ハイスクールD×D
~堕ちた聖女の剣~
第八話
「特訓」
ライザー・フェニックスとのレーティングゲームが決まった翌日、オカルト研究部部員は全員学校を公休扱いで休み、グレモリー家が所有する山に来ていた。
この山はリアスの実家であるグレモリー家が土地の権利を有しており、山頂辺りにはグレモリー家の別荘も建てられているので、山篭りでの修業には丁度良い場所なのだとか。
「どへぇ~、きつい……」
「イッセー君、口に出さないでくれないか……僕も辛くなるよ」
大量の荷物が入ったリュックを背負っている一誠と祐斗が汗一杯流しながら坂道を登る横ではリアスや朱乃が涼しい表情で辺りの景色を楽しみ、男子と同じ量の荷物を背負っている小猫もまた、自然の空気を心地良さそうに吸い込んでいる。
そして、唯一の人間であるアーシアはというと、手ぶらでアーシアの分の荷物を背負うアーチャーの横を歩いていた。
「マスター、疲れてはいないかね?」
「はい! 私、これでも体力はある方なんですよ!」
「そうか。だが別荘に着いたら少し足をマッサージしてやろう、疲労は間違い無く溜まっているはずだからな」
元々田舎育ちのアーシアは同年代の少女に比べれば体力がある方だという事自体、アーチャーも知っているが、それでも山登りというのは鍛えている者でも疲労が多く蓄積されるものだ。
現に、悪魔になって人間以上のスタミナを手に入れているはずの一誠や祐斗もバテてきている。もっとも、彼らの場合は重たい荷物を背負っているのも原因の一つだろうが。
「さぁ、見えたわよ」
漸く別荘に着いたらしい。今までの森の風景が一変して開けた草原に一軒の豪邸が建てられているのが見えた。
「イッセー、祐斗、お疲れ様、早速だけど部屋に案内するから、着替えて庭に集合して頂戴」
因みに部屋割りは一誠と祐斗が同室に、リアスと朱乃、小猫、アーシアは大部屋に一纏めだ。アーチャーの部屋も用意してあるとリアスは言ってくれたが、睡眠を必要としないアーチャーは丁重に断り、夜は屋根の上で過ごす事になった。
そして、現在、全員がジャージに着替えて庭に集合して、これから10日間行われる特訓の内容が説明される。
「まず、イッセー」
「はい!」
「イッセーには最初、祐斗と剣術訓練、その後は小猫と格闘訓練、そして最後に朱乃と一緒に魔力運用の勉強をした後に悪魔社会の基礎知識を教えるわ」
「了解っす」
「アーシアは、アーチャーが見るんだったかしら?」
「ああ、それから木場祐斗、君も兵藤一誠との訓練が終わったら私の所へ来たまえ」
「僕ですか?」
「そうだ」
祐斗の
故に、祐斗を更に強化出来るのは自分くらいだろうと思い、声を掛けたわけだ。
「じゃあ、それぞれ訓練を始めて頂戴」
リアスの号令で皆が指示された内容の訓練をする為に移動を始めた。
アーチャーとアーシアも訓練の為に一度別荘の中に入り、落ち着けるであろうリビングのソファーに向かい合わせで座る。
「それで、私は何の訓練をしたらよろしいのでしょう?」
「うむ、マスターには魔術を覚えてもらう」
「魔術ですか?」
「そうだ、私を召喚したという事は、アーシアには間違い無く魔術回路がある。ならば手札を
既に調べたところ、アーシアの魔術回路はアーチャーの召喚により活性化し、今はスイッチがOFFになっている状態だった。
なので、魔術習得の第一段階として先ず教えるのはスイッチのONとOFFの切り替えであり、そのためにアーシアには回路のスイッチを見つけてもらわねばならない。
「アーシア、まず私が君の魔術回路に微量の魔力を流す事で強制的にスイッチをONの状態にする。多少の苦痛はあるだろうが、それに堪えながら自分の中からスイッチを見つけ出し、回路を閉じてみるんだ」
「わ、わかりました」
「では……
アーチャーが微量の魔力をアーシアの魔術回路に流した瞬間、彼女の魔術回路が強制的に活性化され、その影響でアーシアにとてもではないが多少とは言えない苦痛を与えた。
「いぐっ!? う、うぅ~っ!?」
「堪えろ、そして集中しろ。自身の苦痛の中にあるイメージを明確に掴み取れ、それこそが回路のスイッチだ」
苦痛に呻く中、アーシアは何とか自身の内へと集中していき、アーチャーの言う魔術回路のスイッチを探す。
すると、朧気だがイメージが勝手に浮かんできたのに気が付く。それは十字架に貼り付けにされた自身の心臓に槍が突き刺さっているイメージ。
