ハイスクールD×D~堕ちた聖女の剣~   作:剣の舞姫

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第十四話 「魔王と弓兵」

ハイスクールD×D

~堕ちた聖女の剣~

 

第十四話

「魔王と弓兵」

 

 レーティングゲームの翌日、オカルト研究部の部員達は全員部室に呼ばれていた。

 呼んだのは部長であるリアスであり、何でもリアスの眷属や赤龍帝であるイッセー、そしてアーシアとアーチャーに是非会いたいという人物が尋ねて来るのだとか。

 リアスが決して失礼の無いようにと念押ししていた事から、おそらくは悪魔の住む世界……冥界でも重鎮と言うべき人物が訪れているのだろうとは予測出来るが、果たして誰が来ているのか、そう考えていたが、部室に入ってみれば何のことは無い。

 ソファーに座り、背後にグレイフィアとリアスを控える紅い髪の青年が優雅に紅茶を飲みながら入ってきた部員達へ笑みを浮かべる。

 

「ま、魔王様!?」

 

 いち早く気づいた朱乃が素早くその場で畏まり、直ぐに祐斗と小猫も膝を付いて礼を示した。

 そして、一誠もまた、魔王という単語から目の前に居る人物が自分たち悪魔のトップに君臨する存在だと知り、驚愕の表情を浮かべながら三人同様の態度を示す。

 だが、アーシアは困惑しているだけで畏まるよりも先に何故魔王が此処に居るのかという疑問を浮かべ、アーチャーは素早くアーシアの前に立ち警戒した表情を見せた。

 

「顔を上げていいよ。リアスの眷属で兵藤一誠君は初めましてだね、私はサーゼクス・ルシファー。魔王という身分ではあるけど、君にとっては主であるリアスの兄という事になるかな」

「ルシファーって……あ! そういえば部長のお兄さんって魔王だって」

「そう、その魔王が私だ。よろしく」

 

 気軽に握手を求めて手を差し出してくるサーゼクスに、一誠は戸惑いつつも手を握り返した。

 随分と想像していたよりノリの軽い魔王に困惑する一誠とは対照的に、アーシアを後ろに下がらせて警戒心をむき出しにしているアーチャーは、こちらを向いたサーゼクスを静に睨み返す。

 

「アーシア・アルジェントさんと、その使い魔……サーヴァントのアーチャー殿だね? 君たちとも、出来れば今後ともよろしく願いたい」

「さて、それはそちらの出方次第になるであろうな。こちらはアーシアの身の安全と平穏を脅かさなければ敵対するつもりは無いが、そうでなければ魔王であろうと容赦はしない」

「あはは……そうだね、私も平穏とは何物にも勝ると思っているから、彼女の平穏を乱すような真似は慎みたいところだよ」

 

 そうは言ってるが、サーゼクスがここに来た理由は明らかに赤龍帝の一誠と、ライザー戦で圧倒的な力を魅せたアーチャー、そしてその主であるアーシアにあるのだろう。

 

「建前はどうでもいい、本音を言ったらどうだ?」

「……そうだね、では本題だが、アーチャー殿、君の力は少々危険過ぎる。出来ればリアスの眷族になって貰いたいというのが、私の本音だ」

「不可能だ。私はアーシアのサーヴァントであって、アーシア以外の者に従うつもりは無い」

「そうか……では、アーシアさんはどうかな? 前は悪魔になるのを断ったとの事だけど、出来れば君がリアスの眷属になってくれれば、我々としても安心出来るのだが」

「それは……前にも、その……お断りしてますので」

 

 例え魔王からの頼みであっても、アーシアは悪魔になることに頷かない。信仰を捨てろと言われているのと道義であるのだから、それも当然だ。

 

「正直、アーチャー殿の戦力は人間個人が保有していて良いものではない。天界や堕天使陣営に今後君たちが付かないとも限らない現状、我々悪魔陣営は君たちを早急に悪魔側に引き入れなければならないんだよ」

「ふん、もし悪魔側に付かないのであれば危険分子としてアーシアと私を殺すか?」

「アーチャー! それはいくらなんでも失礼よ!? お兄様がそんな物騒なことを考えるわけ……」

「いや、いいんだよリアス……彼の言ってる事は事実だからね」

「お兄様!?」

 

 やはり、そうだった。

 悪魔側に来ないのであれば、将来敵になる前に排除するというのは悪魔のトップであるのなら考えて当然だ。

 故に、サーゼクスは選択を求めている。リアスの眷属になり、悪魔側の戦力となるか、それとも断って殺されるか、この二択を。

 

「勿論、リアスの眷属になってくれたのなら、この街に住む際の平穏は約束しよう。出来る限り君たちの平和な暮らしを守るつもりだ」

「平和に暮らしたいのなら、死にたくないのなら悪魔になれ、そういうことか」

「そう受け取ってもらって構わないよ」

 

 その瞬間、アーチャーと、サーゼクスの後ろに控えていたグレイフィアが動いた。

 一瞬で投影した干将・莫耶の刃をサーゼクスに突きつけるアーチャーと、そのアーチャーの横で掌を翳し、暴虐的なまでの魔力量を圧縮して生み出した魔力球を向けるグレイフィア。

 一触即発、そんな様子を見て、サーゼクスは更に一口、紅茶を口に含んだ。

 

「返答は、如何に?」

「今ここでこの場の全ての悪魔を殺す。それで解決する」

「それは、私やグレイフィア、リアスやその眷属、そして生徒会室に居るソーナ・シトリーとその眷属も含めて、ということかな?」

「そうだ、貴様等が私とアーシアの平穏を脅かすのであれば、相手が誰であろうが、どんな種族だろうが、どのような立場だろうが、全員殺す」

 

