今回は朱乃と小猫がメインのお話です。
ハイスクールD×D
~堕ちた聖女の剣~
第九話
「魔が交わる者達」
アーシアと祐斗がそれぞれアーチャーの出した課題を行っている間、アーチャーは他の者の修業を見ようと思い別の場所に向かっていた。
向かった先は別荘から直ぐにある林の中、そこには白髪の小柄な少女……小猫が一人でシャドーを行っている姿があった。
「……何か御用ですか?」
「いや、君はどの様な修業をしているのかと、少し気になったものでな。無手が君の主な戦闘方法かね?」
「はい……私は、祐斗先輩のように剣を上手に扱えませんし、部長や副部長のように魔法が得意ではありませんので」
なるほど、それで
「格闘術は、何か教わっているのか?」
「……いえ、自己流です」
自己流にしては中々筋の通った拳だったように見えるが、アーチャーから見ればまだまだ荒が残るといった所だ。
少し格闘術として正式な流派、それこそ空手などを本格的に習えば、彼女の実力は更に底上げされる可能性があると見える。
「一つ、君に面白い物を教えてあげようか」
「面白いもの、ですか?」
「見ていたまえ」
すると、アーチャーは近くの木に掌を当てると、そのまま重心を落とし、全神経を木に触れている掌に集中する。
その様子を見ていた小猫は、最初こそ訝しげにしていたが、次の瞬間、その目が大きく見開かれる事になった。
「っ! ふんっ!!」
アーチャーが気合を入れた瞬間、掌が当てられている箇所を中心に木全体へ大きく罅割れが広がり、あっという間に真っ二つに圧し折ってしまった。
「今のは……」
「中国武術の一つ、八極拳だ。1週間程度修業したからといって、簡単に習得出来るものでもないが、先の事を考えるのであれば、今からでも修練しておいて損はしないだろう」
「八極拳……」
この八極拳はアーチャーが生前に友人に教わり、袂を別ってからも自己鍛錬の末に習得したものだ。
勿論、その友人や、思い出したくもない激辛趣向な外道神父の使うソレと比べれば児戯にも等しいが、小猫に教える程度の事は出来る。
「八極拳、覚えてみる気は、あるかね?」
「……お願いします」
この後、小猫はアーチャーの手ほどきを受けて八極拳を学び始めるのだった。
勿論、まだまだ八極拳に入門したての状態なので、本格的に技を身に付ける事は出来ないが、それでも身体の動かし方など、無手で戦う小猫には学ぶべき事が多いのは、言うまでも無いだろう。
「ああ、それと、兵藤一誠にも教えるつもりだ。今後は二人で高めあうと良い」
「……はい」
一誠もまた、
戦いに関してまるっきり素人の彼が戦い方を学ぶのであれば、八極拳を学んでおいて損は無いのだから。
小猫に基本的な型を教えて、反復練習をしておくように指導した後、アーチャーは魔力の流れを察知して裏庭に来ていた。
裏庭では朱乃が魔力コントロールの訓練だろうか、雷の玉を幾つも展開して操作し、任意の場所に落雷させるという特訓を行っている。
「あら、アーチャーさん、どうかなさいまして?」
「む、いや……そうか、君は魔力攻撃を主体にしているのだったな」
「ええ、主に雷系の魔法を得意としていますの」
それ故に、彼女に付けられた渾名は『雷の巫女』、雷を操る巫女服の悪魔であるが為に付けられた渾名だった。
「ふむ……君が使うのは雷を降らす事がメインの魔術なのかね?」
「ええ、一応はそうですが……?」
「全ての駒の特性を持つ
「そうですが……あの、どういう意味でしょう?」
アーチャーが言いたいのは、態々相手に攻撃ポイントを予測されやすい落雷を使うより、それを囮にして拳に雷を纏わせながら殴りかかる、雷を剣に纏わせて斬るなどをするのもアリなのではないか、というのがアーチャーの意見だ。
幸い、このチームには祐斗が居るのだから、剣など彼に創って貰えば良いのだし、別に彼だけしか剣を使ってはいけないという訳でも無い。
「肉弾戦ですか……わたくし、どうにも近接戦闘は苦手で」
「苦手を克服せねば先には進めない。それとも君は相手に接近されて負けたとき、近接戦闘は苦手だから負けたなどと言い訳をする気か?」
「そ、それは……」
そんなもの、言い訳にすらならない。
戦う者にとって、苦手な距離をそのままにしておくなど愚の骨頂、それで負けたとしてもそれは言い訳ではなく負け犬の遠吠えというものだ。
「魔術の特訓も勿論だが、この一週間の内に少しでも格闘術や剣術の基礎を木場祐斗や塔城小猫から教わっておきたまえ」