「見つけたようだな、ならば自ずとどうすればOFFに出来るか判るはずだ」
今がONになっているという事は、槍を抜くイメージをすれば良いのかと、その通りにイメージすると、苦痛が少しずつだが落ち着き始める。
アーチャーもアーシアの魔術回路がOFFになったのを確認し、どうやら成功したようだと胸を撫で下ろした。
「成功したようだな」
「は、はい……」
「では次の段階に移ろう。アーシア、今度は回路を開いてみてくれ」
「えっと……」
今度は先ほどの槍を十字架に貼り付けにされた自分の心臓に突き刺すイメージによって回路を開いた。
問題無く開かれたのを確認すると、アーチャーは再び閉じる様に指示してから今後の魔術習得についてを説明していく。
まず、アーチャーが調べた限りアーシアの魔術属性は癒し、起源は治癒という実にアーシアらしいのだが、アーチャー自身同様に特化型の属性だという事が判明している。
「アーシアに覚えてもらう魔術は基本的に治癒魔術だ。
「はい」
「まぁ、だからと言っていきなり治癒魔術を教えるわけじゃない。先ずは魔術を使うという事に慣れて貰わなければならんからな……そうだな、強化の魔術で練習してみるか」
アーチャーは適当に飾ってあった花瓶にある花を一輪手に取り、アーシアに見せた。
「まずこの花だが、このまま壁に投げつけても茎が壁に刺さるという事はありえない」
「はい」
「だが……
花に強化の魔術を掛けてやると、その強度を鋼並にして壁目掛けて投擲する。
真っ直ぐ壁に向かって飛んで行った花は、そのまま茎が壁に突き刺さり、花弁の所でようやく止まった。
「す、すごいです……」
「これが強化の魔術だ。強化自体は然程難易度の高い魔術ではないし、魔術師であれば大抵の者は使えるから覚えておいて損は無いだろう」
先ほどの花が飾ってあった花瓶をアーシアの前に置き、まだ他にも花が飾られているので、アーシアにはこの花瓶にある花全てに強化の魔術を掛けてもらう事にした。
花が無くなれば他の場所にある花瓶の花を持ってきて、兎に角成功率が上がるまで続ける事にして、アーシアが早速作業に取り掛かるとアーチャーが今度は暇になる。
さてどうするかと考えていたところに、先ほど呼んだ祐斗が来た。どうやら一誠との剣術修業が一先ず終わったらしい。
「来たか」
「ええ、それで僕は何故呼ばれたんですか?」
「理由は木場祐斗、君の
首を縦に振ったので、間違い無いようだ。ならばと話を続ける。
「そのイメージの際、君はどのようなイメージをしているか、聞かせて貰えるか?」
「どのようなと言われても、魔剣に付加する効果、形状、重量くらいかな? 創造形の
「なるほど、では試しに一本、君が一番創り慣れている剣を出してみたまえ」
言われるがままに、祐斗は魔剣を一本創り出した。
祐斗が出した剣は
「ふむ……
そして、その投影された剣を見て祐斗はその表情を驚きに染め上げる。
「な、何でアーチャーさんが
そう、アーチャーが投影したのは今正に祐斗が出したばかりの魔剣、
「こんなものか……木場祐斗、君の剣と私の剣、試しにぶつけてみるから合わせたまえ」
「え、あの……?」
何が何だかよく理解出来ていない祐斗だったが、アーチャーの言う通り、両者の剣を一斉にぶつけ合うと、見事に祐斗の剣が折れてしまった。
「なっ!?」
「やはり、予想通りか」
「ど、どういう事ですか?」
祐斗の剣が脆かったと、それがアーチャーの予想通りだと言われた気がして少し祐斗の語気が荒くなる。
だが、当のアーチャーは涼しい顔で投影した剣を消すと、祐斗と向き合った。
「何故君の剣が折れたのか、それは簡単だ。君の剣は基本骨子の想定が殆ど成されていないから、骨子が甘く、簡単に折れてしまったのだよ」
家の建築に例えるなら、祐斗のは見た目こそ豪邸だが、その骨組みが甘く、地震が来たら簡単に崩れてしまうようなものだ。
基本骨子の想定を確りとした上で剣を創造する。そこに真作を作る
「いいか、剣を生み出すのであれば基本骨子の想定を忘れるな。骨子が確りと組まれていなければ、出来上がるのは外見ばかりのハリボテに過ぎん」
「基本となる骨子、なるほど……」
その後、祐斗はアーチャー指導の下、
同時に、隣で強化の練習をしていたアーシアは夕方頃には成功率が5割に達したものの、別荘内の花瓶にある全ての花を使い尽くすのだった。
次回は朱乃と小猫かなぁ? そして、その次にリアスとイッセーの予定