたよ」
「まさか侵入者が?」
「侵入者ではないが俺の、そして君たちが言う『モモンガ』の敵であることに違いはないな……精神耐性が完備だからと甘く見ていたよ。システム外からの緩慢な洗脳を仕掛けてくるとはな」
顔こそ表情は変わらないが、寒さとは違う震え方をしたのを見る。そんな様子のシズの頭の上に骨の手を置きわしゃわしゃと撫でまわしてやる。
『ここ以外にも同じようになっていると想定して……最悪『ナザリック』を捨てる必要は出てくるな。拠点を失うのは補給やらの面で不安ではあるが、この辺りはセバスからの報告待ちか』
『俺は最初……この『ナザリック』の支配者としてふさわしい言葉遣いとか……考えてました。そんなロール皆が居なくなってからして無かったはずなのに』
『そう思うように思考誘導されたんだろうな。そう思ってしまえばそこからなし崩しに『オーバーロード』として振舞う様に外堀から埋める、その外面を外せなくする……はっはっはっ、ただのサラリーマンにゃきっつい事強要させようとするな』
『うわぁ……聞くだけでぞっとしますね……』
「着きました」
シズを撫でながら悟君と会話していれば目の前には金貨の山は途切れ、安っぽい黒いのっぺりとした扉の絵が壁に引っ付いているような場所に着いた。
「それじゃ開けてくれ。さて
「———かくて汝、全世界の栄光を我がものとし、暗きものは全て汝より離れ去るだろう———」
黒い闇が収束していき空中にこぶし大の塊になる。時間が経てばこれも元に戻るが十分やそこらでは戻らない。
「さて、行こうか……やはりシズを連れてきて正解だった。ここまで話し相手がいないと寂しいからなぁ」
「…………ありがとうございます?」
こてんと首を傾げ、こちらを見る。パスワードなどの知識も正確に働いていることも確認できた。後は味方に引き込めるか、だが恐らくは大丈夫だと思う。あの恐れを感じてなお一人で直視することは難しい……いつの間にか侵食される、記憶を侵される、在り方を喰われる。
再度、俺はシズの頭を撫でる。今度は優しく……安心させるように。
静かにされるがままになっているシズの頭から手を離し、博物館のように数多の武器が飾られる場所を歩いていく。
しばらく歩くと武器が飾られている場所は途切れ、ゆっくりとした動作でブレインイーターであるタブラ・スマラグディナの姿を取ったパンドラズ・アクターが現れる。
「……」
「……パンドラズ・アクター。元に戻れ」
「お断りします。モモンガ様の姿を真似た……何者かは知りませんが、モモンガ様を返していただきましょうか」
それは明確な怒りを含んだ言葉であり、敵対を宣言した言葉でもある。
「そうか、パンドラは俺がモモンガではないとわかる、と。やれやれ賭けにはなんとか勝ったかぁ……そうそう、これモモンガ君の身体だから無茶はせんでくれ」
俺はパンドラの言葉に脱力して安堵する。
それを訝しげにパンドラに見られるが、それを気にしている余裕はない。
「さて……詳しい説明をしたいのだが、聞いてくれる気はあるかな?」
魔法にて椅子を三脚と丸形のテーブルを作り出し、座るように促すとパンドラは警戒の色をにじませながらも憮然とした態度で勢いよく椅子に座る。
「うむ、対話とは同じ席に着くことから始まるものだと俺は思っている。何から話したものかな……まずは俺は『鈴木 悟』という。モモンガ君にリアルという違う世界を持っていることは知っているかね?」
同じく座ったシズとパンドラは知っていることを肯定するように頷く。
「知っているようで何よりだ。まず『鈴木 悟』という名前はリアルでのモモンガ君の名前でもある。これはたまたま同じなのか、現状における必須条件なのかは不明。とりあえず同じ名前なのだと思ってもらえればいい。続いてはリアルとユグドラシルの関係だな」
『鈴木さん!何を話すつもりなんですかっ!』
「『リアル』において造られた箱庭、これがユグドラシルであり、そのユグドラシルのルールを作りモモンガ君のようにプレイヤーが遊べるように設定したのが、多少は聞いたことがあるかもしれない『くそ運営』という存在だ。そしてお前たち『NPC』はそのルールに則って創り出された人形という事だな。コマンド無くては動けない存在、『だった』。が、現在どういう訳だか自由意思をもって自分の意志で動いている。これが俺が捉えた異常事態のひとつ」