 アーチャーの返答を聞いたサーゼクスは紅茶を飲み干し、ティーカップを机の上に置くと静かに立ち上がった。

 マズイ、そうリアス達が思った瞬間、アーチャーは武器を消して、グレイフィアが魔力を掻き消す。そして、何故かアーチャーとサーゼクスが握手をしていた。

 

「君とは仲良く出来そうだ」

「うむ、仲間にこそならんが、個人的にはそうなることを願いたいものだな」

「あ、アーチャーさん?」

「お兄様……?」

 

 つまり、最初から今までの問答は形だけのものだったのだ。

 サーゼクスはアーチャー達を無理に悪魔側に引き入れるつもりも、殺すつもりも無かったし、アーチャーもサーゼクスと敵対するつもりは欠片も無い。

 

「あ、あらあら……心臓に悪いですわね」

「部室が戦場になるところでした……」

「今回ばかりは、僕も心臓が止まるかと思ったよ」

「俺はもう、何がなんだか……」

 

 心底安堵したとばかりにため息を零すリアス眷属を他所に、アーチャーとサーゼクスは何故か主と妹の談義をしている。

 自分の主の、または妹のどこが愛らしいのか、など本人たちを目の前で恥ずかしくなるような内容を満面の笑みで、だ。

 

「ウチのリーアたんはそれはもうね、子供の頃はお兄様お兄様って私の後ろとちょこちょこ付いて歩いていたんだよ。その姿はもう……悪魔なのに天使かと思ってしまうほど可愛らしかった」

「ふむ、うちのアーシアは今でも可愛らしいぞ。よく私が料理をしているときに手伝ってくれるが、少しミスをしたときに見せる泣きそうな表情は、保護欲をそそるというものだ」

「ほう? 君も中々やるね……正直、私の妹談義に対等に渡り合えるのはセラフォルーくらいだったのだが、新たな同士の誕生に喜ばしい限りだよ。これは彼女にも報告しなければならないね」

「いやいや、サーゼクスも中々だ。愛らしい家族は正義、それはこの世の正義だが、君のそれはその中でも上位に位置する。私の姉もまた年不相応の見た目で中々の愛らしさがあったが、聞くかね?」

「それは興味深いね」

 

 傍で顔を真っ赤に染めているアーシアとリアスが居るのにも関わらず談義を止めるどころか、更に白熱する二人に、グレイフィアが呆れていた。

 リアスの眷属達も苦笑しながら事の成り行きを見守ることにしたのだが、ふと一誠が何かに気づいたように隣に立つ祐斗へ話しかける。

 

「なぁ木場」

「なんだい?」

「あの二人、声似てる気がしねぇ?」

「……そう言われてみれば、確かに似てるね」

 

 寧ろ同じ声だと言われても違和感を感じない。

 

「お兄様! いい加減にしてください!! 恥ずかしいですからぁ!!」

「アーチャーさんもですぅ!」

「「ご、ごめんなさい」」

 

 顔を真っ赤にしながら、魔王と英霊を怯ませるほどの怒気を現したリアスとアーシア、いい加減に羞恥心の限界だったのだろう。

 アーチャーとサーゼクスはその場で正座させられ、未だに顔を赤くするリアスとアーシアにお説教され、今後しばらく妹・主談義を禁止されてしまった。

 

「そんな殺生な! リーアたん!!」

「マスター!? わ、私はサーヴァントとしてマスターの愛らしさを語る義務が……!」

「「反省しなさい!!」」

 

 崩れ落ちる魔王と英霊(バカ二人)にそっぽを向くリアスとアーシアを見て他の面々が思わず笑ってしまう。

 だからだろうか、部室は最初の殺伐とした空気が無くなり、何処か温かなものとなっていた。

 

「こほん、さて……アーチャー殿、話を最初に戻したい」

「ああ、それで……私たちに何用かね?」

 

 強引に話を戻し、ほんわかとした空気を引き締めると、真面目な表情になったサーゼクスに、アーチャーも真面目な顔で相対した。

 

「君たちは平穏な生活を望む……それはどこの組織にも属さないということで間違い無いのかな?」

「そうだ。アーシアは既に教会を追放されている身なので、教会側に付くことは不可能。堕天使陣営などアーシアを殺そうとした陣営である以上、私自身が一番警戒している相手でもある」

「そして、残る悪魔陣営に付けば他の陣営が黙っていない、か……なるほど、それ故に何処の組織にも属さないのか」

 

 聖女と崇めておきながら悪魔を癒したことで手のひらを返すように魔女の烙印を押し、追放した教会をアーチャーは信用していない。

 そしてアーシアを殺そうとした堕天使陣営は現状最もアーチャーが警戒している陣営であり、悪魔陣営はリアス達のこともあり、それなりの信は置けるものの、やはりまだ警戒だけはしている。

 この状況なら何処の組織にも属さず、向かってくる敵はアーチャーが倒すか、それかアーシアと二人で身を隠せば済む話なので、今のところは中立という立場で居ることにしているのだ。

 

「なるほど、それなら我々も納得出来るし、それに安心だ。勿論、悪魔側の陣営に来たくなったのならいつでも言ってくれたまえ、そのときは歓迎するよ」

「ふむ……万が一の時は、世話になろう」

 

 こうして、魔王サーゼクス・ルシファーとの初対面を終えた。

 アーシアとアーチャーは正式に中立としての立場を固め、今後は何処の組織からも勧誘は断り、敵対してきた陣営が現れた際は他の陣営と手を結ぶという約束をした。

 全てはアーシアの身の安全を第一に考え、尚且つアーシアの意見を尊重し、彼女の信仰心を大切にした結果だが、これで一先ずは安心だ。




これにて焼き鳥編終わり!
次回から聖剣編に入りますぜ~。

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