「あら、アーチャーさんが教えてくれるのではないんですの?」
「既に生徒数が手一杯だ」
アーシア、祐斗、小猫、予定として一誠も入れれば4人に手ほどきをする事になるのだから、これ以上は無理だと断った。
それに、格闘術や剣術の基礎であれば祐斗や小猫でも十分教えられるのだから、アーチャーが態々教える必要も無い。
「あら、ツレナイ殿方ですわね」
「ふん、何のつもりで誘惑でもしようとしたのかは知らんが、10年後にでも出直せ小娘」
色気という点では朱乃は歳不相応にあるのだが、アーチャーから見ればまだまだ背伸びしただけの小娘という印象しか無い。
もしあのグレイフィアという悪魔が色気で誘惑して来たのなら、流石のアーチャーでもクラッとするかもしれないが、朱乃も、そしてリアスも、色気というものが未熟だ。
「ああ、それと塔城小猫もそうだったが、君も本来の力を使わないのかね?」
「っ!? ……気付いていたんですのね」
「君と塔城小猫からは悪魔以外の気配も感じられた。そして、君は恐らく堕天使の血が流れているな、塔城小猫は……猫又辺りか?」
「……そこまで分っているのでしたら、白状します。わたくし、人間の母と堕天使の父のハーフですの、その後でリアスの眷属になり、悪魔になったのですわ」
だから、朱乃は悪魔の翼と堕天使の翼の二つを持っている。そして、父の血の影響で堕天使の力、光の力を使う事も出来るのだ。
「ふむ……まぁ、使う使わないは君の自由だ。私からとやかく言うことでも無い……先ほど言った通り、近接戦闘も確り訓練しておきたまえ」
それだけ言い残し、アーチャーは裏庭を去って行く。
残された朱乃はアーチャーが堕天使の血が流れる自分に、そしてその力が使える自分に何も言わなかったことに安堵するのと同時に、興味も無いという雰囲気を見せていた彼への、微かな怒りが内在した面持ちで訓練を再開するのだった。
裏庭を去ったアーチャーはまだ様子を見ていない一誠とリアスを探して敷地内を歩いていたのだが、ふと自分もレーティングゲームに参加するのだという事を思い出し、ライザー戦で使う事になるであろう宝具の確認をするべく林の中に入り、認識阻害結界を張る。
「
アーチャーの手に握られたのは一本の鎌のような剣だ。
ギリシャ神話に名高き英雄、ペルセウスが女怪メデューサの首を落としたと伝えられる聖剣であり、“屈折延命”という能力を持った不死殺しの宝具でもある。
この剣で斬られた者は、その不死能力、再生能力を無効化されるという神性スキルがあり、斬られた際の傷は自然の理に適う治療は可能であるが、それ以外の方法では癒す事が出来ない。
つまり、再生する事で傷を癒すというフェニックスの能力は一切使えなくなるというライザー戦における切り札だ。
「ふむ、まぁこんなところか……死徒以外の者にコレを使うのは初めてだな」
元々、この剣をアーチャーが生前使う機会があったのは、死徒との戦いにおいてだけであり、滅多に使う事が無かった。
故に、今回もコレを投影するのは久しぶりの事なので、一応投影して問題が無いか確認する意味合いがあるのだ。
「他に使えそうな宝具は……二つあるな」
更に二つ、宝具を投影していく。
一本はハルペーと同じく聖剣、もう一本は剣ではなく大鎌だ。
「オートクレール、タナトスの大鎌……うむ、三本もあれば十分だろう」
如何なる異能をも無効化するオートクレールはローランの歌に登場する聖剣であり、魂と命両方を一太刀で刈り取って魂を冥界へと送るタナトスの大鎌は、古代ギリシャの伝説に登場する死神が使用した鎌だ。
「流石に、タナトスの大鎌は剣ではないからランクダウンが大きいな……一撃で相手を殺す能力もランクダウンしている」
アーチャーの投影したタナトスの大鎌では真作のように一太刀で魂と命を刈り取るという能力が低下している。
精々、一太刀で魂と肉体の繋がりを弱める程度が限界だろう。
「となると、タナトスの大鎌は使えんな……オートクレールとハルペーの二本で十分か」
方針を決め、投影した宝具を消したアーチャーは結界を解き、改めてリアスと一誠を探しに歩き出した。
この後、宝具の投影を3回も行った事で、魔術の練習をしているアーシアが魔力不足でフラフラになっているのを発見し、慌てる事になるのは、ご愛嬌だ。
次回はリアスと一誠がメイン、アーチャーとどんな話をするのか、お楽しみに。