「あ……動けることが……当たり前だと、思っていた……」
俺の説明にシズが気が付いた事実に恐れ戦く様に震える身体を抱きしめ縮こまらせる。
「その為ギルドメンバーの多くはリアルの肉体を維持するためにここから離れることになったんだ。他の箱庭を見つけたメンバーもいるだろうがな、これは未知を探すのが好きな奴に多かったんだろう、もしくは事故か病気で来られなくなったメンバーもいるかもしれない。リアルとユグドラシルの関係としての説明はそんなものだな。何か質問はあるかな?」
しばらく待ってみればパンドラはタブラの姿から本来のピンク色の卵頭に三つの穴が開いたような姿に戻っていく。
「それはやはり……至高の御方々はモモンガ様を見捨てられたということに……」
「あ、それは違うぞ。それは悟君がヘタレて手伝いを頼まなかったからだ。ヘルプ頼めば暇してる奴なら手伝ってくれただろうに、そう言った声掛けもせずに遠慮してれば疎遠にもなるだろ」
『……こふっ……』
あ、血を吐いて倒れた。精神世界だと思うんだが変に器用な奴だ。
「しかし、人形だと説明したが衝撃は何もないのか?」
「そもそも、私達守護者たちもメイドの皆様方も『創造主よりそう在れと造られた』と認識しておりますので。造られた、とおっしゃられてもすでに承知の上でございます」
なるほど、ホムンクルスとかまんま生命創造に着手された種族だし、シズもアンドロイドで創られて然るべき種族だものな。
それが当たり前な種族でもあるわけな上に、それを既に認識したうえでそうして存在していると、悟君の心配は杞憂だったな。
「ふむふむ、なら今度は俺と悟君の現状を伝えておこう。『俺が悟君に憑依している』が現状だと説明できる限界だな……あぁ、勘違いしてくれるな、俺にも現状は謎だらけなんだ。それ以上の事がわからない。二重人格に近い状態だと認識してくれ」
「ではモモンガ様は今?」
「ヘタレ発言で精神ダメージ受けていじけてる」
「アッハイ」
身を乗り出し聞いて来たはいいが、あまりにもあんまりな理由でへこんでいると聞いて乗り出した体を元に戻していた。
「ここに来た理由は幾つかあるんだがな。まずはシズの設定の確認、これはそういうものだからで軽く済ませるわけにはいかなかったから。二つ目はパンドラが俺を見抜けるかどうかの確認。説得出来れば味方になってくれるだろうと踏んでいたのもあるな。そして三つ目、人化できるアイテムってないか?出来ればレベルダウンの発生しないものがあると嬉しいんだがな」
「じぃぃんかのアイテムでございますね!」
アイテムを探してもらおうと説明すると突然立ち上がり、オペラか演劇のように大きな身振りで叫びだした。
シズはそれを見て身を引いているが、外人だとボディランゲージしながらしゃべる人もいるからそこまで吃驚するものでもないと思うが。
「まずは!人化の指輪!こちらは種族レベルを失う代わりに!人になることができます!メリットは!幻術ではないので見破られる心配がない!デメリットは!種族レベルが高ければ高いほどに装備時のレベルダウンが高くなるという事でございます!」
「40のレベルダウンは流石に却下だな」
「では!次はこちら!シューティング・スター!超位魔法ウィッシュ・アポン・スターを瞬時に発動!メリットはあと二回使えること!デメリットは狙った願いが出るか否か!更にあと二回しか使用回数が残っていないことでございます!三回使ってしまえば失くしてしまうので!できればやめてほしいですが……」
「ん?それは誰のものだ?さすがに他のメンバーのものを使用するのは悟君が難色を示す」
「やまいこ様の物ですね。最後に寄られた際に寄贈されていきました!では次はこちら!進化の秘宝!父上たちがトロフィーのように大っっっ量に取ってこられたものでございます!」
「……は?……進化の……秘宝……だと!?」
「はい!その通りでございます!」
「まて、同時期に放り込まれたものを探せ!同イベントで集められたものすべてだ!」
次回、何があって人化しているのかの説明会と
省かれることの多い忠誠の儀!
中身おっさんなので当然のように違う結果になるぞ!
こうご期待
ついでにアンケートに初挑戦してみよう(アンケートは既に出てた模様